E1027 アジャスタブルテーブルは、アイルランド出身の建築家でありデザイナーであるアイリーン・グレイが1927年に生み出した、20世紀モダンデザインを代表するサイドテーブルである。クロームメッキの管状スチールと円形ガラス天板という素材の組み合わせ、そして高さ調節機能を備えたカンチレバー構造により、機能性と美的完成度を高次元で融合させた作品として、今なお世界中で愛され続けている。1977年にニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに加えられ、デザイン史におけるその重要性が公的に認められている。
特徴とコンセプト
モダニズムの美学
E1027 アジャスタブルテーブルは、1920年代のモダニズムデザインにおいて、装飾を排し機能美を追求するという時代精神を体現している。クロームメッキを施した細い管状スチールフレームは、構造的な強度と視覚的な軽やかさを両立させ、透明なガラス天板は空間に圧迫感を与えることなく、周囲の環境と調和する。この徹底した造形の簡潔さは、グレイが目指した「私たちの存在に適し、私たちの部屋の比例に合い、私たちの願望と感情に呼応する」家具の理念を見事に具現化したものである。
機能的創意
このテーブルの最大の特徴は、高さ調節機能にある。11段階の高さ調整により、ベッドサイド、ソファサイド、あるいは独立したサイドテーブルとして、多様な使用シーンに対応することができる。カンチレバー構造を採用したベースは、ベッドやソファの下に滑り込ませることができ、天板を使用者のすぐ近くに配置することを可能にした。この設計は、単なる装飾的な家具ではなく、日常生活における実用性を重視したグレイの設計思想を如実に示している。
デザインの背景とエピソード
E.1027邸との関係
このテーブルは、グレイが建築家としての処女作となる別荘「E.1027 海辺の家」のためにデザインされた家具群の一つである。南フランスのロクブリュンヌ=カップ=マルタンの海岸に建つこの住宅は、グレイと当時のパートナーであったルーマニア人建築評論家ジャン・バドヴィッチのために設計された。住宅の名称「E.1027」は暗号のような構成となっており、E はアイリーン(Eileen)、10 はジャン(J は10番目の文字)、2 はバドヴィッチ(Badovici)、7 はグレイ(Gray)を表している。テーブルもまた、この象徴的な名称を冠することとなった。
デザインの契機
このテーブルの誕生には、いくつかの逸話が伝えられている。一説によれば、グレイは姉のためにこのテーブルをデザインしたとされる。ベッドで朝食をとる際に、食事用トレイをベッドの上ではなく少し離れた位置に置くことで、パンくずがシーツに落ちることを防ぐという実用的な配慮から生まれたという。また別の説では、E.1027邸の寝室で、グレイ自身が食事や読書、書き物などを快適に行うために考案されたともいわれる。いずれにせよ、この作品には日常の具体的なニーズに応えようとするグレイの姿勢が色濃く反映されている。
構造と仕様
テーブルのフレームは、クロームメッキを施した管状スチールで構成され、その細身のプロポーションが作品に独特の優雅さをもたらしている。天板には厚さ6mmの強化ガラスが用いられ、透明性によって視覚的な開放感を演出している。一部のバリエーションでは、スモークグレーのガラスやブラックラッカー仕上げの金属天板も選択可能である。高さ調節機構は精巧な鍵式のシステムを採用しており、使用者は簡単な操作で所望の高さに固定することができる。その調節範囲は約61cmから102cmに及び、幅広い用途に対応している。
評価と影響
E1027 アジャスタブルテーブルは、発表当初から高い評価を受け、その後のデザイン史において特別な位置を占めることとなった。1977年にニューヨーク近代美術館の永久コレクションに収蔵されたことは、この作品が単なる実用品を超えた文化的価値を持つことを証明している。グレイの作品は、同時代の巨匠たち──ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、マルセル・ブロイヤー──と並び称されるほどの重要性を持ち、特に女性デザイナーの先駆者としてのグレイの功績は、現代においてもなお再評価され続けている。
グレイは生涯において結婚することなく、1976年に98歳で亡くなるまで現役のデザイナーとして活動を続けた。彼女の晩年、英国王立芸術協会から「ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー」の称号が授与されたことは、その生涯にわたる功績への敬意の表れであった。現在、このテーブルはドイツの家具メーカーClassiConが、Aram Designs Ltd.のライセンスのもとで製造を担っており、グレイの遺産は今日においても正統に継承されている。
基本情報
| デザイナー | アイリーン・グレイ(Eileen Gray) |
|---|---|
| デザイン年 | 1927年 |
| 分類 | サイドテーブル |
| 主要製造元 | ClassiCon(ライセンス:Aram Designs Ltd.) |
| 素材 | クロームメッキ管状スチール、強化ガラス(または金属) |
| サイズ | 高さ:約61〜102cm(11段階調整) 天板直径:約51cm |
| 所蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション(1977年収蔵) |