桜製作所
桜製作所は、1948年の創業以来、香川県高松市を拠点に注文家具を作り続けてきた木工家具メーカーです。20世紀を代表する日系アメリカ人家具デザイナー、ジョージ・ナカシマとの歴史的な出会いにより、世界で唯一、アメリカのニューホープ工房以外でナカシマデザインの家具を正式に製造することを許された工房として、国際的に高い評価を受けています。
「いいものを、長く、大切に」「美しいものは変わらない」という不変の理念のもと、厳選された無垢材を用い、熟練の職人による手仕事で一点一点丁寧に家具を製作。木の声を聴き、木と対話しながら、その生命を家具として甦らせる姿勢は、創業から七十余年を経た今日も脈々と受け継がれています。
ブランドの特徴・コンセプト
「人と木と美」を三大テーマとするクラフトマンシップ
桜製作所のものづくりの根幹には、「人と木と美」という三つの要素を尊重する精神が息づいています。木匠ジョージ・ナカシマから直接伝授された「木から始め、木を知り、木のこころを読み、そして木と対話する」という哲学は、同社の家具製作における揺るぎない指針となっています。
使用される木材は、ブラックウォルナットをはじめとする厳選された無垢材。節や割れ目といった木の自然な表情を欠点としてではなく、かけがえのない個性として活かす技法は、ナカシマの思想を継承するものです。製材した木材を開いて蝶々のような形のチギリ(契り)で留める「ブックマッチ」など、伝統的な木組みの技法を駆使し、釘を用いない寺社建築の工法を家具に応用した製作手法は、桜製作所ならではの特徴といえます。
すべての製品は受注生産を基本とし、注文から納品まで数ヶ月を要することも珍しくありません。この時間こそが、職人が木と真摯に向き合い、最高の品質を追求する姿勢の表れです。
ブランドヒストリー
創業と初期の歩み
1948年、高松市番町にて、高松顕(初代社長)と建築設計技師の永見眞一の二人によって「サクラ製作所」は創業されました。モダンオリジナル家具の製造会社として出発した同社は、当初、外国のインテリア雑誌などを参考に試行錯誤を重ねながら、独自のスタイルを築いていきました。
社名の由来となった「桜」の木は、木目が緻密で時が経っても狂いが少なく、高品質な家具づくりに適した素材として早くから支持を得ていました。1951年には高松市花園町に移転し、株式会社桜製作所として設立登記。1958年には、建築家・丹下健三が設計した香川県庁舎の家具工事を手がけるなど、その技術力は着実に認められていきました。
讃岐民具連との出会いとジョージ・ナカシマとの邂逅
桜製作所の歴史における転機は、1958年に彫刻家・流政之との出会いから始まります。当時の香川県知事・金子正則は「デザイン知事」と呼ばれ、猪熊弦一郎や丹下健三らと親交を持ち、創造都市の概念を半世紀も前に先取りしていました。イサム・ノグチが牟礼町に、流政之が庵治町にアトリエを構えるなど、香川はデザインと工芸の一大拠点となりつつありました。
1963年、流政之が中心となり「讃岐民具連」が設立されます。これは大都市の影響を受けずに、職人の手を活かしたプロダクトを作り出そうという運動であり、桜製作所もこれに参加。翌1964年、流政之の紹介により、ジョージ・ナカシマが初めて高松を訪れ、桜製作所との運命的な出会いを果たしました。
すでにアメリカで家具デザイナーとして名声を博していたナカシマは、桜製作所の職人たちの卓越した技術力に感銘を受け、讃岐民具連の理念に深く共感。以来、桜製作所は世界で唯一、ナカシマが自身の工房以外にライセンスを許した工房となり、ナカシマデザインの家具製作が始まりました。
ナカシマ家具の普及と発展
1968年、東京・新宿の小田急ハルクにて第1回「ジョージ・ナカシマ展」が開催され、日本で初めて本格的にナカシマの家具が紹介されました。この展覧会は1991年の追悼展まで計8回開催され、ナカシマデザインの家具は日本においても広く認知されるようになりました。
同じく1968年には、讃岐民具連の名を冠した「ミングレンシリーズ」の家具を発表。翌1969年には東京国立近代美術館にミングレンIIテーブルとコノイドチェアが納められるなど、その芸術的価値は公的にも認められました。
1978年にはイサム・ノグチが手がけた草月会館1階ロビー作品の木工部分を担当。1988年にはセシール本社ビルの内装・家具工事、1995年には東京都現代美術館のカウンターやベンチの製作を手がけるなど、桜製作所の活動は着実に広がっていきました。
記念館の設立と現在
