コノイドチェアは、20世紀を代表する日系アメリカ人家具デザイナー、ジョージ・ナカシマが1959年にデザインした革新的なダイニングチェアである。建築家としての訓練を受けたナカシマの設計思想が色濃く反映されたこの作品は、わずか2本の脚から片持ち梁構造によって座面を支えるという大胆な構造を特徴とする。その名称は、ナカシマが1957年から1960年にかけてペンシルベニア州ニューホープに建設した「コノイドスタジオ」に由来しており、スタジオの湾曲した天井と外向きに広がる抒情的な空間からインスピレーションを得ている。

このチェアは1961年にコノイドラインとして発表され、ナカシマのキャリアにおける重要な転換点を示す作品となった。建築的要素と木工技術の融合、そして東洋と西洋の美学の調和により、アメリカンスタジオ家具運動を代表する傑作として今日まで高く評価されている。スミソニアンアメリカ美術館、シカゴ美術館、メトロポリタン美術館などの主要機関に収蔵され、現在もジョージナカシマウッドワーカーズと桜製作所の二つの工房でのみ製作が続けられている。

デザインの背景とコンセプト

コノイドチェアの誕生は、ナカシマがコノイドスタジオを建設した1957年から1960年の時期と密接に関連している。このスタジオは、ナカシマの建築実験の集大成とも言える建造物で、薄い波型のコンクリート屋根がわずか一つのアーチによって支えられるという、当時としては極めて野心的な構造を持っていた。南向きに大きく開かれたガラス壁は、冬季の太陽光を最大限に取り入れる設計となっており、この建築物の有機的な曲線と開放的な空間性が、コノイドチェアのデザイン言語に直接的な影響を与えた。

1957年から1961年にかけてのナカシマのキャリアは、より断定的で建築的な形態への転換期として知られている。MIT で建築学の修士号を取得し、アントニン・レーモンドの下でインドのオーロビルアシュラム建設に携わった経験を持つナカシマは、この時期に建築家としての訓練を家具デザインに積極的に取り入れ始めた。コノイドチェアは、この建築的思考が木工技術と融合した結果であり、構造的な大胆さと視覚的な軽やかさを両立させた点において画期的であった。

構造的特徴と技術

カンティレバー構造の革新性

コノイドチェアの最も顕著な特徴は、2本の脚のみで座面全体を支えるカンティレバー構造にある。建築や土木工事で用いられる片持ち梁の原理を椅子設計に応用したこの構造は、座面にかかる荷重を一端でのみ支持し、せん断応力を巧みに分散させることで安定性を実現している。そり型の2本脚は床に接する部分で最大の支持力を発揮し、座面は前方に大胆に張り出す形態を取る。この構造により、視覚的には重力に逆らうような軽快さを保ちながら、実用面では堅牢な座り心地を提供する。

この構造的挑戦は、ナカシマの建築的知識と木材に対する深い理解が結実した成果である。木材の繊維方向、応力分布、そして人間工学的要求を統合的に考慮することで、装飾を排した純粋な構造美を実現している。カーペット敷きの床での移動を考慮した設計でもあり、2本脚の配置は家具の機動性を高めている。

素材の選択と仕上げ

コノイドチェアには、アメリカンブラックウォルナットの一枚板が座面に用いられることが一般的である。ナカシマは木材の自然な美しさを最大限に尊重する姿勢で知られており、座面には木目の流れや節、割れ目といった自然の表情をそのまま活かしている。座面には「座繰り(ざぐり)」と呼ばれる彫り込み加工が施されており、人体の形状に沿った緩やかな曲面が快適な着座感を生み出す。この加工は、見た目の硬質さとは対照的に、長時間の使用でも疲れにくい座り心地を実現する重要な要素となっている。

