概要
アイリーン・グレイ(1878-1976)は、アイルランド出身でフランスで活動した家具デザイナー・建築家である。1910年代から漆の技法で家具を制作し、1920年代後半には鋼管とガラスによる家具へ移った。1929年に完成させた住宅E.1027のために設計した調節式のテーブルが知られる。建築の設計は独学による。
バイオグラフィー
1878年8月9日、アイルランドのエニスコーシーに生まれた。ロンドンのスレイド美術学校で絵画を学び、1902年にパリへ移っている。
1907年頃から日本出身の漆芸家・菅原精造に師事し、漆の技法を習得した。1910年代を通じて漆による家具と衝立を制作している。
1922年、パリに自身の店「ジャン・デゼール」を開いた。家具、絨毯、照明を扱っている。
1926年から1929年にかけて、南仏ロクブリュヌ=カップ=マルタンに住宅E.1027を設計した。建築家ジャン・バドヴィッチとの共同名義による。1934年には自邸テンペ・ア・パイヤを完成させている。1976年10月31日、98歳で没した。
デザインの思想と方法
グレイの仕事は、1910年代の漆の家具と、1920年代後半以降の鋼管の家具とで、材料も工程も大きく異なる。共通するのは、使う場面の条件から寸法と機構を決めるという進め方である。
使う場面から高さを決める
E.1027のテーブルは、寝台の脇で朝食をとるために作られた。天板の高さを変えられる機構を持ち、寝たままでも座っても使える。天板が円形で、支柱が縁の外にあるため、寝台の下へ差し込める。用途の条件が構成のすべてを決めている。
漆の工程を習得する
漆は塗って乾かす工程を何十回も繰り返す。日本出身の菅原精造に師事してこの技法を学び、家具と衝立に適用した。ヨーロッパで漆を扱う制作者は当時ほとんどいない。
建築を独学で進める
建築の教育を受けておらず、E.1027の設計はバドヴィッチとの協働のなかで独学によった。平面は、住む人の一日の動きから室の配置を決める方針をとる。
家具を建物に合わせる
E.1027とテンペ・ア・パイヤの家具は、その建物のために設計された。既製品を選ぶのではなく、寸法も収納の位置も建物の側から決まる。
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代表作にみる方法
ドラゴンズ アームチェア(1917-19年頃)
肘掛けに龍の意匠を彫り込んだ革張りの椅子である。漆の技法を用いた時期の作品にあたる。2009年の競売で当時の家具の最高額を記録した。→ドラゴンズ・アームチェア
ブリック・スクリーン(1922-25年頃)
漆塗りの板を軸で連結した衝立である。板が個別に回転するため、開き方で透過の度合いが変わる。メトロポリタン美術館が収蔵している(収蔵番号2023.614)。
E.1027(1926-29年、ロクブリュヌ=カップ=マルタン)
南仏の斜面に建てた住宅である。名称は自身とジャン・バドヴィッチの頭文字を数字に置き換えたものによる。平面は住む人の一日の動きから室の配置を決める方針をとる。家具も建物のために設計された。
E.1027 調節式テーブル(1927年)
寝台の脇で朝食をとるために作られた卓である。天板の高さを変えられ、円形の天板の縁の外に支柱があるため寝台の下へ差し込める。用途の条件が構成のすべてを決めている。→E1027 アジャスタブルテーブル
テンペ・ア・パイヤ(1934年、カステラール)
自邸として設計した住宅である。ここで用いた椅子と収納をニューヨーク近代美術館が収蔵している。E.1027より小規模で、収納を壁に組み込む構成をとる。
評価と影響
グレイは一般に、20世紀前半のヨーロッパで、漆の家具から鋼管の家具、そして建築へと領域を移した設計者と評価されている。いずれも独学によっている。
生前の評価は限られていた。1970年代に入って再評価が始まり、1972年の競売でドラゴンズ アームチェアが高額で落札されたことが契機となった。1976年の没後、家具の再生産も始まっている。
E.1027は現在、フランスの文化財に指定され、修復のうえ公開されている。同じ敷地にはル・コルビュジエの小屋も建てられた。
収蔵
4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したところ、図面と資料を含めて計97件が確認できた。V&Aが74件と最も多く、その大半は図面にあたる。以下は主要なものの抜粋である。
- V&A 家具(1923年) 収蔵番号 W.21-1972
- Met スクリーン(1922-25年頃) 収蔵番号 2023.614
- Met 図面(1925年頃) 収蔵番号 1980.278.2
- Met 図面(1927年頃) 収蔵番号 1980.278.1
- Met アームチェア(1930年頃) 収蔵番号 1984.533.3
- Met ランテルヌ・ジャポネーズ ランプ(1925-30年頃) 収蔵番号 1984.564.1a, b
- Met ランテルヌ・ジャポネーズ ランプ(1935年頃) 収蔵番号 1984.564.2a, b
- MoMA テンペ・ア・パイヤのための椅子(1935年頃) 収蔵番号 1071.2015
- MoMA T4-6(バウハウス、1930-35年頃) 収蔵番号 727.2022
- MoMA T4-7(テンペ・ア・パイヤ、1935年頃) 収蔵番号 728.2022
- MoMA T3-12(E-1027、1935年頃) 収蔵番号 730.2022
- V&A 図面(1930年頃) 収蔵番号 E.1115-1983 ほか多数
AIC では該当する収蔵は確認できなかった。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1917-19年頃 | 椅子 | ドラゴンズ・アームチェア | — |
| 1922-25年頃 | 衝立 | ブリック・スクリーン | ClassiCon(再製作) |
| 1922年 | 店舗 | ジャン・デゼール 開店 | パリ、フランス |
| 1926-29年 | 建築 | E.1027(ジャン・バドヴィッチと共同) | ロクブリュヌ=カップ=マルタン、フランス |
| 1927年 | テーブル | E1027 アジャスタブルテーブル | Cassina / ClassiCon |
| 1920年代 | ラグ | ルーニーラグ(ロクブリュンヌ ラグ) | ClassiCon |
| 1934年 | 建築 | テンペ・ア・パイヤ(自邸) | カステラール、フランス |
| 1920-30年代 | 照明 | ランテルヌ・ジャポネーズ | — |
プロフィール
| 生没年 | 1878年8月9日〜1976年10月31日 |
|---|---|
| 出身地 | アイルランド・エニスコーシー |
| 国籍 | アイルランド |
| 活動拠点 | パリ、南フランス |
| 分野 | 家具、漆芸、建築、テキスタイル |
| 主な協働ブランド | Cassina、ClassiCon、Aram |
Reference
- Cap Moderne - E.1027
- https://capmoderne.monuments-nationaux.fr/en/
- Eileen Gray | Cassina
- https://www.cassina.com/ww/en/designers.html
- The Metropolitan Museum of Art Collection
- https://www.metmuseum.org/art/collection
- Victoria and Albert Museum Collections
- https://collections.vam.ac.uk/
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325