一方の端だけを固定し、反対側を支点なしで張り出させた構造。片持ち梁ともいう。椅子では後脚を持たず、材そのものがたわんで座り心地になる。1920年代の成立の経緯、考案者をめぐる訴訟、S33やMRチェアなど代表的な椅子を扱う。

カンチレバー構造

カンチレバー構造とは、部材の一方の端だけを固定し、反対側には支点を設けずに張り出させた構造のこと。日本語では片持ち梁という。英語では cantilever と表記する。

解説

もとは建築や橋梁の構造形式を指す語である。両端を支える単純梁と異なり、荷重はすべて固定端が受け持つ。そのため固定端には大きな曲げモーメントが生じ、先端に向かうほどたわみが大きくなる。建築ではバルコニーや張り出した床、橋梁では中央部を左右から伸ばして架ける工法などに用いられる。

椅子への応用は1920年代に始まる。オランダの建築家マルト・スタムは1925年からガス管を継いで実験を重ね、1926年に後脚のない椅子の試作をロッテルダムでつくった。翌1927年、シュトゥットガルトのヴァイセンホーフ住宅展で自ら設計した住戸の家具として発表されたのがS 33 チェアである。同じ展覧会にはミース・ファン・デル・ローエのMRチェアも並び、まもなくマルセル・ブロイヤーも同じ形式の椅子を手がけた。前脚から座面の下を通って背もたれまでを一続きの材で構成し、後脚を省くという考え方が、工業製品としてのスチールパイプが安価に流通しはじめた時期と重なっている。

この構造が椅子にもたらしたものは、床に接する脚が減ることによる見た目の軽さだけではない。後脚が無いため椅子を引く動作の妨げが減り、床の清掃もしやすい。加えて、固定端から先が長く張り出すことで材そのものがしなり、荷重に応じて座面と背もたれがたわむ。金属のばね性がそのまま座り心地になるという点が、詰め物によるクッションとは異なる性格を与えている。

誰が考案者かをめぐる争いは法廷に持ち込まれた。スタムとブロイヤーのあいだで続いた訴訟は1932年に決着し、スタムに造形上の権利が認められている。日用品の造形について作者の権利が正面から争われた初期の例として知られ、トーネット社はこの結果を受けて該当するモデルの名称を改めた。造形の権利をめぐる制度そのものについては意匠権で扱う。

一方で、固定端に応力が集中するため材料の条件は厳しい。引張と曲げに耐え、繰り返しの変形で疲労しにくい材が必要になる。初期にスチールパイプが用いられたのはこのためであり、1930年代にはアルヴァ・アアルトが成形合板で同じ原理を成立させている。なお、後脚が細く目立たないだけで実際には床に接している椅子は、外観が似ていてもカンチレバー構造ではない。

Reference

Mart Stam(Thonet GmbH)
https://www.thonet.de/en/magazine/designers/detail/mart-stam
Cantilever chair "B 64" / "S 64" by Marcel Breuer/Mart Stam(Werkbundarchiv – Museum der Dinge)
https://museumderdinge.org/thing-of-the-month/cantilever-chair-b-64-s-64-by-marcel-breuer-mart-stam/

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