概要
ポール・ケアホルム(1929-1980)は、デンマークの家具デザイナーである。同時代のデンマーク家具が無垢材と手仕事を軸としていたのに対し、鋼を主要な構造材として用い、革・籐・大理石・木といった別の素材と必ず組み合わせる構成をとった。家具職人としての修業を経ており、鋼の板や棒を木工と同じ精度で扱う点に特徴がある。生前の製造はエイヴィン・コル・クリステンセンが担い、1982年からはフリッツ・ハンセンが生産を引き継いでいる。
バイオグラフィー
1929年1月8日、デンマーク北ユラン半島のウスタヴロー(Østervrå)に生まれた。1948年、家具職人グレンベックのもとで見習いを始め、木工の基礎を身につけている。
その後コペンハーゲンの美術工芸学校で家具デザインを学び、1952年に修了した。卒業制作として発表したPK25は、一枚の鋼板から切り出したフレームで構成した椅子で、以後の彼の方向を示している。修了後は1956年まで同校で教えた。
1952年からおよそ一年間フリッツ・ハンセンに在籍し、複数の試作を残したが製品化には至らなかった。1953年に建築家ハンネ・ケアホルムと結婚。1955年から製造者エイヴィン・コル・クリステンセンとの協働が始まり、1980年に没するまでの25年間、彼の家具のほとんどはこの体制で作られた。
教育者としての活動も並行し、1959年にデンマーク王立芸術アカデミーの講師、1973年にデザイン研究所の所長、1976年に教授となった。1980年4月18日、ヒレレズで51歳で没した。1982年、フリッツ・ハンセンが「ケアホルム・コレクション」の生産と販売を引き継いでいる。
デザインの思想と方法
ケアホルムは自らを「家具建築家」と呼び、家具を空間の側から考えた。椅子やテーブルを単体で完結させるのではなく、置かれた部屋の見え方を決める要素として扱う。鋼を選んだのはこの考え方と結びついている。細い断面で必要な強度が得られるため、床と壁のあいだに視線を通す余地が残る。
鋼を木工の精度で扱う
家具職人としての修業を経たケアホルムは、鋼を工業材料としてではなく、寸法と表面の仕上げを詰めるべき素材として扱った。溶接跡を残さず、面をサテン仕上げに整えることで、光の反射の仕方まで設計の対象になる。彼自身、鋼の構造上の可能性だけでなく、表面での光の屈折が自分の仕事の重要な部分だと述べている。
二つの素材で構成する
彼の家具は原則として二つの主要素材からなる。鋼が構造を担い、身体が触れる面には革、籐、ラタン、木、天板には大理石やガラスを用いる。硬い材料と柔らかい材料、冷たい材料と温かい材料が明確に分かれるため、どの部材がどの役割を負っているかが見ただけで分かる。素材の数を絞ることが、構造の読みやすさに直結している。
支持の構成を見せる
ケアホルムは支持部を隠さない。PK61では、溶接した四つの鋼材からなる脚部がガラス天板を通して見える。PK22では、座面を支える枠と脚が同一平面上で交わる構成をとり、接合の位置が外から読める。構造を露出させること自体が目的なのではなく、部材の数を減らした結果、隠すべきものが残らないという順序である。
量産を前提に置く
彼は工業生産の側に立った設計者だった。手工芸の延長で少量を作るのではなく、規格化した鋼材と加工工程を前提に寸法を決めている。コル・クリステンセンとの協働が長く続いたのは、この前提を理解し、工業的な工程で職人的な精度を出せる製造者だったためである。1958年以降、作品には「PK」と番号を組み合わせた体系的な名称が与えられ、製品群として管理された。
フリッツ・ハンセンの歴史や他の製品について詳しくはフリッツ・ハンセン ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
PK25(1952年)
美術工芸学校の卒業制作として発表した椅子である。一枚の鋼板から切り出した部材を折り曲げてフレームとし、座面と背もたれには帆船用のロープを張った。フレームが途中で分割されず一続きに形をつくる構成は、部材の数を減らして構造を読ませるという以後の方針をすでに示している。
PK61(1955年)
四本の鋼材を溶接して脚部とし、その上に天板を載せたローテーブルである。脚部は四隅ではなく、天板の内側で互いに交差する位置に置かれる。透過する天板を通して脚部の構成が見えるため、支持のしかたが上から読み取れる。天板はガラスのほか大理石や石材でも作られ、素材によって脚部の見え方が変わる。→PK61 テーブル
PK22(1956年)
鋼のフレームに革または籐張りの座面を渡したラウンジチェアで、ケアホルムの構成が最も簡潔に現れた作品である。フレームは前脚と後脚が座面の高さで交差する形をとり、背もたれの傾きはこの交差の角度で決まる。角度を調整する機構を持たず、部材の配置だけで座り心地を決めている。1958年、パリの「フォルム・スカンディナーヴ」展での発表を経てルニング賞を受けた。→PK22 ラウンジチェア
PK80(1956年)
脚を持たず、板状の鋼材を床に接地させて座面を支えるデイベッドである。床から座面までの高さを抑え、支持部を側面の二枚の板に集約することで、水平な面が浮いて見える。部材を減らす方向をさらに進めた結果として、支持そのものが最小限の平面に還元されている。→PK80 デイベッド
PK24(1965年)
鋼のフレームに編んだ籐を張ったシェーズロングである。フレームは弓なりの二本の部材からなり、その上に載る座面を前後に滑らせることで角度が変わる。頭部のクッションは鋼のカウンターウェイトで位置を保持しており、留め具を使わずに調整の自由度を得ている。1960年代半ば以降の、曲線を用いた構成を代表する作品にあたる。→PK24 ハンモックチェア
評価と影響
ケアホルムは一般に、デンマークの家具に工業材料と建築的な構成を持ち込んだ設計者と評価されている。ハンス・J・ウェグナーやボーエ・モーエンセンが無垢材と木工の技法を軸としていた同時代に、鋼を主要な構造材とした点が対比的に語られる。
作品の総数は多くない。生涯に実現した設計は約70点で、これらは2008年にマイケル・シェリダンによるカタログ・レゾネとしてまとめられた。少数の型を長く改良し続けた仕事の性格が、この記録によって確認できるようになっている。
