シェルチェア(CH07)は、ハンス・J・ウェグナーが1963年に発表したラウンジチェアである。翼を広げた鳥のような優美なフォルムと三本脚による独創的な構造が特徴で、1963年9月にコペンハーゲンで開催された家具職人組合秋季展で初めて披露された。発表当時はその前衛的なデザインが一般の理解を得られず、限られた数しか製造されなかったが、1998年にカール・ハンセン&サンによって復刻されると新しい世代の感性に響き、瞬く間に広範な支持を獲得した。今日では「スマイリングチェア(笑う椅子)」の愛称で親しまれ、ウェグナーの代表作のひとつとして世界中で高い評価を受けている。
デザイナーの経歴や設計思想について詳しくはハンス・J・ウェグナー プロフィールページをご覧ください。
特徴・コンセプト
彫刻的なフォルムと構造美
シェルチェアの最大の特徴は、その彫刻的とも言える三次元的な造形美にある。座面と背もたれは成形合板によって一体的に形づくられ、翼を広げたような有機的な曲線を描く。三本の脚は先端に向かって細くテーパーし、緩やかなアーチを描きながら座面を支える。この構造は安定性を確保しつつ、椅子全体に浮遊するような軽快さを与えている。脚は複数層のベニヤを積層したもので、前二本の脚は一枚のベニヤ材から成形されており、これが独特で安定した形状を生み出している。
成形合板技術への挑戦
本作は、ウェグナーが第二次世界大戦後に探求した成形合板による家具制作の成果である。当時、成形合板による家具の量産はまだ技術的に難しく、アルヴァ・アアルトやチャールズ&レイ・イームズらが切り開いたこの技術を、ウェグナーは独自の解釈で追求した。シェルチェアは高度な成形技術を要したため当初は量産が困難であったが、それゆえに木工技術の可能性を引き出した作品として知られている。
全方位的な美の追求
ウェグナーは「椅子に表裏があってはならない」「どの角度から見ても美しくなければならない」という信念を持っていた。シェルチェアはこの考えを反映した作品であり、正面からはもちろん、側面や背面からも端正な姿を見せる。この全方位的な美への配慮により、本作は空間の中心に配置され、あらゆる角度から眺められることを前提とした家具として設計されている。
エピソード
時代を先取りした評価と復活
1963年の発表当時、シェルチェアは批評家から前衛的なデザインとして評価された一方で、一般消費者からは受け入れられなかった。その独創的な造形と、当時の製造技術では量産が難しかったことも相まって、1960年代の生産はごく限られたものにとどまった。しかしこの希少性が後年のオークション市場で評価され、1990年代に入ると高い価格で取引されるようになる。これを機に一般層からの再評価が進み、1998年にカール・ハンセン&サンが復刻すると、34年の時を経て個性的なデザインを求める新世代の感性に響き、即座に広範な支持を獲得した。三本脚という一見不安定に見える構造が実際には高い安定性をもつ点も、技術的な達成として評価されている。
60周年記念モデル
2023年、シェルチェアの誕生60周年を記念して、カール・ハンセン&サンはローズウッド材とオーク材を組み合わせた特別なアニバーサリーエディションを発表した。背面にはウェグナーのサインとデザイン年を刻印した真鍮製プレートが取り付けられ、座面はブラックのマットなアニリンレザー張り、または張地なしの仕様から選べる構成となった。
基本情報
| 製品名 | シェルチェア(Shell Chair) |
|---|---|
| 型番 | CH07 |
| デザイナー | ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner) |
| デザイン年 | 1963年 |
| メーカー | カール・ハンセン&サン(Carl Hansen & Søn) |
| 分類 | ラウンジチェア / イージーチェア |
| 別名 | スマイリングチェア(The Smiling Chair) |
| 主要素材 | 成形合板(オーク、ウォルナット、ビーチ) |
| 仕上げ | ラッカー、オイル、ホワイトオイル、カラーラッカー |
| 張地 | ファブリック、レザー(多様なオプションあり) |
| 寸法 | 幅92cm × 奥行83cm × 高さ74cm(座面高35cm) |
| 復刻年 | 1998年 |
| 原産国 | デンマーク |