デザイナーズ家具・インテリア カタログ Stories of Design Interior Catalog

インテリアデザイン10万年史

洞窟の炉からスマートホームまで人類とインテリアの10万年の物語

第33章|部屋のCO₂をどう減らすか

インテリアと脱炭素


あなたの部屋のフローリングには、CO₂が「埋め込まれて」いる。

壁紙にも。断熱材にも。カーテンレールにも。それらの素材が工場で製造され、トラックで運ばれ、この部屋に取り付けられるまでのあいだに排出されたCO₂は、もう大気に放出されてしまった。部屋が完成した瞬間、室内はすでに「炭素の借金」を背負っている。

この見えない借金のことを、専門家は**エンボディドカーボン(内包炭素)**と呼ぶ。

そして21世紀のインテリアデザインは、この借金とどう向き合うかを問われている。


建物が地球を温めている──3分の1という数字

国連環境計画(UNEP)が発表している「建築・建設セクターの世界現状報告書」の2024/2025年版によると、建物は世界の最終エネルギー消費の約32%、CO₂排出量の約**34%**を占めている。パリ協定が掲げる目標に対して、建物部門の脱炭素化はまだ大きく遅れている。

このなかで、「建物の運用」──つまり冷暖房や照明に使うエネルギー──が大きな割合を占めることはよく知られている。しかしもうひとつ、見落とされがちな要素がある。

セメント、鉄鋼、アルミニウムなど、建材の製造段階で排出されるエンボディドカーボンだ。


フローリング1平方メートルのCO₂

エンボディドカーボンは、内装材ひとつひとつに宿っている。

バース大学で開発されたICEデータベース(Inventory of Carbon and Energy)は、ジェフ・ハモンドとクレイグ・ジョーンズがまとめた建材の炭素量のデータベースで、世界中の設計者に使われている。こうしたデータを使えば、あなたの部屋の床材がどれだけのCO₂を背負っているかを見積もることができる。

床材を比べると、1平方メートルあたりのCO₂排出量は素材によって大きく異なる。石や樹脂を厚く打つ床と、薄いカーペットタイルや木質の床とでは、ときに一桁の差が出る。カーペットタイル大手のインターフェイス社のように、製品のエンボディドカーボンを大幅に減らしたことを公表しているメーカーもある。

同じ「床」なのに、素材の選択ひとつで炭素の借金が何倍も変わる。内装材の選定が脱炭素に直結するという事実は、まだ十分に知られていない。


「壊せるインテリア」という発想

ひとつの答えが、DfD(Design for Disassembly)──「解体のためのデザイン」だ。

従来の内装工事では、壁と天井と床が接着剤やモルタルで一体化され、リフォームのたびにすべてを「壊して」廃棄していた。その廃材は埋め立て処分され、新しい素材がまたゼロから製造される。エンボディドカーボンは二重に発生する。

DfDはこの悪循環を断ち切る。接着剤の代わりにボルトやクリップで固定し、異なる素材を混合せず、解体後に部材をそのまま再利用できるように設計する。

カナダ・オタワのアウトドア用品店MEC(Mountain Equipment Co-op)は、DfDを店舗内装に適用した先駆的な事例だ。構造材の木枠はボルト接合で組み、床板はネジ留め、間仕切りは移動可能なレールにパネルを掛ける方式にした。解体時には部材を分離して再利用できる。

オランダの建築家トーマス・ラウは、建物を廃棄物の発生源ではなく「素材の銀行」として扱うべきだと主張している。

建物を「素材の銀行」と見なす。この発想は、EUの「BAMB(Buildings as Material Banks)」プロジェクトとして制度化されつつある。ベルギーのロトール・デコンストラクション(Rotor DC)は、解体された内装材を洗浄・補修して再販売するビジネスを展開している。壊すのではなく、分解して次の空間に届ける。


日本の知恵──スケルトン・インフィル

DfDの考え方をさらに徹底させた仕組みが、日本にはすでにあった。

**SI住宅(スケルトン・インフィル住宅)**だ。

この概念の原型は、オランダの建築家N・ジョン・ハブラーケンが1961年に提唱した「サポート&インフィル」理論にさかのぼる。建物を「サポート(構造体)」と「インフィル(内装)」に分離し、構造体は100年以上の耐用年数を持たせ、内装だけを住む人のライフステージに合わせて自由に変えられるようにする。

日本では1970年代から、公共住宅の分野でこの考え方の研究と実験が重ねられてきた。その土台には、1960年の世界デザイン会議でメタボリズムの建築家たちが唱えた、寿命の長い部分と短い部分を分けて考えるという思想もあった。

都市基盤整備公団(現UR都市機構)が1990年代末に開発した**KSI(KODAN Skeleton Infill)**方式では、コンクリートの構造体(スケルトン)と、間仕切り・設備・内装(インフィル)が完全に分離されている。配管は構造体に埋め込まず、二重床や二重天井の中を通す。だから水まわりの位置も、間取りも、内装仕上げも、構造体を壊すことなく変更できる。

