Cassina(カッシーナ)
Cassina(カッシーナ)は、1927年の創業以来、イタリアモダンデザインの頂点に君臨し続ける高級家具ブランドです。チェーザレ・カッシーナとウンベルト・カッシーナの兄弟によってミラノ近郊のメダに設立されたカッシーナは、その卓越した職人技術と革新的なデザインアプローチにより、世界中の美術館やコレクターから絶大な支持を得ています。ニューヨーク近代美術館をはじめとする世界の主要美術館にパーマネントコレクションとして収蔵されている作品の数々は、カッシーナが単なる家具メーカーではなく、デザイン史に確かな足跡を刻むイノベーターであることを証明しています。
ブランドヒストリー
創業から工業デザインへの転換
カッシーナの起源は17世紀に遡ります。当時は教会用の木製椅子の製造に従事していましたが、その後豪華客船の内装を手掛けることで、確かな技術力を培っていきました。1927年、チェーザレ・カッシーナとウンベルト・カッシーナ兄弟により「アメデーオ・カッシーナ」(Amedeo Cassina)として正式に会社が設立されました。当初は小型のコーヒーテーブルやキャビネットなどを手工業的に製作しており、デザインは社内で行われていました。
第二次世界大戦後、時代とともに家具産業が職人仕事から工業生産へと移行する中、カッシーナは画期的な決断を下します。1948年、デザイン部門と製作部門を分離し、外部の建築家やデザイナーとのコラボレーションを開始したのです。最初のパートナーとなったのがフランコ・アルビーニでした。この戦略的転換により、カッシーナは1950年代にイタリアにおける工業デザインの先駆者として、モダンファーニチャーの分野で頭角を現していきます。
ジオ・ポンティとの出会い
1950年、カッシーナの運命を決定づける出会いが訪れます。「イタリアデザイン界の父」と称されるジオ・ポンティとカッシーナが協働を開始したのです。豪華客船の内装や高級ホテルのプロジェクトを共に手掛けることで、カッシーナの名は世界中に知られるようになりました。1954年には、カルロ・デ・カルリデザインの「683チェア」で、記念すべき第1回コンパッソ・ドーロ賞(金のコンパス賞)を受賞。デザイン界における確固たる地位を築きました。
1957年、ジオ・ポンティとの協業から誕生した「スーパーレッジェーラ」は、カッシーナを世界的ブランドへと押し上げた歴史的名作です。イタリア語で「超軽量」を意味するこの椅子は、一般的な木製椅子の重量が3,000グラム以上であるのに対し、わずか1,700グラムという驚異的な軽さを実現しました。指一本で持ち上げられるこの革命的なチェアは、数年にわたる試作期間を経て、耐久性や座り心地などの機能性を犠牲にすることなく、極限まで無駄を削ぎ落としたデザインで完成しました。発売から半世紀以上が経過した現在も、その美しいフォルムと使い勝手の良さで多くの人々に愛用され続けています。
イ・マエストリコレクションの誕生
1964年、カッシーナはデザイン史に新たな一章を刻みます。ル・コルビュジエがまだ存命の時期に、カッシーナは同氏および共作者であるピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンがデザインした4つのモデルの復刻生産を行う独占契約を締結しました。これが、後に「イ・マエストリコレクション」(I Maestri Collection)として知られる歴史的プロジェクトの始まりです。イタリア語で「巨匠たち」を意味するこのコレクションは、20世紀初頭の偉大な建築家たちの作品を、デザイナーおよび建築家の著作権を厳格に保護しながら復刻するという、当時としては画期的な試みでした。
イ・マエストリコレクションは、その後チャールズ・レニー・マッキントッシュ、へーリット・トーマス・リートフェルト、フランク・ロイド・ライトといった巨匠たちの作品を次々とラインナップに加えていきました。すべての製品には原作者のサインと製造ナンバー入りのIDカードが添付され、正統な復刻品であることを証明しています。このプロジェクトにより、現代においても100年前にデザインされた名作家具を、オリジナルの精神を損なうことなく手に入れることが可能になったのです。
現代への継承と日本との関係
1972年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された展覧会「Italy: the New Domestic Landscape」において、カッシーナは共催者として参画。国際的な評価はさらに高まり、1991年には企業としてコンパッソ・ドーロ賞を受賞するという栄誉に輝きました。2005年、カッシーナはポルトローナ・フラウ・グループに買収されますが、その伝統と革新の精神は継承され、今日に至るまで発展を続けています。
