Vitra(ヴィトラ)
Vitraは、1950年にスイスで創業された家族経営の家具メーカーであり、世界を代表するデザイン家具ブランドとして確固たる地位を築いてまいりました。Charles and Ray Eames、George Nelson、Verner Pantonといった20世紀を代表するデザイナーたちとの協働により生み出された数々の名作は、モダンデザインの歴史において不朽の輝きを放っております。Vitraの製品は、優れたデザイン性と卓越した品質の融合により、世代を超えて受け継がれるべき価値を体現しているのです。
ブランドヒストリー
創業と黎明期
1950年、Willi FehlbaumとErika Fehlbaum夫妻により、ドイツのWeil am Rheinに製造施設が設立されました。当初はショーケースの製造を手がけておりましたが、1953年に訪れた運命的な転機が、Vitraを現在の姿へと導くこととなります。Willi Fehlbaumは米国への旅の途中、Charles and Ray Eamesが手がけた椅子に遭遇し、その革新性に深い感銘を受けました。この出会いこそが、Vitraを家具メーカーへと変貌させる契機となったのです。
1957年、VitraはHerman Miller社とライセンス契約を締結し、EamesやGeorge Nelsonの家具をヨーロッパおよび中東地域で製造する権利を獲得いたしました。この協働関係は1984年まで続き、その後VitraはCharles and Ray Eames、George Nelsonのデザインに関する独自の権利を獲得し、独立した製造者としての歩みを本格化させました。
試練と再生:Vitra Campusの誕生
1981年、大規模な火災によりWeil am Rheinの製造施設の大部分が焼失するという深刻な試練に見舞われました。しかしながら、この逆境こそが新たな創造の機会となったのです。当時経営を継承していたRolf Fehlbaumは、イギリスの建築家Nicholas Grimshawに新工場の設計を依頼し、さらにFrank Gehryとの出会いを通じて、単なる工場再建ではなく、建築とデザインが融合する特別な空間を創造するという壮大な構想へと発展させました。
こうして形成されたVitra Campusは、Frank Gehry、Zaha Hadid、Tadao Ando、Herzog & de Meuron、SANAA、Álvaro Sizaといった世界的建築家による建築物が集積する、類まれなる建築アンサンブルとなりました。建築評論家Philip Johnsonは、「1927年のシュトゥットガルトのヴァイセンホフ・ジードルング以来、西洋世界の最も卓越した建築家たちによる建築物がこれほど一箇所に集まったことはない」と評しております。
現代への継承
現在もなお、Fehlbaum一族によって経営されているVitraは、家族経営企業として一貫した価値観を保持しつつ、時代とともに進化を続けております。2013年にはフィンランドの家具ブランドArtekを傘下に収め、その領域をさらに拡大いたしました。現在、Nora Fehlbaumが最高経営責任者として、創業者の精神を受け継ぎながら、21世紀における新たな挑戦を続けております。
デザイン哲学とブランドコンセプト
Vitraのデザイン哲学の根幹には、Charles and Ray Eamesが体現した「デザインの持続可能性」という思想が息づいております。Vitraでは、協働するデザイナーを単なる「デザイナー」ではなく、「オーソー(著者)」と呼び、彼らの個性と創造性を最大限に尊重する姿勢を貫いております。
家族経営企業として、Vitraは一時的な流行に左右されることなく、本質的な価値を追求するデザインを信奉しております。装飾的な要素を排し、機能と形態の純粋な調和を実現することで、時代を超えて愛される製品を創造することを使命としているのです。
Vitraの製品における長寿性は、卓越したデザイン、確かな機能性、そして妥協なき品質の統合によって実現されております。すべての製品はスイスで設計・開発され、ドイツおよびヨーロッパ諸国において、厳格な品質基準のもとで製造されております。この徹底した品質管理により、Vitraはオリジナル製品に対して10年保証を提供することを可能としております。
「オリジナルは、常にその価値を保持し続ける。模倣品は決して本物になることはできず、盗まれたアイデアに過ぎない。真正な製品の違いを理解していただきたい。それは品質や明白な差異だけでなく、本物が持つ感覚的・情緒的な魅力にこそ宿るのです。オリジナルは生涯の伴侶となり、次世代へと感謝とともに受け継がれることでしょう。」このVitraの言葉は、ブランドの本質を雄弁に物語っております。
