ビューロー・プレジダンス(Bureau Présidence)は、フランスの偉大なる建築家・デザイナーであるジャン・プルーヴェが1948年に設計したエグゼクティブデスクである。「プレジダンス」という名称が示すとおり、企業の重役や経営者のために特別に設計されたこのデスクは、個人の作業空間としてのみならず、3名から6名程度の会議にも対応できる多機能性を備えている。有機的な曲線を描くキドニー(豆)型の天板と、工業的な美学を体現する折り曲げ鋼鉄製の脚部が織りなす造形は、20世紀ミッドセンチュリーデザインの最高傑作として、今日なお高い評価を受けている。
特徴・コンセプト
本作品の最も顕著な特徴は、L字型に湾曲した広大な天板と、それを支える非対称のスチールフレーム構造にある。天板は当初無垢材、後にオーク材の積層合板で製作され、しばしばガラス板で覆われた。二つの異なる幅に対応するポータルフレームがブレースで連結され、先細りの脚部にはステンレススチール製の「シューズ」が取り付けられている。この独創的な構造は、プルーヴェが金属加工の職人として培った技術と、建築家としての空間認識能力が見事に融合した結果である。
デスクの広角に折れ曲がった部分は、書類を置くスペースとして、あるいは一時的に秘書が作業するスペースとしても活用できるよう設計されている。天板下部には引き出し式のペン棚が内蔵され、ラッカー塗装されたスチール製の引き出しコンパートメントが取り付けられた。こうした実用的な配慮と、彫刻的な美しさを兼ね備えた設計思想は、プルーヴェの「構造と美は不可分である」という信念を如実に表している。
デザインの変遷
本デスクは当初「ビューロー・アリコ(Bureau Haricot)」または「ビューロー・H」と呼ばれていた。1948年にブリュッセル郵便小切手局長のために特別に設計されたのが最初の製作例であり、その後ナンシーのフェレンバル工場の取締役であるバインドシェドラー氏のために第二のモデルが製作された。これらの初期バージョンを経て、「プレジダンス」という名称のモデルへと発展し、「建築家および会長のためのデスク」の象徴となった。
エピソード
ビューロー・プレジダンスは、1950年代のパリおよびフランス各地のトップ建築家たちのスタジオに置かれていた。プルーヴェの友人であり協力者でもあったベルナール・ゼルフュス、ジャン・ド・マイィ、ジャン・スバッグ、アンドレ・ルモンデ、ルイ・サンソリューといった建築家たちが、このデスクを愛用していたことで知られている。また、イソワールのSCALアルミニウム会社の社長が所有していた一台は、現在パリ装飾美術館のコレクションに収蔵されている。
プルーヴェ自身も、マクセヴィルの自らのオフィスでこのプレジダンスデスクを使用していた。それ以前は標準型(Standard)デスクを使用していたが、プレジダンスへの移行は、彼自身がこのデザインに特別な思い入れを持っていたことを示唆している。
1956年からはステフ・シモン・ギャラリーがこのデスクの販売を開始し、やがて製造も引き継いだ。1965年の価格表にも掲載されており、1970年代初頭まで散発的に販売が続けられた。しかしながら、約20年間の販売期間を通じて製作された総数はわずか約30台に過ぎない。この希少性が、今日における美術品としての価値をさらに高めている。
評価
ビューロー・プレジダンスは、20世紀フランスデザインを代表する傑作として、国際的に極めて高い評価を受けている。サザビーズ、クリスティーズ、フィリップスなどの主要オークションハウスにおいて、本作品は常に高額で取引されており、デルフィーヌ&リード・クラコフ夫妻のコレクションから出品された一台は、2022年のサザビーズオークションで注目を集めた。
美術館においては、パリ装飾美術館(Musée des Arts Décoratifs)がSCAL社の社長所有であった一台を収蔵しているほか、世界各地の主要デザインコレクションにも収められている。著名なギャラリー・パトリック・スガンは、ジャン・プルーヴェ作品の専門家として、ビューロー・プレジダンスの研究と普及に大きく貢献している。
2002年より、スイスの家具メーカーであるVitraがプルーヴェ家との緊密な協力のもと、ジャン・プルーヴェのデザインの復刻版を製造している。2014年には、ファッションブランドG-Star RAWがレム・コールハース設計のアムステルダム本社のために、Vitraによるビューロー・プレジダンスの限定エディションを特注した。この現代における復刻は、プルーヴェのデザインが時代を超えて普遍的な価値を持つことを証明している。
基本情報
| デザイナー | ジャン・プルーヴェ(Jean Prouvé) |
|---|---|
| デザイン年 | 1948年 |
| 現行メーカー | Vitra(2002年より復刻版製造) |
| オリジナル製造 | Ateliers Jean Prouvé(ナンシー、フランス) |
| モデル番号 | No. 201(1952年以降の価格表より) |
| 素材 | オーク材(天板)、ラッカー塗装折り曲げ鋼板(フレーム)、ステンレススチール(脚部シューズ)、アルミニウム |
| 寸法(参考) | 高さ約74-75cm × 幅約245-247cm × 奥行約142-148cm |
| 総製作数 | オリジナル約30台 |
| 販売期間 | 1948年〜1970年代初頭 |
| 販売代理店 | Galerie Steph Simon(1956年〜) |
| 収蔵美術館 | パリ装飾美術館(Musée des Arts Décoratifs)ほか |
参考文献
- Anthony Delorenzo, ed., Jean Prouvé/Serge Mouille, New York, 1985
- Galeries Jousse Seguin and Galerie Enrico Navarra, ed., Jean Prouvé, Paris, 1998
- Peter Sulzer, Jean Prouvé: Œuvre complète/Complete Works, Vol. 3: 1944-1954, Basel, 2005
- Galerie Patrick Seguin, ed., Jean Prouvé, Vol. 1, Paris, 2007