背もたれを構成する細いスピンドルには、ヒッコリー材が選ばれている。ヒッコリーはその高い強度としなやかさから、細身でありながら十分な支持力を発揮する。ウォルナットの深い色調とヒッコリーの明るい色合いのコントラストは、視覚的なアクセントを生み出すと同時に、各材料の構造的役割を明示する効果も持つ。上部の笠木(背もたれ上部の横木)は緩やかな弧を描き、この曲線がコノイドスタジオの窓壁を想起させる優雅な印象を与えている。

人間工学的配慮

建築家として人体工学を深く学んだナカシマは、コノイドチェアの背もたれと座面の角度を精密に計算している。一見すると直線的で硬質な印象を与えるこの椅子は、実際に座ると腰から背中にかけて自然にフィットし、骨盤を立てて背筋を伸ばす姿勢を促す設計となっている。笠木の形状と位置は、もたれかかったときに心地よい支持感を提供し、長時間の使用でも疲労を最小限に抑える。座面の広さも十分に確保されており、体型を問わず快適に使用できる普遍性を備えている。

デザイン哲学と美学

コノイドチェアは、ナカシマの「木に第二の生命を与える」という哲学を体現した作品である。ナカシマは木材を単なる材料としてではなく、それぞれに固有の歴史と美しさを持つ存在として捉え、樹木の自然な形態や木目の流れを尊重する姿勢を貫いた。工業生産による均一化を拒否し、一枚板の特性を活かした個別性の高い製作手法は、アメリカンスタジオクラフト運動の中核的価値観と合致している。

デザイン言語としては、18世紀から19世紀のアメリカおよびイギリスで制作されたウィンザーチェアの伝統を基盤としながらも、そこに東洋的な美意識を融合させている点が特徴的である。シンプルで機能的なスピンドルバック構造というウィンザーチェアの本質を踏襲しつつ、学術的な模倣を超えて芸術的緊張感を導入している。この東洋的感性は、ナカシマが日本の祖母の農場で過ごした経験や、インド滞在中に学んだインテグラルヨガの影響、そして収容所で出会った日系二世の木工職人から習得した日本の伝統的な継手技術に由来している。

視覚的には、彫刻作品のような芸術的な佇まいを持ちながら、実用性を犠牲にしていない点がコノイドチェアの卓越性を示している。どの角度から見ても絵になる造形美は、空間の中で威風堂々とした存在感を放つ一方、木材の温もりが親しみやすさをもたらしている。この緊張と弛緩のバランス、モダニズムと伝統の調和こそが、ナカシマのアイコノクラスティックな感性の表れであり、コノイドチェアが時代を超えて愛され続ける理由である。

エピソードと制作背景

コノイドチェアの初期作品の一つは、1964年にジョン・ギャラガーという顧客のために制作された。オーダーカードには「1脚はスタジオに」との記載があり、ナカシマ自身がコノイドスタジオでこの椅子を使用していたことを示している。実際、スタジオはデザイン部門の本拠地として機能し、顧客は地下に保管された小さな木材の板から自らテーブルトップを選ぶことができた。この顧客参加型のプロセスは、ナカシマの家具制作における重要な特徴であり、各作品が依頼者との対話の中から生まれることを象徴している。

1974年には、ネルソン・ロックフェラー夫妻の日本風邸宅のために、200点以上の家具が制作された。その中には複数のコノイドベンチも含まれており、「グリーンロック」の署名が記されている。この大規模な委託制作は、ナカシマの家具が富裕層や文化的エリート層から高く評価されていたことを示す象徴的な事例である。一方で、アメリカンスタジオクラフト運動全体が、大量生産への反発から出発しながらも、高額なビスポーク作品を扱うことでエリート主義的とも見なされる矛盾を抱えていた点も指摘されている。

コノイドチェアには、標準的なアメリカンブラックウォルナットやチェリー材以外に、チーク材を使用した稀少な例も存在する。これらの変種は、顧客の要望や特定の空間に対するナカシマの応答として制作され、各椅子が唯一無二の個性を持つことを示している。座面の裏には顧客名や制作日が記され、「一枚板の杢目座面」といった特記事項が残されることもあり、これらの記録は作品の来歴を伝える貴重な証拠となっている。

