四本脚の椅子から後ろの二本を取り去ると、座面と背もたれは床から宙に持ち出される。1925年から2008年までの10の作品を並べ、後脚のない椅子をどの材料と形で成り立たせてきたかを比べる。

作品ごとの解き方

年 作品 デザイナー 解き方 現在の製造元
1925 ワシリーチェア(クラブチェアB3) マルセル・ブロイヤー 鋼管を使い、後脚は残す ノル
1926 S 33 チェア マルト・スタム 鋼管を直角に曲げる トーネット
1927 MRチェア ミース・ファン・デル・ローエ 鋼管の弧でしならせる ノル
1928 チェスカ・チェア(B32) マルセル・ブロイヤー 鋼管の弧でしならせる トーネット、ノル
1931 スネークチェア ポール・ヘニングセン 鋼管の輪ひとつで支える —
1934 ジグザグチェア ヘリット・リートフェルト 木の板を斜めに組む カッシーナ
1959 コノイドチェア ジョージ・ナカシマ そり型の木脚から張り出す 桜製作所(日本)、ジョージ・ナカシマ・ウッドワーカーズ(米国(ニューホープの工房))
1960 パントンチェア ヴェルナー・パントン 樹脂で一体成形する ヴィトラ
1968 PK20 ラウンジチェア ポール・ケアホルム ばね鋼でしならせる フリッツ・ハンセン
2008 マイトチェア コンスタンティン・グルチッチ 樹脂の厚みでしなりを整える プランク

後脚をなくすという課題

四本脚の椅子では、座面にかかる体重は四本の脚に分かれて床へ流れる。背にもたれると、その力の多くは後ろの二本が受ける。後脚を取り去れば、この力を前方の接地部だけで受け止めなければならない。座面と背もたれは床から宙に持ち出され、椅子はカンチレバー構造になる。

持ち出された部分には、座るたびに曲げる力がかかる。材料は曲げられても折れず、力が抜ければ元の形に戻る必要がある。量産するなら、同じ形を安定して作れることも条件になる。1920年代半ばから現在まで、この条件に合う材料と形が、作品ごとに異なる方法で探られてきた。

解き方の系譜

鋼管を曲げる

継ぎ目のないスチールパイプを曲げて椅子の枠にする方法は、1925年のワシリーチェア(クラブチェアB3)で示されていた。ただしこの椅子は後脚を持つ構成で、鋼管を使いながら後脚は残している。

後脚を省いた最初の椅子とされるのが、マルト・スタムのS 33 チェアである。スタムは1925年頃から配管用のガス管と継手で試作を重ね、1927年にシュトゥットガルトのヴァイセンホーフ・ジードルングで公開した。フレームは直角に近い曲がりで構成され、曲率が小さいぶん、たわむ量も少ない。スタムの関心は座り心地よりも、後脚を省いて椅子が立つかという構造上の問いにあった。

籐の編み面を張った鋼管のカンチレバーチェアを横から見たところ
MRチェアの復刻品。前方の鋼管を大きな弧に曲げているHiermit erkläre ich in Bezug auf das Bild B 42.jpg (Weißenhof-Stuhl), dass ich der Fotograf oder Inhaber des ausschließlichen Nutzungsrechts bin. Ich erlaube, das Bild unter der freien Lizenz Bild-UN zu veröffentlichen. Mir ist bekannt, dass damit in urheberrechtlicher Hinsicht Dritte das Recht haben, das Bild gewerblich zu nutzen und zu verändern. Mir ist bekannt, dass ich diese Einwilligung üblicherweise nicht widerrufen kann und kein Anspruch darauf besteht, dass das Bild dauernd auf der Wiki / パブリックドメイン — Wikimedia Commons

同じ住宅展で公開されたミース・ファン・デル・ローエのMRチェアは、前方の曲がりを大きな弧にした。曲率を大きくとると、たわむ範囲が長くなり、フレーム全体がわずかにしなる。詰め物を厚くしなくても弾力が得られ、座面と背もたれには、荷重に応じて面ごとしなる籐の編み面が組み合わされた。1928年のマルセル・ブロイヤーのチェスカ・チェア(B32)も、一本に曲げた鋼管を跳ね出しの梁として座と背を支え、同じく籐の面と組み合わせている。後脚のない構造は、この段階で、椅子を立たせる方法であると同時に弾力を生む仕組みにもなった。

後脚のない椅子の形をめぐっては、1920年代末からベルリンで裁判が争われた。争点は、この形が技術上の考案なのか、造形上の作品なのかという点にあった。1932年にライプツィヒのライヒ最高裁判所が示した判断で、S 33 チェアの造形上の著作権はスタムにあるとされた。

ポール・ヘニングセンのスネークチェア(1931年設計)は、前方の二点で床を押さえる構成からさらに支持を減らした。一本の鋼管を三つの輪に曲げ、床に置いた輪ひとつで荷重を受ける。デザインミュージアム・デンマークは、この椅子が原理上は脚を1本しか持たない点を挙げている。ただし当時は図面どおりの曲率を安定して出すことが難しく、量産には至らなかった。

