バイオグラフィー
1916年5月8日、デンマーク・コペンハーゲン生まれ。2016年12月9日、アメリカ・コネチカット州ニューケイナンにて逝去。享年100歳。デンマーク出身の家具デザイナーにして、スカンジナビアンデザインをアメリカに紹介した先駆者として知られる。
コペンハーゲン工芸学校(Copenhagen School of Industrial Arts and Design)にて、近代デンマーク家具デザインの父と称されるカーレ・クリント、および名匠オーレ・ヴァンシャーに師事。クリントの提唱する「人間工学に基づいた機能主義」と、ヴァンシャーの「素材への深い敬意」という二つの哲学を、若きリソムは深く吸収した。
1939年、第二次世界大戦の暗雲が欧州を覆う中、23歳のリソムは新天地を求めて大西洋を渡り、アメリカへと移住。ニューヨークに到着した彼は、デザイナーとしての新たな章を開くこととなる。渡米後まもなく、後に近代家具の巨人となるハンス・ノール(Hans Knoll)と運命的な出会いを果たす。
デザインの思想とアプローチ
リソムのデザイン哲学は、スカンジナビアの伝統とアメリカの革新精神を融合させた独自のものである。「形態は機能に従う」というモダニズムの原則を踏まえながらも、北欧の職人たちが何世代にもわたって培ってきた木材への深い理解と、人間の身体に寄り添う有機的なフォルムへの探求を決して手放さなかった。
彼は常々「家具は人々の日常生活に溶け込み、使う人の身体と精神の両方に心地よさをもたらすべきである」と語っていた。この信念は、華美な装飾を排しながらも、どこか温かみのある彼の作品群に一貫して表れている。また、リソムは素材の選択においても妥協を許さず、特にウォールナット、チェリー、オークといった北米産広葉樹の美しい木目を最大限に活かすデザインを追求した。
作品の特徴
リソムの家具は、一見してシンプルでありながら、細部に至るまで緻密な計算が施されている点が特徴的である。直線と曲線の絶妙なバランス、木材の自然な表情を活かした仕上げ、そして何より座り心地や使い勝手への徹底したこだわりが、彼の作品を時代を超えた名作たらしめている。
構造的には、無駄を削ぎ落とした軽快なフレームワークと、木材の強度を最大限に引き出すジョイント技術が特徴的である。また、ファブリックやレザーとの組み合わせにおいても、素材同士の調和を重視し、全体として統一感のある佇まいを実現している。
主な代表作とエピソード
650 Line / リソムラウンジチェア(1941年)
リソムの名を一躍世に知らしめた記念碑的作品。ハンス・ノールとの協働により生まれたこの椅子は、1942年に発表されたKnoll社初のカタログを飾った15点のうちの一つとなった。第二次世界大戦中の物資統制下において、リソムは軍の放出品であるパラシュート用コットンウェビング(綿製織りベルト)を座面と背もたれに用いるという革新的なアプローチを採用。物資不足という制約を逆手に取り、軽量かつ快適、そして視覚的にも新鮮な椅子を創り出した。この作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに収蔵されており、アメリカンモダニズムの黎明期を象徴する一脚として高く評価されている。
リソムサイドチェア(1943年)
650 Lineの成功を受けて発表されたダイニングチェア。同様にウェビングを用いたデザインでありながら、より軽快で日常使いに適した形態を追求。戦時中のアメリカの家庭に、北欧の洗練されたデザインを手頃な価格で届けることに成功した。
イェンス・リソム・コレクション(1946年以降)
1946年、リソムは自身の会社「Jens Risom Design Inc.」を設立し、独自のコレクションの展開を開始。以後、オフィス家具から住宅用家具まで幅広いラインナップを手がけ、戦後アメリカのオフィス環境とリビングルームの両方に、スカンジナビアンモダンの美意識を浸透させていった。特にエグゼクティブデスクやキャビネット類は、機能性と美観を高次元で両立させた傑作として、今日でも復刻生産が続けられている。
功績・業績
イェンス・リソムは、スカンジナビアンデザインをアメリカに紹介した最初期のデザイナーの一人として、20世紀中葉のアメリカ家具デザイン史に不朽の足跡を残した。Knoll社の創業期を支え、その後自身の会社を通じて半世紀以上にわたりデザイン活動を継続。90歳を超えてもなお現役でデザインに携わり続けたその姿勢は、後進のデザイナーたちに深い感銘を与えた。
また、リソムはデザイン教育にも熱心に取り組み、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)をはじめとする教育機関で後進の指導にあたった。彼の教えを受けた多くのデザイナーが、現代のアメリカン・スカンジナビアンスタイルの担い手として活躍している。
