序章-3|この企画で使う年表と地域の見取り図
10万年を36章で語るこの企画は、時代も地域もかなり大胆に飛び跳ねる。
第1章ではアフリカの焚き火の話をしていたのに、第4章ではいきなりメソポタミアの宮殿。第11章で日本の障子と畳を語ったかと思えば、第13章ではフランスのヴェルサイユ宮殿に飛ぶ。
迷子にならないように、ここで全体の「地図」を示しておこう。時間の地図と、空間の地図だ。
10万年タイムライン──全36章の時代配置
まずは「いつの話か」を俯瞰する時間軸から。
| 年代 | パート | おもな舞台 | ざっくり言うと… | |---|---|---|---| | 約10万年前〜1万年前 | 第Ⅰ部・第1章 | アフリカ、ヨーロッパ | 焚き火と石ランプ。草の寝具。人類最初の「室内」 | | 約1万年前〜5000年前 | 第Ⅰ部・第2章 | トルコ、スコットランド | 定住の始まり。漆喰の床。石の造り付け家具 | | 約5500年前〜2000年前 | 第Ⅰ部・第3章 | 日本列島 | 縄文の竪穴住居と炉。弥生のベッド状遺構 | | 約4500年前〜2000年前 | 第Ⅱ部・第4〜8章 | 中東、エジプト、インド、中国、ギリシャ、ローマ | 宮殿の壁画、お墓の家具、下水道、建築マニュアル、宴会文化 | | 5世紀〜15世紀 | 第Ⅲ部・第9〜12章 | ヨーロッパ、イスラーム世界、東アジア、イタリア | タペストリー、幾何学模様、障子と畳、ルネサンスの書斎 | | 17世紀〜19世紀末 | 第Ⅳ部・第13〜16章 | フランス、イギリス | ヴェルサイユ宮殿、職人のギルド、電灯の発明、トーネットとモリス | | 20世紀 | 第Ⅴ部・第17〜32章 | ドイツ、フランス、アメリカ、北欧、イタリア、日本 | モダニズム、バウハウス、プラスチック椅子、ポップ、ポストモダン | | 21世紀 | 第Ⅵ部・第33〜36章 | グローバル | 脱炭素、健康認証、IoT・AI、リノベーション |
ご覧のとおり、時間のスケールは均等ではない。第Ⅰ部は数万年をたった3章で駆け抜けるのに対し、第Ⅴ部は100年間に16章+コラム4本を費やしている。それは20世紀のインテリア革命の密度が、桁違いに高かったからだ。
6つの地域──この企画の「舞台」
次に、「どこの話か」を整理する空間軸。
① 西アジア(メソポタミア・アナトリア)
人類の定住と文明の発祥地。「部屋をつくる」という営みが始まった場所だ。チャタル・ヒュユクの密集住居から、アッシリアの宮殿のプロパガンダ壁面まで。第Ⅰ部と第Ⅱ部の主要な舞台になる。
② エジプト・インダス(北アフリカ・南アジア)
エジプトからは「来世のためにつくられた豪華な家具」、インダスからは「4000年前の水洗設備つき住宅」。まったく対照的な室内文化が、ほぼ同じ時代に花開いていた。第Ⅱ部で登場する。
③ 東アジア(中国・日本)
床に座る文化、障子と畳の文化、建築マニュアルの伝統、そして近代化のなかで「西洋の椅子」とどう折り合いをつけたか。日本の室内は企画全体を通じて繰り返し登場する(第3章→第11章→第28章)。
④ イスラーム世界
地中海沿岸からスペインまで広がった文明圏。人物像を描くことを避けたイスラーム文化は、その代わりに幾何学模様と文字の装飾を極限まで発達させた。水と光を室内に引き込む独自の設計思想は、西洋モダニズムとはまったく異なるインテリアの原理を示す。第Ⅲ部で登場する。
⑤ 西ヨーロッパ
中世の大広間、ルネサンスの書斎、バロックの宮殿、産業革命──この企画の第Ⅲ部と第Ⅳ部の中心舞台。とくに産業革命による照明・暖房・壁紙の変革は、世界中の室内を変えることになる。
⑥ 20世紀の主要都市
ワイマール&デッサウ(バウハウス)、パリ(ル・コルビュジエ)、ロサンゼルス(イームズ夫妻)、コペンハーゲン&ヘルシンキ(北欧デザイン)、ミラノ(イタリアン・デザインとメンフィス)、東京(和洋折衷と戦後住宅)。第Ⅴ部では都市の名前がそのままデザインの流派を表すようになる。
パート別キーワード──各部の核心を5つの言葉で
忙しい人のために、各パートの内容を5つのキーワードに凝縮した。気になるキーワードがあるパートから読み始めるのもいい。
| パート | 5つのキーワード | |---|---| | 第Ⅰ部「火と床」 | 焚き火、定住、漆喰、造り付け家具、竪穴住居 | | 第Ⅱ部「権力と水と神々」 | 壁のレリーフ、副葬品、下水道、建築規格、宴会 | | 第Ⅲ部「布と光と祈り」 | タペストリー、幾何学模様、障子、書斎、婚礼家具 | | 第Ⅳ部「劇場から工場へ」 | 鏡、ギルド、電灯、量産、手仕事 | | 第Ⅴ部「壁を自由にした世紀」 | 自由な平面、鋼管パイプ、合板、プラスチック、ポストモダン | | 第Ⅵ部「これからの室内」 | 脱炭素、WELL認証、IoT、リノベーション、レジリエンス |
この企画の楽しみ方──3つのルート
ルート① まっすぐ通読する
第Ⅰ部から第Ⅵ部へ、時代順にまっすぐ読む。10万年の大きな流れを体感できて、「あの時代のあの技術が、ずっと後のこの発明につながるのか!」という驚きに出会える。いちばん奥行きのある読み方だ。
ルート② 気になるパートだけ拾い読みする
各パートは独立して楽しめるように書かれている。
「20世紀のデザインが気になる」→ 第Ⅴ部から。
「古代文明のスケールの大きさを味わいたい」→ 第Ⅱ部から。
「日本の室内の歴史を追いたい」→ 第3章(縄文・弥生)→ 第11章(障子・屏風)→ 第28章(日本のモダニズム)と、日本に関わる章だけ拾い読みする。
ルート③ 好きなデザイナーや作品から逆引きする
「イームズの椅子はどの章?」「バウハウスはどこに出てくる?」──特定の人物や作品が気になる人は、目次のキーワードから直接その章に飛んでほしい。第Ⅴ部のコラムには椅子の年表やデザイナーの系譜もあるので、索引がわりに使うこともできる。
さあ、旅を始めよう
ここまでが「序章」──旅の前の準備体操だ。
次のページから、いよいよ本編が始まる。最初の目的地は、約10万年前の焚き火のまわり。電気もない。壁もない。家具もない。あるのは火と、草と、石ランプだけだ。
でも、そこにはもう「インテリアデザイン」があった。
その証拠を、第Ⅰ部で見ていこう。