主要デザイナー
Charles and Ray Eames
Charles Eames(1907-1978)とRay Eames(1912-1988)は、Vitraの歴史において最も重要な存在であり、ブランドの DNA を形成した偉大なデザイナー夫妻です。1953年の出会い以来、彼らのデザイン哲学はVitraの価値観、方向性、目標に深く影響を与え続けております。
Charlesはセントルイス生まれ、Rayはカリフォルニアのサクラメント出身で、二人は1941年に結婚いたしました。成形合板の三次元加工技術の開発において先駆的な業績を残し、1946年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で実験的家具デザインを発表、その後Herman Miller社が製造を開始いたしました。1957年、Vitraとの協働が始まり、ヨーロッパおよび中東地域における製造が開始されました。
現在においても、Vitraが重要なデザイン決定を行う際には、「CharlesとRayならば何と言うだろうか」という問いが投げかけられます。この精神的指針こそが、Vitraのデザイン哲学の中核を成しているのです。
Verner Panton
Verner Panton(1926-1998)は、デンマーク出身のデザイナーであり、1960年代から70年代のデザイン界において最も影響力のある人物の一人です。1950年から1952年まで、Arne Jacobsenの建築事務所で勤務した後、1955年に独立したスタジオを設立いたしました。
Pantonは、鮮やかな色彩と幾何学的パターンへの情熱で知られ、プラスチックという当時新しい素材の可能性に魅了されました。「私の仕事の主な目的は、人々の想像力を刺激することです。ほとんどの人々は、灰色がかったベージュの憂鬱な画一性の中で生活しており、色彩を使うことを恐れています」と語った彼の言葉は、その革新性を物語っております。
1963年、VitraとVerner Pantonとの協働が始まり、1967年に世界初の一体成型プラスチック製カンチレバーチェアとなるPanton Chairが発表されました。この椅子の開発は技術的に困難を極めましたが、Vitraの粘り強い取り組みにより実現し、20世紀を代表するアイコニックなデザインとなりました。
George Nelson
George Nelson(1908-1986)は、アメリカを代表する工業デザイナー、建築家であり、Herman Miller社のデザインディレクターとして20年以上にわたり活躍いたしました。Vitraは1957年以降、Nelsonのデザインをヨーロッパで製造する権利を獲得し、彼の革新的な家具やアクセサリーを広く紹介してまいりました。
Jean Prouvé
Jean Prouvé(1901-1984)は、フランスの建築家、デザイナーであり、機能的で工業的美学を持つ家具デザインで知られております。Vitraは2002年よりProuvéの古典的ミッドセンチュリーモダンデザインの復刻を開始し、彼の遺産を現代に継承しております。
現代のデザイナーたち
Vitraは歴史的名作を大切にする一方で、Antonio Citterio、Jasper Morrison、Alberto Meda、Maarten van Severen、Ronan and Erwan Bouroullec、Hella Jongerius、BarberOsgerbyといった現代の最先端デザイナーとも積極的に協働しております。この伝統と革新の調和こそが、Vitraの持続的な発展を支える原動力となっているのです。
主要コレクション
Panton Chair(1967)
家具デザイン史における古典として確固たる地位を占めるPanton Chairは、1959年にVerner Pantonが構想し、Vitraとの協働により1967年に世界で初めて一体成型プラスチック製カンチレバーチェアとして実現されました。
その開発過程は、技術的限界との闘いでありました。1967年、ガラス繊維強化ポリエステルを用いた冷間プレス成型により、わずか150脚のパイロット生産が実施されました。その後、Bayer社の硬質ポリウレタンフォームを用いた製造方法、BASF社の熱可塑性素材を用いた射出成型など、様々な技術的試行錯誤を経て、1999年にはポリプロピレンを用いた現行バージョンが完成いたしました。
