概要
コンスタンティン・グルチッチ(1965年生まれ)は、ドイツの工業デザイナーである。家具職人としての訓練を受けたのちロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学び、1991年にミュンヘンで事務所を開いた。材料の力学的な条件から形を決める進め方をとり、三角形の骨組みを組んだチェア・ワン、樹脂だけで片持ちを成立させたマイトなどを設計している。マジス、フロス、ヴィトラ、プランクなどと協働し、コンパッソ・ドーロ賞を3回受けた。
バイオグラフィー
1965年、ドイツのミュンヘンに生まれた。1985年から1987年まで、イギリス・ドーセット州のジョン・メイクピース・スクールで家具職人としての訓練を受けている。続いて1988年から1990年まで、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで工業デザインを学び、修士号を得た。
修了後、ジャスパー・モリソンの事務所に短期間勤めている。1991年、26歳でミュンヘンに Konstantin Grcic Industrial Design(KGID)を設立し、のちにベルリンへ拠点を移した。現在は Konstantin Grcic Design として、製品設計のほか展示設計にも携わっている。
2020年から2024年までハンブルク造形美術大学の教授を務め、現在は名誉教授である。2009年に英国王立芸術協会からロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリーに選ばれ、2010年にはローマのヴィラ・マッシモのフェローとなった。
デザインの思想と方法
グルチッチの設計は、形の好みからではなく、その材料と加工でどこまで持たせられるかという問いから始まる。断面をどう変えれば必要な剛性が得られるか、どこに材料を足しどこから抜くか——その計算の結果が、そのまま外形として現れる。鋭い角や折れ面が特徴として語られることが多いが、それらは意匠上の選択というより力学的な帰結にあたる。
面を分割して剛性をつくる
チェア・ワンは、座面と背を連続した曲面ではなく、三角形の枠を組み合わせた立体として構成している。枠の交点で力を受けるため、面全体を厚くする必要がない。アルミニウムのダイカストで成形され、開口があることで屋外に置いても水が溜まらない。面を減らして骨組みだけを残すという操作が、構造と用途の両方を満たしている。
材料の限界を確かめてから形を決める
マイトは、化学メーカーのBASFが持つ高強度の樹脂を家具に適用できるかという検討から出発した。片持ちの椅子は、座る人の荷重が背と脚の付け根に集中する。グルチッチは座面と背に格子状の抜きを設け、断面を場所ごとに変えることで、金属の補強なしに樹脂だけで成立させた。材料が先にあり、それが許す範囲で形を決めるという順序である。
角を離れる
チェア・ワンの評価が定まると、角ばった造形が自身の様式として扱われるようになった。グルチッチはこれを繰り返すことを避け、ミウラでは曲面に移っている。設計上の主題は変えず、表れる形の側を意図的に外すという判断で、様式として固定されることへの対処にあたる。
手で試し、計算で詰める
複雑な曲面の設計には計算機を用いるが、検討の初期には紙を折って模型をつくる。チェア・ワンも編んだ紙の模型から始まっている。手で作れる範囲で全体の構成を決め、そこから先を計算に渡すという二段の進め方をとる。
マジスの歴史や他の製品について詳しくはマジス ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
メイデイ(1998年)
フロスのために設計した携行できる照明である。円錐形のポリプロピレンのシェードに、把手を兼ねたフックとコードの巻き取りを組み込んだ。置く・掛ける・吊るすのいずれでも使えるため、設置場所を設計時に決める必要がない。用途を絞らないことで成立する道具という設定にあたる。2001年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。
チェア・ワン(2004年)
マジスのために設計した椅子で、座面と背を三角形の枠の集合として構成する。アルミニウムのダイカストで一体に成形され、枠の交点が荷重を受ける。面を持たないため軽く、開口から水が抜けるので屋外でも使える。コンクリートの円錐台を台座とする仕様も用意され、公共空間での固定を要さない。→チェアワン / チェア ワン コンクリート ベース
ミウラ(2005年)
プランクのために設計したスツールで、チェア・ワンの角ばった構成から離れ、連続する曲面を用いた。強化ポリプロピレンの射出成形で作られ、座面と脚の表面に格子状の抜きを設けて、薄い肉厚のまま剛性を確保している。積み重ねたときに互いが噛み合う形状で、多数を保管できる。→ミウラスツール
マイト(2008年)
BASFの高強度樹脂を用いた片持ちの椅子である。金属の補強を持たず、樹脂だけで座面を支える。座と背に設けた格子は装飾ではなく、断面二次モーメントを保ちながら重量を落とすための処理にあたる。樹脂のみで片持ちを成立させた例としては、1960年代のパントンチェア以降で早い時期のものになる。2011年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。→マイトチェア
360°(2009年)
ヴィトラのために設計した、作業のための座具である。座面が回転し、脚部の車輪で移動できる一方、背もたれを持たず、腰掛ける・寄りかかる・立つの中間の姿勢を想定している。机に向かい続けることを前提としない働き方に対応させたもので、姿勢を一つに固定しないという設定が寸法を決めている。→360° チェア / 360°コンテナ
