概要

チャールズ・イームズ(1907-1978)は、アメリカの建築家・デザイナーである。妻のレイ・イームズと共同で運営したイームズ・オフィスを拠点に、家具、住宅、展示、映像を手がけた。成形合板、ファイバーグラス、スチールワイヤー、アルミニウムと材料を替えながら、身体を受ける面をどう量産するかという課題に取り組み続けた点に特徴がある。家具の多くはハーマンミラーが、欧州および中東ではヴィトラが生産している。以下に挙げる仕事は、断りのない限りレイとの共同名義による。

バイオグラフィー

1907年6月17日、ミズーリ州セントルイスに生まれた。ワシントン大学セントルイス校で建築を学んだが課程を終えずに離れ、1930年代を通じてセントルイスで設計活動を行っている。ロバート・ウォルシュとの共同事務所では、アーカンソー州の教会2件とセントルイス周辺の住宅4件を手がけた。

この時期の仕事を見た建築家エリエル・サーリネンの招きにより、1938年後半、ミシガン州のクランブルック美術学院にフェローとして移る。まもなく同校の産業デザイン部門を率いる立場となり、エーロ・サーリネンとの協働が始まった。

1940年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の家具設計競技「Organic Design in Home Furnishings」にエーロ・サーリネンと応募し、居間用の椅子部門で一等となる。この応募作の図版制作を手伝ったのがクランブルックの学生だったレイ・カイザーで、1941年6月に二人は結婚し、ロサンゼルスへ移った。

移住後は、リチャード・ノイトラ設計の集合住宅の一室を使って合板の成形実験を続けた。第二次世界大戦中は米海軍の資金により、成形合板の脚副子・担架・航空機部品を製造している。1943年にエヴァンス・プロダクツ社と契約し、同社の成形合板部門として設備を得た。1946年からはハーマンミラーとの関係が始まり、以後の家具生産の中心となる。

イームズ・オフィスは1943年から1988年まで、カリフォルニア州ヴェニスのワシントン大通り901番地(現アボット・キニー大通り)の元ガレージに置かれた。1949年にはケース・スタディ・ハウス計画の第8号として自邸を建てている。1978年8月21日、セントルイスで没した。

デザインの思想と方法

イームズが掲げた目標は、良質なものをできるだけ多くの人に、できるだけ安く届けることだった。この目標は、形から入らず、材料と加工工程を先に決めるという手順に直結している。何がどこまで成形できるかを実験で確かめ、その限界に合わせて形を決める順序である。

試作を量産で検証する

ロサンゼルスの住居で自作の成形機を使って合板を曲げる実験を始めた段階では、家具として成立する強度も歩留まりも得られていなかった。これを解決したのが戦時中の脚副子である。人体に合う三次元の曲面を、数万単位で安定して成形しなければならない。この量産の経験を通じて型の設計と工程が固まり、戦後の家具に転用された。実験室での試作ではなく、実際の量産で技術を確かめる進め方をとっている。

一体成形にこだわらない

座面と背もたれを一枚の成形合板で成形する案は繰り返し試作されたが、量産の条件では割れが避けられなかった。イームズはこれを断念し、座と背を別々のシェルとして成形し、ゴム製のショックマウントで木製の脚部に留める構成を採った。材料の限界に合わせて構成を分割するというこの判断は、以後の設計にも一貫している。ショックマウントは接合部であると同時に、身体の動きを吸収する部品としても働いた。

シェルとベースを分ける

1950年前後から、身体を受けるシェルと、それを支えるベースを別々の部品として扱う方式が確立する。同じシェルに木脚、ワイヤーのエッフェルベース、四本脚、ロッキング脚、回転脚を組み合わせることで、用途の異なる椅子を一つの成形型から展開できる。DSW・DSR・DAX・RARといった型番はこの組み合わせを表したもので、部品の共通化によって品目数と金型費用を切り離す考え方にあたる。

材料を替えて同じ問いを解き直す

成形合板からファイバーグラス、スチールワイヤー、アルミニウムの押出材と、扱う材料は十年ほどの間に大きく変わった。ただし主題は変わっていない。身体の輪郭に合う面をどう作り、それをどう支えるかという問いに対し、材料ごとに異なる答えを出している。ファイバーグラスでは合板で不可能だった一体の殻が得られ、ワイヤーでは同じ形状を線材の集合として表し、アルミナムグループでは面そのものを張り材に置き換えて、押出材のリブで縁を保持した。

代表作にみる方法

脚副子(1942年)とLCW/DCW(1945-1946年)