教育者としても、1959年から1980年までデンマーク王立芸術アカデミーで教えた。2006年にはルイジアナ近代美術館で回顧展が開かれている。フリッツ・ハンセンは1982年以降、主要な設計の生産を続けている。
受賞・収蔵
受賞
- 1957年 第11回ミラノ・トリエンナーレ グランプリ
- 1958年 ルニング賞(PK22に対して)
- 1960年 第12回ミラノ・トリエンナーレ グランプリ
- 1973年 ID賞(デンマーク)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA トリエンナーレ チェア(1956年) 収蔵番号 138.1968
- MoMA ネストテーブル(1963年) 収蔵番号 297.1999.1-3
- MoMA PK101 照明器具(1956年) 収蔵番号 63.2007
- MoMA PK24 シェーズロング(1965年) 収蔵番号 557.2010
- V&A PK11 チェア(1957年) 収蔵番号 CIRC.456-1970
- V&A PK12 チェア(1962年) 収蔵番号 CIRC.458-1970
- V&A PK24 シェーズロング(1965-67年) 収蔵番号 CIRC.726A to E-1968
- Met PK91 折りたたみスツール(1961年) 収蔵番号 2001.405.1
- AIC チェア(1957年設計/1973-74年製作) 収蔵番号 1982.1474
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1952年 | 椅子 | PK25 エレメントチェア | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1955年 | テーブル | PK61 テーブル | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1956年 | 椅子 | PK22 ラウンジチェア | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1956年 | デイベッド | PK80 デイベッド | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1956年 | 照明 | PK101 | E. Kold Christensen |
| 1957年 | 椅子 | PK11 チェア | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1957年 | テーブル | PK51 テーブル | E. Kold Christensen |
| 1958年 | 椅子 | PK31 アームチェア/PK31 ソファ | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1959年 | スツール | PK33 スツール | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1960年 | デスク | PK52 プロフェッサーデスク | Rud. Rasmussen / Carl Hansen & Søn |
| 1961年 | スツール | PK91 折りたたみスツール | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1963年 | テーブル | PK71 ネストテーブル | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1963年 | テーブル | PK54 ダイニングテーブル | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1964年 | 椅子 | PK12 チェア | E. Kold Christensen |
| 1965年 | シェーズロング | PK24 ハンモックチェア | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1967年 | 椅子 | PK20 ラウンジチェア | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1968年 | テーブル | PK63 テーブル | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
| 1979年 | テーブル | PK40 ダイニングテーブル | E. Kold Christensen |
| 椅子 | PK9 チェア(チューリップチェア) | E. Kold Christensen / Fritz Hansen |
プロフィール
| 生没年 | 1929年1月8日〜1980年4月18日 |
|---|---|
| 出身地 | デンマーク・ウスタヴロー |
| 国籍 | デンマーク |
| 活動拠点 | コペンハーゲン |
| 分野 | 家具、照明 |
| 主な協働ブランド | E. Kold Christensen、Fritz Hansen、Rud. Rasmussen |
Reference
- Poul Kjærholm | Fritz Hansen
- https://www.fritzhansen.com/en/about-us/poulkjaerholm
- Poul Kjærholm | Designer profile | Carl Hansen & Søn
- https://www.carlhansen.com/en/designers/poul-kjarholm
- Poul Kjaerholm (1929-1980) | Danishnet
- https://www.danishnet.com/design/poul-kjaerholm
- Poul Kjaerholm | Gokelaere & Robinson
- https://www.gokelaererobinson.com/artists/25-poul-kjaerholm/
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325