新婚のときは広いワンルームに。子どもが生まれたら壁を立てて個室をつくる。子どもが独立したらまた壁を外す。──住む人の人生が変わっても、建物は壊さなくていい。これは脱炭素の観点からも画期的な仕組みだ。内装を取り替えるたびに構造体まで壊すのと比べれば、エンボディドカーボンは大幅に削減される。


「ゆりかごからゆりかごへ」

素材そのものの選び方も変わりつつある。

アメリカの建築家ウィリアム・マクドノーとドイツの化学者ミヒャエル・ブラウンガルトが2002年に出版した『Cradle to Cradle──ゆりかごからゆりかごへ』は、「使い終わったものがゴミになる」という直線型の経済を根底から問い直した。自然界には「ゴミ」がない。落ち葉は土に還り、次の木の養分になる。工業製品も同じように、使い終わったら次の製品の原料に戻る循環を設計すべきだ──これが彼らの主張だった。

2005年に始まった「Cradle to Cradle認証」は、素材の安全性、循環可能性、大気と気候への影響、水と土壌への配慮、社会的公正性の5カテゴリーで製品を評価する。

床材大手のショー・インダストリーズは、1999年に発売したEcoWorxカーペットタイルで早くからこの認証を取得した。使用後に回収して、新しいタイルの原料に再生する仕組みだ。タルケットなど、ほかの床材メーカーも認証製品を増やしている。

ゴミが養分に戻る室内──まだ理想の段階にとどまる部分も多いが、素材の選択肢は確実に広がっている。


木が炭素を「貯める」──CLTという選択

脱炭素時代のインテリアで、もうひとつ注目すべき素材がある。

**CLT(Cross-Laminated Timber、直交集成板)**だ。

1990年代にヨーロッパで開発されたこの素材は、乾燥させた板材を繊維方向が90度に交差するように3層、5層、7層と重ねて接着したものだ。コンクリートや鉄骨の代わりに建物の構造材として使えるほどの強度を持つ。

CLTのインテリアにとっての意味は、構造と内装仕上げを兼ねられることにある。CLTの壁や天井をそのまま室内に見せれば、石膏ボードを張る必要がなく、下地も塗装もいらない。構造体そのものが「仕上げ」になる。木の肌触りと香りに包まれた空間が、追加工事なしで生まれる。

しかしCLTの本当の意義は、炭素にある。

木は成長する過程で大気中のCO₂を吸収し、炭素として体内に蓄える。CLTとして建物に使われるかぎり、その炭素は大気に戻らない。CLT 1立方メートルには、1トン近いCO₂に相当する炭素が蓄えられているとされる。

ミルウォーキーの高層木造ビル「アセントMKE」(2022年完成)は、地上25階建て・高さ約87メートルで、完成時点で世界最高層のマスティンバー建築だった。

木の柱と梁、板張りのような木の天井に囲まれた部屋で、大きなガラス窓の向こうに市街地が広がり、窓際に椅子が並んでいる。
アセントMKEの最上階。木の柱・梁と天井がそのまま室内に現されているForest Service Photography / パブリックドメイン — Wikimedia Commons

ロンドンでは、建築家アミン・タハらが6階建てのCLTの集合住宅で、構造体の木肌をそのまま室内に露出させた。石膏ボードも、塗装もない。内装仕上げを「省略」することが、脱炭素につながるという逆説。

さらにヨーロッパでは、解体された建物の廃木材からCLTをつくる研究も進んでいる。ゴミだった木材が、次の建物の構造体に生まれ変わるかもしれない。


循環する室内

こうした素材と設計の変革を統合する概念が、**サーキュラーデザイン(循環型設計)**だ。

エレン・マッカーサー財団が提唱する循環経済の3原則──「廃棄物と汚染を設計段階で排除する」「素材を使い続ける」「自然のシステムを再生する」──を、室内空間に適用する試みが世界中で進んでいる。

既存の什器や家具を再利用し、新品の購入を減らすことで、改装にともなう排出を大きく下げたという報告も各国で相次いでいる。

ロンドンのレストラン「サイロ」は、インテリアのすべてが廃棄物とオーガニック素材でつくられた「世界初のゼロウェイスト・レストラン」を標榜している。家具や器にも再生素材を積極的に使い、「ゴミを出さない」ことを店づくりの中心に据えている。


あなたの部屋の「炭素の借金」

床材の素材を選び直せば、同じ面積でも背負う炭素は大きく変わる。壁の間仕切りをボルト留めにすれば、次のリフォームで廃材にならない。CLTの壁をそのまま見せれば、石膏ボードも塗装も省略できる。使い終わった家具を次の空間に受け渡すしくみがあれば、新品を買うCO₂がまるごと消える。

ひとつひとつは小さな選択だ。しかし世界のCO₂排出量の3分の1を占める建物部門を動かすのは、結局のところ、こうした「部屋の中の選択」の積み重ねにほかならない。

10万年前、人類は焚き火でCO₂を大気に放出しながら暖を取った。それは生存に不可欠な行為だった。

21世紀の私たちに問われているのは、同じ暖かさと快適さを、炭素の借金なしに実現できるかどうかだ。