PK22は、デンマークを代表する家具デザイナー、ポール・ケアホルムが1956年に発表したラウンジチェアである。このチェアは発表翌年の1957年、ミラノ・トリエンナーレにおいてグランプリを獲得し、ケアホルムの国際的な名声を確立する転機となった。サテンブラッシュ仕上げのステンレススチールフレームと、レザーまたは籐、キャンバスで仕上げられた座面・背もたれの組み合わせは、ミニマリズムの精髄を体現する作品として、今日まで高く評価され続けている。
当初はE. Kold Christensen社により製造されていたが、ケアホルムの死後、1982年よりフリッツ・ハンセン社が製造と販売を引き継ぎ、現在も「ケアホルム・コレクション」の中核を成す製品として世界中で愛用されている。ニューヨーク近代美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館をはじめとする主要美術館の永久コレクションに収蔵されているほか、パリの国立図書館や東京の国立新美術館など、世界各地の名建築空間において実際に使用されている。
デザインの特徴とコンセプト
PK22の最大の特徴は、極限まで削ぎ落とされた構造美にある。ケアホルムは、デンマーク美術工芸学校の卒業制作として発表したPK25(エレメントチェア)のスチールフレームプロファイルを基礎としながら、座り心地の向上と工業的生産性を両立させるため、連続したフレーム構造をパーツに分割するという革新的なアプローチを採用した。このノックダウン構造により、製造効率を高めながらも、デザインの純粋性を保持することに成功している。
フレームは、わずか数回の折り曲げによって形成された一対の脚部ユニットと、緩やかに下方へ湾曲する二本のクロスバーで構成される。クロスバーに曲線が与えられているのは、装飾的な意図ではなく、座った際に身体がバーの存在を感じないようにするための機能的配慮である。座面と背もたれは適度な傾斜角度を持ち、人体を包み込むような曲面が快適な座り心地を実現している。すべての要素が必然性に基づいて配置されており、一つとして余分なものがない。
ケアホルムは建築家ミース・ファン・デル・ローエの名作「バルセロナチェア」から多大な影響を受けながらも、より軽やかで繊細な表現を追求した。バルセロナチェアが溶接によって脚部を固定しているのに対し、PK22はボルト接合を採用することで、スチールの工業的特性を正直に表現している。六角穴付きボルトの黒い頭部さえも意匠の一部として機能しており、素材の本質を尊重するというケアホルムの哲学が、細部に至るまで徹底されている。
素材へのこだわり
ポール・ケアホルムは「大切なのは、私ではなく、素材の個性を表現すること」という信念のもと、スチールという素材に新たな価値を見出した。1950年代のデンマークは、ハンス J. ウェグナーやフィン・ユールといった木材を用いた有機的デザインが全盛を極めた時代であったが、ケアホルムはあえてスチールを選択し、「木材やレザーと同様に、スチールも経年変化により風合いを増してゆく芸術的な素材である」と主張した。彼にとってスチール表面における光の屈折は、作品における重要な芸術的要素であった。
座面と背もたれの素材として、レザー、籐、キャンバスという選択肢が用意されているのも、有機的素材と無機的素材の対比を楽しむというケアホルムの意図の表れである。特にアニリンレザーは使用を重ねるごとに独特の艶を帯び、色調も変化していく。この経年変化による美しさの深まりと、変わることのないステンレススチールの強靭さとの対比が、PK22に時間を超越した魅力を与えている。
構造に使用されるパーツは、航空機産業で用いられるような高精度かつ高強度の部材が採用されている。コストよりも美しさを優先するというケアホルムの姿勢は、座面裏の見えない部分に至るまで貫かれており、すべてのパーツが完璧に仕上げられている。
エピソード
PK22は、ケアホルムがE. Kold Christensen社との協業において最初に発表した作品のひとつである。1955年に始まったこの協業関係は、ケアホルムが1980年に51歳で早世するまで続き、両家族は現在に至るまで親密な関係を保っている。PK22とともに発表されたコーヒーテーブルPK61は、このチェアと組み合わせることを前提にデザインされており、両者は完璧な調和を見せる。
1957年のミラノ・トリエンナーレでのグランプリ受賞は、当時わずか28歳であったケアホルムのキャリアを劇的に押し上げた。この栄誉により、彼は一躍国際的なデザイン界の寵児となり、その地位は生涯を通じて揺るぐことがなかった。翌1958年には、パリで開催された「Formes Scandinaves」展に参加し、スカンジナビアデザイン界で最も権威ある「ルニング賞」を受賞するなど、その評価は確固たるものとなった。
ケアホルムは1959年にデンマーク王立芸術アカデミーの講師に就任し、後に意匠研究所の所長を務めるなど、教育者としても多大な影響力を持った。自らを「家具の建築家」と称するほど、空間における家具の存在を重要視した彼の思想は、多くの後進デザイナーたちに受け継がれている。
評価
PK22は、20世紀デザイン史における最も重要な椅子のひとつとして位置づけられている。デザイン批評家たちは、この椅子を「椅子の本質を最も純粋かつ知的な方法で抽出した作品」と評し、ミニマリズムの究極的表現として称賛している。ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアと比較すると、PK22はより軽快で優雅であり、空間との関係性においても繊細な配慮が感じられる。
発表から70年近くが経過した現在においても、PK22は決して時代遅れになることなく、現代的な魅力を放ち続けている。これは、ケアホルムが流行を追うことなく、普遍的な美を追求した結果である。世界各地の美術館、図書館、オフィス、住宅において、PK22は今なお活躍し続けており、その汎用性の高さを証明している。
デザイン愛好家や建築家たちの間では、PK22は単なる家具を超えた「収集すべき芸術作品」として認識されている。特にE. Kold Christensen社製の初期生産モデルは、オークション市場において高値で取引されており、投資対象としての価値も認められている。フリッツ・ハンセン社は定期的に特別版を発表しており、2016年の60周年記念モデルや2021年の65周年記念スエードバージョンなど、限定エディションは発表のたびに大きな注目を集めている。
受賞歴
- 1957年 ミラノ・トリエンナーレ グランプリ
なお、デザイナーであるポール・ケアホルム自身は、1958年にスカンジナビアデザイン界で最も権威ある「ルニング賞」を受賞しており、PK22の成功が大きく寄与している。
基本情報
| デザイナー | ポール・ケアホルム(Poul Kjærholm) |
|---|---|
| デザイン年 | 1956年 |
| 製造 | E. Kold Christensen(1956-1982年) Fritz Hansen(1982年-現在) |
| 分類 | ラウンジチェア |
| 寸法 | 幅63cm × 奥行63cm × 高さ71cm 座面高:35cm |
| 素材 | フレーム:ステンレススチール(サテンブラッシュ仕上げ) 座面・背もたれ:レザー、キャンバス、または籐 |
| パーマネントコレクション | ニューヨーク近代美術館(MoMA) ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン) その他デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、ドイツの各美術館 |