1990年にジョージ・ナカシマが逝去した後も、その精神と技術は娘のミラ・ナカシマが率いるアメリカ・ニューホープの工房と、桜製作所の両者によって継承されています。2008年、創業60周年を記念して、香川県高松市牟礼町に「ジョージ ナカシマ記念館」を開館。建築家時代の初期の椅子から桜製作所での製作第一歩となったサンプル、直筆の手紙や図面など約60点の作品を通じて、ナカシマの生き方と哲学を伝えています。
現在、桜製作所は高松の本社工場に加え、高松店(2002年開設)と銀座店(2004年開設)のショールームを展開。ナカシマデザインの家具製作を核としながら、喜多俊之による「SAKURA collection」など、新たなデザイナーとのコラボレーションにも積極的に取り組み、伝統と革新を両立させた活動を続けています。
主なインテリアとその特徴
コノイドチェア(Conoid Chair)
1959年にジョージ・ナカシマがデザインした代表作。ナカシマがペンシルベニア州ニューホープに建設した「コノイドスタジオ」(屋根がシェル構造=円錐曲線)のためにデザインされたことから、この名が付けられました。
最大の特徴は、建築の片持ち梁(カンティレバー)構造を応用した2本脚のデザイン。ソリ型の脚から突き出した分厚い座面は、緻密に計算された力学と形態により、無駄のない緊張感を醸し出します。背もたれのスポークにはホワイトアッシュ、座面と脚にはブラックウォルナットを使用し、色味と木肌のコントラストが特徴的です。
建築家としての経験を持つナカシマならではの構造美が凝縮された一脚であり、着座すると背筋が自然と伸び、骨盤が立つ心地よさを体感できます。彫刻作品のような芸術的美しさと実用性を兼ね備えた、20世紀を代表する名作椅子です。
ラウンジアーム(Lounge Arm)
1962年にデザインされた、ナカシマの椅子の中でも「最もナカシマらしい」と評される作品。自然の木そのものを感じさせる自由な形状のアームと、ゆったりとした広い座面が特徴のローチェアです。
17世紀にイギリスで生まれたウィンザーチェアの要素を色濃く残しながら、アーム部分には原材料の自然な樹形を活かした無垢板を使用。一点一点異なる木の表情が、唯一無二の個性を生み出します。沈み込むことなく身体を支え、美しい姿勢を保ちながらくつろげる設計は、使い込むほどに深まる「美」を追求したナカシマの哲学の結晶です。
ミラチェア(Mira Chair)
1955年にデザインされた、ストレートバックチェアの後継モデル。ナカシマの娘ミラの名を冠したこの椅子は、背もたれの両端のスポークを貫通させて楔(くさび)で固定する独特の構造が特徴です。座面の削り出しの美しさも見どころの一つで、シンプルでありながら細部にまで職人の技が光る一脚です。通常のダイニングチェアタイプに加え、ハイスツールタイプも製作されています。
ミングレンシリーズ(Minguren Series)
1968年に発表された、讃岐民具連の名を冠したシリーズ。ナカシマと桜製作所のコラボレーションを象徴する製品群であり、日本の民具が持つ洗練された造形美を現代に甦らせることを目指しています。
代表的なミングレンIIテーブルは、天板の迫力と木材が生み出す自然の姿が魅力。1969年には東京国立近代美術館に納められ、その芸術的価値が公に認められました。ナカシマ自身、ニューホープのコノイドスタジオ敷地内に「MUSEUM MINGUREN(民具連会館)」を開館するほど、このシリーズに思い入れを持っていました。
ニューチェア(New Chair)
ミラチェアのラウンジタイプとして位置づけられる椅子。座が広く低くなっており、安定感のある佇まいが特徴です。アームタイプの「ニューチェア アーム」も製作されており、リビングでゆったりと過ごすための椅子として人気を博しています。
主なデザイナー
ジョージ・ナカシマ(George Nakashima, 1905-1990)
桜製作所の歴史において最も重要なデザイナー。1905年、アメリカ・ワシントン州スポケーンに日系二世として生まれました。ワシントン大学で建築を学んだ後、MITで建築学修士号を取得。1930年代に来日し、アントニン・レーモンドの建築事務所で働きながら、日本の伝統的な美意識と木工技術に深く触れました。
第二次世界大戦中の日系人強制収容所での経験を経て、1945年にペンシルベニア州ニューホープに工房を開設。「木から始め、木を知り、木のこころを読み、そして木と対話する」という哲学のもと、木の自然な姿を最大限に活かした家具を生み出し、20世紀を代表する家具デザイナーの一人となりました。