日本とカッシーナの関係は1980年代に本格化します。1980年、Cassina ixc(カッシーナ・イクスシー)社の前身である株式会社インターデコールが設立され、日本における販売総代理店としての活動を開始しました。さらに1994年には、世界で唯一ライセンス生産を認められた桐生市の工場が稼働を開始。2008年には生産拠点を伊勢崎に移転し、日本の高度な技術力とイタリアのデザイン哲学の融合により、カッシーナの製品は日本市場においても確固たる地位を築いています。
デザインの特徴とコンセプト
伝統と革新の融合
カッシーナのデザイン哲学は、"Respect, Protect, Create and Promote Design"という言葉に集約されます。歴史的名作のタイムレスなデザインを尊重し保護しながらも、仕様・材料・製造面において常に最先端の技術を取り入れたリ・デザインを行うことで、過去と現在、そして未来を結ぶ架け橋となっています。
イ・マエストリコレクションを代表するル・コルビュジエのLCシリーズも、一見するとオリジナルと変わらないように見えますが、時代のニーズに合わせてサイズの見直しや環境負荷軽減となる素材へのバージョンアップが継続的に行われています。2019年には、ミラノ工科大学とカッシーナ研究開発チームが連携した「カッシーナ・ラボ」によるサステイナブルな素材の研究開発が本格化し、天然由来のポリオールを配合した100%再生繊維の使用や、マテリアルリサイクルを可能にする構造設計など、環境配慮型製品の開発に積極的に取り組んでいます。
素材へのこだわり
カッシーナの普遍的なクオリティを支えるのは、高水準のテクノロジーとアルチザン(職人)の技術の継承との見事な融合です。革・木・金属・ファブリックなど、常に素材自体を吟味し、その魅力を最大限に引き出す技術がカッシーナの特色となっています。特に革製品においては、カッシーナ独自の厳しい基準をクリアした鞣し革のみを使用し、使い込むほどに身体に馴染み、味わいを深めていく経年変化の美しさを実現しています。
二つのコレクション
カッシーナは、歴史的名作を継承する「イ・マエストリコレクション」と、現代を代表する建築家やデザイナーとの協業による「コンテンポラリーコレクション」という二つの主要なコレクションを展開しています。この二つのコレクションは、過去の偉大な遺産を守りながら、同時に常に革新を追求するというカッシーナの姿勢を象徴しています。コンテンポラリーコレクションには、ヴィコ・マジストレッティ、マリオ・ベリーニ、フィリップ・スタルク、ロドルフォ・ドルドーニ、ジャン・マリー・マッソー、ルカ・ニケットなど、現代を代表する才能が参画し、時代の先端を行く革新的なデザインを生み出し続けています。
主要デザイナー
ル・コルビュジエ(Le Corbusier, 1887-1965)
スイス生まれのフランス人建築家であり、20世紀を代表する近代建築理論家の巨匠。日本の上野にある国立西洋美術館の設計者としても知られています。ル・コルビュジエの家具デザインの大部分は、従兄弟であり建築のパートナーであるピエール・ジャンヌレと、シャルロット・ペリアンとの共同作業から誕生しました。1928年にデザインした金属製家具は装飾的要素を排除したミニマリストな作品として、当時は多くの物議を醸しましたが、やがて全世界で成功を収め、今日に至るまで傑作として人気を集めています。カッシーナは、ル・コルビュジエ財団および共作者の意匠継承者と密接に協力し、彼らのデザインの製造を認められた唯一の企業です。
ジオ・ポンティ(Gio Ponti, 1891-1979)
「イタリアデザイン界の父」と称される伝説的な建築家・デザイナー。1950年にカッシーナとの協働を開始し、豪華客船の内装など数々のプロジェクトを手掛けました。1957年に発表された「スーパーレッジェーラ」は、わずか1,700グラムという驚異的な軽さを実現した革命的なチェアで、カッシーナの名を世界に知らしめた歴史的名作です。ジオ・ポンティとの協業により、カッシーナは才能あるデザイナーや建築家との積極的なコラボレーションという、現在まで続く企業戦略の基盤を確立しました。
ヴィコ・マジストレッティ(Vico Magistretti, 1920-2006)
