概要

アルヴァ・アアルト(1898-1976)は、フィンランドの建築家・デザイナーである。建物とその内部に置かれる家具・照明・ガラス器を一続きの設計として扱い、パイミオ・サナトリウム、ヴィープリ図書館、ヴィラ・マイレア、フィンランディア・ホールなどを手がけた。家具では、鋼管に代えて白樺材を曲げる構法を工場と共同で開発し、脚と天板を金具なしで接合するL字脚を1933年に特許化している。この構法を量産に載せるためにアルテックを共同で設立した。

バイオグラフィー

1898年2月3日、フィンランド中部のクオルタネに生まれた。本名はフーゴ・アルヴァ・ヘンリク・アアルト。父は測量技師で、幼少期に家族はユヴァスキュラへ移っている。1916年からヘルシンキ工科大学(現アアルト大学)で建築を学び、1921年に卒業した。

1923年、ユヴァスキュラに設計事務所を開く。建築家アイノ・マルシオと結婚し、以後アイノが1949年に没するまで、家具とガラス器の開発を共同で進めた。1927年に事務所をトゥルクへ移し、同年ヴィープリ市立図書館のコンペに当選している。

1929年ごろから、トゥルク近郊の家具工場の技術責任者オットー・コルホネンと組んで、合板と無垢材の曲げ加工の実験を始めた。1933年に事務所をヘルシンキへ移し、同年L字脚の特許を取得。1935年には、アイノ、マイレ・グッリクセン、ニルス=グスタフ・ハールとともにアルテックを設立した。1936年、ヘルシンキ郊外ムンキニエミに自邸を完成させ、以後ここを生活と仕事の拠点とした。

1946年から1948年までマサチューセッツ工科大学の客員教授を務め、この期間に学生寮ベイカー・ハウスを設計している。1952年に建築家エリッサ・マキニエミと再婚。1963年から1968年までフィンランド学士院の総裁を務めた。1976年5月11日、ヘルシンキで没した。

デザインの思想と方法

アアルトが家具で取り組んだ課題ははっきりしている。1920年代末に広まった鋼管のカンチレバー構造の椅子は、軽量で量産に適する一方、金属の表面は住宅や病室で身体に触れる家具として扱いにくい。彼はこの構造上の利点を保ったまま、材料を木に置き換えることを目指した。

L字脚という部品

解決の中心にあるのがL字脚である。無垢の白樺材の端部に木目に沿って細い切り込みを何本も入れ、そこに薄板を差し込んで接着したうえで直角に曲げる。曲げの外側で繊維が裂けるのを、差し込んだ薄板が防ぐ。この加工により、脚を天板や座面の裏に直接ねじ留めできるようになり、や金具を使わずに構造が成り立つ。

L字脚は個別の椅子のための造作ではなく、規格部品として設計された。同じ脚をスツール、テーブル、棚に共通して使うことで、品目が増えても加工工程は増えない。アアルトはこの脚を建築の柱になぞらえており、標準化した部品を組み替えて多様な製品をつくるという考え方は、彼の建築における部材の扱いとも通じている。

曲げの限界を工場で詰める

曲木成形合板をどこまで曲げられるかは、樹種・板厚・含水率・型の形状で決まる。アアルトはコルホネンの工場で試作を重ね、破断する手前の曲率を実測で確かめながら断面を決めていった。パイミオ・チェアの座と背を一枚の面で連続させた形状や、アームチェア400の幅広の肘掛けは、いずれもこの試作の結果として得られた寸法である。

光を拡散させる

照明では、光源を直接見せない構成を一貫して用いた。ゴールデンベルの傘の縁に開けた小孔、ビーハイブの多層のリング、A805の羽根状のルーバーは、いずれもグレアを抑えながら光を拡散させるための処理である。建築でも、ヴィープリ図書館の閲覧室に円形の天窓を並べ、直射日光を避けつつ室内に均一な明るさを得る手法をとった。

建物を用途から起こす

アアルトは建築の要求から個々の造作を導いた。パイミオ・サナトリウムでは、水音を抑える形状の洗面器、掃除しやすい曲面の入隅、臥床した患者の視線が向く天井の色といった項目を、療養という用途から一つずつ決めている。ヴィープリ図書館の講堂の波形天井は音の反射を制御するためのもので、造形の意図と性能の要求が同じ形に落ちている。

代表作にみる方法

パイミオ・サナトリウムとパイミオ・チェア(1929-1933年)

