フレデリシア(Fredericia Furniture)

フレデリシアは、1911年にデンマーク・ユトランド半島東部の港湾都市フレデリシアで創業した、デンマークを代表する家具メーカーです。創業以来一世紀以上にわたり家族経営を貫き、デンマーク・モダンデザインの共同創始者として、世界の家具デザイン史に確固たる地位を築いてきました。

ボーエ・モーエンセン、ハンス・J・ウェグナー、ナナ・ディッツェルといったデンマークデザインの巨匠たちとの協働を通じて生み出された数々の名作は、世界中の美術館に収蔵され、今なお人々の暮らしを豊かに彩り続けています。「モダン・オリジナルズ」という理念のもと、時を超えて受け継がれる本物の家具づくりに邁進する同社は、B Corp認証を取得し、持続可能な未来への責任をも担う、現代デンマークデザインの旗手です。

ブランドの特徴・コンセプト

フレデリシアの家具づくりを貫く理念は、「クラフテッド・トゥ・ラスト(Crafted to Last)」——永く愛され続ける家具を職人の手で丹念に仕上げるということです。創業者N.P.ラヴンスーの時代から受け継がれてきた卓越した職人技と、1955年以降のモダニズムとの融合により、機能性と美しさを兼ね備えた普遍的なデザインが生まれました。

同社の製品は、厳選された天然素材——無垢のオーク材やウォールナット、最高級のサドルレザー、手編みのペーパーコードなど——を用いて、デンマーク国内の工房で熟練の職人たちにより製作されます。その品質への自信は、一部製品において25年という長期保証に表れています。

「明快さ、良質な素材、人間への共感、そして何よりも強さ——デザインにおいても、ビジネスにおいても」。1955年から1995年まで同社を率いたアンドレアス・グラヴァーセンが掲げたこの信条は、今日のフレデリシアにおいても脈々と受け継がれています。

ブランドヒストリー

1911年、起業家N.P.ラヴンスーがデンマークのフレデリシア市に「フレデリシア・ストーレファブリック(フレデリシア椅子工場)」を設立しました。創業当初から高品質な素材と優れた職人技にこだわり、伝統的なスタイルの上質な家具で名声を確立。ラヴンスーは1936年に逝去するまで、工場を成功裏に経営しました。

1955年、建築家であり先見の明を持つ起業家でもあったアンドレアス・グラヴァーセンが同社を買収。グラヴァーセンは、デンマーク消費者協同組合(FDB)のデザイン部門責任者を務めていたボーエ・モーエンセンを初代ハウスデザイナーに迎え、フレデリシアの歴史に新たな章を開きました。モーエンセンの「控えめで誠実なデザイン」という哲学は、グラヴァーセンの品質への妥協なき姿勢と見事に調和し、数々の名作が誕生することとなります。

1989年には、ナナ・ディッツェルとの協働が始まり、1993年発表のトリニダードチェアの成功により、ディッツェルはモーエンセンに次ぐ第二のハウスデザイナーとしての地位を確立しました。同年、ハンス・J・ウェグナーが1989年にエリック・ヨーゲンセンの協力を得て再設計したオックスチェアの製造権をフレデリシアが取得し、ウェグナーの名作もコレクションに加わりました。

2020年10月、フレデリシアは1954年創業の老舗家具メーカー、エリック・ヨーゲンセン・ムーベルファブリックを買収。スヴェンボーにある同社の生産施設を維持することで、デンマークの家具製造技術の継承と発展を約束しました。現在もグラヴァーセン家による経営が続き、歴史的遺産と現代文化の架け橋となる先駆的なデザインを世界に発信し続けています。

代表的なインテリアとその特徴

スパニッシュチェア(The Spanish Chair)- 1958年

ボーエ・モーエンセンがスペイン・アンダルシア地方を旅した際に目にした、幅広いアームレストを持つ中世の伝統的な椅子から着想を得て生まれた傑作です。無垢のオーク材またはウォールナット材のフレームに、最高級のサドルレザーを組み合わせた堂々たる佇まいは、使い込むほどに美しい経年変化を見せます。

