概要

ジャスパー・モリソン(1959年生まれ)は、イギリスのプロダクトデザイナーである。家具、照明、食器、家電、公共交通の車両までを手がけ、いずれも輪郭を抑えた簡潔な形をとる。深澤直人とともに提唱した「スーパーノーマル」は、目新しさではなく、長く使われるなかで形が定まった道具の質を指す考え方で、2006年の展覧会と書籍によって示された。ヴィトラ、マジス、カッペリーニ、フロスなどと協働している。

バイオグラフィー

1959年7月11日、ロンドンに生まれた。1978年から1979年にレイヴンズボーン美術大学の基礎課程に学び、続いてキングストン・ポリテクニック(現キングストン大学)でデザインを学んで1982年に学位を得た。その後ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに進み、1985年に修士号を取得している。在学中の1984年には奨学金を得てベルリン芸術大学でも学んだ。

1986年、ロンドンに設計事務所を開く。初期にはロンドンのSCPやアラム、ドイツの建築金物メーカーFSB、ミラノのカッペリーニが製品化を引き受けた。1988年にはベルリンのDAADギャラリーで個展「Some New Items for the Home」を開き、少数の什器で室内を構成する展示が注目された。1989年からヴィトラとの協働が始まっている。

事務所はロンドンを拠点に、2003年にパリ、2007年に東京へ広がった。2009年にはロンドンのスタジオに隣接して店舗を開き、自身の製品と各地で見出した日用品を扱っている。

デザインの思想と方法

モリソンが扱うのは、道具が置かれた環境をどう変えてしまうかという問題である。強い形の製品は、部屋に入れた瞬間に他の物との関係を組み替えてしまう。彼が輪郭を抑えるのは装飾の削減が目的ではなく、置かれた場所の既存の関係を壊さないための処理にあたる。

既存の類型を読み替える

彼は道具の類型そのものを否定しない。椅子、テーブル、ランプという既に成立している形式を出発点とし、そこから寸法・素材・製法を現在の条件に合わせて調整する。シェルチェアやカンチレバー構造の椅子は、過去に成立した形式を前提に、現在の成形技術で作り直したものにあたる。

スーパーノーマル

深澤直人との共同で示した「スーパーノーマル」は、目を引く新しさではなく、長く使われるなかで形が定まり、日常に溶け込んだ道具の質を指す。2006年に東京のアクシスギャラリーで開かれた最初の展覧会では、紙クリップやボールペンといった作者の分からない日用品が、設計者名の知られた製品と並べて展示された。作者性の有無を評価の基準から外すという提案でもある。

成形法から形を決める

エアチェアでは、ガスを注入して樹脂の内部に中空をつくる成形法を用いた。同じ肉厚では得られない剛性が中空断面によって生まれるため、細い部材で椅子が成立する。形を決めてから製法を探すのではなく、使える製法の範囲内で形を決めるという順序をとっている。近年は回収した樹脂を用いた仕様への置き換えも進めている。

代表作にみる方法

シンキング・マンズ・チェア(1985年)

鋼の管と平鋼だけで構成し、座面にも背にも閉じた面を持たない肘掛椅子である。部材の位置がそのまま座り心地を決めるため、構造と使用感が分離していない。肘掛けの先端には小さな円盤が付き、物を置ける。試作は1985年末に作られ、1988年からカッペリーニが生産を始めた。

グローボール(1998年)

フロスのために設計した照明で、手吹きの乳白ガラスの球体をそのまま拡散面とする。反射板や導光の部材を持たず、球体の厚みと乳白度だけで光の広がりが決まる。フロア、テーブル、ペンダントと展開されるが、いずれも球体の寸法が変わるだけで構成は同じである。→グローボール S / グローボール T1

エアチェア(1999年)

マジスのために設計したポリプロピレンの椅子で、ガス注入による一体成形で作られる。部材の内部を中空とすることで、薄い肉厚でも曲げに耐える。金属の補強を持たず、積み重ねられ、屋外でも使える。製法の選択が形と価格の両方を決めた例にあたる。→エアチェア

