バイオグラフィー
1914年4月2日、デンマーク南部の小さな町トゥナーに靴職人の息子として生まれたハンス・ヨルゲンセン・ウェグナーは、幼少期から並外れた手仕事の才能を示していた。歩き始める前から紙の切り絵や絵を描き、地元のトゥナー美術館で見たロイヤルコペンハーゲンの陶器を模して木彫りの彫刻を制作していたという。14歳でマスター家具職人H.F.スタールベリのもとで4年間の見習い修行を開始し、木材との深い絆を築いた。
1935年、21歳の兵役中にコペンハーゲン家具職人組合展を訪れ、ヨハネス・ハンセンのような名工と建築家たちの革新的なコラボレーションを目にする。これが転機となり、単に他人のビジョンを実現するだけでなく、自らがデザイナーとして家具を生み出すという野心を抱くようになった。1936年から1938年まで、コペンハーゲン工芸学校でカーレ・クリントの弟子であるオーレ・モルゴー=ニールセンに師事し、機能主義の原則を学んだ。
1938年、アルネ・ヤコブセンとエリック・モラーがオーフス市庁舎プロジェクトの全家具デザインを委託したことで、プロとしてのブレークスルーを迎える。20代の若手デザイナーにとって前例のない機会となったこのプロジェクトで、5年間にわたり完全な家具コレクションをデザインした。1940年にはヤコブセンの事務所の秘書だったインガ・ヘルボと結婚し、67年間の結婚生活を送り、二人の娘をもうけた。長女のマリアンヌ・ウェグナーは後にデザインスタジオに参加し、1993年に引き継ぐことになる。
1943年に独立したデザインスタジオを開設。1946年から1953年までコペンハーゲン工芸学校で教鞭を執りながら、複数のメーカーと協働した。特にヨハネス・ハンセンとの1940年から始まった協力関係は重要で、ハンセンはウェグナーに「望むどんな家具でも」デザインする創造的自由を与えた。
1949年、カール・ハンセン&サンがオーデンセでの3週間の滞在中に4脚の椅子のデザインを委託。その中にはベストセラーとなり70年以上生産され続けているCH24ウィッシュボーンチェアが含まれていた。同年、わずか48時間で創り上げたラウンドチェアは、アメリカの雑誌『インテリアズ』に「世界で最も美しい椅子」と称賛された。
1951年、フィンランドのタピオ・ヴィルカラと共に第1回ルニング賞を受賞し、ミラノ・トリエンナーレでグランプリを獲得。国際的な評価が急速に高まった。ルニング賞の賞金で1953年にアメリカとメキシコへ3か月の研修旅行に出かけ、フォーリングウォーターでエドガー・カウフマンJr.のもとに滞在した。
1960年9月26日、ラウンドチェアがジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンの間で行われた初のテレビ放送された大統領討論会で使用され、さらなる名声を得た。ケネディは重い腰痛のため、特にこの椅子の快適さを求めていたという。この単一のテレビ出演により、デンマークモダンデザインが何百万ものアメリカの家庭に届けられた。
晩年まで精力的に活動を続け、1993年に正式に引退したが、2007年1月26日にコペンハーゲンで92歳で亡くなるまで監督として関わり続けた。生涯で500脚以上の椅子、約1,000点の家具、2,500枚以上の工房図面とスケッチを残した。
デザイン哲学とアプローチ
ウェグナーのデザイン哲学は「オーガニック・ファンクショナリティ」と呼ばれるものを中心としていた。機能を重視しながらも、人間の感覚に訴えかける柔らかく有機的な形態を保つモダニストのアプローチである。1950年のインタビューで最も有名な言葉を残している:「多くの外国人が、どのようにしてデンマーク様式を創り出したのかと私に尋ねてきました。私は、それは継続的な純化と単純化のプロセス、つまり4本の脚、座面、そして背もたれと肘掛けを組み合わせた最もシンプルな要素まで削ぎ落とすことだったと答えました」
この削減の原則「絶対に必要なもの以上のものは何もない」が彼のキャリア全体を導いた。しかし、ウェグナーは純粋なミニマリズムの潜在的な冷たさを決して受け入れなかった。代わりに、「ミニマリストの表現と、感覚に訴える有機的で魅力的な形態との間の直感的なつながり」を求めた。
「椅子は存在しない」という有名な言葉に表されるように、ウェグナーはデザインを終わりなき追求として捉えていた。「良い椅子は決して完全に終わることのない仕事である」「人生でたった一つの良い椅子をデザインできたらどんなにいいか...しかし、それは単純に不可能だ」これらの言葉は、完璧な椅子は追求すべき理想として残り、完全には達成できないという彼の信念を反映している。
