Papa Bear Chair(パパベアチェア)は、1951年にハンス・J・ウェグナーによってデザインされた、デンマークデザイン史における最も象徴的なラウンジチェアのひとつである。型番AP19として発表されたこの椅子は、まるで大きな熊に抱きしめられているかのような包容力のある座り心地と、両手を広げた熊のような独特なフォルムから、「Papa Bear Chair」あるいは「Teddy Bear Chair」という愛称で世界中に知られるようになった。ウェグナーが生涯で500脚以上デザインした椅子の中でも、彼自身が最も愛着を持ち続けた傑作のひとつとして、今なお多くの人々を魅了し続けている。
デザインの背景と誕生
1949年から1951年にかけて、ウェグナーは創作活動において最も実り豊かな時期を迎えていた。この短い期間に、ザ・チェア(1949年)、Yチェア(1949年)、フラッグハリヤードチェア(1950年)など、デンマークモダンデザインを代表する数々の名作を生み出している。Papa Bear Chairは、このような輝かしい創作の流れの中で誕生した作品である。
この椅子の誕生には、ウェグナーのビジネスパートナーであったアイヴィン・コル・クリステンセンが販売網を構築するにあたり、新しい張り地家具のデザインを必要としていたという実務的な背景があった。製造を担当することになったのは、1950年に創業したばかりの若い張り地家具メーカー、A.P. Stolenであった。創業者のアンカー・ペーターセンは、コペンハーゲンで長年家具店を経営し、熟練した張り地職人として優れた評判を築いていた人物である。
それまで張り地家具をほとんどデザインした経験のなかったウェグナーは、その几帳面な性格で知られるように、プラスティシン(油粘土)でミニチュアモデルを制作することから始めた。細部に至るまで綿密に検討を重ね、椅子の構造や座り心地、視覚的な美しさのすべてを完璧に考え抜いた上で、木材による試作へと移行していった。
特徴とデザインコンセプト
Papa Bear Chairの最も特徴的なデザイン要素は、前方に大きく張り出したカンチレバー式のアームレストである。後脚がそのまま上方へと延び、シームレスにアームレストへと続くこの構造は、機能的であると同時に視覚的にも印象的である。アームレストの先端には「爪(paws)」と呼ばれる木材の装飾が施されており、初期のモデルではチークが使用されていた。この爪部分は、構造的な役割だけでなく、触覚的な心地よさと視覚的なアクセントをもたらしている。
ハイバックのウイングチェアスタイルを採用したこの椅子は、伝統的な英国のウイングバックチェアを、ウェグナー独自の有機的でモダンな解釈によって再構築したものと言える。広々とした座面とアームレストの下に生まれる空間により、使用者は単に腰掛けるだけでなく、体を斜めにしたり、足をアームにかけたりと、さまざまな姿勢でリラックスすることができる。体格の大小を問わず、あらゆる体型の人を快適に受け入れる包容力は、ウェグナーの人間工学的な深い理解の表れである。
フレームは主にビーチ材で構成されており、優れた強度と加工性を両立している。張り地には、フォームは座面のクッションにのみ使用され、背もたれと側面には伝統的な手法が採用されている。50個の独立したポケットスプリング、馬毛、麻繊維、綿繊維、パーム繊維といった天然素材が層状に重ねられ、熟練職人の手によって丁寧に仕上げられている。この伝統的な張り地技法により、身体を優しく受け止めながらも適切なサポートを提供する、唯一無二の座り心地が実現されている。
製造の歴史と技術
Papa Bear Chairの製造は1951年にA.P. Stolenで開始されたが、実際の量産は1953年からであった。同年、マスターキャビネットメーカーであるエイナー・ペダーセンが経営するPP Møblerが、フレームの供給を開始した。これが、ウェグナーとPP Møblerの長きにわたる協力関係の始まりとなった。
ペダーセンの回想によれば、1950年代にはPP Møblerは四半期ごとに数百台のフレームをA.P. Stolenの工房に納品していたという。Papa Bear Chairは瞬く間にベストセラーとなり、A.P. Stolenとウェグナーの代名詞的存在となった。しかし1970年代に入ると、デザインの流行の変化により需要が減少し、1977年にA.P. Stolenは閉鎖を余儀なくされた。
2003年、PP Møblerは創業50周年を記念して、Papa Bear Chairの完全な製造を復活させた。アラロー(Allerød)に拠点を置くPP Møblerは、ウェグナーが当初指定した製造方法を忠実に守り続けている。今日でも、各チェアの製作には熟練職人が最低2週間を費やし、ウェグナーが設計した通りの伝統的な手法と素材を用いて、一脚一脚丁寧に仕上げている。