評価・後世に与えた影響
リソムの功績は、単に優れた家具をデザインしたことに留まらない。彼は、ヨーロッパの伝統的な職人技とアメリカの大量生産システムを橋渡しし、「良いデザインを多くの人々の手に届ける」という理念を体現した先駆者であった。
21世紀に入り、Design Within Reach社やKnoll社によるリソム作品の復刻が相次ぎ、新たな世代のデザイン愛好家たちからも熱い支持を集めている。サステナビリティと普遍的な美しさを兼ね備えた彼のデザインは、消費主義の時代において「本当に長く使えるものとは何か」という問いを、静かに、しかし力強く投げかけ続けている。
100年という長い生涯を通じて、リソムは「時代を超えるデザイン」とは何かを身をもって示し続けた。彼の遺したレガシーは、ミッドセンチュリーモダンの精神を現代に伝える貴重な架け橋として、これからも輝き続けるであろう。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1941年 | ラウンジチェア | 650 Line Lounge Chair / Risom Lounge Chair | Knoll |
| 1941年 | アームチェア | 650 Line Armchair | Knoll |
| 1943年 | サイドチェア | Risom Side Chair | Knoll |
| 1943年 | スツール | Risom Stool | Knoll |
| 1946年 | ダイニングチェア | C140 Chair | Jens Risom Design |
| 1950年代 | ラウンジチェア | A-Chair | Jens Risom Design |
| 1950年代 | デスク | Executive Desk | Jens Risom Design |
| 1950年代 | キャビネット | Credenza | Jens Risom Design |
| 1950年代 | サイドテーブル | Magazine Table | Jens Risom Design |
| 1950年代 | ソファ | Risom Sofa | Jens Risom Design |
| 1950年代 | ベンチ | Risom Bench | Jens Risom Design |
| 1950年代 | オットマン | Risom Ottoman | Jens Risom Design |
| 1950年代 | コーヒーテーブル | Floating Top Coffee Table | Jens Risom Design |
| 1955年 | ラウンジチェア | U-450 Lounge Chair | Jens Risom Design |
| 1960年代 | オフィスシステム | Office System Collection | Jens Risom Design |
| 1960年代 | シェルビング | Wall-Mounted Shelving System | Jens Risom Design |
| 1961年 | ラウンジチェア | Risom Rocker | Jens Risom Design |
| 2010年代 | ラウンジチェア | Risom Lounge Chair(復刻版) | Knoll(Design Within Reach) |
Reference
- Jens Risom - Knoll
- https://www.knoll.com/designer/Jens-Risom
- Jens Risom - Design Within Reach
- https://www.dwr.com/designer-jens-risom
- Jens Risom Collection - MoMA
- https://www.moma.org/artists/4961
- Jens Risom - 1stDibs
- https://www.1stdibs.com/creators/jens-risom/
- Jens Risom, Furniture Designer WhoEli Helped Start Knoll - The New York Times
- https://www.nytimes.com/2016/12/12/arts/design/jens-risom-dead-furniture-designer.html
- The Story of Jens Risom - Dezeen
- https://www.dezeen.com/tag/jens-risom/