歴史的家具に対する彼のアプローチは、その方法論を例証している。歴史的なスタイルをコピーするのではなく、「古い椅子から外側のスタイルを剥ぎ取り、純粋な構造として現れるようにする」プロセスとして説明した。オーフスの図書館で本を通して中国の明朝の椅子を研究し、1944年のチャイナチェアシリーズ、そして最終的にウィッシュボーンチェアへとつながった。イギリスのウィンザーチェアは1947年のピーコックチェアに影響を与えた。
美について、ウェグナーは妥協のない基準を持っていた:「椅子には裏側があってはならない。あらゆる面と角度から美しくなければならない」この360度の美の原則は、すべての視点が等しく考慮と洗練に値することを意味した。
作品の特徴
ウェグナーの作品は、その多様性にもかかわらず、すぐに認識できる形式的特徴を示している。彼の椅子は強い彫刻的な質を持ち、材料と構造の深い理解を通じて達成された「絶妙な形」を持つ有機的で流れるような形態を特徴とする。
継ぎ手の美学
ウェグナーの椅子における継ぎ手は、隠された必要性ではなく、シグネチャーデザイン要素となった。ほぞ継ぎは、構造を隠すのではなく祝福する対照的な暗い木のくさびを特徴とすることが多い。ピーコックチェアの肩甲骨レベルには、脚が座面に接合する場所を強調する暗い木のくさびが見られる。ラウンドチェアは、籐の巻きの下に指継ぎを隠すことから、最大の強度のために木目を配向する独特のジグザグパターンで誇らしげに表示することへと進化した。
連続する曲線
多くの象徴的なウェグナー作品を連続する曲線が定義している。彼は直線カットでは不可能な流れるラインを作り出すスチームベンディング技術を習得した。ウィッシュボーンチェアの背もたれの脚は、円形のスチームベントの背もたれレールに接合するために先細りになる曲線にスチームベンドされる。ラウンドチェアは、背もたれと肘掛けの両方を形成する連続した半円を特徴とする。
視覚的な軽さ
しっかりと構築された作品でさえ、視覚的な軽さを特徴とする。慎重な比率と負の空間を通じて、ウェグナーの椅子は、日常使用に十分な頑丈さにもかかわらず、浮いているように見える。3本脚のシェルチェア(CH07)は、最小限の材料で驚くべき安定性を実現している。
手織りの座面
ウェグナーは主に紙紐を使用した手織りの座面に並外れた注意を払った。ウィッシュボーンチェアの座面は、熟練した職人が約1時間かけてエンベロープパターンで手織りする約120メートルの紙紐を必要とする。CH25ラウンジチェアは、織られた背もたれと座面を作るのに10時間かかる400メートルを使用する。
主な代表作
ザ・チェア(ラウンドチェア)PP501/PP503(1949年)
1949年、ヨハネス・ハンセンは、コペンハーゲン家具職人組合展での合板デザインとのバランスをとるために、より伝統的な椅子を作るようウェグナーに指示した。ウェグナーはわずか48時間でラウンドチェアを創り上げた。アメリカの雑誌『インテリアズ』はそれを「世界で最も美しい椅子」と名付けた。
このデザインはウェグナーの哲学を要約している:4本の脚と、1つの連続した半円から形成された背もたれと肘掛け。1960年9月26日、ジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンの間で行われた初のテレビ放送された米国大統領討論会で選ばれたときに象徴的な地位を獲得した。ケネディは重い腰痛のため、特にこの椅子の快適さを求めていた。
ウィッシュボーンチェア CH24(1949年)
ウェグナーのベストセラーデザインであり、最大の商業的成功。中国の明朝の椅子に触発されたが、完全に再構築されたY字型またはウィッシュボーン型の背もたれは、構造的サポートを提供しながら視覚的な優雅さを作り出す。各椅子は100以上の製造工程を必要とし、そのほとんどが手作業で行われる。
1950年以来継続生産されており、70年以上にわたって何百万台も販売されている。特に日本で人気があり、年間生産の4分の1以上を占め、日本語で専門書が出版されている。
パパベアチェア AP19(1951年)
「後ろから抱きしめる大きなクマの手」に似た2本の張り出した腕を持つハイウィングバックイージーチェアは、500以上の椅子デザインの中でウェグナーの個人的なお気に入りになった。晩年、介護施設に移ったとき、彼はパパベアチェアを持参した。
各椅子は手作りするのに少なくとも2週間かかり、複雑さのために室内装飾業者のトレーニングには1.5年が必要。伝統的な構造は、金属スプリングに加えて4つの天然素材(綿繊維、パーム繊維、亜麻繊維、馬毛)を使用し、敏感な背中のサポートを提供する。
フラッグハリヤードチェア PP225(1950年)
このアイデアは、暑い夏の午後、ビーチで生まれた。子供たちが浅瀬で遊んでいる間、ウェグナーは砂に身を埋め、快適なリクライニングチェアを作った。彼はその着座角度を注意深く記録した。その夜、夏の家で、彼はそれらのビーチから導き出された角度を使用してフラッグハリヤードチェアになるデザインをスケッチした。
