ソリアナは、1969年にイタリアの建築家・デザイナー夫妻であるアフラ・スカルパとトビア・スカルパによって設計され、イタリアを代表する家具メーカー、カッシーナ社から発表されたソファコレクションである。その革新的な構造と優美なフォルムにより、発表翌年の1970年にはイタリアデザイン界最高峰の栄誉であるコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、イタリアンデザインの金字塔として今日まで世界中のコレクターやインテリア愛好家から敬愛され続けている。
ソリアナの最大の特徴は、従来のソファに不可欠とされてきた内部支持構造を持たない点にある。当時最先端であったポリウレタンフォーム成形技術を駆使し、クロームメッキを施したスチール製のクランプによって外部からパディングを包み込むことで形状を保持するという、それまでの家具製造の常識を覆す革新的な構造が採用された。この構造により、ソリアナは見る者に「柔らかさがかろうじて抑えられている」かのような独特の緊張感と、包み込まれるような極上の座り心地を同時に提供することに成功した。
特徴・デザインコンセプト
ソリアナのデザインは、「快適さそのものがソファになる」というコンセプトに基づいている。アフラ&トビア・スカルパ夫妻は、ポリウレタンフォームという新素材の可能性を最大限に引き出し、内部フレームなしで座り心地を実現するという前例のない挑戦に取り組んだ。
革新的な構造
ソリアナの構造は、ポリウレタンフォームとダクロン繊維のパディングを、T字型のクロームメッキスチール製クランプで外側から締め付けることで成り立っている。この金属製のケージが、本来は無定形であるフォームに形を与え、美しいシルエットを生み出している。座面と背もたれに配された装飾ボタンは、張地とフレームを結びつけ、ふっくらとした曲線を強調しながらも全体の形状を維持する役割を果たしている。
フォーマルとインフォーマルの融合
ソリアナは、フォーマルとインフォーマルの間に位置する絶妙なバランスを体現している。低めの座面設計は使用者を深く座らせ、くつろぎを誘う一方で、その洗練されたフォルムは空間に上質な存在感をもたらす。発表当時、自由なライフスタイルへの志向が高まりつつあった時代背景を反映し、ソリアナは新しい暮らし方を提案する象徴的な存在となった。
素材とカラーバリエーション
オリジナルのソリアナは、ウール、レザー、ベルベット、アルカンターラなど多様な素材で張り地が展開され、居住空間の多様なスタイルに対応した。現行の復刻版では、当初のカラーパレットに加え、新たな張り地と金属クランプのカラーオプションが用意されている。
エピソード
ソリアナは、アフラ&トビア・スカルパ夫妻がカッシーナ社との協働において到達した最高傑作とされる。夫妻は1960年代を通じてカッシーナ社と多くのプロジェクトに取り組んできたが、924ラウンジチェア、121チェア、シプレア・アームチェアなどの成功を経て、その集大成としてソリアナが誕生した。
カッシーナ社は1927年にチェザーレとウンベルト・カッシーナ兄弟によって設立され、1950年代に工業デザインをイタリアに紹介したことで知られる。同社は研究と革新に重きを置き、先進的な技術とヨーロッパの長い歴史を持つ職人技の融合を追求してきた。ソリアナもまた、この精神を体現する作品であり、新素材と伝統的な家具製造技術の見事な調和を示している。
ソリアナは1980年頃に一度生産が終了したが、その後のヴィンテージ市場での高い人気を受け、カッシーナ社は近年これを復刻した。復刻にあたっては、オリジナルのデザインに対する最大限の敬意を払いながら、カッシーナ・ラボ・プロジェクトの一環として環境に配慮した新素材が採用された。内部パディングには植物由来のバイオプラスチックであるバイオフォーム微粒子が、座面には環境保全団体プラスチックバンクから回収されたPETを100%リサイクルした吹き込み繊維が使用されており、サステナブルデザインの新たな地平を切り拓いている。
評価と美術館収蔵
ソリアナは、発表以来半世紀以上にわたりイタリアンデザインの傑作として評価され続けている。その革新的な構造と時代を超越した美しさは、世界中の美術館やコレクターから高く評価されている。
アフラ&トビア・スカルパ夫妻の作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、パリのルーヴル美術館、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、フィラデルフィア美術館、シカゴ現代美術館など、世界有数の美術館に収蔵されている。ソリアナは、「シンプルな道具によって達成された複雑さの傑作」として評され、ポストモダンデザインの重要な里程標として位置づけられている。
ヴィンテージ市場においてソリアナは非常に希少かつ高価な収集品となっており、イタリアン・ミッドセンチュリーデザインへの関心の高まりとともに、世界中のインテリアデザイナーや建築家がこの名作を求めている。
受賞歴
- 1970年
- コンパッソ・ドーロ賞(Compasso d'Oro)受賞。イタリア工業デザイン協会(ADI)が主催する、世界で最も権威あるデザイン賞のひとつ。1954年にジオ・ポンティとアルベルト・ロッセリの発案により、ラ・リナシェンテ社の後援のもと創設された。ソリアナは、このアワードを通じて、革新的デザインの代表例として国際的に認知されることとなった。
デザイナー:アフラ&トビア・スカルパ
アフラ・ビアンキン(1937年-2011年)はイタリア北部モンテベッルーナ出身、トビア・スカルパ(1935年-)はヴェネツィア出身である。二人はともに1957年にヴェネツィア建築大学(IUAV)を卒業し、同窓生として出会った。在学中、伝説的な建築家フランコ・アルビーニの家具デザイン講座を受講し、その教えは後の二人の創作活動に大きな影響を与えた。
トビア・スカルパの父は、20世紀を代表する建築家カルロ・スカルパである。トビアは卒業後、1957年から1961年までムラーノ島のヴェニーニ社でガラスデザイナーとして経験を積んだ。1960年、二人はアフラの故郷モンテベッルーナにデザイン事務所を開設し、私生活でも仕事でも生涯にわたる協働関係を築いた。
夫妻はガヴィーナ社(バスティアーノソファ、1961年)、B&Bイタリア社(コロナードソファ、1966年)、カッシーナ社(ソリアナ)、モルテーニ社(モンクチェア、1973年)、フロス社(パピヨンランプ、1973年)など、イタリアを代表する家具・照明メーカーと数多くのコラボレーションを行った。また、ベネトングループの工場建築やショップインテリアも手がけるなど、建築分野でも活躍した。
2008年、トビア・スカルパはコンパッソ・ドーロ生涯功労賞を受賞。2002年からはヴェネツィア建築大学デザイン学部で教鞭を執り、次世代のデザイナー育成にも尽力している。
基本情報
| 名称 | ソリアナ / Soriana |
|---|---|
| デザイナー | アフラ&トビア・スカルパ / Afra & Tobia Scarpa |
| ブランド | カッシーナ / Cassina |
| 発表年 | 1969年 |
| 生産国 | イタリア |
| 素材 | ポリウレタンフォーム、ダクロン繊維、クロームメッキスチール |
| 張り地 | ファブリック、レザー、ベルベット、アルカンターラ |
| 製品ラインナップ | アームチェア、2人掛けソファ、3人掛けソファ、シェーズロング、プフ |
| 受賞 | 1970年 コンパッソ・ドーロ賞 |