概要

ピエール・ジャンヌレ(1896-1967)は、スイスの建築家・デザイナーである。いとこのル・コルビュジエと1922年から共同で設計事務所を運営し、LCシリーズの家具もシャルロット・ペリアンを加えた三者の名義で発表された。1951年からはインドの新都市チャンディーガルに常駐し、14年にわたって建築と家具の設計にあたっている。現地の材料と職人でつくれることを条件に置いた一連の家具が、後年に再評価された。

バイオグラフィー

1896年3月22日、スイスのジュネーヴに生まれた。本名アルノルド・アンドレ・ピエール・ジャンヌレ=グリ。9歳年上のいとこシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(のちのル・コルビュジエ)とは、生涯にわたって仕事をともにすることになる。

1922年、パリのセーヴル通り35番地に共同で設計事務所を開いた。1940年までの18年間、サヴォア邸、ヴァイセンホーフ・ジードルングの住宅、スイス学生会館などを手がけている。1927年からはシャルロット・ペリアンが加わり、1929年のサロン・ドートンヌで三者名義の家具が発表された。

1940年に共同事務所を解消。第二次世界大戦中はフランスでレジスタンスに関わった。

1951年2月、54歳でインドへ渡り、新都市チャンディーガルの建設に加わる。ル・コルビュジエが年に2回短期間訪れるのに対し、ジャンヌレは現地に住み込んで実施設計と監理にあたった。1955年に主任建築家およびパンジャブ州の都市計画顧問となり、チャンディーガル建築大学の学長も務めている。

1965年8月、健康の悪化により現地を離れてジュネーヴへ戻った。1967年12月4日、71歳で没している。遺言により、遺灰はチャンディーガルのスクナ湖に撒かれた。

デザインの思想と方法

ジャンヌレの仕事は、その場所で調達できる材料と、その場所にいる職人の技術でつくれるかという条件から出発する。パリでの鋼管家具と、チャンディーガルの木製家具は見た目が大きく異なるが、いずれも入手できる材料と加工の水準を先に確かめて構成を決めるという点で共通している。

実施の側を引き受ける

共同事務所での分担は、ル・コルビュジエが構想と対外的な発表を、ジャンヌレが実施設計と現場の技術的解決を担うという形をとった。図面を建物として成立させる工程には、構造・施工・材料の判断が集中する。この役割が、チャンディーガルでの14年間にそのまま引き継がれている。

現地の材料と工法に合わせる

チャンディーガルでは、輸入に頼らず現地で調達できるビルマチークを主材とした。湿度と虫害に耐える材である。座面と背には籐を編み、金属の金物を最小限にとどめた。塗装や複雑な仕口を避けたのは、工場ではなく地域の工房で製作し、後年に修理できる範囲に収めるためである。

V字の脚

チャンディーガルの椅子に共通するのが、側面から見てV字に開く脚である。二枚の板を角度をつけて接合し、で結ぶだけで自立するため、複雑な仕口を必要としない。同じ構成を椅子・机・書架に適用でき、寸法を変えるだけで用途が変わる。手工具でつくれる範囲に収まっていることが、この形の条件になっている。

気候から平面を決める

建築では、ベランダと庇で日射を遮り、平面の抜けで通風を確保する構成をとった。空調に頼らずに室内環境を成立させるという条件が、開口の位置と部屋の並び方を決めている。

代表作にみる方法

サロン・ドートンヌの家具(1929年)

ル・コルビュジエシャルロット・ペリアンとの三者名義で発表された鋼管の家具群である。ニューヨーク近代美術館の収蔵記録も、LC1(281.1934)、LC2(337.1960.a-f)、LC4(223.1950)を三者の共同作として登録している。→LC1 バスキュラントチェア / LC2 ソファ / LC4 シェーズロング

スイス学生会館(1930-32年)

パリ国際大学都市に建つ学生寮で、共同事務所の代表作の一つにあたる。ピロティで持ち上げた居室棟と、石積みの共用棟を組み合わせる。居室は同一の平面を反復するため、部材の規格化が前提となる。実施の側を担ったジャンヌレの役割が大きい仕事とされる。

チャンディーガルの家具(1951-1965年)

