ピエール・ジャンヌレ チャンディーガルチェアは、1950年代初頭から1960年代にかけて、インド北部パンジャーブ地方の新都市チャンディーガルのために設計された一連の椅子である。スイス人建築家ピエール・ジャンヌレが、いとこであるル・コルビュジエと共に手がけた壮大な都市計画プロジェクトの一環として誕生したこれらの椅子は、単なる家具の域を超え、モダニズム建築と一体化した社会的インフラストラクチャーとしての機能を担った。

チャンディーガルチェアという呼称は、厳密には単一のデザインを指すものではなく、行政施設、教育機関、住宅など都市の様々な建築物のために創作された家具シリーズ全体を包括する。オフィスチェア、イージーチェア、カンガルーチェア、ライブラリーチェア、フローティングバックチェアなど、用途に応じて多様なバリエーションが存在する。いずれも地元で調達可能なインディアンチーク材と籐を主材料とし、伝統的な木工技術を用いて製作された。この選択は、実用性と経済性だけでなく、インドの風土と文化を尊重する思想の表れでもあった。

特徴・コンセプト

チャンディーガルチェアの最も象徴的な特徴は、V字型を呈する脚部、通称「コンパスレッグ」である。製図用コンパスを彷彿とさせるこの構造要素は、ジャンヌレの家具デザインの視覚的アイデンティティとして機能し、建築の構造美をそのまま椅子に転写したかのような力強さを湛えている。逆V字型の支柱が肘掛けを支え、背もたれと座面は木製フレームに張られた籐の編み細工で構成される。この籐の使用は、インドの高温多湿な気候において通気性を確保する実用的配慮であると同時に、地域の手工芸技術を活かす文化的選択でもあった。

デザインの根底にあるのは、ル・コルビュジエが提唱したモジュロール理論である。これは人体の寸法を基準とした普遍的比例体系であり、チャンディーガルの都市計画全体を貫く設計原理でもあった。ジャンヌレの椅子はこの理論に基づき、人間工学的な快適性と幾何学的な美しさの調和を実現している。背もたれの傾斜角度、座面の高さ、肘掛けの位置――すべてが精密な計算に基づいており、機能美を追求するモダニズムの原則を体現している。

デザイン哲学において特筆すべきは、装飾の完全な排除である。ジャンヌレの椅子には余分な装飾は一切存在せず、構造そのものが美を形成する。むき出しの木組み、シンプルな接合部、率直な素材表現――これらは誠実さと質素さを重んじるモダニズムの倫理を反映している。同時に、地元の木工職人が基本的な道具のみで製作可能なよう、構造は意図的に単純化されている。この民主的なデザインアプローチにより、短期間で数千脚の椅子を現地生産することが可能となった。

エピソード

ピエール・ジャンヌレは1951年にチャンディーガルプロジェクトに着手し、その後14年間をインドで過ごした。ル・コルビュジエが年に数回の視察に留まったのに対し、ジャンヌレは現地に常駐し、都市建設の現場監督として日々の課題と向き合った。彼はセクター5の質素なレンガ造りの住居に暮らし、現地の料理人や世話人と親しく交流しながら、インドの風土と生活に深く根ざした創作活動を展開した。

チャンディーガルの家具デザインには、インド人建築家たちの貢献も見逃せない。特にユーリー・チョウドリーは、ル・コルビュジエチームで唯一のインド人女性建築家として、ライブラリーチェアなど複数のデザインに関与したとされる。1961年の『Marg Magazine』では彼女が明示的に設計者として記されているが、近年ではこの功績がしばしば看過され、すべてがジャンヌレの業績として語られる傾向にある。この帰属の問題は、ミッドセンチュリーデザインの歴史における地元貢献者の不可視化という、より広範な議論を喚起している。