脚副子は、金属製の副子が振動で傷を悪化させる問題に対して、人体に沿う形を成形合板で成形した製品である。イームズ・オフィスはこれを大戦中に約15万個製造した。ここで確立した工程が、戦後最初の家具であるLCW(ラウンジチェア・ウッド)とDCW(ダイニングチェア・ウッド)に転用されている。座と背を別部材とし、ショックマウントで支持脚に留める構成は、量産の制約から導かれた解答にあたる。→イームズ LCW(プライウッド ラウンジチェア) / DCW(ダイニングチェアウッド)

プラスチックシェルチェア(1950年)

MoMAの低価格家具設計競技への取り組みを経て、ファイバーグラスによる一体成形のシェルにたどり着いた。合板では割れを避けられなかった座と背の連続が、樹脂の成形では一度に得られる。同じシェルに複数のベースを組み合わせる方式もここで確立し、以後の展開の基礎となった。→イームズ プラスチック サイドチェア DSW / イームズ プラスチック アームチェア DAW

ワイヤーチェア(1951年)

シェルチェアとほぼ同じ形状を、溶接したスチールワイヤーの格子で構成した椅子である。面を線の集合に置き換えることで、同じ座り心地を保ちながら視覚的な密度を下げている。溶接箇所の配置と線径の決定は、強度と見え方の双方を規定する設計項目となった。→イームズ ワイヤーチェア

イームズ・ラウンジチェア 670 とオットマン 671(1956年)

それまで低価格の量産家具に向けていた技術を、高価格帯の椅子に用いた仕事である。成形合板の殻を三つに分け、それぞれに革を張ったクッションを留める構成をとる。分割は形の都合ではなく、殻の曲率を成形可能な範囲に収めるための処置であり、初期の家具で採った判断がそのまま持ち込まれている。→イームズ ラウンジチェア 670 / イームズ オットマン 671

アルミナムグループ(1958年)

屋外でも使える椅子という条件から、成形した殻を用いない構成に切り替えた設計である。左右のアルミニウム押出材のリブの間に張り材を渡し、その張力で身体を受ける。殻を作らずに面を得るこの構法は、それまでの成形一辺倒の系列から外れており、のちにクッションを重ねたソフトパッド版へ展開した。→イームズ アルミナムグループ チェア

評価と影響

イームズ夫妻は一般に、20世紀半ばのアメリカにおける工業デザインの方向を定めた設計者と評価されている。新しい材料を家具に持ち込んだこと自体より、量産の条件を設計の出発点に置いた手順が、その後の製品開発の標準的な進め方として参照されている。

シェルとベースを分離する考え方は、家具の商品構成そのものを変えた。一つの成形型から多数の品目を展開する方式は現在も一般的に用いられており、椅子を「型番の組み合わせ」で語る記述の仕方はここに由来する。

活動の範囲は家具にとどまらず、展示設計と短編映像にも及んだ。1959年のモスクワ・アメリカ博覧会向けの多面スクリーン映像や、1977年の『Powers of Ten』は、情報を視覚的に構成する手法の初期の例として現在も参照されている。1979年、イームズ・オフィスは英国王立建築家協会のロイヤル・ゴールドメダルを受け、チャールズの没後にレイが受領した。

受賞・収蔵

受賞

  • 1940年 MoMA「Organic Design in Home Furnishings」競技 居間用椅子部門 一等(エーロ・サーリネンと共同)
  • 1979年 英国王立建築家協会(RIBA)ロイヤル・ゴールドメダル(イームズ・オフィスに対して)

1946年には、MoMAが「New Furniture Designed by Charles Eames」を開催している。

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA 脚副子(1942年) 収蔵番号 378.1950、1298.2001
  • MoMA サイドチェア(DCW、1946年) 収蔵番号 70.1946
  • MoMA アームチェア(DAR、1948-50年) 収蔵番号 267.1958
  • MoMA ロッキングアームチェア(RAR、1948-50年) 収蔵番号 349.1950
  • MoMA ストレージユニット(ESU、1950年) 収蔵番号 434.1992
  • MoMA サイドチェア(DKR-1、1951年) 収蔵番号 217.1953
  • MoMA エリプティカルテーブル(1951年) 収蔵番号 164.1991
  • MoMA ハングイットオール(1953年) 収蔵番号 1260.2018
  • MoMA ラウンジチェア&オットマン(1956年) 収蔵番号 336.1960.a-b
  • MoMA イームズ邸 模型(1949年) 収蔵番号 153.1984
  • V&A 脚副子(1941-42年) 収蔵番号 W.49-1983
  • V&A LCW(1945-46年) 収蔵番号 W.17-1989
  • V&A DCW(1946-49年) 収蔵番号 CIRC.664-1975
  • V&A DCM(1947年頃) 収蔵番号 W.7-2017
  • V&A DSS(1950年) 収蔵番号 CIRC.397-1970
  • V&A ラウンジチェア(1953-55年) 収蔵番号 CIRC.67-1969
  • V&A ESU 421-C(1949-50年) 収蔵番号 W.5:1 to 8-1991
  • Met 脚副子(1942年) 収蔵番号 1984.246
  • Met DCW サイドチェア(1946年) 収蔵番号 1984.556
  • Met LAR アームチェア(1949年) 収蔵番号 1986.427.1
  • Met ESU 420-C ストレージユニット(1950年) 収蔵番号 1999.233a-d
  • Met アルミナムグループ ラウンジチェア(1958年) 収蔵番号 1992.216.3
  • Met ラ・フォンダ コーヒーテーブル(1961年) 収蔵番号 1990.272
  • AIC ラウンジチェア&オットマン(1956年) 収蔵番号 2000.128.1-2
  • AIC ロッキングアームチェア(RAR、1950年設計) 収蔵番号 1976.396
  • AIC サイドチェア(DKR、1951年設計) 収蔵番号 1976.395
  • AIC シェーズ(1968年) 収蔵番号 2001.433