カンチレバー構造と人体工学的形状、そして適度な柔軟性を持つ素材との組み合わせにより実現された快適性、Pantonのトレードマークである鮮やかな色彩による彫刻的な造形は、発表以来、国際的な数々のデザイン賞を受賞し、ニューヨーク近代美術館をはじめとする世界の主要美術館のコレクションに収蔵されております。その表現力豊かな形態により、20世紀のアイコンとしての地位を確立したのです。
Eames Lounge Chair and Ottoman(1956)
1956年にCharles and Ray Eamesによってデザインされたこのラウンジチェアとオットマンは、モダンデザインの古典として世界中で愛され続けております。Vitraは1970年代より、Eames Officeとの緊密な協力のもと、この傑作を製造してまいりました。成形合板と革張りの絶妙な組み合わせによる、卓越した快適性と優美な佇まいは、時代を超えた価値を体現しております。
Eames Plastic Chair
1940年代にCharles and Ray Eamesによってデザインされたこの革命的な椅子は、大量生産可能で手頃な価格の家具という新しい概念を提示いたしました。当初はファイバーグラス製でしたが、最新技術により、2016年にはEamesが指定した6色のファイバーグラス版が復刻されました。様々なベースオプションと色彩バリエーションを持つこのシリーズは、現代においてもVitraの代表的製品として広く愛用されております。
その他の主要コレクション
- Soft Modular Sofa(Jasper Morrison):柔軟な構成が可能なモジュラーソファシステム
- Alcove Sofa(Ronan & Erwan Bouroullec):プライバシーと快適性を両立した革新的デザイン
- HAL Chair(Jasper Morrison):多目的使用に適した機能的かつエレガントな椅子
- Akari Light Sculptures(Isamu Noguchi):和紙を用いた彫刻的照明作品
- Standard Chair(Jean Prouvé):工業的美学を体現した機能的椅子
Vitra Design MuseumとVitra Campus
Vitra Design Museum(1989)
1989年に開館したVitra Design Museumは、世界を代表するデザイン博物館の一つとして国際的に認知されております。Frank Gehryによって設計されたこの建物は、ヨーロッパにおける彼の最初の作品であり、脱構築主義建築の先駆的事例として建築史に重要な足跡を残しました。
白い漆喰の外壁と亜鉛屋根、そして流動的に連結された幾何学的形態は、外部からは彫刻的な建築として、内部からは白い立方体として機能し、二つの異なる美術館建築のタイプを融合させることに成功しております。十字形の天窓からの採光、劇的な螺旋階段など、約700平方メートルの展示空間は、機能性と芸術性の調和を実現しております。
博物館のコレクションは、Charles and Ray Eames、George Nelson、Alvar Aalto、Verner Panton、Dieter Rams、Jean Prouvéなど、著名デザイナーによる6,000点以上のオブジェクトを擁し、19世紀初頭から現代に至る家具デザインの全時代を網羅する、世界最大級の近代家具デザインコレクションとなっております。元々はVitraのCEOであったRolf Fehlbaumの私的コレクション約200脚の椅子から始まったこのコレクションは、現在では独立した研究機関として、デザインの研究、普及、振興に献身しております。
毎年、現代の持続可能性、モビリティ、社会的意識といった関連性の高いテーマや、歴史的側面を扱う大規模な企画展を2回開催しており、デザインの過去と現在、そして未来を架橋する役割を果たしております。
Vitra Campus:建築の集積地
1981年の火災を契機として誕生したVitra Campusは、現代建築の傑作が集積する類例のない空間として発展してまいりました。この敷地には、以下のような世界的建築家による建築物が点在しております。
- Vitra Fire Station(1993、Zaha Hadid):イラク出身の建築家Zaha Hadidによる最初の完成建築物。現場打ちコンクリートによる彫刻的形態は、斜めに交差する平面によって構成され、彼女の概念的ドローイングを機能的建築空間へと初めて翻訳した記念碑的作品です。現在は展示空間として活用されております。
- Conference Pavilion(1993、Tadao Ando):日本の建築家Tadao Andoによる日本国外での最初の作品。静謐で抑制された構造は、禅寺の瞑想路を彷彿とさせる小径を持ち、高度に秩序付けられた空間構成を実現しております。
