座面に詰め物とばねを入れれば座り心地は得られるが、厚みと重さが増し、熱もこもる。枠のあいだに材料を張り渡せば、その面がたわんで身体を受ける。1928年から2006年までの10の作品を並べ、何をどう張って座面にしてきたかを比べる。
作品ごとの解き方
| 年 | 作品 | デザイナー | 解き方 | 現在の製造元 |
|---|---|---|---|---|
| 1928 |
チェスカ・チェア(B32)
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マルセル・ブロイヤー | 籐を編んで枠に張る | トーネット、ノル |
| 1928 |
LC1 バスキュラントチェア
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ル・コルビュジエ | 革を枠に張り渡す | カッシーナ |
| 1934 |
マットソン エヴァ・チェア
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ブルーノ・マットソン | 帯を交差させて張る | ブルーノ・マットソン・インターナショナル |
| 1938 |
BKFバタフライチェア
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ホルヘ・フェラーリ=ハードイ | 革を四点で吊る | ノル(現況未確認) |
| 1941 |
リソム ラウンジチェア
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イェンス・リソム | 帯を交差させて張る | ノル |
| 1947 |
J39 ピープルズチェア
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ボーエ・モーエンセン | 紙の紐を編んで張る | フレデリシア |
| 1950 |
CH25 ラウンジチェア
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ハンス・J・ウェグナー | 紙の紐を編んで張る | カール・ハンセン&サン |
| 1955 |
ピエール・ジャンヌレ チャンディーガルチェア
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ピエール・ジャンヌレ | 籐を編んで枠に張る | カッシーナ |
| 1956 |
PK22 ラウンジチェア
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ポール・ケアホルム | 革を枠に張り渡す | フリッツ・ハンセン |
| 2006 |
スローチェア
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ロナン・ブルレック | 編み地の張力で受ける | ヴィトラ |
張って座るという課題
座面に詰め物とばねを入れれば、身体の形に沿う柔らかさが得られる。その代わり座面は厚く重くなり、熱や湿気もこもる。詰め物を使わずに身体を受けるには、枠のあいだに材料を張り渡し、その面のたわみで支える方法がある。
張った面には条件がいくつもある。荷重がかかれば伸びて身体に沿い、力が抜ければ戻らなければならない。一方向に並べた材では、荷重のかかった筋だけが伸びて面が偏る。張力を保てなければ座面は抜け、硬い枠が背中や腿の裏に当たれば、張った面の柔らかさは生きない。1920年代に鋼管の椅子が現れてから現在まで、何をどう張るかが作品ごとに選ばれてきた。選択には、手に入る材料、気候、製造の手間が関わっている。
解き方の系譜
籐を編んで枠に張る
マルセル・ブロイヤーのチェスカ・チェア(B32)(1928年)は、後脚のない鋼管のフレームに、ブナ材の枠に籐を手で編み込んだ座と背を組み合わせる。鋼管は体重がかかるとわずかにたわむ。そのたわみを座り心地に生かすには、座面も面として動く必要がある。板を張れば剛性が上がってたわみが打ち消されるが、編んだ籐は荷重に応じてしなり、編み目から空気も抜ける。工業的に曲げた鋼管と、手で編む籐が、構造の求めから一脚に収まっている。