イタリアを代表する建築家・デザイナー。ミラノ工科大学で建築を学び、1945年の卒業後、父のデザインオフィスで勤務を開始しました。カッシーナをはじめ、アルフレックスやカルテルなど超一流のインテリアブランドでデザインを手掛け、建築家としては都市設計やホテル、映画館を担当するなど、多岐にわたる活躍を見せました。1973年にデザインした「マラルンガ」は、木枠が主流だった当時のソファの内部構造にモールドウレタンフォームを初めて採用した画期的な作品で、ニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されています。彼の12点もの作品が同美術館に永久コレクションとして展示されていることからも、その業績の偉大さが窺えます。
マリオ・ベリーニ(Mario Bellini, 1935-)
ミラノ生まれの建築家・デザイナー。ミラノ工科大学で建築を学び、建築の代表作としてフランス・ルーブル美術館イスラムギャラリー、ドイツ銀行ツインタワー改築、ミラノコンベンションセンターなどがあります。日本でも横浜ビジネスパーク・ベリーニの丘(1990年)、東京デザインセンター(1992年)など、複数の建築・デザインプロジェクトを手掛けています。1977年に発表した「CABチェア」は、金属製フレームに厚革のジャケットを被せるという画期的な発想で構成された傑作です。フレームと厚革が作り出すテンションによって、背もたれのフィット感と抜群の座り心地を実現し、発表以来イタリアンモダンデザインを代表する椅子として絶賛され続けています。
フィリップ・スタルク(Philippe Starck, 1949-)
フランスを代表する世界的デザイナー。時計からキッチングッズ、家具、建築まで、幅広い分野で革新的なデザインを発表し続けています。カッシーナのためにデザインした「プリヴェ」ソファは、カッシーナ伝統の革加工技術と最新テクノロジーを駆使した洗練された作品です。最高級の革素材を使用し、芸術性と座り心地の共存を実現したこのソファは、デイベッドとしてもマルチに使用できる機能性を備え、カッシーナの「伝統と革新」を体現する代表作となっています。
代表的なプロダクト
LC2 ソファ(ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン)
1928年にデザインされたLCシリーズは、モダニズム運動における最も重要な家具として知られています。LC2は、極めてシンプルな構造で、クロームメッキを施した金属フレームの枠に、良質なフェザーを使用したクッションを差し込むという、建築家ならではの合理的な設計が特徴です。1934年、ル・コルビュジエが妻とともにパリのアパートに引っ越した際、自宅のリビングルーム用にデザインしたこのソファは、ニューヨーク近代美術館の所蔵作品となっており、そのタイムレスな美しさと機能性で、現代においても世界中で愛用されています。メンテナンスが容易で、両アームが高い位置にあることで身体をしっかりと支え、安定した座り心地を提供します。
LC4 シェーズロング(ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン)
ル・コルビュジエが「休養のための機械」と呼んだ寝椅子。人間の身体のラインに完璧にフィットするようデザインされた曲線は、座り心地の良さはもちろん、見た目の美しさも兼ね備えています。弓形のパイプをずらすことで寝る角度を自由に調整できる機能的な仕組みも備えており、1929年の発表以来、ニューヨーク近代美術館の所蔵作品として、モダンデザインの金字塔的存在となっています。
スーパーレッジェーラ(ジオ・ポンティ)
1957年に発表された、世界で最も軽い椅子。イタリア語で「超軽量」を意味する名前の通り、わずか1,700グラムという驚異的な軽さを実現しながら、耐久性と座り心地を犠牲にしていない奇跡的なバランスが特徴です。数年にわたる試作期間を経て、極限まで無駄な要素を削ぎ落とした美しいフォルムは、子どもでも簡単に持ち運びできる使い勝手の良さと相まって、発売開始から半世紀以上が経過した現在も、多くの人々に愛用され続けています。
CABチェア(マリオ・ベリーニ)
1977年に発表された、イタリアンモダンデザインを代表する椅子。金属製のスチールチューブフレームの骨格に、厚革のジャケットを被せるという、人間の身体構造と共通する画期的な発想で構成されています。フレームと厚革が作り出すテンションによって、背もたれの優れたフィット感と抜群の座り心地を実現しました。カッシーナ独自の厳しい基準をクリアした鞣し革は、使い込むほどに身体に馴染み、味わいを深めていきます。発表以来50万脚以上が製作されたロングセラーの名作で、ニューヨーク近代美術館の所蔵作品となっています。
