概要
ヴェルナー・パントン(1926-1998)は、デンマークの建築家・デザイナーである。木と自然色を基調とする同時代の北欧家具から離れ、合成樹脂と鮮やかな彩色を用いた。椅子・照明・テキスタイル・床壁面を同じ設計対象として扱い、部屋全体を一つの構成としてつくる展示を繰り返している。射出成形による一体成形の椅子として1967年にヴィトラが量産したパントンチェアのほか、ルイスポールセンのフラワーポットやパンテラなど照明の仕事も多い。
バイオグラフィー
1926年2月13日、デンマーク・フュン島のガムトフテに生まれた。1944年から1945年までオーデンセで兵役に就き、同時期にオーデンセ工科学校で学んでいる。1947年から1951年までコペンハーゲンのデンマーク王立芸術アカデミーで建築を学び、建築家として修了した。
1950年から1952年までアルネ・ヤコブセンの事務所に勤め、アントチェアの開発に加わっている。成形合板を一枚の面として扱うこの椅子の経験は、以後のパントンが単一材料による一体の椅子を追い続ける出発点になった。
事務所を離れた後、約3年間ヨーロッパ各地を回り、製造業者や販売業者との関係をつくる。1955年にコペンハーゲンで自身の設計事務所を開き、1963年にはスイス・バーゼル近郊のビニンゲンへ拠点を移した。
1958年、父が営むデンマークの飲食店の改装で発表したコーンチェアが注目を集める。この椅子の生産のためにプラス・リニエ社が設立された。1960年代から70年代にかけては、ヴィトラ、ルイスポールセン、フリッツ・ハンセン、バイエルなどと組み、家具・照明・テキスタイル・展示空間を並行して手がけている。1968年と1970年にはケルン国際家具見本市で「ヴィジョナ」の展示空間を担当した。
1970年代後半から80年代にかけては仕事の中心から離れる時期が続いたが、1990年代半ばに20世紀中期のデザインが再評価されるなかで作品の生産と展示が再開された。1998年9月5日、コペンハーゲンで没した。同月、デンマークのトラポルト美術館で予定されていた個展は追悼展として開かれている。
デザインの思想と方法
パントンの仕事の前提には、家具を一点ずつ選んで部屋に置くという考え方への疑いがある。椅子・照明・布・床・壁を別々に決めれば、それらが集まった空間は誰も設計していないことになる。彼はこの隙間を埋めるため、部屋を構成するすべての要素を同時に設計し、展示という形で実物を示し続けた。
単一材料で一体につくる
ヤコブセンの事務所で成形合板の椅子に関わった経験から、パントンは座・背・脚を一つの部材で成立させることを繰り返し試みた。合板では自立に必要な断面が得られないため、材料を樹脂に移す。1950年代末には発泡樹脂で実物大の模型を削り出し、製造業者に持ち込んで実現の可能性を探っている。技術的な条件が整うまで約10年を要し、1967年にヴィトラの手で量産に至った。
色を構造の一部として扱う
パントンにとって色は表面の仕上げではなく、空間の構成要素だった。同じ形の椅子を色ごとに並べる、床と壁と天井で色相を段階的に変える、といった手法で、形を変えずに空間の性格を変えている。1991年にはデンマークデザインセンターから色彩についての論考を刊行し、自身の配色の考え方をまとめた。
座る姿勢を一つに決めない
彼の家具には、正面を向いて座ることを前提としないものが多い。リビングタワーは高さの異なる四つの面を積層した構成で、座る・寝る・もたれるといった姿勢が同じ一体の家具のなかで成り立つ。複数の人が別々の高さに位置することで、視線の関係も通常の椅子とは変わる。家具を単体ではなく、人の配置を決める装置として扱う考え方である。
光源を隠して面を光らせる
照明では、ポール・ヘニングセンから受け継いだ「光源を直接見せない」という原則を、幾何学的な形で解いている。フラワーポットは向かい合う二つの半球で光源を覆い、下側の半球が光を反射してグレアを抑える。パンテラは半球のシェードと円筒のベースの双方を発光させ、光源の位置を意識させない。VPグローブでは球体の内部に色分けした反射板を置き、外皮を透過する光に段階をつくった。
ヴィトラの歴史や他の製品について詳しくはヴィトラ ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
コーンチェア(1958年)
逆円錐の殻を鋼の回転台座に載せた椅子である。四本脚を持たないため、座る向きが固定されず、床面に現れる部材も少ない。円錐という単純な立体をそのまま座面として使う発想は、以後の彼の家具に共通する。この椅子の生産のために設立されたプラス・リニエ社との関係が、初期の製品化を支えた。→コーンチェア
パントンチェア(1959-1960年設計、1967年量産)
座面から背、脚までを一つの部材で構成した椅子である。片持ちで座面を支えるため、断面の変化だけで曲げに耐える形状を決める必要があり、材料と成形法が定まるまで長い時間を要した。初期の量産品は発泡樹脂とファイバーグラス強化樹脂で、1999年以降は着色したポリプロピレンの射出成形となっている。材料が替わっても外形が保たれている点に、形が構造から導かれていることが表れている。→パントンチェア
フラワーポット(1968年)
径の異なる二つの半球を向かい合わせに配置した照明である。上の半球が光源を覆い、下の半球が光を受けて上向きに返す。単純な二つの立体の組み合わせだけで配光を制御しており、シェードの内部に反射板や拡散板を追加していない。彩色は複数展開され、同じ形状のまま空間での役割を変えられる。→フラワーポット VP1
VPグローブ(1969年)
透過性のある球体のシェードの内側に、色分けした金属の反射板を吊る構成をとる。光源は反射板に隠れて直接見えず、光は反射板の色を経てから球体を透過する。単一の光源から複数の色の光を得るという解き方で、色彩を照明の機能に組み込んだ例にあたる。→VPグローブ ペンダントライト
パンテラ(1971年)
半球のシェードと円筒のベースを組み合わせたテーブルランプである。シェードだけでなくベースの内部も光を通すため、光源の位置が判別しにくく、灯具全体が発光しているように見える。二つの基本形の組み合わせという構成は、コーンチェア以来の彼の方法をそのまま照明に移したものといえる。→パンテラ
