イームズ ラウンジチェア 670 - 時代を超越したデザインアイコン
| デザイナー | チャールズ&レイ・イームズ(Charles & Ray Eames) |
|---|---|
| ブランド | ハーマンミラー(Herman Miller)/ ヴィトラ(Vitra) |
| 発表年 | 1956年 |
| 素材 | 成形合板、レザー、アルミニウム鋳造ベース |
| サイズ | チェア:幅83.2cm × 奥行83.2cm × 高さ83.2cm オットマン:幅66cm × 奥行54.6cm × 高さ43.2cm |
| モデル番号 | 670(チェア)/ 671(オットマン) |
概要
イームズラウンジチェア670は、1956年にチャールズ&レイ・イームズ夫妻によってデザインされた、20世紀を代表するラウンジチェアです。19世紀の英国クラブチェアを現代的に解釈したこの椅子は、革新的な成形合板技術と最高級レザーの組み合わせにより、比類なき快適性と美しさを実現しました。
発表から70年近くが経過した現在も、ハーマンミラー社(アメリカ)とヴィトラ社(ヨーロッパ)によって連続生産されており、その普遍的なデザインは世界中の家庭、オフィス、そして美術館で愛され続けています。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ、世界20以上の主要美術館の永久コレクションに収蔵されている、まさにデザイン史における不朽の名作といえるでしょう。
特徴・コンセプト
「野球のミットのような」包容力
チャールズ・イームズは、この椅子のデザインコンセプトを「使い込まれた野球のファーストミットのような、温かく受容的な外観」と表現しました。3つの曲線的な成形合板シェル(ヘッドレスト、背もたれ、座面)が、座る人の身体を優しく包み込むように設計されており、まさに彼が描いたビジョンを完璧に具現化しています。
革新的な構造と素材
イームズ夫妻が第二次世界大戦中に開発した成形合板技術を応用し、7層の合板を熱と圧力で成形することで、人体にフィットする有機的な曲線を実現しました。各パーツはゴム製の「ショックマウント」で接続されており、座る人の動きに合わせて独立して動く柔軟性を持っています。この革新的な構造により、長時間座っても疲れにくい究極の快適性を実現しています。
ラグジュアリーとモダニズムの融合
イームズ夫妻の多くの作品が大量生産と手頃な価格を目指したのに対し、ラウンジチェア670は最初から高級市場向けにデザインされました。最高級のイタリアンレザー、ローズウッドやウォールナットの美しい木目、そして精密なアルミニウム鋳造ベースが、モダンデザインの機能性とラグジュアリーな快適性を見事に調和させています。
エピソード
ビリー・ワイルダーへの贈り物
このアイコニックな椅子の誕生には、ハリウッドの伝説的映画監督ビリー・ワイルダーとの友情が深く関わっています。イームズ夫妻は、映画撮影の合間に即席のラウンジチェアで休憩を取るワイルダーの姿を見て、究極の快適性を持つ椅子の制作を決意しました。完成した最初の2脚のうち1脚は、ワイルダーへの贈り物として製作されました。
テレビデビューと即座の成功
1956年、NBCテレビの番組「Home」でアーリーン・フランシスによって全国デビューを果たしたイームズラウンジチェアは、即座にセンセーションを巻き起こしました。ハーマンミラー社は、ビクトリア朝の応接間から田園風景まで、あらゆる環境にマッチすることを示す革新的な広告キャンペーンを展開し、この椅子の普遍性を強調しました。
ポップカルチャーのアイコン
テレビシリーズ「フレイジャー」では、主人公フレイジャー・クレイン博士のシアトルのペントハウスに11シーズンにわたって登場し、「世界で最も優れた設計の椅子」と称されました。また、「アイアンマン」のトニー・スタークの邸宅、「ゴシップガール」のミッソーニ柄にリカバーされた特別版、「シャークタンク」の投資家たちの椅子など、数多くの映画やテレビ番組に登場し、洗練された趣味と成功の象徴として描かれ続けています。
評価
MoMAのキュレーター、アーサー・ドレクスラーは1973年のカタログで「イームズは、英国のクラブチェアが提供できる以上の快適さを超越するラウンジチェアを試みた唯一のデザイナーである」と評価しました。伝統的に相反する概念であった快適性と優雅さを、イームズ夫妻は見事に融合させることに成功したのです。
デザイン批評家のエスター・マッコイは、イームズの成形合板椅子シリーズを「世紀の椅子」と呼び、特にラウンジチェアについては「機能する芸術作品」と評しました。発表から約70年が経過した現在でも、その革新性と普遍的な美しさは色褪せることなく、20世紀デザインの最高峰として認識されています。
2006年、発表50周年を記念して、デザイン学者たちによる書籍『The Eames Lounge Chair: An Icon of Modern Design』が出版され、グランドラピッズ美術館やニューヨーク美術デザイン博物館で特別展が開催されました。これは、単一の家具デザインが文化的アイコンとしていかに重要な位置を占めているかを示す稀有な例といえるでしょう。
受賞歴・収蔵
- 1960年
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション収蔵
- 永久収蔵美術館
- シカゴ美術館、ヘンリー・フォード博物館(ミシガン州)、ボストン美術館など、世界20以上の主要美術館
- 2006年
- 発表50周年記念特別展(グランドラピッズ美術館、ニューヨーク美術デザイン博物館)
- 2012年
- MoMA展覧会「Century of the Child: Growing by Design, 1900-2000」出展
- 文化的認知
- アメリカ議会図書館による歴史的映像資料の保存・修復プロジェクトに選定
現代における意義
イームズラウンジチェア670は、単なる家具を超えて、20世紀アメリカンデザインの精神を体現する文化的アイコンとなりました。大量生産時代においても妥協のない品質を追求し、ミシガン州の同じ工場で今も一つ一つ手作業で組み立てられています。
2019年には環境に配慮した竹レザーバージョンが発表され、FSC認証竹から作られた植物由来素材を83%使用することで、従来のレザーと比較して35%のカーボンフットプリント削減を実現しました。このように、クラシックなデザインを保ちながら、現代の価値観に適応し続けている点も、この椅子が時代を超えて愛され続ける理由の一つといえるでしょう。
イームズラウンジチェア670は、優れたデザインが持つ普遍的な価値を証明する存在として、これからも世代を超えて受け継がれていく、真のデザインアイコンです。