評価とコレクション

コノイドチェアは、ナカシマの最も象徴的な作品の一つとして、世界中の主要美術館に収蔵されている。スミソニアンアメリカ美術館には1971年製のブラックウォルナットとヒッコリー製の作品が収蔵されており、同館の創設ディレクターであったロイド・E・ハーマンからの寄贈である。シカゴ美術館には1988年にナカシマ自身が「シカゴ美術館/(一枚板の杢目座面)/ジョージ・ナカシマ、1988年4月29日」と署名した作品が収められており、レイモンド・W・ガーブ基金によって購入された。メトロポリタン美術館には1986-87年製のコノイドラウンジチェアが所蔵されている。

オークション市場においても、コノイドチェアは高い評価を受けている。2024年にラゴオークションで販売された8脚セットは、各椅子にナカシマの署名と「1986年8月8日」の日付が記されていた。ライトオークションでは、通常のウォルナットではなくチーク材を使用した稀少な4脚セットが出品され、各椅子の座面裏には顧客名「ライフシュッツ」が記されていた。これらの取引実績は、コノイドチェアがコレクターや美術館にとって重要な収集対象であることを示している。

批評的には、コノイドチェアはアメリカンミッドセンチュリーモダンを代表する椅子として位置づけられている。ナカシマの娘ミラ・ナカシマが著した『Nature Form and Spirit: The Life and Legacy of George Nakashima』(Harry N. Abrams, 2003)では、コノイドラインについて詳述されており、この作品群がナカシマのキャリアにおいて持つ重要性が強調されている。木工芸術における革新性、構造的大胆さ、そして時代を超越した美学により、コノイドチェアは20世紀家具デザインの古典として確固たる地位を築いている。

バリエーションと展開

コノイドチェアを起点として、複数のバリエーションが開発されている。最も注目すべきは、1976年に日本人建築家の齋藤裕のために特別にデザインされたコノイドラウンジチェアである。通常のダイニングチェアよりも幅が広く座高が低いこの変種は、よりリラックスした姿勢での使用を想定しており、市場での流通も少ない稀少性の高いモデルとして知られている。構造的基本原理はコノイドチェアと共通しているが、プロポーションの変更により異なる空間的印象を生み出している。

コノイドベンチは、コノイドラインの中でも最もダイナミックな座具としてデザインされた。ウィンザーベンチの伝統から着想を得ながらも、ナカシマは学術的な複製を超えて芸術的緊張感を導入し、東洋的感性を明確に表現した。一枚板の座面、ヒッコリーのスピンドル、そしてローズウッドの蝶々継ぎによる補強という構成は、コノイドチェアの美学を拡張したものである。長さは多様で、4フィート(約120cm)から9フィート(約270cm)以上に及ぶ作例が存在している。

コノイドクッションチェアやコノイドクッションアームは、座面にクッションを配した変種であり、より長時間の着座に対応している。また、コノイドラインには椅子だけでなく、コノイドデスクやコノイドダイニングテーブルといった他の家具カテゴリーも含まれている。これらはすべて、コノイドスタジオの建築的語彙を共有し、カンティレバー構造や幾何学的形態といった統一されたデザイン原則に基づいている。1959年にエドワード・フィールズと共同制作された「コノイドI」ラグは今もスタジオに展示されており、2013年には娘ミラとの協力により「コノイドII」ラグが制作された。

現在の製造と入手可能性

ジョージ・ナカシマの家具は、現在世界でわずか二つの工房でのみ正式に製造されている。一つはペンシルベニア州ニューホープにあるジョージナカシマウッドワーカーズで、ナカシマの娘ミラ・ナカシマが父の遺志を継ぎ、設立以来の制作哲学を守り続けている。もう一つは日本の香川県高松市に本拠を置く桜製作所である。1948年創業の桜製作所は、ナカシマとの出会いから半世紀以上にわたってナカシマデザインの家具を製作してきた。両工房とも、ナカシマ手書きの設計図に忠実に従い、厳選された銘木を用いた受注生産を行っている。