結核療養所の設計は、アアルトが建物と什器を同じ条件から起こす方法を確立した仕事にあたる。椅子については、臥床時間の長い患者が上体を起こして座るという用途から、背の角度と座面の奥行きを決めた。座と背は成形合板の一枚の面で連続し、両端を巻き込んで支持点としている。木製の枠に一枚の面を渡すこの構成は、以後の彼の椅子の基本形になった。→パイミオチェア

スツール60(1933年)

L字脚を最も単純な形で使った製品である。円形の座板の裏に三本の脚を直接留めるだけで構造が完結し、貫も金具も使わない。脚の断面が同じであるため、積み重ねると脚が互いをよけて螺旋状に重なる。部品を減らすことがそのまま加工工程と輸送の効率につながる設計で、L字脚の考え方を最も端的に示している。→スツール60

サヴォイ・ベース(1936年)

1936年のカルフラ=イッタラのガラスデザイン競技で一等となった作品で、翌年のパリ万国博覧会フィンランド館とサヴォイ・レストランで使われた。当時のガラス器が回転対称を前提としていたのに対し、これは木型に吹き込んで自由曲線の輪郭を得ている。生産方法の選択が形の自由度を決めるという点で、家具でとった進め方と同じ構造をもつ。→サヴォイ・ベース

ゴールデンベル(A330S、1937年)とビーハイブ(A331、1953年)

いずれも光源を隠しながら周囲に光を回す構成をとる。ゴールデンベルは金属を絞った釣鐘形の傘の下縁に小孔を並べ、下方に強い光を落としつつ孔から漏れる光で傘の周囲を明るくする。ビーハイブは径の異なるリングを重ね、隙間から光を段階的に逃がす。どちらも装飾のための形ではなく、グレアの制御という要求から導かれた形である。→ゴールデンベル (A330S) / ビーハイブ(A331)

評価と影響

アアルトは一般に、初期モダニズムの幾何学的な構成から離れ、材料と場所の条件を設計に取り込む方向を開いた建築家と評価されている。国際様式が共通の語彙で世界中に展開したのに対し、彼の建築は敷地の地形・気候・入手できる材料に応じて形を変えた。この姿勢は、地域の条件を設計に反映させる考え方の先例としてしばしば参照される。

家具の分野では、木材でカンチレバー構造や連続曲面を成立させたことが、その後の設計者に選択肢を与えた。1938年にニューヨーク近代美術館が開いた展覧会「Alvar Aalto: Architecture and Furniture」は、同館が個人の設計者に充てた早い時期の展示であり、アアルトの家具が米国の設計者に知られる契機となった。チャールズ・イームズとレイ・イームズによる1940年代の成形合板の椅子は、この時期に紹介された曲げ加工の技術を前提としている。

1967年には、フィンランド建築博物館らが彼の名を冠したアルヴァ・アアルト・メダルを創設した。以後、建築の分野で継続的に授与されている。

受賞・収蔵

受賞

  • 1954年 プリンス・エウジェン・メダル(スウェーデン)
  • 1957年 英国王立建築家協会(RIBA)ロイヤル・ゴールドメダル
  • 1963年 アメリカ建築家協会(AIA)ゴールドメダル

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA パイミオ・ラウンジチェア(モデル41、1932年) 収蔵番号 711.1943、710.1943.1
  • MoMA スタッキングスツール(モデル60、1933年) 収蔵番号 834.1942、56.1946.1-3、146.1958
  • MoMA ベース(モデル3031、1936年) 収蔵番号 712.1943、150.2002、347.2004
  • MoMA アームチェア(モデル400、1936年) 収蔵番号 432.1983
  • MoMA ティートロリー(モデル98、1936-37年) 収蔵番号 216.1981、724.1983
  • MoMA カンチレバー・アームチェア(モデル406) 収蔵番号 278.1984
  • MoMA パイミオ・サナトリウムのドアハンドル(1930-31年頃) 収蔵番号 283.1999
  • V&A パイミオ・アームチェア(1932年) 収蔵番号 W.41-1987
  • V&A アームチェア41(1932年) 収蔵番号 CIRC.26-1969
  • V&A スツール60(1933年) 収蔵番号 CIRC.29-1969
  • V&A スツール X600(1954年) 収蔵番号 CIRC.27-1969
  • V&A サヴォイ・ベース(1937年) 収蔵番号 C.226-1987
  • V&A シエナ(1954年) 収蔵番号 CIRC.149-1974
  • Met パイミオ・ラウンジチェア(モデル41、1931-32年) 収蔵番号 2000.375
  • Met アームチェア400(1935-36年) 収蔵番号 1985.321
  • Met アームチェア31(1931-32年) 収蔵番号 1984.223
  • Met シェーズロング39(1936-37年) 収蔵番号 1985.211
  • Met サヴォイ・ベース(1936年設計) 収蔵番号 1985.223
  • AIC パイミオ・アームチェア41(1930-33年設計) 収蔵番号 1983.601
  • AIC サイドテーブル(1940年頃設計) 収蔵番号 1972.930