ヴィジョナ(1968年・1970年)
ケルン国際家具見本市で、化学メーカーのバイエルの依頼により船内につくられた展示空間である。床・壁・天井の区別をなくし、合成繊維で覆った起伏のある面が連続する構成をとった。家具を置くのではなく、床面の形状そのものが座る場所を決める。個々の製品ではなく空間の側から設計するという彼の主題が、最も大きな規模で実現した仕事にあたる。
評価と影響
パントンは一般に、北欧のデザインが木材と手仕事の延長で語られていた時期に、合成樹脂と彩色を主要な手段として持ち込んだ設計者と評価されている。素材の選択が造形の自由度を決めるという関係を、家具の側から示した点が繰り返し言及される。
空間を構成する要素をまとめて設計するという進め方は、その後の商業空間や展示設計に引き継がれた。家具・照明・テキスタイルを別々の分野として扱わない姿勢は、当時としては例が少ない。
1990年代半ば以降、雑誌や広告に彼の家具が繰り返し登場したことで再評価が進み、ヴィトラ、ルイスポールセン、ヴァーパンが復刻と生産を続けている。パントンチェアはヴィトラが自社開発した最初の製品にあたり、同社の製造体制の転換点としても扱われる。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA スタッキングサイドチェア(パントンチェア、1959-60年) 収蔵番号 339.1969
- MoMA スタッキングサイドチェア(1959-60年設計/2004年製作の個体) 収蔵番号 498.2004
- MoMA 入れ子式スツールテーブル(1966年) 収蔵番号 718.1966.1-3
- MoMA VPグローブ ランプ(1970年) 収蔵番号 118.2003
- MoMA スペクトラム テキスタイル(1974年) 収蔵番号 1283.2018
- V&A パントンチェア(1960年) 収蔵番号 CIRC.73-1969、CIRC.74-1969
- Met スタッキングサイドチェア(1960年設計) 収蔵番号 1986.425
- Met コーンチェア 収蔵番号 1984.542.2
- Met テキスタイル「ミラ・スペクトラム」(1970年頃) 収蔵番号 2001.405.2
- AIC ムーンランプ(1960年) 収蔵番号 2015.604
- AIC スタッキングサイドチェア(1973年頃) 収蔵番号 2019.1223
- AIC ユニソル(2002年) 収蔵番号 2010.262
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1955年 | 椅子 | バチェラーチェア / ティボリチェア | Fritz Hansen |
| 1958年 | 椅子 | コーンチェア | Plus-linje / Vitra |
| 1959年 | 照明 | トパン | Louis Poulsen / Verpan |
| 1959年 | 椅子 | ハートコーンチェア | Plus-linje / Vitra |
| 1959-1960年 | 椅子 | パントンチェア | Vitra(1967年量産開始) |
| 1964年 | 照明 | ファン 1DM | Verpan |
| 1966年 | スツール | 入れ子式スツールテーブル | Plus-linje |
| 1968年 | 照明 | フラワーポット VP1 | Louis Poulsen / &Tradition |
| 1968年 | 照明 | フラワーポット VP3 テーブルランプ | &Tradition |
| 1968年 | 家具 | リビングタワー | Vitra |
| 1968年 | 展示 | ヴィジョナ0 | ケルン、ドイツ |
| 1969年 | 照明 | VPグローブ ペンダントライト | Verpan |
| 1969年 | 内装 | シュピーゲル出版社 本社内装 | ハンブルク、ドイツ |
| 1970年 | 展示 | ヴィジョナ2 | ケルン、ドイツ |
| 1971年 | 照明 | パンテラ | Louis Poulsen |
| 1971年 | 照明 | パンテラ フロア | Louis Poulsen |
| 1971年 | 家具 | パントノヴァ | Verpan |
| 1974年 | テキスタイル | ジオメトリ・ラグ | Verpan |
| 1975年 | 椅子 | 「1, 2, 3」シリーズ | Fritz Hansen |
| 照明 | ムーンランプ | Verpan | |
| 照明 | パンテラ ミニ | Louis Poulsen | |
| 照明 | フラワーポット VP9 ポータブル | &Tradition |
プロフィール
| 生没年 | 1926年2月13日〜1998年9月5日 |
|---|---|
| 出身地 | デンマーク・フュン島ガムトフテ |
| 国籍 | デンマーク |
| 活動拠点 | コペンハーゲン、ビニンゲン(スイス) |
| 分野 | 家具、照明、テキスタイル、インテリア |
| 主な協働ブランド | Vitra、Louis Poulsen、Verpan、Fritz Hansen、Plus-linje |
Reference
- Biography | Verner Panton(公式)
- https://www.verner-panton.com/en/person/biography/
- Verner Panton | Vitra
- https://www.vitra.com/en-us/product/designer/verner-panton
- Verner Panton | Domus
- https://www.domusweb.it/en/biographies/verner-panton.html
- Verner Panton | Cooper Hewitt, Smithsonian Design Museum
- https://collection.cooperhewitt.org/people/18045471/bio
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325