20世紀後半、チャンディーガルの椅子の多くは劣化が進み、行政施設から廃棄される運命にあった。実用的価値を失ったこれらの家具は、スクラップヤードに放置され、あるいは薪として処分された。この状況を一変させたのは、1990年代後半にチャンディーガルを訪れたヨーロッパのギャラリストたちである。彼らはジャンヌレの名声を認識し、ほとんど無価値とされていた椅子を買い集め始めた。その後、パリのギャラリー・パトリック・セガンを中心とした研究と展覧会が、ジャンヌレの再評価を決定づけた。2010年代にはラフ・シモンズなど著名ファッションデザイナーが自身の空間に取り入れたことで、国際的なコレクターアイテムとしての地位が確立した。かつて10ドル程度で取引されていた椅子は、現在では数万ドルの価格で落札されることも珍しくない。

ジャンヌレは1965年、健康上の理由からインドを離れたが、1967年に死去する際、遺灰をチャンディーガルのスクナ湖に散骨するよう遺言した。この最後の願いは、彼がこの都市をいかに愛し、自らのアイデンティティの一部としていたかを物語っている。

評価

チャンディーガルチェアは現在、20世紀デザイン史における重要な作品として国際的に認知されている。ニューヨーク近代美術館、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ドイツのヴィトラデザインミュージアムなど、世界有数のミュージアムコレクションに収蔵されている。これらの椅子は、モダニズムの理念が非西洋文化と遭遇し、地域性と普遍性の対話を実現した稀有な例として評価されている。

デザイン批評においては、その構造的誠実さと材料の率直な表現が高く評価される。チューリッヒ工科大学出身の建築家ペジャ・ハジマノヴィッチは、ジャンヌレの椅子を「快適さではなく、構造、拒絶、素材の誠実さを体現するもの」と表現し、「チャンディーガルのモダニズムは、これらの物体において可視化される――市民的、直接的、未完成であり、まさにそれゆえに完全である」と論じている。この評価は、機能主義の表層的理解を超えた、より深い建築思想としてのモダニズムを示唆している。

2016年、ル・コルビュジエの建築作品群としてチャンディーガルのキャピトルコンプレックスがユネスコ世界遺産に登録されたことで、その文化的重要性は公式に認定された。しかし皮肉なことに、この栄誉は主にル・コルビュジエに帰せられ、ジャンヌレの貢献は長く影に隠れてきた。近年の研究と市場での再評価を通じて、ようやく彼の業績に相応の光が当てられつつある。

一方で、チャンディーガルチェアの人気高騰は複雑な問題も惹起している。オリジナル家具の国外流出は、インドの文化遺産保護の観点から議論を呼んでいる。現在、チャンディーガル政府は残存する家具の保存活動を推進し、ジャンヌレの住居を博物館として公開するなど、その遺産を守る取り組みを強化している。

正規リエディション

ジャンヌレの姪ジャクリーヌ・ジャンヌレが管理する知的財産権に基づき、複数の正規リエディションプロジェクトが進行している。2019年、イタリアの高級家具メーカー、カッシーナは「オマージュ・ア・ピエール・ジャンヌレ」コレクションとして、キャピトルコンプレックスチェアを含む4モデルの復刻版を発表した。ル・コルビュジエ財団の全面的協力のもと、オリジナルの図面と資料を精査し、オーク材やビルマチーク材、ウィーンケーンを用いて忠実に再現している。

インドでは、ファントムハンズなどの工房が、当時ジャンヌレのデザインオフィスで働いていた職人の親族の監修のもと、伝統的な技法を継承しながら家具を再生産している。これらの取り組みは、単なる商業的複製にとどまらず、インドの手工芸技術を次世代に継承する文化的プロジェクトとしての意義も持つ。

基本情報

デザイナー ピエール・ジャンヌレ
デザイン年 1950年〜1960年代
分類 チェア
主要素材 インディアンチーク材、籐(ケーン)
製作地 インド・チャンディーガル近郊の工房
特徴的構造 V字型(コンパス型)脚部
主要モデル オフィスチェア(PJ-SI-28-A/B)、カンガルーチェア(PJ-SI-59-A)、イージーチェア、ライブラリーチェア、フローティングバックチェア
コレクション収蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ヴィトラデザインミュージアム
正規復刻 カッシーナ(2019年〜「オマージュ・ア・ピエール・ジャンヌレ」コレクション)
関連世界遺産 ル・コルビュジエの建築作品群(チャンディーガル・キャピトルコンプレックス、2016年登録)