ピーコックチェア(PP550)は、1947年にハンス・J・ウェグナーがデザインした名作ラウンジチェアである。その名は、孔雀が羽根を広げた姿を彷彿とさせる優雅な背もたれの造形に由来する。デザイナー仲間であったフィン・ユールが、このチェアを初めて見た際に、特徴的な扇状の背もたれから即座に「ピーコックチェア」と名付けたというエピソードは広く知られている。背もたれの支柱が矢に似ていることから「アローチェア」の別名でも呼ばれる。

当初はヨハネス・ハンセン社によって製造されていたが、1990年にウェグナーとPPモブラー社は共通の志を確認し、ヨハネス・ハンセン社で1950年代から1960年代に生産されていた近代的名作コレクションの製造責任をPPモブラー社が引き継ぐこととなった。以来、PPモブラー社の熟練職人たちによって、ウェグナーの原案に忠実な製品が生み出され続けている。

特徴・コンセプト

ウィンザーチェアの再解釈

ピーコックチェアは、イギリスの伝統的家具であるウィンザーチェアを現代的に再解釈したものである。ウェグナーは、コペンハーゲン美術工芸学校で学んだ「リ・デザイン」という方法論を体現した作品として、この椅子を創り上げた。伝統的な様式を単に模倣するのではなく、現代の生活様式に適合するよう改善を施すという姿勢は、ウェグナーの設計哲学の核心をなすものである。

アーチ状のフレームとスピンドル(支柱)を持つウィンザーチェアの基本構造を踏襲しながらも、ウェグナーは独自の革新を加えた。北欧の暮らしに調和する温かみのある素材選択、時代精神を反映したモダニズム的な造形、そして人間工学に基づく機能性の追求により、伝統と革新が見事に融合した傑作が誕生したのである。

人間工学的美学の結晶

ピーコックチェアの最大の特徴である扇状に広がる背もたれは、単なる装飾的要素ではない。十四本の支柱には平らに加工された部分があり、これらは着座時に肩甲骨が接する位置に正確に配置されている。この精緻な設計により、使用者の身体を優しく包み込むような快適な座り心地が実現されている。

ウェグナーは1950年代に、医学博士エギル・スノラソンとの学際的研究を通じて、人体の脊椎をX線撮影し、座位における身体への影響を科学的に分析した。こうした先駆的な人間工学研究の成果が、ピーコックチェアの優雅な曲線美と卓越した機能性の両立に結実している。見る者を魅了する造形美は、実は徹底した機能追求の結果なのである。

素材と構造

フレームには主にアッシュ材が用いられ、その淡い色調と美しい木目が北欧デザインの温もりを体現している。オーク材を選択することも可能である。汚れやすいアームレスト部分には、濃色のチーク材を採用することができるという実用的配慮も施されている。もちろん、全体を同一の木材で統一することも可能である。

座面には手編みのペーパーコードが用いられる。これは第二次世界大戦後、伝統的に使用されてきたジュート(黄麻)が不足したことから代替素材として開発されたものである。しかしこの素材は単なる代用品にとどまらず、軽量性と耐久性、そして独特の風合いにより、北欧家具の重要な要素として定着していった。ウェグナーはこの素材を後のウィッシュボーンチェア(Yチェア)にも採用し、デンマーク家具の象徴的素材へと昇華させたのである。

エピソード

フィン・ユールによる命名

このチェアが「ピーコック」と呼ばれるようになったのは、同時代のデザイナーであるフィン・ユールの卓越した観察眼によるものである。ユールはこの椅子を初めて目にした瞬間、扇状に広がる背もたれの支柱が孔雀の羽根を広げた姿に似ていることに着目し、即座にこの名を与えた。ユールとウェグナーは共にデンマーク家具デザイン黄金期を築いた巨匠であり、互いの作品を深く理解し尊重し合う関係にあった。この命名は、デザイナー同士の豊かな対話が生んだ象徴的なエピソードといえよう。

ウェグナーとヨハネス・ハンセンの協働

1941年、当時26歳であったウェグナーの家具が、ヨハネス・ハンセンのコペンハーゲン中心部ブレズガーデ65番地の店舗で初めて展示された。ウェグナーの倍以上の年齢であったマスター・クラフツマンのハンセンとの協働は、デンマーク家具デザインの中核をなし、1950年代から1960年代にかけて世界的な評価を獲得する原動力となった。

ピーコックチェアは1947年、この実り豊かな協働関係の中で誕生した。コペンハーゲン美術工芸博物館が1942年にウェグナーの椅子を初めて収蔵して以降、ウェグナーとハンセンの創造的パートナーシップは次々と傑作を生み出していった。1961年にハンセンが逝去するまで、二人の緊密な協力関係は続いたのである。

PPモブラーへの製造継承

1953年に創業したPPモブラー社は、当初はプロトタイプ製作と下請け生産を主業務としていたが、1960年代を通じてウェグナーと緊密な関係を築いていった。創業者の一人であるエイナー・ペダーセンは、ウェグナーのことを「私が出会った中で最も熟練したキャビネットメーカー」と称賛している。

1966年にウェグナーが多くの革新的作品を発表してきた家具職人組合秋季展覧会が終了し、1961年にはハンセンが他界したことで、ウェグナーは創造的な協働環境を失った。そこで1969年、ウェグナーはPPモブラー社とより緊密な協力関係を結ぶことを決意し、同社専用の椅子PP201とPP203をデザインした。そして1990年、ウェグナーとPPモブラー社は将来への共通のビジョンを確認し、ヨハネス・ハンセン社が製造していた名作コレクションの製造責任を引き継ぐこととなった。ピーコックチェアもこの時、PPモブラー社の製品ラインに加わり、型番PP550として現在に至るまで製造され続けている。

評価

ピーコックチェアは、ウェグナーの生涯で500脚以上デザインした椅子の中でも、際立って印象的な背もたれを持つ作品として高く評価されている。そのポストモダン的とも見える造形は1947年という早い時期にデザインされたものであり、ウェグナーの先見性と革新性を示す証左となっている。

この椅子は、美しさと機能性の完璧な調和を体現した作品として、デザイン史において重要な位置を占めている。伝統的様式の再解釈、人間工学に基づく設計、熟練した職人技術の結晶という三つの要素が見事に統合されており、デンマーク・モダン家具の最高傑作の一つに数えられている。

現在もPPモブラー社によって、ウェグナーの原案に忠実な製品が一脚一脚丁寧に製作されており、世界中のデザイン愛好家、コレクター、そして家具を通じた豊かな生活を求める人々に愛され続けている。その優雅な佇まいは、置かれた空間を瞬時に格調高い雰囲気へと変容させる力を持つのである。

基本情報

デザイナー ハンス・J・ウェグナー
ブランド PPモブラー
デザイン年 1947年
分類 ラウンジチェア
素材 フレーム:アッシュ材またはオーク材
アームレスト:アッシュ材、オーク材、またはチーク材
座面:ペーパーコード
サイズ W760×D760×H1030mm、座面高360mm
仕上げ オイル仕上げ、ソープ仕上げ、またはラッカー仕上げ
製造 当初:ヨハネス・ハンセン社(1947-1990年頃)
現在:PPモブラー社(1990年-)
別名 アローチェア