ステンレス鋼フレーム、240メートルの特別に開発されたプレストレッチフラッグライン、長毛のアイスランドシープスキンで、彼の最も独特な作品の1つを作り出す。熟練した職人がフラッグラインを織るのに約14時間かかる。
功績と業績
ウェグナーの賞と栄誉は、1951年の第1回ルニング賞(タピオ・ヴィルカラと共同受賞)とミラノ・トリエンナーレのグランプリから始まり、キャリア全体を通じて蓄積された。「スカンジナビアデザインのノーベル賞」と呼ばれることもあるルニング賞は、彼の新たな国際的影響力を認めた。
1959年、ロンドンの王立芸術協会から名誉王立産業デザイナーに任命された。1995年、デンマーク王立美術アカデミーの名誉会員となった。1997年、大阪での第8回国際デザイン賞とロンドンの王立芸術大学からの名誉博士号を含む国際的な評価が続いた。
彼の作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館、デンマークデザイン博物館、ミュンヘンのディ・ノイエ・ザムルング、クーパー・ヒューイット博物館、ルイジアナ近代美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、ヴィトラデザイン博物館など、世界中のほぼすべての主要なデザイン博物館の常設コレクションに入った。
評価と後世への影響
「椅子の王」「椅子の巨匠」「デンマークモダンの巨匠」という彼に与えられたニックネームは、座席デザインへの彼の比類なき貢献を反映している。2004年、90歳の時点で130のモデルが生産されていた。現在、約170の異なる作品が複数のメーカーで生産され続けている。
ウェグナーの現代家具デザインへの影響は、彼の直接的な成果をはるかに超えて広がっている。彼はデンマークモダンを国際的に認められたスタイルとして確立するのを助け、家具が同時に彫刻的で、快適で、アクセス可能であることを実証した。彼の成功は、伝統的な職人技がモダニストの美学と大量生産と共存できることを証明した。
ジャスパー・モリソン、深澤直人、安藤忠雄、コンスタンティン・グルチッチを含む現代のデザイナーは、ウェグナーを影響として挙げている。「継続的な純化と単純化」への彼のアプローチは、その無菌性を避けながらミニマリズムを予見した。椅子があらゆる角度から美しくなければならないという彼の主張は、現代のデザイナーがまだ追求している基準を確立した。
1990年代後半、デンマークモダンとミッドセンチュリーモダンデザインへの国際的な関心の復活が見られた。『ニューヨークタイムズ』は1998年にウェグナーを「ホットな収集市場での時の人」として引用した。しかし、彼の最も人気のあるデザインは、継続的な生産を通じて手頃な価格のままである。
ウェグナーの500以上の椅子は、不可能な理想である完璧な椅子の生涯にわたる追求を表している。彼が自分の基準でこの目標を達成しなかったという事実、しかし他の人が完璧だと考える数十の傑作を作り出したという事実は、偉大なデザインのパラドックスを定義している。彼の椅子は、人間が座る必要がある限り、奉仕し、喜ばせ、インスピレーションを与え続けるだろう。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1944年 | 椅子 | China Chair FH4283 | Fritz Hansen |
| 1944年 | 椅子 | J16 Rocking Chair | FDB Møbler / Fredericia |
| 1947年 | 椅子 | Peacock Chair JH550/PP550 | Johannes Hansen / PP Møbler |
| 1948年 | 椅子 | Shell Chair / Venus Chair | Fritz Hansen / Getama |
| 1949年 | 椅子 | The Round Chair PP501/PP503 | Johannes Hansen / PP Møbler |
| 1949年 | 椅子 | Wishbone Chair CH24 | Carl Hansen & Søn |
| 1950年 | 椅子 | CH22, CH23 | Carl Hansen & Søn |
| 1950年 | 椅子 | CH25 Lounge Chair | Carl Hansen & Søn |
| 1950年 | 椅子 | Flag Halyard Chair PP225 | Getama / PP Møbler |
| 1951年 | 椅子 | Papa Bear Chair AP19/PP19 | A.P. Stolen / PP Møbler |
| 1952年 | 椅子 | CH29 Sawbuck Chair | Carl Hansen & Søn |
