イームズ プラスチック サイドチェア DSW:近代家具デザインの代表作

イームズ プラスチック サイドチェア DSW(Eames Plastic Side Chair DSW)は、20世紀の工業デザインを象徴する名作である。1948年にチャールズ&レイ・イームズ夫妻によってデザインされ、1950年に製品化されたこの革新的なチェアは、家具史における重要な転換点を示すものとして、今なお高い評価を受け続けている。

概要

DSWという名称は「Dining Height Side Chair Wood Base」の頭文字を取ったもので、ダイニングハイトのサイドチェア(肘掛けなし)に木製ベースを組み合わせた構成を表している。このチェアは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が1948年に開催した「International Competition for Low-Cost Furniture Design(ローコスト家具デザイン国際コンペティション)」のために創作された作品群の一つである。イームズ夫妻が掲げた「最高のものを、最も多くの人々に、最も手頃な価格で(Getting the most of the best to the greatest number of people for the least)」という理念を形にした作品として、発表以来、世界中の家庭やオフィス、公共施設で愛用されてきた。

このチェアは家具史において特筆すべき位置を占めている。人間工学に基づいて成形された一体型プラスチックシェルを採用した世界初の量産チェアとして、素材と製造技術の革新を家具デザインに持ち込んだ画期的な作品である。発売以来、その機能性と造形によって幅広い環境で使われ続けている。

デザインの誕生と開発背景

戦後の住宅事情と家具への要請

第二次世界大戦後、急速な都市化と住宅需要の高まりにより、コンパクトで手頃な価格の家具が求められていた。MoMAのコンペティションカタログには、「小さなアパートや家に適した家具が必要です。入手しやすい価格でありながら優れたデザインで、コンパクトでありながら快適で、移動、収納、手入れが簡単な家具。つまり、現代生活のニーズを満たすように計画され実現された、量産型の家具」という時代の要請が記されている。イームズ夫妻は、この社会的課題に応えるべく、革新的なアプローチで家具デザインに取り組んだ。

素材探求の軌跡

イームズ夫妻が人体の形状に沿った一体型シェルチェアの構想を抱いたのは1940年代初頭のことである。当初、彼らは成形合板による実現を試みたが、三次元曲面を成形するには極端な条件が必要となり、技術的に困難を極めた。その後、金属板のプレス成形による試作を経て、最終的に戦時中の軍事技術として発展したグラスファイバー強化プラスチック(FRP)に着目することとなる。

チャールズとレイは「素材に対して中立的(material agnostic)」であることを信条としていた。彼らは特定の素材にこだわるのではなく、求める機能を実現するために最適な素材を探求した。この姿勢が、前例のない家具の誕生を可能にした。FRPは1930年代に発明された比較的新しい素材で、第二次世界大戦中は主に軍用機のレーダードーム(レドーム)など軍事目的に限定して使用されていた。イームズ夫妻は戦争余剰物資店で入手したグラスファイバークロスとプラスチック樹脂を、ケーススタディハウス8号のスクリーンに使用した経験から、この素材の可能性を見出していた。

製品化への道のり

1948年、イームズ夫妻はMoMAのコンペティションに、金属製プレス成形によるプロトタイプとともにデザイン案を提出した。審査員たちは、標準的な4本脚ベース、ロッキングチェアベース、スチールワイヤー製ローベース、鋳造アルミニウム製コントラクトベースなど、多様なベースシステムを高く評価した。

しかしながら、当時のパートナーであったハーマンミラー社は、市場での前例がないデザインのために8万ドルという高額な金属プレス機への投資に難色を示した。そこでイームズ夫妻は方向転換を図り、戦時技術であったグラスファイバー成形に着目する。概念実証のため、グラスファイバー製造業者ジョン・ウィルズに依頼してアームシェル形状の試作品を2点製作させたところ、この素材が理想的な特性を備えていることが確認された。FRPは自然に耐熱性・耐寒性を有し、表面コーティングが不要であること、また成形合板グループで成功を収めたゴム製ショックマウントを使用してシェルと脚部を接続できることなど、多くの利点があった。