行政庁舎、大学、住宅のために設計された一連の家具である。V字に開く二枚の脚板を貫で結び、座面と背に籐を編む構成を基本とし、椅子・机・書架・寝台へ展開した。現地の工房で製作され、部材を替えれば修理できる。都市の建設にあわせて数千点が作られている。→ピエール・ジャンヌレ チャンディーガルチェア

キャピトル・コンプレックス(1951-1965年)

チャンディーガルの行政中枢を構成する建築群で、ル・コルビュジエの構想のもと、ジャンヌレが現地で実施と監理にあたった。庇と縦横のルーバーで日射を制御する構成をとる。2016年、「ル・コルビュジエの建築作品」の一部としてユネスコ世界文化遺産に登録された。

評価と影響

ジャンヌレは長く、共同事務所での役割が表に出にくい位置にあった。近年は、実施設計と現場を担った側の仕事として、その内容が個別に検討されるようになっている。

チャンディーガルの家具は、都市の更新にともなって1970年代から1990年代にかけて多くが廃棄された。1990年代後半以降、ヨーロッパの取扱業者を通じて市場に出るようになり、現在は再評価が進んでいる。現地に残る個体の保全と流出をめぐる議論も続いている。

入手できる材料と職人の技術を条件として設計するという進め方は、地域の条件に応じた設計の先例として参照されることが多い。カッシーナは2019年から「Hommage à Pierre Jeanneret」として一部の設計を生産している。

受賞・収蔵

顕彰

  • 2016年 チャンディーガルのキャピトル・コンプレックスを含む7か国17件が、「ル・コルビュジエの建築作品」としてユネスコ世界文化遺産に登録

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA シェーズロング(LC4、1928年) 収蔵番号 223.1950
  • MoMA 背もたれが傾動する椅子(LC1、1928年) 収蔵番号 281.1934
  • MoMA グラン・コンフォール(LC2、1928年設計) 収蔵番号 337.1960.a-f
  • MoMA スイス学生会館の図面(1930-32年) 収蔵番号 230.1987
  • MoMA サヴォア邸の模型(1932年) 収蔵番号 48.1932
  • MoMA 総督邸計画の資料(1951-1976年) 収蔵番号 125.1988
  • MoMA アーメダバード紡績協会会館の資料(1951-54年) 収蔵番号 148.2002
  • V&A アームチェア(1950-60年) 収蔵番号 W.1-1983
  • AIC シェーズロング(1928年設計) 収蔵番号 1963.1128

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド / 場所
1925年 収納 LC20 カジエ・スタンダール Cassina(三者共同)
1925年 テーブル LC12 ラ・ロッシュ Cassina(三者共同)
1928年 椅子 LC1 バスキュラントチェア Cassina(三者共同)
1928年 ソファ LC2 ソファ Cassina(三者共同)
1928年 椅子 LC3 グランコンフォール Cassina(三者共同)
1928年 シェーズロング LC4 シェーズロング Cassina(三者共同)
1928年 テーブル LC6テーブル Cassina(三者共同)
1930-32年 建築 スイス学生会館 パリ、フランス
1931年 建築 サヴォア邸 ポワシー、フランス
1934年 ソファ LC5 ソファベッド Cassina(三者共同)
1951-1965年 椅子 ピエール・ジャンヌレ チャンディーガルチェア チャンディーガル、インド
1951-1965年 建築 キャピトル・コンプレックス(実施・監理) チャンディーガル、インド
1951-1965年 建築 パンジャブ大学の校舎群 チャンディーガル、インド

プロフィール

生没年 1896年3月22日〜1967年12月4日
出身地 スイス・ジュネーヴ
国籍 スイス
活動拠点 パリ、チャンディーガル
分野 建築、家具、都市計画
主な協働ブランド Cassina

Reference

Pierre Jeanneret | Fondation Le Corbusier
https://www.fondationlecorbusier.fr/
The Architectural Work of Le Corbusier | UNESCO World Heritage Centre
https://whc.unesco.org/en/list/1321/
Le Corbusier, Pierre Jeanneret, Charlotte Perriand Collection | Cassina
https://www.cassina.com/ww/en/maestri/le-corbusier.html
Chandigarh Capitol Complex | UNESCO
https://whc.unesco.org/en/list/1321/multiple=1&unique_number=1901
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2325