- VitraHaus(2010、Herzog & de Meuron):スイスの建築事務所による旗艦店舗。積み重ねられた家型のボリュームが特徴的な建築で、Vitraのホームコレクション全体を体験できる空間として機能しております。
- Vitra Schaudepot(2016、Herzog & de Meuron):レンガ造りの「可視化された収蔵施設」として、Vitra Design Museumの膨大なコレクションの一部を常設展示する空間です。400点以上のオブジェクトが、家具デザイン史への包括的な導入を提供しております。
- Production Facilities(Nicholas Grimshaw):火災後の工場再建を担当したイギリスの建築家による機能的な生産施設。
- その他の建築:Álvaro Sizaによるファクトリービル、SANAAによる建築、Jean Prouvéのガソリンスタンド(復元)、Buckminster Fullerのジオデシックドームなど。
Vitra Campusは、公共エリアと私的エリアに分かれており、製造施設を含む私的エリアは建築ツアーでのみ訪問可能です。毎年数十万人の訪問者を迎えるこの場所は、デザイン、建築、自然が調和する唯一無二の空間として、デザイン愛好家にとっての巡礼地となっております。
製品ラインナップ
Vitraの製品群は、家庭、オフィス、公共空間という三つの主要領域において展開されております。
Home Collection
2002年に本格展開が開始されたホームコレクションは、Charles and Ray Eames、George Nelson、Verner Panton、Alexander Girard、Jean Prouvéらによる古典的デザインに加え、Antonio Citterio、Jasper Morrison、Ronan and Erwan Bouroullec、Hella Jongeriusなど現代デザイナーの作品を含んでおります。椅子、ラウンジチェア、ソファ、テーブル、照明、装飾品など、包括的な家具とアクセサリーを提供しております。
Office Collection
Vitraはオフィス家具分野においても先駆的な地位を占めております。人間工学に基づいたオフィスチェア、会議システム、デスクシステムなど、現代の働き方の多様性に対応した製品群を開発しております。自社オフィスを実験的研究室として活用し、新しいワークスペースのコンセプトを常に探求し続けております。
Public Collection
空港、美術館、教育機関、医療施設など、公共空間向けの家具も重要な事業領域です。ドイツ連邦議会議事堂、ロンドンのテート・モダン、パリのポンピドゥー・センター、フランクフルトのドイツ銀行本社、ドバイ国際空港、ミュンヘン国際空港など、世界中の著名な施設でVitra製品が採用されております。
持続可能性への取り組み
Vitraにとって持続可能性とは、1950年の創業以来、当然の前提として存在してまいりました。製品の製造、使用、廃棄において環境への悪影響を与えないこと、そして何よりも製品の長寿性こそが最高の持続可能性である、という哲学を貫いております。
Charles and Ray Eamesが体現した思想に倣い、Vitraでは素材とデザインの両面において、数十年にわたり使用され続けることを前提として製品を開発しております。流行に左右されないタイムレスなデザイン、厳選された高品質素材の使用、卓越した製造技術、そして充実したメンテナンス・修理サービスにより、Vitra製品は世代を超えて使用され、受け継がれることが可能となっているのです。
すべての製品はスイスで設計・開発され、ドイツおよびEU域内で、EU調達部品を用いて製造されております。素材は品質と長寿性について厳格な試験を経ており、環境負荷の最小化と製品寿命の最大化の両立を実現しております。
基本情報
| ブランド名 | Vitra(ヴィトラ) |
|---|---|
| 設立 | 1950年 |
| 創業者 | Willi Fehlbaum、Erika Fehlbaum |
| 本社所在地 | スイス・Birsfelden(バーゼル近郊) |
| 製造拠点 | ドイツ・Weil am Rhein、その他ヨーロッパ諸国 |
| 現CEO | Nora Fehlbaum(創業家第三世代) |
| 企業形態 | 家族経営企業 |
| 主要施設 | Vitra Design Museum(1989年開館)、Vitra Campus、VitraHaus |
| 公式サイト | https://www.vitra.com |
| Design Museum | https://www.design-museum.de |