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド / 場所
1940年 椅子 オーガニックチェア(エーロ・サーリネンと共同) MoMA競技出品作 / Vitra
1942年 医療器具 脚副子(レッグスプリント) Evans Products
1945年 椅子 イームズ LCW(プライウッド ラウンジチェア) Evans Products / Herman Miller
1945年 玩具 イームズ エレファント Vitra
1946年 椅子 DCW(ダイニングチェアウッド) Evans Products / Herman Miller
1946年 椅子 DCM / LCM(ダイニング/ラウンジチェア メタル) Evans Products / Herman Miller
1946年 スクリーン フォールディングスクリーン FSW Evans Products / Herman Miller
1948年 椅子 ラ・シェーズ Vitra
1949年 建築 イームズ邸(ケース・スタディ・ハウス第8号) パシフィック・パリセーズ、アメリカ
1950年 椅子 イームズ プラスチック サイドチェア DSW Herman Miller / Vitra
1950年 椅子 イームズ プラスチック アームチェア DAW Herman Miller / Vitra
1950年 収納 イームズ・ストレージ・ユニット Herman Miller / Vitra
1950年 デスク イームズ デスクユニット Herman Miller / Vitra
1951年 椅子 イームズ ワイヤーチェア Herman Miller / Vitra
1951年 椅子 イームズ ワイヤーチェア アウトドア Vitra
1951年 テーブル ETR エリプティカル・テーブル(サーフボード・テーブル) Herman Miller / Vitra
1953年 什器 イームズ ハングイットオール Herman Miller / Vitra
1954年 ソファ イームズ ソファ コンパクト Herman Miller / Vitra
1956年 椅子 イームズ ラウンジチェア 670 Herman Miller / Vitra
1956年 オットマン イームズ オットマン 671 Herman Miller / Vitra
1958年 椅子 イームズ アルミナムグループ チェア Herman Miller / Vitra
1959年 映像 Glimpses of the U.S.A.(モスクワ・アメリカ博覧会) モスクワ、ソビエト連邦
1961年 展示 Mathematica: A World of Numbers... and Beyond カリフォルニア科学産業博物館
1964-1965年 展示 IBMパビリオン(ニューヨーク万国博覧会) ニューヨーク、アメリカ
1968年 椅子 イームズ・シェーズ ES106 Herman Miller / Vitra
1969年 椅子 ソフトパッドグループ Herman Miller / Vitra
1977年 映像 Powers of Ten IBM

プロフィール

生没年 1907年6月17日〜1978年8月21日
出身地 アメリカ・ミズーリ州セントルイス
国籍 アメリカ
活動拠点 カリフォルニア州ヴェニス(イームズ・オフィス)
分野 家具、建築、展示、映像
主な協働ブランド Herman Miller、Vitra、Evans Products

Reference

Biography – Charles & Ray | Eames Office
https://www.eamesoffice.com/about/biography/
About Us | Eames Office
https://www.eamesoffice.com/about/eamesoffice/
The Work of Charles and Ray Eames: A Legacy of Invention | Library of Congress
https://www.loc.gov/exhibits/eames/bio.html
Charles Eames (1907–78) and Ray Eames (1912–88) | The Metropolitan Museum of Art
https://www.metmuseum.org/essays/charles-eames-1907-78-and-ray-eames-1912-88
Ray Eames: 1979 Royal Gold Medal | RIBA
https://www.riba.org/explore/riba-collections/inside-our-collections/ray-eames-1979-royal-gold-medal-eames-audio-recording/
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2526
Charles and Ray Eames | Herman Miller
https://store.hermanmiller.com/features-charles-ray-eames-biography.html