木で片持ちを成り立たせる

金属は曲げても粘りがあり、たわんで戻る。木は限界を超えると割れる。ヘリット・リートフェルトのジグザグチェア(1934年)は、座面、背もたれ、斜めの支柱、底板の4枚の板をZ字に組み、脚を持たない構成をとる。弾力で力を逃がすのではなく、蟻継ぎと三角形の補強材で接合部に力を受けさせ、板が開く方向の変形を抑えている。構想の段階では鋼管や積層合板も検討されたが、最終的に木の板4枚が選ばれた。

ジョージ・ナカシマのコノイドチェア(1959年設計、1961年発表)は、2本のそり型の脚から座面を前方へ張り出す。荷重は後方の接地部から前方へ片持ち梁として伝わり、座面の下に脚が現れない。そり型の脚は床と線で接するため、柔らかい床でも沈みにくい。背もたれは細い棒材で構成され、棒がたわむことで背中に沿う。

樹脂で一体に成形する

ヴェルナー・パントンのパントンチェアは、背もたれの上端から座面、床に接する幅広の基部までを一枚の面として一体成形した。鋼管が一本の線で受けていた荷重を、場所ごとに断面の形を変えた面で受ける。床に近い部分は幅を広げて安定を得て、全体は体重をかけるとわずかにしなる。

1959年から1960年にかけて構想されたが、複数の製造業者に技術的な難しさを理由に断られ、1963年に引き受けたヴィトラが4年をかけて量産の方法を探った。1967年の量産開始後も、ガラス繊維で強化したポリエステル樹脂、硬質のポリウレタンフォーム、熱可塑性樹脂と材料が替わり、1979年にいったん生産が止まっている。1983年に構造用のポリウレタンフォームで再開し、1999年にポリプロピレンの仕様が加わった。樹脂で後脚のない椅子を立たせる難しさは、この材料の変遷にそのまま表れている。

ばね鋼でしならせる

ポール・ケアホルムのPK20 ラウンジチェア(1968年)は、鋼管ではなくスプリングスチールのフレームを用いる。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の記録によれば、フレームは垂直と水平が正確に出た状態で組まれたのち、横材が6mmだけたわむように曲げられる。そこへ張地を渡して締め上げると、フレームは元の形へ引き戻される。張力がかかった状態で形が保たれるため、部材を増やさずに剛性が得られ、体重をかけると全体がしなる。

樹脂の厚みでしなりを整える

コンスタンティン・グルチッチのマイトチェア(2007年発表、2008年発売)は、パントンチェア以来の、全体を樹脂で一体成形したカンチレバーの椅子にあたる。溶けた状態で流れやすいエンジニアリングプラスチックを射出成形し、荷重の集まる支持フレームを厚く、身体が触れる座面と背もたれを薄くした。座面と背もたれには穴を並べ、その配置と密度でしなり方を調整している。開発には、素材を開発したBASFと製造元のプランクが当初から加わった。

パントンチェアは面の断面の形で剛性を配分した。マイトチェアは、材料の厚みと穴の密度で配分している。

解き方の比較

比較項目 鋼管を曲げる 木で組む 樹脂で一体成形する ばね鋼でしならせる
荷重を受けるもの 一本に曲げた管 板の組み方と接合部(ジグザグ)、そり型の脚(コノイド) 断面や厚みを場所ごとに変えた面 張力をかけたフレーム
しなり 曲率による。直角に近いS 33は少なく、弧を描くMRチェアやチェスカは大きい 曲げのしなりには頼らず、接合部で力を受ける(ジグザグ)。コノイドは背の棒材がたわむ 全体がわずかにしなる。マイトは穴の配置で調整する 全体がしなる
部材の構成 管と、座面・背もたれの面(籐・革) 4枚の板(ジグザグ)、一枚板の座面と棒材(コノイド) 単一の部材 フレームと張地
製造の条件 曲げ加工の設備と精度。スネークチェアは当時量産に至らなかった 接合部の加工の精度。一枚板は個体ごとに表情が異なる 型と材料の開発。パントンチェアは構想から量産まで7年余りを要した 張力をかけて組む工程

鋼管による解き方は部材が少なく、曲げ加工の設備があれば同じ形を繰り返し作れる。その代わり、座面と背もたれには籐や革の面を別に組み合わせる必要があった。木による解き方は、しならない材料で片持ちを成り立たせるため、弾力を手放す代わりに接合部と脚の形で力を受ける。樹脂の一体成形は、脚から背もたれまでを一つの部材にまとめられるが、成形できる材料が見つかるまでに時間を要し、パントンチェアでは量産後も材料の変更が続いた。ケアホルムのPK20は、張力を構造に組み込むことで、少ない部材のまま剛性としなりを両立させている。

Reference

S 33 | Thonet
https://www.thonet.de/en/products/s-33
MR chair | Victoria and Albert Museum
https://collections.vam.ac.uk/item/O176184/
Original Design: The Cesca Chair | Knoll
https://www.knoll.com/story/shop/original-design-the-cesca-chair
6. Poul Henningsen, Slangestolen, 1932 | Designmuseum Danmark
https://designmuseum.dk/qr-site/6-poul-henningsen-slangestolen-1932/
Panton Chair | Victoria and Albert Museum
https://collections.vam.ac.uk/item/O120670/
Chair, 1968, Poul Kjaerholm | Victoria and Albert Museum
https://collections.vam.ac.uk/item/O176231/
Myto | Plank
https://www.plank.it/en/products/chairs/myto