マラルンガは、イタリアの建築家・デザイナーであるヴィコ・マジストレッティが1973年にカッシーナのためにデザインしたソファである。発表以来半世紀以上にわたり生産が続けられ、イタリアンデザインを象徴する不朽の名作として世界中で愛され続けている。その革新的な可変式背もたれ機構と、包み込むような柔らかなフォルムが特徴であり、1979年にはイタリア最高峰のデザイン賞であるコンパッソ・ドーロを受賞。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションにも収蔵されている。

特徴・コンセプト

マラルンガの最大の革新は、家具史上初となる可動式ヘッドレストの採用にある。背もたれ内部に埋め込まれた自転車のチェーンを応用したメカニズムにより、使用者はローバックからハイバックへと自在にポジションを変えることができる。この画期的な機構はカッシーナによって特許取得されており、会話を楽しむ際のフォーマルなローポジションから、読書やテレビ鑑賞時のリラックスしたハイポジションまで、二つの異なる用途に対応することを可能にしている。

構造面においても、マラルンガは当時の常識を覆す革新をもたらした。従来のソファでは木製フレームが標準であったが、マジストレッティはスチール製インサートフレームにモールドウレタンフォームを組み合わせる手法を本格的に採用。CFCフリーの異密度ポリウレタンフォームとポリエステル中綿により、柔らかな座り心地と高い耐久性を両立させた。この先進的な内部構造は、現代のソファ製造に多大な影響を与えている。

マジストレッティ自身は、このソファのコンセプトについて次のように述べている。「マラルンガで私が目指したのは、家族のためのインテリアを象徴するようなオブジェをデザインすることでした。暖炉や窓辺に置かれた、昔ながらの読書椅子のような、温かく、リラックスでき、居心地の良い場所。そこに座れば安らぎを感じ、守られているような抱擁感を再発見できる場所です」。

エピソード

マラルンガの誕生には、デザイン史上最も有名な逸話のひとつが残されている。伝説によれば、カッシーナの創業者チェザーレ・カッシーナが工房を訪れた際、マジストレッティのプロトタイプを見て激怒し、思わずソファの背もたれを殴打したという。その衝撃で背もたれが折れ曲がり、くしゃりと崩れ落ちた。しかしマジストレッティは動じることなく「そう、完璧だ。これがまさに私の望んでいた形だ」と応じたと伝えられている。この偶然から生まれた、傾斜した調整可能な背もたれこそが、マラルンガの象徴的な特徴となった。

この逸話の真偽はともかくとして、マジストレッティとカッシーナの関係は1959年のカリマーテチェアから始まる長年にわたる実りある協業であった。両者はモダニティと伝統の関係性についてのビジョンを共有し、マジストレッティは1965年にカッシーナの豪華な邸宅の設計も手がけている。

評価

マラルンガは発表直後から国際的なベストセラーとなり、イタリアンデザインの金字塔として不動の地位を確立した。その革新性、機能性、そして時代を超越した美しさは、世界中のデザイン関係者から高く評価されている。

カッシーナにとってマラルンガは最も成功した製品のひとつであり、発売以来50年以上にわたって生産が続けられている。そのボクシーな1970年代のシルエットは、どのような時代のインテリアにも調和し、今日においてもなお高い人気を誇る。数多くの模倣品を生み出したという事実が、このデザインの影響力の大きさを物語っている。

2014年には発売40周年を記念して、カッシーナはマラルンガ財団との協力のもと、マラルンガ40およびマラルンガ40-Sを発表。パイピングによる縁取りステッチを施し、よりモダンでコンテンポラリーな外観を実現した。さらに2024年には、内部メカニズムの改良により背もたれの傾斜角度を7度拡大し、快適性のさらなる向上を図っている。

受賞歴・収蔵

  • 1979年 コンパッソ・ドーロ(ADI)受賞
  • 1981年 ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション収蔵
  • ADIデザインミュージアム(ミラノ)コレクション収蔵

デザイナー

ヴィコ・マジストレッティ

ルドヴィコ・マジストレッティ(1920年10月6日 - 2006年9月19日)は、建築家を輩出してきた名門の家系に生まれた。愛称「ヴィコ」で親しまれ、20世紀イタリアデザインを代表する巨匠の一人として知られる。ミラノ工科大学で建築を学び、第二次世界大戦中にはスイスに亡命。ローザンヌでBBPRスタジオの創設者であるエルネスト・ナタン・ロジャースと出会い、生涯にわたる影響を受けた。

1945年に帰国後、父の設計事務所で活動を開始。建築と工業デザインの両分野で輝かしい業績を残し、アルテミデ、カッシーナ、デ・パドヴァ、フルー、フリッツ・ハンセン、カルテル、オルーチェなど、イタリアを代表するブランドとの協業を行った。代表作にはエクリッセランプ(1967年)、アトッロランプ(1977年)、ヌヴォラ・ロッサ本棚(1977年)などがある。コンパッソ・ドーロを4度受賞し、1995年には功労賞を受賞。ロンドン王立芸術大学で20年間教鞭を執り、2006年にミラノで逝去。その遺志はヴィコ・マジストレッティ財団によって継承されている。

基本情報

製品名 Maralunga(マラルンガ)
品番 675
デザイナー Vico Magistretti(ヴィコ・マジストレッティ)
デザイン年 1973年
メーカー Cassina(カッシーナ)
製造国 イタリア
受賞 1979年 コンパッソ・ドーロ
収蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション
構造 スチール製チューブラーフレーム、エラスティックウェビング
クッション CFCフリー異密度ポリウレタンフォーム、ポリエステル中綿
特徴 自転車チェーンを応用した可動式ヘッドレスト機構(カッシーナ特許)
ラインナップ 1人掛け、2人掛け、3人掛け、オットマン
バリエーション Maralunga(オリジナル)、Maralunga 40、Maralunga 40-S、Maralunga Maxi、Maralunga 50