| 1952年 | 椅子 | Cow Horn Chair PP505 | PP Møbler |
| 1952年 | 椅子 | Heart Chair FH4103 | Fritz Hansen |
| 1953年 | 椅子 | Valet Chair PP250 | PP Møbler |
| 1953年 | ソファ | GE290 Series | Getama |
| 1955年 | 椅子 | Cigar Stool GE240 | Getama |
| 1960年 | 椅子 | Ox Chair AP46 | A.P. Stolen / Erik Jørgensen / Fredericia |
| 1963年 | 椅子 | Shell Chair CH07 | Carl Hansen & Søn |
| 1965年 | 椅子 | Circle Chair PP130 | PP Møbler |
| 1969年 | 椅子 | PP201 | PP Møbler |
| 1977年 | 椅子 | Butterfly Chair GE460 | Getama |
| 1944年 | 椅子 | Peter's Chair CH410 | Carl Hansen & Søn |
| 1950年代 | テーブル | AT-10 Coffee Table | Andreas Tuck |
| 1950年代 | テーブル | AT-303 Sawbuck Table | Andreas Tuck |
| 1954年 | デイベッド | GE-1 Daybed | Getama |
| 1956-58年 | 収納 | RY20 Credenza | Ry Møbler |
| 1959年 | 収納 | RY25 President Credenza | Ry Møbler |
| 1960年 | 収納 | RY100 Wall Unit | Ry Møbler |
| 1975年 | 照明 | Wegnerlygten Street Lamp | Louis Poulsen |
| 2014年 | 収納 | CH825 Credenza | Carl Hansen & Søn |
| 2014年 | 椅子 | PP135 Hammock Chair | PP Møbler |
Reference
- Hans Wegner - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Hans_Wegner
- Hans J. Wegner | Designer profile | Carl Hansen & Søn
- https://www.carlhansen.com/en/en/designers/hans-j-wegner
- Hans J. Wegner: Designing Danish Modern - Vitra Design Museum
- https://www.design-museum.de/en/exhibitions/detailpages/hans-j-wegner-designing-danish-modern.html
- Hans J. Wegner - PP Møbler
- https://pp.dk/designers/hans-j-wegner/
- The Round Chair - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/The_Round_Chair
- Wishbone chair - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Wishbone_chair
- Hans J. Wegner Danish designer - Scandinavia Design
- https://www.scandinavia-design.fr/hans-j.-wegner-danish-designer.html
- Hans J. Wegner - FJØRN Scandinavian
- https://www.fjorn.com/collections/hans-j-wegner
- How Hans Wegner Redesigned The Chair 500 Times - Fast Company
- https://www.fastcompany.com/3027815/how-hans-wegner-redesigned-the-chair-500-times
- Hans J. Wegner's Outsized Legacy - Pamono Stories
- https://www.pamono.com/stories/hans-wegner-s-outsized-legacy