PK9チェアは、デンマークの家具デザイナー、ポール・ケアホルム(Poul Kjærholm)が1960年に発表したサイドチェアである。三本の脚が花弁のように広がるフォルムから「チューリップチェア(Tulip Chair)」の愛称で知られ、スチールを主素材とするデンマークモダンの代表作の一つに数えられる。発表から半世紀以上を経た現在もフリッツ・ハンセンによって生産が続けられている。
特徴・コンセプト
構造とフォルム
PK9の最大の特徴は、サテン仕上げのステンレススチール三枚が支柱と脚を兼ね、そのまま座面のシェルを支える構造にある。三枚のスチールは座面から床へと緩やかな弧を描いて広がり、チューリップの花弁を思わせるシルエットを形づくる。工業素材であるスチールに柔らかな曲線を与えることで、堅牢さと視覚的な軽やかさが両立している。
座面はグラスファイバー/ナイロン製のインナーシェルにレザーを張り込んだ構造で、緩やかな曲面が身体を受け止める。フレームの硬質さと座面の柔らかさが対照をなし、造形の美しさと座り心地を両立させている。
素材
ケアホルムは、木材を主素材とする同時代のデンマーク人デザイナーが多いなかで、スチールを主要な表現媒体に選んだ数少ない一人であった。PK9でも、サテン仕上げのステンレススチールが放つ抑えた光沢が空間に静かな気品をもたらしている。座面には質の高いレザーが用いられ、使い込むほどに深みを増す風合いが長く楽しめる。
デザインの考え方
PK9では装飾的な要素が排され、構造そのものが造形になっている。三本脚は座面を安定して支えるための最小限の構成であり、この合理性が端正な佇まいの源になっている。薄く透明感のあるシルエットは、さまざまな室内になじみながら静かな存在感を保つ。
誕生の背景
形が生まれるまで
PK9の座面の形は、砂浜に残った妻ハンネ・ケアホルムの座り跡から着想を得たと伝えられている。設計の過程では、ハンネが粘土を詰めた箱に座り、最も座り心地のよい形を探ったという逸話が知られる。ケアホルムは三本脚が生む視覚効果と構造的な安定性の釣り合いに注意を払い、試作を重ねて現在のプロポーションにたどり着いた。
製造の変遷
PK9は当初、ケアホルムが1955年から協働した家具製造業者エイヴィン・コル・クリステンセン(E. Kold Christensen)によって製造された。両者の協働はケアホルムが1980年に没するまで続き、多くの作品を生んでいる。1982年にはフリッツ・ハンセンがケアホルム・コレクションの製造・販売を引き継ぎ、以来PK9は同社のもとで生産されている。
評価
PK9は、工業素材を用いながら静謐な造形を実現した椅子として、発表以来デザイン史のなかで高く評価されてきた。木を中心とする北欧家具の潮流にあって、スチールとレザーによる端正なフォルムを確立した点は、ケアホルムの仕事を語るうえで欠かせない。
ミニマルな造形と空間へのなじみやすさから、住宅のダイニングチェアとしてだけでなく、ラウンジや待合空間など幅広い場面で用いられている。同じケアホルムのPK54テーブルとの組み合わせが定番とされる。
基本情報
| 製品名 | PK9 / PK9チェア(チューリップチェア) |
|---|---|
| デザイナー | ポール・ケアホルム(Poul Kjærholm, 1929-1980) |
| デザイン年 | 1960年 |
| 製造元 | フリッツ・ハンセン(Fritz Hansen) |
| 原産国 | デンマーク |
| 素材 | フレーム:サテン仕上げステンレススチール(3枚構成)/ インナーシェル:グラスファイバー・ナイロン / 座面:レザー張り |
| 寸法 | 幅 約58cm × 奥行 約58cm × 高さ 約77cm(座面高 約43cm) |
| カラー | レザー各色(ブラック、コニャックなど) |
| 用途 | ダイニングチェア、サイドチェア |