FLOS(フロス)
FLOS(フロス)は、1962年にイタリア・メラノで誕生した、世界を代表するモダン照明ブランドです。イタリアデザインの巨匠であるアキッレ・カスティリオーニとピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟を中心に創設され、革新的なデザインと卓越した技術力により、半世紀以上にわたって照明デザインの最前線を走り続けています。単なる照明器具の枠を超え、空間を彩る芸術作品としての側面を持つFLOSのプロダクトは、世界中のハイエンドな空間において不可欠な存在となっています。
ブランドヒストリー:革新と創造の歴史
創業期:コクーン技術からの出発
FLOSの物語は、1959年に遡ります。家具デザイナーとして既に名声を確立していたディーノ・ガヴィーナは、戦後のイタリアがインテリアデザインの新たな中心地となるべきだという強い信念を抱いていました。彼は、メラーノ出身の発明家アルトゥーロ・アイゼンキールが開発した革新的な技術「コクーン」に着目します。この技術は、金属フレームに樹脂をスプレーで吹き付けることで、電球から放射される光を霧状の素材を通して拡散させ、まるで雲のように柔らかな光を生み出すものでした。
ガヴィーナの後押しを受け、既に革新的な照明アイデアで知られていたカスティリオーニ兄弟とトビア・スカルパがこの技術を応用し始めます。こうして1962年、正式にFLOSが設立されました。創業時からアキッレ・カスティリオーニとピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟がデザイン部門の責任者として参画し、「ARCO」「TACCIA」「TOIO」といった不朽の名作を次々と発表していきます。
経営の転換と飛躍
ガヴィーナの芸術志向の経営から、より実業家的な経営理念を持つセルジオ・ガンディーニへと経営が移行したことは、FLOSの発展において重要な転機となりました。ガンディーニは、金属加工を中心とした新しい産業地区の力を活用するためにFLOSをブレーシャへ移転させ、チェザレ・カッシーナとともにパートナーとして参画します。彼は各プロダクトの価値を深く理解し、デザインの追求と独占権の保護に全力を注ぎました。
1972年5月、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された「イタリア、ザ・ニュードメスティックランドスケープ展」は、FLOSにとって歴史的な出来事となります。カスティリオーニ兄弟の作品を数多く展示したこの展覧会で、多くの作品がMoMAの永久コレクションに選ばれました。まだ市場に参入して間もないFLOSにとって、これは世界的な評価を得る決定的な瞬間でした。
現代への展開
60年以上の歴史を通じて、FLOSは常に時代の最先端を走り続けてきました。2005年からは、住宅向けのデコラティブ照明に加えて、ハイエンドな商業施設や公共建築向けのアーキテクチュラル照明にも本格的に注力するようになります。近年では、高性能LEDを用いた照明器具やバッテリー式の照明をいち早く開発し、過去の名作のLED化も積極的に進めています。また、アウトドア照明のラインナップも充実させ、屋内外を問わず上質な光を提供する統合的なソリューションを展開しています。
2022年には創立60周年を迎え、現在では世界90カ国以上に輸出する国際的なブランドへと成長を遂げています。革新的で高品質でありながら刺激的なプロダクトの生産を続け、照明デザインの未来を切り拓き続けています。
デザイン哲学:機能と美の融合
FLOSのデザイン哲学は、革新的な技術と芸術的な美意識の完璧な融合にあります。照明器具でありながら、それは単なる実用品ではなく、空間全体を演出する彫刻的なオブジェとして機能します。カスティリオーニ兄弟が体現した「既存の概念にとらわれない斬新な発想」という精神は、今日に至るまでFLOSの創造活動の根幹を成しています。
FLOSは、新しい素材や技術に対して常にオープンであり、それらを最大限に活用することで、これまでにない照明体験を生み出してきました。コクーン技術から始まり、LED、最先端の光学技術に至るまで、テクノロジーの進化を常に取り入れながら、同時にタイムレスなデザインの美しさを追求し続けています。
また、FLOSは世界中の才能あるデザイナーとのコラボレーションを重視しています。フィリップ・スタルク、ジャスパー・モリソン、マイケル・アナスタシアデス、パトリシア・ウルキオラ、ロナン&エルワン・ブルレックなど、各時代を代表するデザイナーたちが、FLOSというプラットフォームで自らのビジョンを形にしてきました。この多様性こそが、FLOSのコレクションに豊かさと深みをもたらしています。
代表的な名作照明
ARCO(アルコ)- 1962年
アキッレ・カスティリオーニとピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟によってデザインされた「ARCO」は、FLOSを世界的なブランドへと押し上げた伝説的なフロアランプです。重厚な大理石のベースから優雅に弧を描くステンレスのアームが特徴で、その名の通り美しいアーチ(ARCO)を形成します。