マラルンガ ソファ(ヴィコ・マジストレッティ)
1973年に発表されたマラルンガは、ヴィコ・マジストレッティの最高傑作の一つとして知られています。それまで木枠が主流だったソファの内部構造に、モールドウレタンフォームを初めて採用した革新的な製品でした。背もたれに組み込まれた自転車のチェーンを動かすことで、ハイバックにもローバックにも調整できる画期的な機構を備えており、座る人がリラックスした姿勢を自由に選ぶことができます。1979年にコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、ニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されたこのソファは、「ソファ界の最高傑作」と称され、発売以来40年以上にわたって世界中の人々に愛され続けています。
プリヴェ ソファ(フィリップ・スタルク)
フランスの建築デザイナー、フィリップ・スタルクがデザインした洗練されたソファ。カッシーナ伝統の革加工技術と最新の技術を駆使して仕立てられ、ソファを覆う革には最高の素材が使用されています。芸術性と座り心地の共存を実現した作品で、ソファとしても、デイベッドとしてもマルチに使える機能性を備えています。コンテンポラリーからクラシックまで、さまざまなテイストのインテリアにマッチするシンプルで上質なデザインは大きな反響を呼び、その後のソファデザインに影響を与えました。
カッシーナが体現する価値
カッシーナの作り出す製品は、イタリアンデザインの歴史、感性、技術、そして創造力への挑戦に大きく寄与してきました。「Made in Italy」のブランドを世界市場へと送り出し、イタリアのデザインを世界的に有名にした立役者の一人として、カッシーナは確固たる地位を築いています。
カッシーナのコレクションは、単なる家具を超えて、現代文化の象徴となっています。それらは、ライフスタイルとその要求の発展に的確に応え、創造力とイノベーション、そしてその分野のノウハウの統合の結果もたらされるものです。永年をかけて築き上げられた歴史と信頼を保ちながらも、革新的に続けられる斬新で大胆な製品開発と研究、著名な建築家やデザイナーとの協業により、カッシーナは時代を越えて人々を魅了し、特別な満足感をもたらし続けています。
世界の名だたる美術館にコレクションされ、高級ホテルやレストラン、商業施設から個人住宅まで、あらゆる空間で採用されているカッシーナの製品は、その完成度とデザイン性において、他の追随を許さない高い評価を得ています。イタリア家具はブランド力が高く、世界中で認められている「家具界の王様」と称されますが、その中でもカッシーナは特別な存在として、デザインを愛する人々、建築家、世界のセレブリティから憧れの対象となっています。
カッシーナは創業から90年以上が経過した現在も、その革新性、実験性、信頼性、卓越性、技術力、そして卓越した職人技によって国際的に際立つ存在であり続けています。デザイン文化を中核に据えてきた企業の伝統を背景に、これからの世界について常に深く考え、現代社会のあらゆる問題にも配慮しながら、サステナビリティとウェルビーイングを促進する製品開発に積極的に取り組んでいます。カッシーナは、インテリアの未来をデザインし続ける、真のリーディングブランドなのです。
基本情報
| ブランド名 | Cassina(カッシーナ) |
|---|---|
| 正式社名 | Cassina S.p.A. |
| 設立 | 1927年 |
| 創業者 | チェーザレ・カッシーナ(Cesare Cassina) ウンベルト・カッシーナ(Umberto Cassina) |
| 本社所在地 | イタリア ロンバルディア州 メダ(Meda) |
| 主要コレクション | イ・マエストリコレクション(I Maestri Collection) コンテンポラリーコレクション(Contemporary Collection) カッシーナ・プロ(Cassina Pro) |
| 日本総代理店 | 株式会社カッシーナ・イクスシー(Cassina ixc. Ltd.) 設立:1980年 |
| 公式サイト | https://www.cassina.com/(グローバル) https://www.cassina-ixc.jp/(日本) |