評価と影響
グルチッチは一般に、2000年代以降のヨーロッパの工業デザインにおいて、構造と材料の条件から形を導く方向を代表する設計者と評価されている。同時期に活動するジャスパー・モリソンらが既存の類型を整理する方向をとったのに対し、材料の限界を試すことで新しい形式を得る方向をとった点が対比される。
BASFとプランクによるマイトの開発は、家具メーカー単独では扱えない材料を、化学メーカーとの協働によって製品に載せた例として言及される。設計者・素材メーカー・家具メーカーの三者が同じ開発に加わる形式は、以後の樹脂家具にも見られる。
2020年から2024年までハンブルク造形美術大学で教え、展示の企画にも継続的に関わっている。2009年のロンドン・サーペンタイン・ギャラリーでの「Design Real」、2012年のヴェネツィア建築ビエンナーレ・ドイツ館の展示設計などがある。
受賞・収蔵
受賞
- 2001年 コンパッソ・ドーロ賞(メイデイ)
- 2009年 ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
- 2010年 ヴィラ・マッシモ フェロー(ローマ)
- 2011年 コンパッソ・ドーロ賞(マイト)
- 2016年 コンパッソ・ドーロ賞(OKランプ)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA メイデイ ランプ(1998年) 収蔵番号 293.1999
- MoMA ベース(2000年) 収蔵番号 496.2005
- MoMA ミウラ スタッキングスツール(2003年) 収蔵番号 568.2006.1-9
- MoMA マイト チェア(2007年) 収蔵番号 441.2008.1-8
- MoMA 360° チェア(2009年) 収蔵番号 125.2010
- MoMA 360° スツール(2009年) 収蔵番号 126.2010
- V&A モノ テーブル(1995年) 収蔵番号 W.7-1997
- V&A メイデイ ランプ(1999年) 収蔵番号 W.2-2020
- V&A チェア・ワン(2002年) 収蔵番号 W.6-2007
- V&A 360 チェア(2009年) 収蔵番号 W.4-2022
- AIC H2O 屑入れ(1994年) 収蔵番号 2009.604.1
- AIC カオス チェア(2001年) 収蔵番号 2009.617
- AIC メイデイ ランプ(1998年) 収蔵番号 2007.58
- AIC チェア・ワン(2003年) 収蔵番号 2007.57
- AIC オソロム ベンチ(2004年) 収蔵番号 2009.601
- AIC ヴィーナス チェア(2006年) 収蔵番号 2009.618
- AIC ミウラ ビストロテーブル(2007年) 収蔵番号 2009.624
- AIC マイト チェア(2008年) 収蔵番号 2009.626.1
- AIC モンツァ チェア(2009年) 収蔵番号 2009.625.2
- AIC ウェーバー チェア(2011年) 収蔵番号 2012.507
- AIC マン・マシーン チェア(2014年) 収蔵番号 2018.71
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1995年 | テーブル | モノ テーブル | SCP |
| 1998年 | 照明 | メイデイ | Flos |
| 2004年 | 椅子 | チェアワン | Magis |
| 2004年 | 椅子 | チェア ワン コンクリート ベース | Magis |
| 2004年 | 椅子 | チェアワン パブリック シーティングシステム | Magis |
| 2005年 | スツール | ミウラスツール | Plank |
| 2008年 | 椅子 | マイトチェア | Plank |
| 2009年 | 椅子 | 360° チェア | Magis |
| 2009年 | 椅子 | モンツァチェア | Plank |
| 2010年 | 収納 | 360°コンテナ | Magis |
| 2011年 | テーブル | テーブルワン ビストロ | Magis |
| 2011年 | 椅子 | ウェーバー チェア | Vitra |
| 2013年 | 什器 | トム・アンド・ジェリー | Magis |
| 2016年 | 照明 | OK | Flos |
| 2019年 | 照明 | ノクタンビュール | Flos |
プロフィール
| 生年 | 1965年5月9日 |
|---|---|
| 出身地 | ドイツ・ミュンヘン |
| 国籍 | ドイツ |
| 活動拠点 | ベルリン |
| 分野 | 家具、照明、展示設計 |
| 主な協働ブランド | Magis、Flos、Vitra、Plank、Cassina、ClassiCon |
Reference
- Konstantin Grcic Design(公式)
- https://konstantin-grcic.com/
- Konstantin Grcic | Magis
- https://www.magisdesign.com/designer/konstantin-grcic/
- Konstantin Grcic | Flos
- https://flos.com/designers/konstantin-grcic/
- Konstantin Grcic | Vitra
- https://www.vitra.com/en-us/product/designer/konstantin-grcic
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325