概要
MRチェアは、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが1927年に発表したカンチレバー構造の椅子である。同年ドイツ・シュトゥットガルトで開かれたドイツ工作連盟の住宅展「ヴァイセンホーフ・ジードルング」で公開された。後脚を持たず、クロムメッキのスチールパイプが床から座面へ弧を描く。現在はノルが製造している。
特徴・コンセプト
弧を描くカンチレバー
継ぎ目のないスチールパイプが、床から前方へ伸びて大きな弧を描き、座面と背もたれを支える。後脚を置かないため、荷重は前方の曲がりに集まり、そこを起点にフレーム全体がわずかにたわむ。詰め物を厚くせずに弾力が得られるのは、この構造による。
マルト・スタムが同時期に手がけた椅子は直角の折り曲げで構成されていた。ミースは曲率を大きくとることで、たわむ範囲を長くし、同時に輪郭を連続した線にしている。
籐とスチール
座面と背もたれには、当初から籐(ラタン)編みが用いられた。この仕様は、ミースの協働者であったリリー・ライヒとの仕事から生まれている。板を張ればフレームのたわみが打ち消されるが、編んだ籐であれば面が荷重に応じてしなり、構造の弾性を活かせる。工業的な金属材と手で編む天然素材という組み合わせが、そのまま構造上の要請と噛み合っている。
籐編みが終わりスチールが始まる箇所には、小さな膨らみが設けられている。異なる素材の接点をどう処理するかという扱いが、この細部に表れている。現在は籐編みに加え、革を用いた仕様も製造されている。
エピソード
後脚を持たない椅子は、1920年代後半に複数の設計者が相次いで手がけた。1926年のドイツ工作連盟の会合で、オランダの建築家マルト・スタムが後脚のない椅子の構想を示したとされる。この会合には、マルセル・ブロイヤーとミースも出席していた。
ミースの事務所に勤務していたセルギウス・リューゲンベルクは、後年その経緯を回想している。ミースは1926年11月にシュトゥットガルトから戻り、スタムの椅子の構想について話し、製図板にそれをスケッチしたという。直角で構成された形であった。ミースはその継ぎ手の見え方に満足せず、もう少し丸みを帯びていればと述べて、自らスケッチに弧を描き加えたと伝えられている。
評価と影響
発表から約1世紀を経て生産が続いている。同じカンチレバー構造は、マルセル・ブロイヤーのチェスカ・チェア(B32)や、ミース自身のブルノチェアにも展開された。アームレスのMR10とアーム付きのMR20が用意されている。
美術館コレクション
ニューヨーク近代美術館は、クロムメッキ鋼管と革によるMRアームチェア(収蔵番号20.1949)とMRサイドチェア(22.1949、23.1949)を登録している。いずれも1927年の作で、エドガー・カウフマン・ジュニアからの寄贈である。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館もMRチェアを収蔵番号CIRC.101-1970で登録している(同館の記録では制作年は1926年)。
ミース・ファン・デル・ローエの設計思想や経歴について詳しくはミース・ファン・デル・ローエプロフィールページをご覧ください。
ノルの歴史や他の製品について詳しくはノルブランドページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | MRチェア / MR Chair(MR10:アームレス/MR20:アーム付き) |
|---|---|
| 別称 | ヴァイセンホーフチェア(Weissenhof Chair) |
| デザイナー | ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe) |
| 協働 | リリー・ライヒ(座面) |
| ブランド | ノル(Knoll/1948年よりライセンス生産) |
| 発表年 | 1927年(ヴァイセンホーフ・ジードルング展) |
| デザインの成立国 | ドイツ |
| 分類 | チェア |
| 主要素材 | フレーム:継ぎ目なしスチールパイプ(ポリッシュクローム)/座面・背もたれ:籐編みまたは革 |
| 構造 | カンチレバー(後脚なし) |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(20.1949、22.1949、23.1949)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(CIRC.101-1970) |
Reference
- MR Armchair | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/1563
- MR chair | Victoria and Albert Museum
- https://api.vam.ac.uk/v2/objects/search?q=CIRC.101-1970