ピエール・ジャンヌレらのピエール・ジャンヌレ チャンディーガルチェア(1950年代)は、インドの計画都市チャンディーガルの行政施設や学校のために、チークの枠に籐を編んで張った。高温多湿の気候では、板や布を張った面は蒸れやすい。数千脚を短期間で現地生産する必要があり、接合は地元の職人が基本的な道具で作れる単純なものに保たれた。編みの技術が現地にあったことも、籐を選んだ理由に挙げられている。

革を枠に張り渡す・吊る
ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンのLC1 バスキュラントチェア(1928年)は、スチールパイプの骨組みに厚手の革や仔牛の毛皮を張る。アームレストは、フレームのあいだに革のバンドを渡しただけの構成で、腕を載せた位置でたわみ、体格の違いを吸収する。作品ページは、この構成を遠征用の折りたたみ椅子の読み替えとしている。

野営用の椅子との関係がはっきりしているのが、BKFバタフライチェア(1938年)である。原型は、木の脚を蝶番でつなぎ革や帆布を張る、1881年に米国で特許を取得した折りたたみ椅子だった。アントニオ・ボネット、フアン・クルチャン、ホルヘ・フェラーリ=ハードイの3人は折りたたみの機構をやめ、金属の丸棒を2つのループに曲げて溶接した枠に、一枚の革を4点で掛けた。座面も背もたれも部材としては存在せず、体重がかかると革がたわんで沈む。座る人の体格や姿勢の違いは、吊った革の側で吸収される。
ポール・ケアホルムのPK22 ラウンジチェア(1956年)は、板状のスチールを折り曲げた脚部に、2本のクロスバーを渡し、革・籐・キャンバスのいずれかを張った座と背を掛け渡す。張り材が身体の形に沿ってたわむ吊り構造で、クロスバーは下向きに湾曲させ、座ったときに身体がバーの位置を感じないようにしている。張った面の柔らかさを、枠の形の側で守る工夫である。
帯を交差させて張る
ブルーノ・マットソンのマットソン エヴァ・チェア(1934年)は、曲げ積層したビーチ材のフレームに、ヘンプやリネンを帯状に織ったウェビングを張る。詰め物を入れた張り地では厚みと重量が加わるが、帯を渡すだけなら荷重でたわんで身体に沿う。帯のあいだが空くため、通気もある。
イェンス・リソムのリソム ラウンジチェア(1941年)がウェビングを選んだ背景には、戦時の材料の制限がある。詰め物やばね、金属は軍事用に回され、手に入りにくかった。製造元のノルによれば、当初の椅子は、簡素なメープル材のフレームと廃棄されたパラシュート用のウェビングでつくられた。帯は交差させて編み込まれる。一方向に並べただけでは荷重のかかる帯だけが伸びるが、交差させれば互いに支え合い、面全体でたわむ。フレームもほぞ組みで接合し、金属の留め具を使わない。
紙の紐を編んで張る
第二次世界大戦の後、デンマークの椅子には紙をより合わせたペーパーコードの座面が広がった。カール・ハンセン&サンは、ペーパーコードを戦時中に海草(シーグラス)の代わりとして開発された材料で、それまで家具には使われていなかったと説明している。
ボーエ・モーエンセンのJ39 ピープルズチェア(1947年)は、生活協同組合FDBの家具部門のために、手頃な価格で供給することを条件に設計された。脚と貫を直線の部材で組み、座面はペーパーコードを手で編んで張る。板座のように硬くならず、編み込みの手作業は、戦後のデンマークで雇用を確保する面も持っていた。
ハンス・J・ウェグナーのCH25 ラウンジチェア(1950年)は、座面だけでなく背もたれにもペーパーコードを用い、椅子の大部分を編み込みで覆った。2本のコードを同時に使う編み方で、結び目が表に出ず、背もたれの両面に同じ模様が現れる。製造元によれば、一脚の座と背に約400メートルのコードを使い、職人が手で編み上げるのに約10時間を要する。ウェグナーが評価したのは、伸びにくく耐久性に優れる性質だった。紐そのものは伸びず、編んだ面が荷重に応じてたわむ。当時は家具の素材としての評価が定まっておらず、この選択は議論を呼んだ。
編み地の張力で受ける
ロナン&エルワン・ブルレックのスローチェア(2006年)は、チューブラースチールのフレームに、成形したニットを張る。編み地は筒状に編んでからフレームを内側へ通すため、裁断と縫製による縫い目がない。編み方を場所ごとに変え、荷重の大きい座面は伸びを抑え、身体に沿わせたい部分は伸ばす。座面は高さ330mmから、座ると230mmまで沈む。