エピソード
「Papa Bear」という名称の誕生
「Papa Bear」という愛称は、デザイナー自身が名付けたものではない。1951年12月、ウェグナーがルニング賞を受賞した際、デンマークの有力紙「ポリティケン」に掲載された写真記事において、あるジャーナリストがこの椅子のアームレストを「後ろから抱きしめる大きな熊の爪のよう」と表現したことに由来する。この詩的な比喩は人々の心を捉え、型番AP19よりも「Papa Bear Chair」という愛称が広く知られるようになった。この名称は、椅子が持つ包容力と安心感を完璧に表現しており、まさに言い得て妙であった。
ウェグナーが最後に選んだ椅子
生涯で500脚以上の椅子をデザインしたウェグナーが、晩年を過ごした老人ホームに唯一持ち込んだのが、このPapa Bear Chairであった。数え切れないほどの名作椅子の創造主が、人生の最後の時間を共にする椅子として選んだという事実は、この作品がウェグナー自身にとっても特別な存在であったことを物語っている。デザイナー本人の深い愛着と信頼は、この椅子の卓越した快適性と普遍的な価値を何よりも雄弁に証明している。
模倣品との法廷闘争
1957年、Papa Bear Chairの人気は模倣品問題を引き起こした。スウェーデンの家具メーカーがこのデザインを無断で複製したことが発覚し、A.P. Stolenは訴訟を起こした。この訴訟は最終的にA.P. Stolenの勝訴に終わり、デンマークのメディアは「スウェーデン人がデンマークの椅子を模倣し始めた。冒涜者たちは逮捕され、『詐欺』を告白した」という見出しで報じた。この事件は、1950年代初頭から国際的に高まっていたデンマーク家具産業の評判を守る重要な出来事となった。
1966年、ウェグナーは「ポリティケン」紙のインタビューで模倣問題について言及している。「Papa Bear Chairは10社以上のメーカーにコピーされました。これは非難されるべきことですが、私たち全員が先人から何かを学んできたことも認めなければなりません。私の場合、中国、日本、イギリスの家具からインスピレーションを得ています」と、自省的かつ率直に語っている。
評価と影響
Papa Bear Chairは、発売当時から「現代的な外観と理想的なリラックス姿勢を両立した椅子」として宣伝され、大きな成功を収めた。「住むことのできる椅子」という新聞の見出しは、この椅子が単なる座具を超えた存在であることを示唆している。柔らかく有機的で遊び心のある形状は、まるで安全な「熊の巣」への誘いのようであり、幼少期の安心感や守られている感覚という普遍的な原型を想起させる。
この椅子は、ウェグナーがそれまでほとんど手がけてこなかった本格的な張り地家具の分野における最初の傑作となった。構造的な革新性、人間工学的な配慮、視覚的な美しさ、そして卓越した快適性の完璧な統合は、デンマークモダンデザインの本質を体現している。多くの評論家やコレクターが、Papa Bear Chairを「椅子のロールスロイス」と称賛するのは、その比類なき品質と永続的な価値を認めてのことである。
ヴィンテージのPapa Bear Chairは、時代を経るごとに価値が上昇し続けており、多くのコレクターにとって芸術作品と同様の投資対象と見なされている。オークションハウスでは常に高値で取引され、特にローズウッドの爪を持つ希少なバリエーションは、さらに高い評価を受けている。現行品は世界中のデザイン愛好家に支持され続けており、PP Møblerによる製造は受注生産であるため、納品までに長い待機時間を要することも珍しくない。
基本情報
| デザイナー | ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner) |
|---|---|
| デザイン年 | 1951年 |
| 製造元 | A.P. Stolen(1951-1977年)、PP Møbler(2003年-現在) |
| 型番 | AP19(オリジナル)、PP19(現行品) |
| 分類 | ラウンジチェア / イージーチェア |
| 主要素材 | ビーチ材フレーム、チーク/オーク/ローズウッドの爪部、天然繊維張り地、ポケットスプリング |
| 標準サイズ | 幅約92cm × 奥行約86-95cm × 高さ約90-99cm、座面高約41cm |
| 別名 | Teddy Bear Chair(テディベアチェア)、パパベアチェア、ベアチェア |