製造パートナーとして、ゼニス・プラスチック社のアーヴ・グリーンとソル・フィンガーハットが選ばれた。航空機用レドームしか製造したことがなかった彼らだったが、このデザインに強く惹かれ、5,000ドルの機械費用の半額を自己負担することを申し出た。ハーマンミラー社が残りの2,500ドルを負担し、量産への道が開かれた。1949年11月に最初の生産契約が締結され、1950年1月にシカゴ・マーチャンダイズ・マートでビジネス関係者向けに初披露された。一般向けの正式デビューは、1950年にMoMAで開催された「Prize Designs in Modern Furniture(近代家具の優秀デザイン)」展であった。

デザインの特徴とコンセプト

人間工学に基づく一体型シェル

DSWの最大の特徴は、人体の形状に沿って立体的に成形された一体型のシェル座面である。このシェルは単なる美的表現ではなく、徹底した人間工学的考察に基づいて設計されている。背もたれには適度な柔軟性を持たせ、使用者が後ろに寄りかかった際には適度にたわみ、元の形状に復元する設計となっている。シートポケットは深く、座面前縁は緩やかに下向きにカーブしており、長時間座っていても快適さを保てるよう配慮されている。

イームズ夫妻は、コンピュータによるデジタルデザインが存在しなかった時代に、手と身体で実際にシルエットを確認しながら形状を決定した。その結果生まれた有機的で優しい曲線は、「オーガニック」と形容され、人間の身体に自然にフィットする快適な座り心地を実現している。このシェルは「身体を受け止める面(surfaces to receive the body)」という概念を形にしたものであり、イームズ夫妻が生涯において一体成型で実現できたのは、このモールデッドプラスチックチェアとモールデッドスチールワイヤーチェアの二種類のみであった。

ダウエルレッグベースの美学

DSWを特徴づけるもう一つの重要な要素が、木製ダウエル(丸棒)を用いたベースである。細い木製の脚部と、それらを連結する金属製のクロスワイヤーの組み合わせは、視覚的な軽やかさと構造的な強度を両立させている。木材の温かみとプラスチックシェルの近代性、そして金属ワイヤーの工業的な美しさが調和し、異素材を巧みに組み合わせるイームズ独自のデザイン手法が際立つ構成となっている。

このダウエルレッグベースには紆余曲折の歴史がある。オリジナルのDSWは1950年から製造されたが、木製脚部に荷重がかかることで割れや破損が発生し、返品が相次いだため、1953年頃には生産が中止された。当初のベースはシカゴのセング社によって製造され、天然バーチ材またはウォールナット材のみで提供されていた。2001年、ハーマンミラー社とヴィトラ社がプラスチックチェアシリーズを再発売する際、木製ダウエルの内部に金属製の補強ロッドを通すという改良が施され、最大限の安定性と強度を備えた新世代のDSWが誕生した。この改良により、DSWはシェルチェアシリーズの中で最も人気のあるベースタイプの一つとなった。

多様性とカスタマイズ性

DSWの大きな魅力の一つは、その高い多様性とカスタマイズ性である。シェルの色は、発売初年度にはグレージュ(グレーベージュ)、エレファントハイドグレー(淡いブラック)、パーチメントの3色のみであったが、その後多彩な色展開が実現された。現在では、定番のホワイト、ブラック、レッドオレンジに加え、新色を含む全12色以上のバリエーションから選択が可能である。2024年からはリサイクルプラスチック製のシェルが導入され、コットンホワイトRE、シトロン、エメラルドといった新しい色調も加わっている。

脚部についても、イエロイッシュメープル、ダークメープル、ブラックステインメープル、ハニートーンアッシュなど、複数の木材仕上げが用意されており、インテリアスタイルに応じた選択が可能である。また、シェルチェアシリーズ全体としては、エッフェルベース(DSR)、Xベース(DSX)、スタッキングベース、ロッキングベース、キャスター付きベースなど、用途に応じた多様なベースオプションが展開されており、サイドチェア(肘掛けなし)とアームチェア(肘掛け付き)を組み合わせることで、無数のバリエーションを生み出すことができる。

製造技術と素材の進化

FRPからポリプロピレンへ

製品化当初、シェルはグラスファイバー強化ポリエステル樹脂(FRP)で製造されていた。チャールズ・イームズは、この革新的な成形技術について「強化ポリエステル樹脂を型に流し込み、グラスファイバーマットで層を重ね、最終的に外形を整える」と説明している。FRPは成形性、剛性、快適な触感、工業的製造方法への適合性といった利点を備えており、イームズ夫妻が求める理想的な素材であった。

