Vitra(ヴィトラ)
Vitraは、スイス・バーゼル近郊のBirsfeldenに本社を置く家具メーカーである。店舗什器の製造業から出発し、1950年代にCharles & Ray EamesやGeorge Nelsonの家具をHerman Millerのライセンスのもとで生産したことを機に、家具製造へ事業の軸を移した。現在は住宅・オフィス・公共空間向けの家具と付属品を、ドイツ・ハンガリー・日本の自社工場で製造している。創業家であるFehlbaum家が経営権を保持する非上場企業であり、ドイツ・Weil am Rheinの生産拠点に併設されたVitra CampusとVitra Design Museumでも知られる。
事業と製造の実体
Vitraは設計・開発から製造・販売までを自社で担う製造業者である。本社機能と製品開発部門はスイス・BirsfeldenのVitra Centerに置かれ、生産はドイツのWeil am Rhein、ハンガリーのSzombathely、日本の埼玉県杉戸町の3拠点で行われる。このうちWeil am Rheinが主力工場であり、物流機能も併設されている。杉戸の工場はアジア市場向けの生産を担う。
Weil am Rheinの敷地は、1950年にErika Fehlbaumが取得した用地を起点として、近隣の土地を買い増しながら拡張されてきた。1981年の火災後に再建された生産棟と物流棟が現在も稼働しており、製造施設と文化施設が同一敷地内に併存する構成になっている。同社は、キャンパス内の建物で使用する電力を水力発電由来のものに切り替えたと公表している。
取り扱う素材と加工技術は製品群によって分かれる。Eamesの椅子に代表される成形合板の三次元加工、シェルチェアの射出成形、Jean Prouvéの家具に用いられる鋼板の折り曲げ加工と溶接がそれぞれ別系統の設備を必要とする。素材の置き換えも進められており、Eames Plastic Chairのシェルは2024年1月以降、使用済み材料を再生したポリプロピレンで成形されている。原料はドイツの家庭ごみ収集制度(Gelber Sack)で回収された包装材で、同社はこの変更にあわせて製品群の名称をEames Plastic Chair REに改めた。
製造権の帰属は市場ごとに分かれる。Charles & Ray Eames、George Nelson、Alexander Girardの設計については、ヨーロッパおよび中東での製造・販売権をVitraが、それ以外の地域をHerman Millerが保有する。同一の製品が地域によって異なる会社から供給される構造は、1984年の両社の提携解消に由来する。
沿革
店舗什器製造からの出発
Willi Fehlbaumは1937年、修業先であったバーゼルの店舗什器製造会社Graeterを引き継いだ。1950年、妻のErika Fehlbaumが、スイス国境を越えたドイツ側の町Weil am Rheinに製造施設を開設する。このとき社名にVitraの語が加えられた。ドイツ語のVitrine(陳列ケース)にちなむ命名であり、当時の事業内容を示している。
店舗什器は需要に季節変動があり、工場の稼働率を通年で維持しにくい事業だった。Willi Fehlbaumは製品範囲の拡大を模索し、1953年の渡米中にCharles & Ray EamesとGeorge Nelsonの家具に接する。1956年、バーゼルの本社機能は新築されたBirsfeldenの事務所・工場棟へ移り、同年Herman Millerのヨーロッパ大陸向けライセンシーとなった。翌1957年からBirsfeldenで、続いてWeil am Rheinの工場でEamesの設計の生産が始まる。両社はHerman Miller AGという合弁会社を設立し、20年以上にわたって協業した。
自社開発への転換
ライセンス生産と並行して、Vitraは独自の製品開発に着手する。1967年に発表されたパントンチェアは、Verner Pantonとの共同開発によるもので、プラスチックによる一体成形のカンチレバー構造という当時前例のない構成を採った。素材と成形法は発表後も変更が重ねられ、初期のガラス繊維強化ポリエステルから、硬質ポリウレタンフォーム、熱可塑性樹脂を経て、1999年にポリプロピレンの射出成形による現行仕様に至っている。
1977年、創業者の息子であるRolf Fehlbaumが経営を引き継いだ。1984年にはHerman Millerとの提携が解消され、Eames、Nelson、Girardの設計についてヨーロッパおよび中東での権利がVitraに帰属することとなった。一方、Herman Millerはオフィスシステム事業のヨーロッパでの権利を回収している。
1981年の火災と敷地の再編
1981年7月、落雷を原因とする火災がWeil am Rheinの工場の大部分を焼失させた。Rolf Fehlbaumは仮設的な建屋で復旧させる方針を採らず、イギリスの建築家Nicholas Grimshawに生産棟の設計と敷地全体のマスタープランを委ねた。生産は約6か月で再開している。
その後Frank Gehryとの出会いを経て、統一された企業建築という当初の構想は放棄された。以後Vitraは、建物ごとに異なる建築家へ設計を委ねる方針を採る。1989年に開館したVitra Design MuseumはGehryのヨーロッパでの最初の建築であり、1993年に完成した消防署はZaha Hadidの最初の実現作となった。
近年の動き
2013年、Vitraはフィンランドの家具メーカーArtekを、それまで株式の過半を保有していたスウェーデンの投資会社Proventusから取得した。経営は創業家の第三世代であるNora Fehlbaumが担ってきたが、2026年にIKEA出身のClaudio MarconiがCEOに就任し、Nora Fehlbaumは取締役会会長に就いている。同時にArtekの取締役会長を務めたMarianne Goeblがクリエイティブディレクターに就任した。
デザイナーとの協働
Vitraは社内デザイン部門を持たず、外部の設計者との個別の協働によって製品を開発する。同社はこの関係を発注者と受注者ではなく共同の作業と位置づけ、協働相手を「オーサー(author)」と呼んでいる。対象は家具デザイナーに限らず、建築家やグラフィックデザイナーにも及ぶ。
協働の形は長期の継続と単発の企画に分かれる。Charles & Ray Eames、George Nelson、Verner Panton、Jean Prouvéといった20世紀の設計者については、権利の取得や遺族・財団との合意にもとづく生産が中心となる。現行世代ではAntonio Citterio、Jasper Morrison、Alberto Meda、Maarten van Severen、Ronan & Erwan Bouroullec、Hella Jongerius、Edward Barber & Jay Osgerbyらが継続的な協働相手にあたる。
Charles Eamesの設計思想や経歴について詳しくはCharles Eamesプロフィールページをご覧ください。
Verner Pantonの設計思想や経歴について詳しくはVerner Pantonプロフィールページをご覧ください。
主な製品群
製品はホーム、オフィス、パブリックの3領域に分かれる。出発点となったのはHerman Millerのライセンスによる椅子で、イームズ プラスチック サイドチェア DSWやイームズ プラスチック アームチェア DAW、イームズ LCW(プライウッド ラウンジチェア)、イームズ ワイヤーチェアがこれにあたる。George Nelsonの設計ではココナッツチェアやボールクロックを含む時計の一群を扱う。
自社開発の系統はパントンチェアに始まり、1980年代以降はオフィス家具へ範囲を広げた。座に共通のシェルを用い、脚部の組み合わせで用途を分けるHAL ファミリーのように、部品の共通化を前提とした製品群も設けている。ソファではソフトモジュラーソファやアルコーヴ ソファ、スイタ ソファが現行の主要な製品にあたる。
Jean Prouvéの家具は、スタンダードチェアやEMテーブル、ゲリドンなど、鋼板と木材を組み合わせた一群として再生産されている。このほかIsamu NoguchiのAkari Light Sculptures(あかり)、Alexander Girardのウッデンドールなど、家具以外の品目も扱う。
Vitra CampusとVitra Design Museum
Weil am Rheinの生産拠点は、Vitra Campusの名称で建築群と一体に運営されている。1981年の火災後にNicholas Grimshawが手がけた生産棟を起点として、Zaha Hadidの消防署(1993年)、Tadao Andoのカンファレンスパビリオン(1993年)、Herzog & de MeuronのVitraHaus(2010年)とSchaudepot(2016年)、Álvaro SizaやSANAAによる建物などが加わった。生産施設を含む区域は建築ツアーによってのみ立ち入りが可能である。
1989年に開館したVitra Design Museumは、企業付属の展示施設ではなく独立した機関として運営され、デザインと建築の調査と展示を行っている。同館が保有する資料は19世紀以降の家具を中心とし、企画展のほかワークショップや建築ツアーを実施している。2016年に開設されたSchaudepotは、この資料の一部を通年で公開する施設である。
基本情報
| ブランド名 | Vitra(ヴィトラ) |
|---|---|
| 設立 | 1950年 |
| 創業者 | Willi Fehlbaum、Erika Fehlbaum |
| 本社所在地 | スイス・Birsfelden(バーゼル近郊) |
| 生産拠点 | ドイツ・Weil am Rhein、ハンガリー・Szombathely、日本・杉戸 |
| 事業内容 | 家具・照明・付属品の製造および販売 |
| 企業形態 | 非上場(Fehlbaum家による同族経営) |
| 公式サイト | https://www.vitra.com |
Reference
- Vitra - How and where it all began
- https://www.vitra.com/en-us/magazine/details/vitra-how-and-where-it-all-began
- Vitra - Facts
- https://www.vitra.com/en-us/about-vitra/facts
- Vitra - Herman Miller & Vitra
- https://www.vitra.com/en-us/page/herman-miller-and-vitra
- Vitra - Design process
- https://www.vitra.com/en-us/about-vitra/design-process
- Vitra - Sustainability
- https://www.vitra.com/en-ch/about-vitra/sustainability
- Herman Miller - Distribution Rights
- https://www.hermanmiller.com/legal/distribution-rights/
- Dezeen - Vitra appoints CEO and creative director
- https://www.dezeen.com/2026/06/22/vitra-appoints-ceo-creative-director/
- Dezeen - Vitra acquires Artek
- https://www.dezeen.com/2013/09/06/vitra-acquires-artek/
- Grimshaw - Vitra Furniture Factory
- https://grimshaw.global/projects/workplace/vitra-furniture-factory/