インテリアデザイン10万年史

洞窟の炉からスマートホームまで人類とインテリアの10万年の物語

第Ⅵ部|これからの室内 ── 21世紀のインテリアが問われていること

現代と近未来:脱炭素・健康・デジタル・リノベーション


あなたが今いる部屋を、少しだけ見回してほしい。

壁紙は何でできているだろう。フローリングの素材は。天井の照明は何ワット消費しているだろう。窓から入る光は、目にやさしい色温度だろうか。そして──その部屋にいるだけで、あなたの身体にどんな影響が及んでいるだろうか。

これまで5つのパートを旅してきた私たちは、人類が10万年かけて室内空間を進化させてきた道のりを見届けてきた。焚き火のまわりに草を敷いた旧石器の仮設インテリア。壁面レリーフで権力を誇示したアッシリアの宮殿。タペストリーを巻いて城から城へ運んだ中世の王侯貴族。357枚の鏡で国力を見せつけたヴェルサイユ。壁を構造から解放したル・コルビュジエ。安いラミネートで「美とは何か」を問い直したメンフィス。

21世紀の室内が直面しているのは、それらとはまったく異なる問いだ。

この部屋は、地球を壊していないか?


4つの問い、4つの章

第Ⅵ部では、21世紀のインテリアデザインが突きつけられている4つの問いを追いかける。

第33章は「CO₂の問い」だ。 建築セクターは世界のCO₂排出量の約34%を占めている。しかもその大部分は「すでに建っている建物の運用」と「内装材の製造・廃棄」から生じている。あなたの部屋のフローリングも、壁紙も、断熱材も、製造された瞬間からCO₂を背負っている。「壊せるインテリア」「スケルトンとインフィルの分離」── 脱炭素時代の室内には、新しい設計原理が求められている。

第34章は「健康の問い」だ。 2014年に登場したWELL認証は、空気・水・光・音・温度など10のカテゴリーで室内環境を「採点」する国際制度だ。建物の性能ではなく、そこにいる人間の健康を基準にした点が画期的だった。オフィスに植物を置くと生産性が15%上がるという研究、窓からの自然光が頭痛や眼精疲労を84%減らすというデータ──「部屋が人の健康を測る」時代が、もう始まっている。

第35章は「デジタルの問い」だ。 BIMは建物をまるごと3Dモデル化し、建てる前に光環境や空調効率をシミュレーションする。竣工後はIoTセンサーが温度・湿度・CO₂濃度をリアルタイムで計測し、照明や空調を自動調整する。アムステルダムのオフィスビル「The Edge」には約3万個のセンサーが埋め込まれ、従来型ビルの70%以下の電力で運用されている。3Dプリンターで内装部材をカスタムメイドする時代も、もう現実になりつつある。

第36章は「リノベーションの問い」だ。 2050年時点で世界に存在する建物の約80%は、すでに今この瞬間に建っている。新築ではなく、既存の建物の内側を更新すること──それが21世紀のインテリアデザインの主戦場になる。テート・モダンは発電所をアートの殿堂に変え、ハイラインは廃線を空中公園に変えた。「壊さずに中身を変える」技術と思想が、インテリアの未来を決める。


ポストモダンの「その後」

第Ⅴ部で見てきたポストモダンは、「人間は意味のない空間では生きられない」という洞察を残した。ギリシャの柱をピンク色に塗り、ゴシックのアーチをネオンで光らせ、「良いデザインとは何か」の定義そのものを粉砕した。

では、ポストモダンの後に何が来たのか。

答えは、意外にも「数値」だった。

21世紀のインテリアは、CO₂排出量で測られ、室内空気質のppmで評価され、センサーのデータで最適化される。感性や思想ではなく、科学とデータが室内を動かしはじめた。しかしそれは、人間の感覚を無視するということではない。WELL認証が「光」や「音」や「心」をカテゴリーに含め、バイオフィリックデザインが「人は自然とのつながりなしには健やかでいられない」と説くように、数値の先にあるのは結局、「人間がどう感じるか」という古くて新しい問いなのだ。

10万年前の焚き火が暖かさと光と安全を与えたように、21世紀のインテリアも、人間の身体と心を守る装置であり続ける。ただし今度は、地球も一緒に守らなければならない。


さあ、最後の4章へ

この本の最終パートは、過去ではなく「これから」を見る。

歴史のなかに未来の手がかりを探す旅の、最後の4章。

部屋のCO₂をどう減らすか。部屋が健康をどう測るか。センサーとAIが室内をどう変えるか。そして新築しない時代に、インテリアは何をするのか。

その答えを、ここから探しにいこう。