1958年、コペンハーゲン家具職人ギルド展覧会の革新的な居住空間展示において発表されました。この展示では床からすべてのテーブルが取り除かれ、椅子の幅広いアームレストがサイドテーブルの役割を果たすことで、より開放的でインフォーマルな空間を実現するという新しいライフスタイルが提案されました。植物なめしのサドルレザーは金属のバックルで留められ、使用によってレザーが伸びた際には調整が可能という、機能性と美しさを兼ね備えた設計です。

J39 モーエンセンチェア(J39 Mogensen Chair)- 1947年

「ピープルズチェア(人々の椅子)」の愛称で親しまれるJ39は、ボーエ・モーエンセンがFDB在籍時の1947年にデザインした、デンマークデザイン史上最も成功した椅子のひとつです。75年以上にわたり途切れることなく生産され続け、世界中の家庭、レストラン、公共施設で愛用されています。

無垢材のフレームと手編みのペーパーコード座面という、二つの自然素材を巧みに組み合わせた本作は、師であるカーレ・クリントの教会椅子を発展させ、装飾を極限まで削ぎ落とした純粋な形態を追求しました。シェーカー様式や地中海の伝統的な椅子からも影響を受けたこのデザインは、モーエンセンの「すべての人のための良質な家具」という民主主義的理想を体現しています。コペンハーゲン王立音楽院やデンマーク王立建築アカデミーなど、デンマークを代表する教育機関でも採用されており、まさに国民的椅子と呼ぶにふさわしい存在です。

オックスチェア(Ox Chair)- 1960年

ハンス・J・ウェグナーによる最も大胆で彫刻的な作品であるオックスチェアは、1960年の発表当時、デンマークデザインの控えめな美学に一石を投じる挑戦的なデザインでした。牛の角を思わせる特徴的なヘッドレストと豊満なボディは、ウェグナーの有機的で芸術的なアプローチを象徴しており、ピカソの抽象絵画に触発されたとも伝えられています。

当初A.P.ストーレン社で製造されていましたが、複雑な張り地作業のため、わずか2年で生産中止に。約30年後の1989年、ウェグナーはエリック・ヨーゲンセンに新たな製造方法を相談。イタリアのタイヤメーカー、ピレリへの訪問からヒントを得たフォームラバーの活用により、オックスチェアは復活を遂げ、ミラノ家具見本市で再デビューを果たしました。500脚以上の椅子をデザインしたウェグナー自身が最も愛し、自宅に置いていたのがこのオックスチェアでした。現在でも熟練の職人が1脚を仕上げるのに丸一日を要し、新人の職人がこの椅子の張り地技術を習得するには1年半の訓練が必要とされています。

トリニダードチェア(Trinidad Chair)- 1993年

「デンマークデザインの女王」と称されるナナ・ディッツェルが、カリブ海のトリニダード島で見た植民地時代の建築装飾「ジンジャーブレッド・ファサード」から着想を得てデザインした椅子です。CNC技術による精密な透かし彫りが背もたれに施され、光と影の戯れが空間に独特の動きとリズムを生み出します。

1993年の発表と同時に住宅用・業務用の両市場で即座に成功を収め、フレデリシアの歴史における転換点となりました。ディッツェルはこの作品により、1995年にデンマーク最高のデザイン栄誉であるIDプライズを受賞。透かし彫りによる軽量化は視覚的な軽やかさだけでなく、通気性の確保や音響特性の向上にも寄与し、コンサートホールやオーディトリアムでも重宝されています。スタッキング可能な実用性と、ポストモダニズムの美学を融合させた本作は、モーエンセン以降のフレデリシアに新たな方向性を示しました。

スウーンコレクション(Swoon Collection)- 2016年

コペンハーゲンを拠点とするデザインスタジオ、スペース・コペンハーゲンによるスウーンコレクションは、ニューヨークの11ハワードホテルのためにデザインされました。「Swoon」という名は、「恍惚」や「陶酔」といった強い喜びの感情を意味し、座った瞬間に感じる心地よさを表現しています。

有機的な曲線を持つ彫刻的なシェルが、アームレスト、座面、背もたれをひとつの連続した形態として包み込み、伝統的なラウンジチェアと大型のイージーチェアの間を埋める、よりカジュアルで現代的な新しいタイポロジーを確立しました。スペース・コペンハーゲンの「ポエティック・モダニズム」——対照的な要素のバランスを追求する哲学——を体現した本作は、ホテルのロビーから住宅まで、多様な空間で愛用されています。