1964年に桜製作所と出会い、以来、両者の協働により数々の名作が生まれました。1986年に出版された『The Soul of a Tree(木のこころ)』は、その思想を伝える重要な著作として知られています。
ミラ・ナカシマ(Mira Nakashima)
ジョージ・ナカシマの娘として、1970年からニューホープの工房で働き始め、父の逝去後は「ジョージ・ナカシマ ウッドワーカーズ」を継承。現在もナカシマデザインの家具製作を監修し、桜製作所との連携を続けています。自身もデザイナーとして活躍し、2003年に発表した「コンコルディアチェア」は弦楽器演奏者のために形状が工夫された椅子として知られています。
喜多俊之(Toshiyuki Kita, 1942-)
大阪生まれのプロダクトデザイナー。1969年よりイタリアと日本を拠点に活動し、カッシーナ社から発表した「WINKチェア」(1980年)はニューヨーク近代美術館の永久コレクションに選定されるなど、国際的に高い評価を受けています。
桜製作所とのコラボレーションにより、2024年に「SAKURA collection」を発表。木の特性を生かした構造とサステナブルな時代に求められるコンセプトを融合させた、椅子、テーブル、ユニットソファなどの家具シリーズを展開しています。
讃岐民具連のデザイナー・職人たち
1963年に彫刻家・流政之を中心に設立された讃岐民具連には、桜製作所をはじめとする香川の木工、石工、漆、瓦などの職人たちが参加しました。大都市の影響を受けずに職人の手を活かしたプロダクトを作り出すという理念は、ジョージ・ナカシマの共感を呼び、桜製作所との出会いのきっかけとなりました。
ジョージ ナカシマ記念館
2008年、桜製作所創業60周年を記念して開館した「ジョージ ナカシマ記念館」は、香川県高松市牟礼町に位置し、ナカシマの生き方とものづくりの哲学を作品を通じて伝える施設です。
1930年代、レーモンド事務所で建築家として勤めていた時代に設計した軽井沢・聖パウロ教会の椅子をはじめ、1964年に桜製作所での製作第一歩としてアメリカの工房から送られてきたサンプル、1968年の第1回小田急ハルク展の出品作など、日米両国で製作された約60点の作品を所蔵。直筆の手紙や図面とともに展示されています。
1階の喫茶コーナーでは、ナカシマの椅子に実際に座りながら、その座り心地を体感することができます。アメリカ・ニューホープの工房以外で、ジョージ・ナカシマの作品をこれほど堪能できる場所は世界で他にありません。
基本情報
| 正式名称 | 株式会社桜製作所 |
|---|---|
| 創業 | 1948年(昭和23年) |
| 設立登記 | 1951年(昭和26年) |
| 創業者 | 高松顕(初代社長)、永見眞一 |
| 本社・工場所在地 | 香川県高松市牟礼町大町 |
| ショールーム | 高松店(香川県高松市天神前)、銀座店(東京都中央区銀座3-10-7 ヒューリック銀座三丁目ビル1F) |
| ジョージ ナカシマ記念館 | 香川県高松市牟礼町大町1132-1 開館時間 10:00-17:00(入場は16:30まで) 休館日:日曜・祝日・お盆・年末年始 |
| 公式サイト | https://www.sakurashop.co.jp/ |
沿革
- 1948年
- 高松市番町にて高松顕と永見眞一がサクラ製作所を創業
- 1951年
- 高松市花園町に移転、株式会社桜製作所の設立登記
- 1958年
- 香川県庁舎(丹下健三設計)の家具工事を手がける。彫刻家・流政之と出会う
- 1963年
- 流政之が中心となった「讃岐民具連」に参加
- 1964年
- ジョージ・ナカシマが初来高。木工の理念の指導を受け、ナカシマ家具のライセンス生産開始
- 1968年
- 東京・小田急ハルクにて第1回「ジョージナカシマ展」開催。ミングレンシリーズを発表
- 1969年
- 東京国立近代美術館にミングレンIIテーブル、コノイドチェアを納める
- 1976年
- 高松顕、永見眞一がニューホープのジョージ・ナカシマスタジオを訪問
- 1978年
- イサム・ノグチ作品(草月会館1階ロビー)の木工部分を担当
- 1988年
- セシール本社ビルの内装・家具工事を担当
- 1990年
- ジョージ・ナカシマ逝去
- 1995年
- 東京都現代美術館のカウンター、ベンチなどを製作
- 2002年
- 香川・高松にショールームをオープン
- 2004年
- 東京・銀座に「GINZA桜SHOP」をオープン
- 2008年
- 創業60周年記念事業として「ジョージ ナカシマ記念館」を開館
- 2024年
- 喜多俊之デザインによる「SAKURA collection」を発表