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド / 場所
1924-1925年 建築 労働者会館 ユヴァスキュラ、フィンランド
1927-1935年 建築 ヴィープリ市立図書館 ヴィボルグ(旧ヴィープリ)、ロシア
1928-1929年 建築 トゥルン・サノマット新聞社 トゥルク、フィンランド
1929-1933年 建築 パイミオ・サナトリウム パイミオ、フィンランド
1931-1932年 家具 パイミオチェア Artek
1933年 家具 スツール60 Artek
1933年 家具 チルドレンズチェア N65 Artek
1935-1936年 建築 アアルト自邸 ヘルシンキ、フィンランド
1935年 家具 チェア69 Artek
1936年 ガラス サヴォイ・ベース Iittala
1936年 家具 アームチェア400(タンクチェア) Artek
1936年 家具 ティートロリー901 Artek
1936年 家具 シェルフ112(壁付け棚 112) Artek
1936年 家具 テーブル90 Artek
1937年 照明 ゴールデンベル (A330S) Artek
1937年 建築 パリ万国博覧会 フィンランド館 パリ、フランス
1938-1939年 建築 ヴィラ・マイレア ノールマルック、フィンランド
1939年 建築 ニューヨーク万国博覧会 フィンランド館 ニューヨーク、アメリカ
1939年 家具 アームチェア406 Artek
1947-1949年 建築 MITベイカー・ハウス ケンブリッジ、アメリカ
1949-1952年 建築 サユナッツァロ市庁舎 サユナッツァロ、フィンランド
1953年 照明 ビーハイブ(A331) Artek
1954年 テキスタイル シエナ・クッション Artek
1954年 照明 エンジェルウィング A805 Artek
1955-1958年 建築 三つの十字架教会(ヴオクセンニスカ教会) イマトラ、フィンランド
1956-1959年 建築 メゾン・ルイ・カレ バゾシュ=シュル=ギュイヨンヌ、フランス
1958-1962年 建築 ヴォルフスブルク文化センター ヴォルフスブルク、ドイツ
1962-1968年 建築 ノルディックハウス レイキャビク、アイスランド
1962-1971年 建築 フィンランディア・ホール ヘルシンキ、フィンランド
1963-1965年 建築 セイナヨキ市庁舎・図書館 セイナヨキ、フィンランド
1964-1970年 建築 マウント・エンジェル修道院図書館 セント・ベネディクト、アメリカ
1971-1973年 建築 アルヴァ・アアルト美術館 ユヴァスキュラ、フィンランド
家具 テーブル80A Artek
家具 テーブル81 Artek
家具 テーブル81B Artek
テーブルウェア アアルト・ティーライトホルダー Iittala

プロフィール

生没年 1898年2月3日〜1976年5月11日
出身地 フィンランド・クオルタネ
国籍 フィンランド
活動拠点 ユヴァスキュラ、トゥルク、ヘルシンキ
分野 建築、家具、照明、ガラス
主な協働ブランド Artek、Iittala

Reference

Alvar Aalto's life | Alvar Aalto Foundation
https://www.alvaraalto.fi/en/information/alvar-aaltos-life/
About Artek | Artek
https://www.artek.fi/en/company/about
L-leg Collection | Artek
https://www.artek.fi/en/collections/l-leg-collection
Alvar Aalto, furniture and glass(展覧会カタログ)| The Museum of Modern Art
https://assets.moma.org/documents/moma_catalogue_1792_300062713.pdf
Modernism and the natural world – the designs of Alvar and Aino Aalto | V&A
https://www.vam.ac.uk/articles/modernism-and-the-natural-world-the-designs-of-alvar-aalto-andaino-aalto
Alvar Aalto | Iittala
https://www.iittala.com/en-gb/collections/all-collections/alvar-aalto-collection
Alvar Aalto | Britannica
https://www.britannica.com/biography/Alvar-Aalto