Knoll(ノル)

Knollは、1938年にHans G. Knollがニューヨークで創業した家具メーカーである。建築家が設計した家具を製品化し、あわせて室内計画そのものを請け負う体制を築いたことで、戦後アメリカの事務空間の形式に影響を与えた。1950年前後にペンシルベニア州イーストグリーンヴィルへ生産拠点を移し、以後この工場が主力となっている。Ludwig Mies van der RoheやMarcel Breuerの家具については、設計者本人や権利を保有していた企業から製造権を取得して生産を続けてきた。2021年にHerman Millerと統合し、現在は持株会社MillerKnollの傘下ブランドにあたる。

事業と製造の実体

Knollの主力工場はペンシルベニア州イーストグリーンヴィルにある。旧紡績工場を転用したもので、以後も増設が重ねられた。1986年には株式公開で得た資金をこの工場の拡張に充てている。ミシガン州グランドラピッズとマスキーゴン、カナダ・トロントにも生産拠点を持ち、1968年のGavina買収により取得したイタリア・フォリーニョの工場も生産に用いられてきた。

加工技術は金属と張り地が中心となる。スチールパイプの曲げ加工とクロムめっきによる仕上げは、Mies van der RoheやMarcel Breuerの家具に不可欠な工程で、バルセロナチェアの脚部は研磨によって鏡面に仕上げられる。同製品の座面と背は、1枚の革から切り出した40枚の部材を縫い合わせてボタン留めする方式で作られる。ベルトイア ダイヤモンドチェアをはじめとするワイヤー製品では、鋼線を格子状に溶接する工程が造形そのものを決める。

再生産にあたっては、製造権の所在を示す表示が施される。Mies van der Roheの家具では、台座部分にKnollStudioのロゴと設計者の署名が刻印される。

製品の販売にとどまらない事業として、Knollは創業初期から室内計画の受託を手がけてきた。Florence Knollが率いたKnoll Planning Unitは、企業の事務空間の平面計画から家具の選定までを一括して引き受ける部門であり、家具の仕様がそのまま空間の設計条件になる関係を作った。

沿革

創業と体制の確立

1938年、Hans G. Knollがニューヨークで家具会社を設立した。ドイツで家具製造業を営むKnoll家に生まれ、その事業の経験を携えての創業だった。1940年代前半、建築を学んだFlorence Schustが参画し、室内計画を請け負うKnoll Planning Unitを率いた。彼女はクランブルック美術アカデミーおよびイリノイ工科大学で建築を学んでおり、後年の設計者との関係はこの時期の人脈に多くを負っている。二人は1946年に結婚し、以後は事業運営と設計の分担で会社を拡張していった。

1950年前後、ニューヨークから離れた場所に量産の拠点を求め、ペンシルベニア州イーストグリーンヴィルの旧工場を取得した。同じ時期に、Eero Saarinenのウームチェア(1948年)、Harry Bertoiaのベルトイア ダイヤモンドチェア(1952年)、チューリップチェア(1950年代後半)が製品化されている。1953年には、Mies van der Roheがバルセロナチェアとスツールの製造権を正式にKnollへ与えている。Miesはイリノイ工科大学におけるFlorence Knollの師であった。

経営権の移動

1955年、Hans G. Knollがキューバでの自動車事故により41歳で死去する。Florence Knollが社長を継ぎ、1959年にKnollの各部門をArt Metal Construction Companyへ売却した。彼女は1960年まで社長を、1965年まで設計部門の責任者を務めている。

1968年、KnollはイタリアのGavina S.p.A.を買収した。Dino Gavinaが率いた同社はMarcel Breuerの家具の製造権を保有しており、この買収によってワシリーチェア(クラブチェアB3)チェスカ・チェア(B32)、Laccioテーブルの一群がKnollの製品に加わった。フォリーニョの工場も同時に取得している。

1980年代前半にGeneral Felt Industriesの傘下に入り、1983年に株式を公開したのち1986年に非公開化された。1990年にはWestinghouse Electricが買収し、同社傘下のShaw-Walker、Reff、Westinghouse Furniture Systemsと統合してKnoll Group Inc.が編成された。1996年、WestinghouseはKnollを投資会社Warburg Pincusへ5億6,500万ドルで売却する。その後1997年に再上場、1999年に非公開化、2004年に三度目の株式公開という経過をたどった。

Herman Millerとの統合

2021年7月、KnollはHerman Millerに統合された。持株会社の名称はMillerKnollとなり、KnollとHerman Millerはそれぞれのブランドとして存続している。

デザイナーとの協働

Knollの製品は、社内の設計部門と外部の建築家・彫刻家の双方から生まれてきた。Florence Knollは自らも家具を設計し、机や収納といった事務空間の基礎的な品目を担当している。一方で、造形の中心となる椅子については外部の設計者に委ねる分担が取られた。

20世紀の設計者ではLudwig Mies van der Rohe、Marcel Breuer、Eero Saarinen、Harry Bertoia、Jens Risom、Warren Platnerが挙げられる。このうちMiesとBreuerの家具は、設計者本人からの許諾(1953年)と、権利を保有していたGavinaの買収(1968年)という異なる経緯でKnollの製品になった。現行世代ではPiero Lissoni、Edward Barber & Jay Osgerbyらとの協働が続いている。

主な製品群

Mies van der Roheの設計では、バルセロナ コレクションとしてバルセロナチェアバルセロナオットマンバルセロナ デイベッドがまとめられ、ほかにブルノチェアMRチェアを扱う。Marcel Breuerの設計は1968年のGavina買収を機に加わったもので、ワシリーチェア(クラブチェアB3)チェスカ・チェア(B32)がこれにあたる。

Eero Saarinenの設計では、脚部の輻輳を減らす意図で作られたチューリップチェアチューリップテーブルが一連をなし、ウームチェアサーリネン エグゼクティブ アームチェア(モデル71)が加わる。Harry Bertoiaの鋼線を用いたベルトイア コレクションにはベルトイア ダイヤモンドチェアベルトイア サイドチェア、屋外用のベルトイア アウトドア ダイヤモンド チェアがある。

Florence Knoll自身の設計は事務空間向けの品目が中心で、フローレンス・ノル エグゼクティブデスクフローレンス・ノル ソファフローレンス・ノル ダイニングテーブルが現在も生産されている。このほかJens Risomのリソム ラウンジチェア、Warren Platnerによる鋼線のプラットナー コレクション、Isamu Noguchiのサイクロンテーブルがある。1985年には20世紀の設計を扱う枠組みとしてKnollStudioが設けられ、現在はこの区分で流通している。

基本情報

ブランド名 Knoll(ノル)
設立 1938年
創業者 Hans G. Knoll
創業地 アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市
本社所在地 アメリカ合衆国ペンシルベニア州イーストグリーンヴィル
資本関係 2021年7月のHerman Millerとの統合によりMillerKnoll, Inc.の傘下ブランド
事業内容 家具の設計・製造・販売、室内計画、テキスタイル
公式サイト https://www.knoll.com

Reference