スローチェア – 繊細さで実現する究極の快適性
スローチェアは、ロナン&エルワン・ブルレックによって2006年にヴィトラのために創造されたラウンジチェアである。このデザインは、チューブラースチールフレームに精密に成型されたニット素材のスリングカバーを装着するという革新的な構造により、軽量性と快適性を両立させた。伝統的なアームチェアの厚いクッションを薄く半透明のニット素材に置き換えることで、広々とした座面を持ちながらも視覚的に軽やかな印象を実現している。
デザインコンセプト
スローチェアの開発にあたり、ブルレック兄弟は「大量のフォームではなく、繊細さによって優れた快適性を実現する」という明確なビジョンを掲げた。ヴィトラから「比較的手頃な価格で、軽量かつ透明性のあるチェア」という要望を受けた彼らは、タイツをチェアのカバーに応用するというアイデアを発展させ、耐水性・耐UV性を備えたニットポリエステル素材を開発した。
このチェアのデザインには、イームズ夫妻が1958年に発表したアルミニウムグループチェアからの着想が込められている。室内外で使用可能な家具という概念は、現代のライフスタイルにおいて夏の生活が屋外へと広がる傾向を反映したものである。ヴィトラホーム部門責任者のエッカート・マイゼは、「美学と高い快適性を兼ね備え、少なくとも一時的にテラスやバルコニー、庭で使用できる素材が求められている」と述べている。
構造と特徴
スローチェアの構造的特徴は、チューブラースチールフレームに精密に成型されたニット素材が、まるでぴったりとフィットした靴下のように張られている点にある。このニット素材は約2ミリメートルの厚さでありながら、場所によって弾力性を変化させることで、張力と柔軟性が異なるゾーンを作り出している。
4本のダイキャストアルミニウム製の脚が取り付けられ、背もたれ側の2本の脚を延長することで、使用者の腰部を適度にサポートする背もたれが形成されている。この半透明のスリングカバーにより、伝統的なアームチェアの厚いクッションが不要となり、軽量でありながら広々としたプロポーションが実現された。薄いシートクッションと2つのバッククッションが、ニット素材による柔らかな快適性をさらに高めている。
ブルレック兄弟の典型的なスタイルとして、このチェアの形状は1950年代のチェアを想起させるどこか懐かしさを感じさせながらも、その透明性と軽量性によって爽やかな現代性を帯びている。あらゆる角度から見て美しく、特にフレームの後方から見た延長された脚のラインは彫刻的な美しさを放つ。
製作プロセスと技術革新
スローチェアの開発は決して容易なものではなかった。質感の際立つニット素材を作り出し、それをチューブラースチールフレームに張り、魅力的でありながら人間工学的にも優れた形状を実現し、かつ安定性と耐久性を確保する必要があった。ヴィトラは3Dテキスタイルの経験を有していたが、スローチェアに使用されるファブリックは、当時マットレスや自動車産業で注目されていた3Dスペーサーファブリックとは異なる、独自の技術によるものである。
スチール部品は慎重にカバーに挿入され、その後4本のダイキャストアルミニウム製の脚が取り付けられてチェアが完成する。この製造プロセスにより、視覚的な透明性と彫刻的な外観を持つチェアが生み出された。
市場での評価
2006年にミラノで発表されたスローチェアのプロトタイプは、同じくブルレック兄弟によってデザインされたヴィトラのブース内で展示された。この時、試座した人々が立ち上がりたがらないほどの人気を博し、デザインの成功を早くも予感させた。その後、スローチェアはヴィトラのクラシックとして確立され、現代のインテリアにシームレスに溶け込みながらも、クラシックな空間に現代的なアクセントをもたらす存在となった。
リビングルームや温室において控えめな存在感を放ちながらも、格別な座り心地を提供するスローチェアは、住宅、ホテルのロビー、オフィスなど、様々な空間で愛用されている。その軽量性により、簡単に持ち上げて移動させることができ、日常の喧騒から逃れるための柔軟なリラックススペースを提供する。
進化と展開
2020年代に入り、スローチェアは更なる進化を遂げた。数ヶ月にわたる研究開発を経て、同じ構造に不透明なファブリックを使用する可能性が探求され、新バージョンのスローチェアとともにスローソファが導入された。ブークレ素材のFloccaファブリックを採用したこの新バージョンは、より柔らかく包み込むような外観を持ち、クッションにはリサイクルPET繊維や消費者廃棄物由来の100%リサイクルポリエステルが使用されている。
また、ヴィトラとBASFによって共同開発された世界初の経済的にリサイクル可能なポリウレタンフォーム「V-Foam」が採用され、環境への配慮も強化されている。スローチェアには、快適性をさらに高めるためのオットマンも用意されており、足を伸ばしてリラックスすることができる。
デザイナーの哲学
ロナン・ブルレックは、スローチェアの特質について「快適さ、遊び心、そして柔らかなエレガンス。この3つの特質がこの製品ファミリーを完璧に定義していると信じている」と語っている。スローチェアとスローソファは、日常生活の喧騒から逃れ、心地よい快適さの中でリラックスするための場所を提供し、くつろぎのための大切な居場所となることを目指している。
デザインの意義
スローチェアは、21世紀初頭における家具デザインの重要な到達点の一つとして位置づけられる。大量の素材によってではなく、構造的な工夫と素材の特性を最大限に活かすことで快適性を実現するというアプローチは、持続可能性が求められる現代において示唆に富むものである。また、室内外の境界が曖昧になりつつある現代のライフスタイルに対応した柔軟性も、このデザインの先見性を物語っている。
ブルレック兄弟の他の作品と同様に、スローチェアは詩的な美しさと実用性を見事に調和させており、日常の中にある特別な時間を演出する家具としての役割を果たしている。その控えめでありながら存在感のあるデザインは、時代を超えて愛され続ける普遍性を備えていると言えよう。
基本情報
| デザイナー | ロナン&エルワン・ブルレック |
|---|---|
| ブランド | ヴィトラ |
| 発表年 | 2006年 |
| 分類 | ラウンジチェア |
| フレーム | チューブラースチールフレーム、精密に成型されたニット素材カバー |
| クッション | ポリウレタンフォーム、ポリエステル繊維(シートクッション1つ、バッククッション2つ付属) |
| ベース | ダイキャストアルミニウム製(ポリッシュ仕上げまたはパウダーコート仕上げ) |
| 素材オプション | ニットファブリック、Floccaブークレファブリック |
| サイズ(チェア) | 高さ890mm × 幅950mm × 奥行930mm |
| 製造国 | ドイツ |