主なデザイナー

ボーエ・モーエンセン(Børge Mogensen)1914-1972

デンマーク・モダンデザインを形作った最も影響力のあるデザイナーのひとり。1955年から1972年の逝去までフレデリシアの初代ハウスデザイナーを務めました。コペンハーゲン王立美術アカデミーでカーレ・クリントに師事し、「家具は穏やかさを生み出し、控えめな佇まいであるべき」という信念のもと、世代を超えて愛される日用家具の創造に生涯を捧げました。素材と比率に対する卓越した感覚は、世界中の美術館で賞賛されています。1950年エッカースベル・メダル、1972年C.F.ハンセン・メダル(デンマーク建築界最高の栄誉)を受賞。

ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner)1914-2007

生涯で約500脚の椅子をデザインした、デンマークデザイン「黄金時代」を代表する巨匠。木材への深い愛着と、機能的なデザインに詩的で遊び心のある要素を融合させる才能で知られます。「椅子は背面を見せてはならない。どの角度から見ても美しくなければならない」という言葉に象徴されるように、360度の美しさを追求しました。ルニングプライズ(1951年)、大阪国際デザイン賞(1997年)など数々の栄誉に輝き、ロンドン王立芸術大学から名誉博士号を授与されています。

ナナ・ディッツェル(Nanna Ditzel)1923-2005

ポストモダニズムの精神と伝統への反骨精神をもって、70歳を過ぎてもなおデンマークデザインの革新を牽引した女性デザイナー。グラスファイバー、籐、フォームラバーなど新素材の開拓に情熱を注ぎ、家具だけでなくジュエリー(ジョージ・ジェンセン)、テキスタイル(クヴァドラ社の「ハリングダル」は世界で最も有名な家具用ファブリックのひとつ)など多分野で活躍しました。1989年にフレデリシアとの協働を開始し、1993年のトリニダードチェアの成功により第二のハウスデザイナーとしての地位を確立。1996年、ロンドン王立芸術協会名誉ロイヤルデザイナーに選出されています。

現代のデザイナーたち

フレデリシアは、歴史的遺産を継承しながら現代の文化とも共鳴する家具づくりを追求し、世界的に活躍するデザイナーたちとの協働を続けています。スペース・コペンハーゲン(スウーン、スパインコレクション)、ジャスパー・モリソン(ポンテーブル、タロテーブル)、セシリエ・マンツ(ポストテーブル、ニヴォーコレクション)、バーバー・オズガビー(プランコレクション)、ガムフラテージ、マリア・ブルーン(パイオニアコレクション)、ユーゴ・パソス、竹内圭司など、デザインの誠実さと素材への深い理解を共有するデザイナーたちが、フレデリシアの精神を現代に伝えています。

サステナビリティへの取り組み

フレデリシアは、B Corp認証を取得した企業として、社会的・環境的責任を経営の中核に据えています。B Corpは、社会的・環境的パフォーマンス、透明性、説明責任において厳格な基準を満たす企業のみに与えられる認証であり、フレデリシアはB Impact評価において86.4点を獲得しています(一般企業の中央値は50.9点)。

「世代から世代へと受け継がれる家具」という創業以来の理念は、最も本質的なサステナビリティの実践といえます。FSC認証木材の使用、無毒性仕上げ材の採用、地域社会との協働(デンマークのシーワークス・アトリエとの協働による、製造過程で生じる端材を活用したリサイクルテキスタイル「リボン」の開発など)を推進。さらに、労働市場の周縁にいる女性職人の雇用支援など、社会的包摂にも積極的に取り組んでいます。

基本情報

創業 1911年
創業者 N.P.ラヴンスー(N.P. Ravnsø)
本社所在地 デンマーク、フレデリシア(Treldevej 183, Fredericia, South Denmark 7000)
生産拠点 フレデリシア、スヴェンボー(デンマーク国内)
ショールーム コペンハーゲン、ロンドン、オスロ、ストックホルム、東京
経営 グラヴァーセン家による家族経営(1955年より)
認証 B Corp認証、FSC認証、Nordic Swan Ecolabel、EU Ecolabel、BIFMA規格適合
公式サイト https://www.fredericia.com/