桜製作所が製造するコノイドチェアは、幅535mm、奥行570mm、高さ900mm、座面高440mmの寸法で、重量は約7.4kgである。主材料はブラックウォルナットで、背もたれのスピンドルにはホワイトアッシュが使用される。オイル仕上げが施され、木材の自然な質感と経年変化を楽しむことができる。価格は30万円程度からとなっており、受注後の製作には約9ヶ月を要する。この長い製作期間は、職人による手作業での丁寧な仕上げと、材料の選定に時間をかけることの証である。

ジョージナカシマウッドワーカーズでは、各作品が唯一無二の存在として製作される。顧客はスタジオの地下にある木材の貯蔵庫から、自らテーブルトップや座面用の板を選ぶことができ、木目や色合い、自然の欠損といった個性的な特徴を考慮しながら最終的なデザインが決定される。この参加型のプロセスは、ナカシマが生前から実践していた手法であり、家具と所有者との深い結びつきを生み出す重要な要素となっている。完成した作品には製作者の署名と日付、そして顧客名が記され、その来歴が永続的に記録される。

影響と遺産

コノイドチェアは、20世紀後半の家具デザインに多大な影響を与えた。カンティレバー構造を木製椅子に応用した例は、マルセル・ブロイヤーのスチールパイプ製カンティレバーチェアなど他にも存在するが、ナカシマは木材の有機的性質を活かしながらこの構造的挑戦を実現した点で独自性を示している。建築的思考と木工技術の融合、そして東洋と西洋の美学の調和という彼のアプローチは、後続の家具デザイナーたちに新たな可能性を示した。

アメリカンスタジオクラフト運動における彼の位置づけも重要である。ウォートン・エシェリック、サム・マルーフ、ウェンデル・キャッスルといった同時代の作家たちと共に、ナカシマは工業的生産手法を拒否し、職人による手仕事の価値を再興した。繊維、木材、粘土といった自然素材への敬意、そして製作者が構想から完成まで全工程を管理するという姿勢は、大量生産社会への反発として生まれた。しかし同時に、これらの作品が富裕層向けの高額なビスポーク品として取引されることで、運動自体がエリート主義的と見なされる矛盾も抱えていた。

ナカシマの遺産は、彼が1945年に購入したニューホープの12エーカーを超える敷地に今も息づいている。この敷地には18棟の建物が建ち、そのうち7棟が住居、残りが家具製作と流通に関わる施設として機能している。コノイドスタジオは2014年にアメリカ国定歴史建造物に指定され、同年にはワールド・モニュメント・ファンドの危機遺産リストにも掲載された。これらの認定は、ナカシマの建築と家具が単なる商業的成功を超えて、文化的遺産として保護すべき価値を持つことを示している。娘ミラによる工房の継承と、桜製作所との継続的な協力関係により、ナカシマの哲学は今日も生きた伝統として受け継がれている。

基本情報

デザイナー ジョージ・ナカシマ(George Nakashima)
デザイン年 1959年
導入年 1961年(コノイドラインとして発表)
製造元 ジョージナカシマウッドワーカーズ(米国ペンシルベニア州ニューホープ)、桜製作所(日本・香川県高松市)
主要素材 アメリカンブラックウォルナット(座面)、ヒッコリー(背もたれスピンドル)
サイズ(桜製作所) 幅535mm × 奥行570mm × 高さ900mm、座面高440mm
サイズ(スミソニアン収蔵品) 高さ898mm × 幅524mm × 奥行476mm
重量 約7.4kg
仕上げ オイルフィニッシュ
構造 カンティレバー(片持ち梁)構造、2本脚
主要コレクション スミソニアンアメリカ美術館、シカゴ美術館、メトロポリタン美術館
価格帯(新品・桜製作所) 約30万円〜(受注生産)