HAL(2010年)

ヴィトラのために設計したシェルチェアの系列である。チャールズ・イームズらが確立した「一つのシェルに複数のベースを組み合わせる」という形式を前提とし、シェルの形状を現在の成形技術に合わせて作り直した。木脚、鋼管脚、回転脚など複数のベースが用意され、用途に応じて選べる。座面に再生樹脂を用いた仕様も加わっている。→HAL ウッド / HAL RE ウッド

コルクファミリー(2004年)

ヴィトラのために設計した、コルクの塊を削り出したサイドテーブルの系列である。表面を塗装せず、素材の粒がそのまま見える。軽く、傷が付いても目立たないという素材の性質を、仕上げで隠さずに用いた例にあたる。→コルクファミリー

評価と影響

モリソンは一般に、1990年代以降のプロダクトデザインにおいて、造形の強さを競う方向とは別の基準を示した設計者と評価されている。特定の作風ではなく、道具と環境の関係についての考え方を残した点が言及されることが多い。

「スーパーノーマル」の考え方は、設計者の署名性を評価の中心に置かないという点で、それまでのデザイン批評の枠組みに対する提案でもあった。無名の日用品と設計者名のある製品を同じ基準で並べる展示の方法は、その後の展覧会にも影響している。

製品では、エアチェアが樹脂の量産椅子として広く普及し、HALはシェルチェアの形式を現在の技術で継続させた例として参照される。近年は再生樹脂を用いた仕様への置き換えを継続的に進めている。

受賞・収蔵

受賞

  • 2001年 ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
  • 2015年 イサム・ノグチ賞
  • 2020年 大英帝国勲章(CBE)

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA シンキング・マンズ・チェア(1985年) 収蔵番号 169.2026
  • MoMA プライウッドチェア(1988年設計/1991年製作の個体) 収蔵番号 170.2026
  • MoMA ボトル ストレージ モジュール(1993年) 収蔵番号 244.1998
  • MoMA リマ チェア(1995年) 収蔵番号 464.1997
  • MoMA ラックスマスター F フロアランプ(2000年) 収蔵番号 452.2006
  • V&A シンキング・マンズ・チェア(1986年) 収蔵番号 W.15-1989
  • V&A プライチェア(1989年) 収蔵番号 W.1-1995
  • V&A プライチェア(1990年) 収蔵番号 W.2-1995
  • V&A ピル スツール(1997年) 収蔵番号 W.12-2011
  • AIC エアチェア(2000年) 収蔵番号 2016.412

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド
1985年 椅子 シンキング・マンズ・チェア Cappellini
1988年 椅子 プライウッドチェア Vitra
1991年 ドアハンドル 1144 FSB
1991年 ソファ スリー・ソファ・デラックス Cappellini
1993年 収納 ボトル ストレージ モジュール Cappellini
1995年 椅子 リマ チェア Cappellini
1998年 照明 グローボール S Flos
1998年 照明 グローボール T1 Flos
1999年 椅子 エアチェア Magis
1999年 椅子 ロウ・パッド Cappellini
2004年 テーブル コルクファミリー Vitra
2008年 椅子 バーゼル チェア Vitra
2010年 椅子 HAL ウッド Vitra
2010年 椅子 HAL RE ウッド Vitra
2011年 ソファ ソフトモジュラーソファ Vitra
2015年 携帯電話 MP01 Punkt.
2016年 椅子 オール・プラスチック・チェア(APC) Vitra
2018年 テーブル プレートテーブル Vitra
2020年 椅子 EVO-C Vitra
2021年 椅子 ハル チューブ アウトドア Vitra
ベッド ベッド Cappellini

プロフィール

生年 1959年7月11日
出身地 イギリス・ロンドン
国籍 イギリス
活動拠点 ロンドン、パリ、東京
分野 家具、照明、テーブルウェア、家電
主な協働ブランド Vitra、Magis、Cappellini、Flos、Alessi、Punkt.

Reference