Eames House Bird(イームズ ハウス バード)は、チャールズ&レイ・イームズ夫妻が最も愛したアメリカン・フォークアートの木製鳥オブジェである。1950年代にアパラチア山脈地域を旅する中で入手したこの黒い鳥の彫刻は、カリフォルニア州パシフィック・パリセーズに建つイームズハウスのリビングルーム中央に、50年以上にわたって鎮座し続けた。夫妻が撮影した数々の写真にも頻繁に登場するこの鳥は、イームズハウスを象徴するアイコンとして、世界中のデザイン愛好家に知られる存在となった。
現在、スイスの家具メーカーであるヴィトラ社が、イームズオフィス(Eames Office)との正式なライセンス契約のもと、オリジナルを忠実に再現した製品として製造・販売している。黒いアルダー材を使用したクラシックなブラックバージョンに加え、2018年にはウォールナット材による温かみのあるバリエーションも加わり、現代のインテリア空間に調和する選択肢を提供している。
特徴・コンセプト
このオブジェの最大の特徴は、極めてシンプルでありながら生命力にあふれた造形美にある。滑らかな曲線で構成された流線型のフォルムは、鳥が羽を休める姿を抽象的かつ優雅に表現している。頭部から尾にかけての一体感のあるラインは、無駄を削ぎ落としたミニマルなデザインでありながら、どこか温かみのある有機的な印象を与える。
細いスチールワイヤーの脚部は、重厚な木製ボディとの対比を生み出し、軽やかさと安定感を両立させている。この構造は、イームズ夫妻が家具デザインで追求した「機能と美の融合」という理念を、オブジェという形で体現したものとも解釈できる。つぶらな瞳と優しく傾けられた頭部の角度は、見る者に親しみやすさと愛嬌を感じさせ、単なる装飾品を超えた存在感を放っている。
イームズ夫妻にとって、このオブジェは単なる装飾品ではなく、彼らの美意識と価値観を体現する重要な存在であった。世界各地から収集した民芸品で彩られたイームズハウスの空間において、この鳥は常に中心的な位置を占め、夫妻のデザイン哲学である「日常の中にある美」を象徴していた。
エピソード
アパラチアの民芸品との出会い
この鳥のオブジェの起源は、1910年頃にイリノイ州ヘンリーのチャールズ&エドナ・パーデュー(Charles and Edna Perdew)夫妻によって制作された鳥のデコイにまで遡る可能性が高い。パーデュー夫妻は、1930年代に息子に銃器修理業を譲った後、ハンター向けの鳥のデコイ制作に専念した工芸家として知られている。彼らが制作した黒いカラスのデコイは、そのミニマルな形状と深い黒色により、1950年代には全く異なる層の人々、つまりモダンデザインの愛好家たちから高い評価を受けることとなった。
チャールズ&レイ・イームズ夫妻がこのオブジェと出会ったのは、アメリカ東部のアパラチア山脈地域を旅していた時のことである。民芸品や手工芸品に深い関心を持っていた夫妻は、この地域の伝統的なフォークアートに魅了され、この黒い鳥の彫刻を入手した。アパラチア地域では、鳥は自由と友情の象徴として愛されており、この作品もそうした文化的背景を持つ民芸品の一つであった。
イームズハウスのアイコンとして
1949年に完成したイームズハウスのリビングルームに置かれたこの鳥は、夫妻の生活の中心的な存在となった。チャールズ・イームズは、この鳥を単なる装飾品としてではなく、創造的なインスピレーションの源として扱った。1952年のハーマンミラー社のカタログ制作では、自らこの鳥を被写体として撮影し、イームズチェアと組み合わせた芸術的な構図を生み出している。また、同年の『Architectural Review』誌の表紙では、イームズチェアのグリッドパターンの中に配置された黒い鳥のシルエットが印象的に使用された。
特に有名なのは「Wire Chair & Bird」と呼ばれる広告写真である。この作品では、ワイヤーチェアとハウスバードが絶妙なバランスで配置され、両者の造形的な対話が表現されている。この写真は、イームズ夫妻のデザイン哲学を象徴する作品として、現在でも多くのデザイン書籍や展覧会で引用されている。
評価
Eames House Birdは、ミッドセンチュリーデザインを象徴するアイコンとして、世界中のデザイン愛好家から高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界の主要美術館のデザインストアで取り扱われており、その文化的価値は広く認められている。デザイン評論家たちは、このオブジェが持つ「素朴さと洗練」「伝統と革新」という二面性を、イームズ夫妻のデザイン哲学を体現するものとして評価している。
インテリアデザインの観点からは、その普遍的な造形美により、ミッドセンチュリーモダンからコンテンポラリー、北欧スタイル、和モダンまで、幅広いインテリアスタイルに調和する稀有な存在として認識されている。特に、そのミニマルなフォルムと有機的な曲線は、現代の「バイオフィリックデザイン」や「ジャパンディ」といったトレンドとも親和性が高く、時代を超えた普遍性を持つデザインとして評価されている。
ヴィトラ社による復刻版の品質も高く評価されており、オリジナルの3Dスキャンデータを基にした精密な再現と、厳格な品質管理により、単なるレプリカではなく、イームズ夫妻の精神を継承する正統な作品として認められている。
ヴィトラ社による製品化
ヴィトラ社は、イームズオフィスとの長年にわたるパートナーシップのもと、この象徴的なオブジェの製品化を実現した。オリジナルの鳥を3Dスキャンし、その形状データを基に忠実な復刻を行っている。製造はドイツで行われ、ヴィトラの厳格な品質基準のもとで生産されている。
2018年には、ウォールナット材を使用した新バージョンが発表された。この温かみのある木目が美しいバリエーションは、より自然な雰囲気を求める現代のインテリアニーズに応える選択肢として追加された。さらに、2023年には「イームズスペシャルコレクション」として、レイ・イームズの絵画作品からインスピレーションを得たダークグリーンとペールローズの限定カラーも展開され、コレクターズアイテムとしても注目を集めている。
基本情報
| 製品名 | Eames House Bird(イームズ ハウス バード) |
|---|---|
| デザイナー | チャールズ&レイ・イームズ(収集品) |
| ブランド | Vitra(ヴィトラ) |
| サイズ | W85mm × D278mm × H276mm |
| 素材(ブラック) | 本体:ソリッドアルダー(ブラックラッカー仕上) レッグ:スチールワイヤー |
| 素材(ウォールナット) | 本体:ウォールナット(クリアラッカー仕上) レッグ:スチールワイヤー |
| 原産国 | EU(ドイツ製) |
| 発売年 | ヴィトラによる復刻(ブラック) 2018年(ウォールナット追加) |
| 参考価格 | 34,100円〜48,400円(税込) |
| オリジナル制作年代 | 1910年頃(推定) |