籐や帯、紐は、材料の間隔と編み方で面の硬さを決めていた。スローチェアは、一枚の連続した生地のなかで部位ごとに伸び方を変えている。ただし、厚いクッションは使わないものの、薄い座クッションと2つの背クッションを併用しており、張った面だけで座り心地を完結させてはいない。
解き方の比較
| 比較項目 | 籐を編む | 革を張る・吊る | 帯を交差させる | 紙の紐を編む | ニットを張る |
|---|---|---|---|---|---|
| 面のつくり方 | 木の枠に手で編み込む | 一枚の革を枠に張る、または4点で吊る | 帯を枠に渡し、交差させて編む | 紐を枠に手で編んで張る | 筒状に編んだ生地にフレームを通す |
| 荷重の受け方 | 編み面がしなる | 一枚の面全体がたわんで沈む | 交差した帯が支え合い、面全体でたわむ | 紐は伸びにくく、編んだ面がたわむ | 部位ごとに編み方を変え、伸び方を分ける |
| 材料を選んだ事情 | しなりと通気(チェスカ)、高温多湿の気候と現地の編みの技術(チャンディーガル) | 野営用の折りたたみ椅子の構成を引き継ぐ | 詰め物より軽く通気がある(エヴァ)、戦時の材料の制限(リソム) | 戦時の海草の代替、手頃な価格 | フォームの重量と体積を抑える |
| 製作の手間 | 手で編む | 枠に掛けるだけで済む(BKF)。外せば枠が平たく収まる | 帯を渡して編む | 一脚の座と背に約400m、手作業で約10時間(CH25) | 縫製を省ける。ただし薄いクッションを併用する |
籐とペーパーコードは、手で編む手間と引き換えに、編み目の密度で面の硬さを整えられる。紙の紐は伸びにくいぶん、面のたわみは編み方に委ねられる。革の一枚張りや吊りは、製作が簡単で外して運べる一方、面が閉じていて、たわみの量は革そのものの性質で決まる。ウェビングは材料を抑えて交差の編みで面全体に荷重を分けるが、帯のあいだは空いたまま残る。ニットは縫い目のない一枚の生地で部位ごとの性質を変えられるが、張った面だけでは座り心地が足りず、薄いクッションを補っている。どの材料を選ぶかは、座り心地だけでなく、戦時の材料の不足、気候、価格、現地で作れるかどうかによっても決まってきた。
現在の張り面
張った面の椅子の多くは、いまも生産が続くなかで素材の選択肢を広げている。チェスカは手編みの籐のほか張り地も選べる。リソム ラウンジチェアは屋外用の生地を用いた仕様と複数色のウェビングを展開し、LC1にも屋外用の布の型がある。J39には2022年に座面をセッジグラスで編んだ仕様、2025年には張りぐるみの座面の仕様が加わった。張りぐるみの座面は、モーエンセンが1969年に考案したものとされる。張った面と詰め物を入れた面は、同じ椅子のなかで用途に応じて選び分けられるようになっている。
Reference
- Original Design: The Cesca Chair | Knoll
- https://www.knoll.com/story/shop/original-design-the-cesca-chair
- Armchair with a Tilting Back | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/3178
- B.K.F. chair | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/4393
- Risom Lounge Chair | Knoll
- https://www.knoll.com/product/risom-lounge-chair
- J39 Mogensen Chair | Fredericia
- https://www.fredericia.com/product/j39-mogensen-chair-3239
- CH25 | Lounge Chair | Carl Hansen & Søn
- https://www.carlhansen.com/en/en/collection/chairs/lounge-chairs/ch25
- Armchair | Victoria and Albert Museum
- https://collections.vam.ac.uk/item/O129269/
- PK22 | Fritz Hansen
- https://www.fritzhansen.com/en/categories/products/popular-series/pk22