しかしながら、FRPの製造工程における環境負荷が問題視されるようになり、1993年(または2000年代初頭)、ハーマンミラー社とヴィトラ社は環境に配慮してシェルの素材をポリプロピレンに変更した。ポリプロピレンは100%リサイクル可能であり、成形性や触感、強度といった特性においてもFRPに匹敵する性能を持つ。この素材変更により、発売当初のデザインを忠実に保ちながら、より持続可能な製品として生まれ変わった。

リサイクルプラスチックへの転換

2024年、ヴィトラ社はさらなる環境配慮を進め、イームズ プラスチックチェアシリーズを「Eames Plastic Chair RE」として刷新した。新しいシェルは、主にドイツの家庭から回収されるパッケージ廃材を原料とした、消費後リサイクルプラスチックから製造されている。石油由来の新規プラスチックと比較して、この再生材料の使用により、気候変動の原因となる排出量が削減され、エネルギー消費も大幅に抑制される。

リサイクル材料の組成により、各色のシェルには微細な色素の斑点が散りばめられており、これが独特の表情を生み出している。従来の白色は「コットンホワイトRE」に置き換えられたが、2025年末までは新規ポリプロピレン製の白色も入手可能である。いずれのバージョンも製品寿命の終了時には100%リサイクル可能であり、循環型経済への貢献を実現している。

座面高の調整

2015年、ヴィトラ社は重要な改良を実施した。1948年の初期デザイン以来、人々の平均身長が約10センチ高くなったことを受け、ベースの高さを従来より2センチ高い43センチに調整した。この変更は、ハーマンミラー社が同年に実施したイームズ ラウンジチェアの高さ調整に続くものであった。この調整により、DSWは現代の使用者の体格により適合した、より快適な座り心地を提供できるようになった。変更は最小限であり、直接比較しない限り視覚的な違いはほとんど認識できない。

評価とコレクション

DSWの原型となるシェルチェアは、1948年にニューヨーク近代美術館(MoMA)が開催した「International Competition for Low-Cost Furniture Design(ローコスト家具デザイン国際コンペティション)」に出品され、審査で評価を受けた。出品時のシェルは金属プレス成形で、量産化にあたってグラスファイバー強化プラスチックへと変更された経緯を持つ。以後、DSWはMoMAをはじめとする世界の主要美術館に収蔵され、20世紀の工業デザインを代表する作品として、展示や研究の対象となっている。

後世への影響

DSWは、プラスチックを主要な構造材として用いた家具の先駆けとなった。それ以前のプラスチックは装飾や補助的な部品に使われることが多かったが、イームズ夫妻はこの素材を構造体そのものとして活用した。この成功を土台に、ヴェルナー・パントン、エーロ・アールニオ、ジョー・コロンボら後続のデザイナーがより実験的なプラスチック家具を展開し、1960年代から70年代のプラスチック家具の隆盛につながった。

身体の形状に沿った成形シェルという設計は、現代のオフィスチェアや公共施設向けチェアにも受け継がれている。また、優れたデザインを手頃な価格で広く提供するという発想は、後の多くの家具ブランドの姿勢にも影響を与えた。

基本情報

製品名 イームズ プラスチック サイドチェア DSW / Eames Plastic Side Chair DSW
デザイナー チャールズ&レイ・イームズ(Charles & Ray Eames)
デザイン年 1948年
製品化年 1950年
製造 ハーマンミラー(Herman Miller / アメリカ)、ヴィトラ(Vitra / ヨーロッパ・中東)
分類 ダイニングチェア、サイドチェア
名称の意味 D = Dining Height(ダイニングハイト)、S = Side Chair(サイドチェア)、W = Wood Base(ウッドベース)
素材 シェル:ポリプロピレン(2024年以降はリサイクルプラスチック / 初期はFRP)、ベース:木材(メープル、アッシュ等)・スチール
寸法(標準) 幅約46-47cm × 奥行約55cm × 高さ約83-84cm、座面高43cm(2015年以降)
カラーバリエーション 12色以上(ホワイト、ブラック、レッドオレンジ、コットンホワイトRE、シトロン、エメラルド他)
特徴 世界初の量産プラスチックチェア、人体に沿った一体成型シェル、木製ダウエルレッグベース、多様なカスタマイズオプション
保証 ハーマンミラー製:5年保証
コレクション ニューヨーク近代美術館(MoMA)、クーパーヒューイット国立デザイン博物館、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム他