概要
ボーエ・モーエンセン(1914-1972)は、デンマークの家具デザイナーである。1942年から1950年までデンマーク生活協同組合連合会(FDB)の家具設計部門を率い、量産に載せられる価格で品質を確保するという課題に取り組んだ。コーア・クリントのもとで学んだ実測と類型研究の手法を引き継ぎ、既存の家具の型を工業生産に置き換える設計を続けた。J39、ハンティングチェア、スパニッシュチェアなどが現在も生産されている。
バイオグラフィー
1914年4月13日、デンマーク北ユラン半島のオールボーに生まれた。1934年に家具職人の修業を終え、1936年から1938年までコペンハーゲンの美術工芸学校で家具デザインを学ぶ。続いて1938年から1942年までデンマーク王立芸術アカデミーの家具科でコーア・クリントに学び、この間クリントとモーエンス・コックの事務所で実務にあたった。
1942年、28歳でFDBの家具設計部門の責任者となる。生活協同組合の流通網を通じて全国に家具を供給する立場から、価格と品質の両立を設計上の条件として引き受けた。1945年から1947年までは王立芸術アカデミーでクリントの助手も務めている。
1948年、ニューヨーク近代美術館の低価格家具設計競技にハンス・J・ウェグナーと共同で参加した。1950年にFDBを離れ、コペンハーゲンに自身の設計事務所を開設。同年ジェントフテに居を構え、以後この地で仕事を続けた。
独立後は、ソボー・モーベルファブリック(1950年から)、スウェーデンのカール・アンデション(1955年から)、フレデリシア・ストーレファブリック(1955年から)と長期の協働関係を結んだ。1954年にはグレーテ・マイヤーと組んで収納の寸法体系の調査を行い、その成果を刊行している。1972年10月5日、58歳で没した。
デザインの思想と方法
モーエンセンが引き受けたのは、限られた価格のなかで長く使える家具をつくるという課題である。FDBでの立場は、少数の高級品ではなく、全国の店舗に並ぶ量の家具を扱うものだった。この条件のもとでは、形を新しく発明することよりも、成立が確認されている型を工業生産に移し替えるほうが確実になる。
既存の型から出発する
クリントに学んだ方法は、歴史的な家具を実測し、寸法と構成の根拠を確かめてから新しい設計に入るというものだった。モーエンセンはこれを、イギリスのウィンザーチェア、アメリカのシェーカー家具、地中海地方の椅子といった広い範囲に適用している。1945年のスポークバックソファはイギリスの背の高い長椅子の構成を、1958年のスパニッシュチェアはアンダルシアで見た幅広の肘掛けをもつ椅子を、それぞれ下敷きにしている。彫りや装飾を落とし、部材の断面と寸法を整理することで、手作業を前提とした型を機械加工に載せた。
寸法を調査で決める
1954年、建築家グレーテ・マイヤーと組んで、住宅の収納に必要な寸法を調べる仕事に取り組んだ。食器、衣類、道具といった日用品の実寸と、一般的な世帯が所有する数量を集計し、そこから引き出しと棚の幅・奥行きの標準値を割り出している。結果は収納を設計するための手引きとして刊行された。1955年から1967年にかけてのオーレスン棚のシリーズは、この調査を製品に落としたものである。
構造を見せる
モーエンセンの家具は、接合部や取り付け金具を隠さない。スポークバックソファでは座面のクッションが見える革帯で留められ、ハンティングチェアでは座面と背もたれの革が真鍮のバックルで枠に固定される。バックル留めは、使ううちに革が伸びたときに締め直せるという実用上の理由から選ばれており、意匠と保守の便が同じ処理で満たされている。
木と革、編み座
主材はオークをはじめとする北欧産の無垢材で、これに植物なめしの厚革を組み合わせる構成が多い。座面にはペーパーコードや海草を編んだものも用いた。いずれも表面の仕上げで隠さず、使用による変化がそのまま現れる材料である。長く使うほど状態が変わることを前提に材料を選ぶという点で、彼の設計方針と一致している。
フレデリシアの歴史や他の製品について詳しくはフレデリシア ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
スポークバックソファ(1945年)
1945年のコペンハーゲン家具職人組合展で発表された長椅子で、イギリスの背の高い長椅子の構成を引き取っている。両側の肘は革帯で角度を変えられ、座面のクッションも見える革帯で留められる。構造を覆う部分がないため、部材がどう組まれているかが外から読める。発表当時は生産に至らず、量産が始まったのは1963年である。→スポークバックソファ
J39(1947年)
FDBのために設計されたダイニングチェアで、無垢材の枠と手編みのペーパーコードの座面からなる。部材の断面を細く保ちながら、貫の位置で強度を確保している。装飾を持たず、加工工程が少ないため価格を抑えられた。生活協同組合の流通に乗せる前提から出た設計であり、現在も生産が続いている。→J39 ピープルズチェア
ハンティングチェア(1950年)
1950年の家具職人組合展で「狩猟小屋」と題した展示の一部として発表された。露出した木の枠に厚革を張った最初の作品で、以後のモーエンセンの代表的な構成となる。革は真鍮のバックルで留められ、伸びた分を締め直せる。座面の前縁から背にかけての傾斜が大きく、身体を後方に預ける姿勢を前提としている。→ハンティングチェア
スパニッシュチェア(1958年)
スペイン旅行中にアンダルシアで見た、幅広の肘掛けをもつ椅子を下敷きにしている。原型にあった彫刻的な装飾を落とし、肘掛けを平らな板として整理した。この板は物を置く面としても働き、脇机を必要としない。革は座面と背もたれに張られ、木の枠は組んだまま見せる。既存の型から機能を取り出して再構成する彼の手順が、最もはっきり現れた例にあたる。→スパニッシュチェア
オーレスン棚(1955-1967年)
グレーテ・マイヤーとの調査に基づいて開発された収納のシリーズで、スウェーデンのカール・アンデションが生産した。棚・引き出し・扉付きの箱を共通の寸法体系で組み合わせる方式をとる。収納家具を部屋に置く家具としてではなく、壁面を構成する要素として扱う考え方に基づいており、必要な容量から構成を決められる。
評価と影響
モーエンセンは一般に「人々のデザイナー」と呼ばれ、デンマークの家具を日常の生活用品として普及させた設計者と評価されている。同時代のフィン・ユールやハンス・J・ウェグナーが展覧会向けの少量生産から出発したのに対し、彼は最初から流通と価格を条件として設計した点が対比される。
FDBでの八年間は、生活協同組合が家具の設計と供給を組織的に行った時期にあたり、デンマークの住宅に量産家具が入っていく過程と重なっている。ここで扱われた設計の考え方は、その後の北欧の量産家具にも引き継がれた。
収納の寸法体系に関する調査は、家具の設計を実測に基づいて進めるという方法の一例として参照される。J39、ハンティングチェア、スパニッシュチェア、スポークバックソファはいずれも現在も生産されており、フレデリシアが主要な設計を扱っている。
受賞・収蔵
受賞
- 1945年 ビッセン奨学金(デンマーク)
- 1950年 エッカースベア・メダル
- 1971年 デンマーク家具賞
- 1972年 C.F.ハンセン・メダル
- 1972年 名誉ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)。
- V&A ハンティングチェア(1950年) 収蔵番号 W.7-1993
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1945年 | ソファ | スポークバックソファ | Fredericia Furniture |
| 1947年 | 椅子 | J39 ピープルズチェア | FDB Møbler / Fredericia Furniture |
| 1947年 | テーブル | C18 シェーカーテーブル | FDB Møbler |
| 1950年 | 椅子 | ハンティングチェア | Fredericia Furniture |
| 1951年 | 収納 | モデル232 チャイナキャビネット | FDB Møbler |
| 1954年 | 収納システム | ボリエンス・ビッゲスカーベ(グレーテ・マイヤーと共同) | 調査・刊行 |
| 1955-1967年 | 収納システム | オーレスン棚 | Karl Andersson & Söner |
| 1955年 | ソファ | No.1 ソファ(モデル2002 / 2003) | Fredericia Furniture |
| 1957年 | 椅子 | BM61 チェア | P. Lauritsen & Søn / Fredericia Furniture |
| 1958年 | 椅子 | スパニッシュチェア | Fredericia Furniture |
| 1958年 | 椅子 | BM62 アームチェア | P. Lauritsen & Søn / Fredericia Furniture |
| 1958年 | テーブル | シェーカーテーブル | C.M. Madsen |
| 1962年 | ソファ | モーエンセン 2213 ソファ | Fredericia Furniture |
| 1963年 | 椅子 | ウィングバックチェア(モデル2204) | Fredericia Furniture |
| 1960年代 | 椅子 | モーエンセン 3236 チェア | Fredericia Furniture |
| 1960年代 | 椅子 | アッセルボ チェア(モデル503 / 504) | Karl Andersson & Söner |
| 1960年代 | 椅子 | クラブチェア(モデル2207) | Fredericia Furniture |
| 1971年 | ソファ | クーペソファ(モデル2292) | Fredericia Furniture |
プロフィール
| 生没年 | 1914年4月13日〜1972年10月5日 |
|---|---|
| 出身地 | デンマーク・オールボー |
| 国籍 | デンマーク |
| 活動拠点 | コペンハーゲン、ジェントフテ |
| 分野 | 家具、インテリア |
| 主な協働ブランド | FDB Møbler、Fredericia Furniture、Carl Hansen & Søn、Karl Andersson & Söner、Søborg Møbelfabrik |
Reference
- Børge Mogensen | Designer profile | Carl Hansen & Søn
- https://www.carlhansen.com/en/en/designers/borge-mogensen
- Børge Mogensen | Fredericia Furniture
- https://www.fredericia.com/borge-mogensen
- Børge Mogensen Biography | BM Heritage
- https://borgemogensen.wordpress.com/borgemogensen/
- The Hunting Chair | Fredericia Furniture
- https://www.fredericia.com/product/the-hunting-chair-2229
- The Spoke-Back Sofa | Fredericia Furniture
- https://www.fredericia.com/product/the-spoke-back-sofa-1789
- The biography of Børge Mogensen | Möbeldesignmuseum
- https://www.mobeldesignmuseum.se/news-design/the-biography-of-borge-mogensen