街灯からインスピレーションを得たこのデザインは、天井から電源を取れない場所でもペンダントライトのような機能を実現するという革新的なコンセプトから生まれました。ベースから光源までの距離は約2.2メートルあり、ダイニングテーブルの中央にシェードを配置した際、椅子の後ろを人が通れるよう絶妙に計算されています。約65kgの大理石ベースに開けられた穴は、意匠的な美しさだけでなく、棒を通して持ち運ぶための実用的な工夫でもあります。
1962年の発表以来、半世紀以上にわたって世界中で愛用され続け、ハイエンドなインテリア空間の証となる存在として君臨しています。現代ではLEDバージョンも展開され、オリジナルのデザインを保ちながら最新技術に対応しています。
TACCIA(タッチア)- 1962年
カスティリオーニ兄弟が同じく1962年にデザインした「TACCIA」は、シーリングランプを逆さまにするというユニークな発想から生まれたテーブルランプです。独特の半円型のリフレクターと、古代の柱を思わせる洗練された台座のデザインが特徴的で、イタリアンデザインのシンボルの一つとして国際的に広く知られています。
高度な職人技が光るこのランプは、機能性と芸術性を完璧に融合させた作品として、世界中のデザイン愛好家から支持を集めています。最新のLED技術にアップデートされた現代版では、デザインの純粋さと形状の可塑性がさらに高められ、TACCIAの存在感を一層際立たせています。
IC Lights(アイシーライツ)- 2014年
キプロス出身のデザイナー、マイケル・アナスタシアデスが2014年に発表した「IC Lights」は、現代のFLOSを代表する世界的ヒット作です。真鍮の光沢感のある棒と乳白色の球形ガラスシェードが、まるでサーカスの道具のように不思議なバランスを保つデザインは、コンタクトジャグリングから着想を得て生まれました。
「IC」という名称は、英国入国管理局が移民を分類するために用いる識別コードから名付けられており、デザイナー自身が外国人としてのアイデンティティの不安定な平衡を表現しています。この哲学的な背景を持つデザインは、アナスタシアデスの作品を特徴づける詩的な優美さと先見の明を体現しています。
フロアランプ、テーブルランプ、ペンダントライトなど多様なラインナップを展開し、調光機能により無段階で明るさを調整できる実用性も備えています。発表以来、世界中で愛され続けるFLOSの現代の名品です。
GLO-BALL(グローボール)- 2006年
イギリスを代表するデザイナー、ジャスパー・モリソンが2006年に発表した「GLO-BALL」シリーズは、彼のデザイン哲学「スーパーノーマル」を体現した作品です。「良い製品とは、短いスパンではなく、何年経っても使い続けてもらえるような、謙虚で静かな、そして暮らしの中で便利な道具である」というモリソンの信念のもとに生まれました。
一見シンプルな球体の照明ですが、実は完全な正円ではなく、上下に少し押しつぶしたような楕円形をしています。この絶妙なフォルムと、ランプの開口部を極限まで小さくした設計により、ガラスグローブ全体が余すことなく発光し、360度どこから見ても美しい姿を見せます。
表面にはきめの細かい酸化処理が施され、高度なクラフツマンシップによる吹きガラス技法により薄く均質な厚みを実現しています。発光した際の人間的な温かさと優しさは、まるで提灯のような柔らかな光として空間を包み込みます。ペンダント、フロアスタンド、テーブルランプなど多様なバリエーションを展開し、和洋を問わずあらゆる空間に馴染む普遍的な美しさを持っています。
TOIO(トイオ)
カスティリオーニ兄弟による「TOIO」は、自動車のヘッドライトを照明器具として再解釈した革新的な作品です。スチールプロファイル構造と曲線を描くスチールベースを持ち、高さを自由に調整できる機能性を備えています。電子調光器により間接光を調整でき、開放的な産業空間に柔らかな光を提供します。
既製品を新しい文脈で使用するというカスティリオーニ兄弟の革新的なアプローチが結実したこのランプは、MoMAの永久コレクションにも選ばれ、20世紀を代表する照明デザインの一つとして高く評価されています。
協働するデザイナーたち
FLOSの成功は、世界トップクラスのデザイナーたちとの創造的なコラボレーションによって支えられています。
アキッレ・カスティリオーニ & ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ
FLOS創設の中心人物であるカスティリオーニ兄弟は、イタリア・ミラノ生まれの建築家でありデザイナーです。アキッレ・カスティリオーニ(1918-2002)は、ミラノ工科大学建築学科を卒業後、1944年に兄リビオとピエル・ジャコモの建築事務所に参画しました。1962年のFLOS設立時にはデザイン部門の責任者として招聘され、「ARCO」「TACCIA」「TOIO」など数々の傑作を生み出しました。
ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ(1913-1968)は、1938年に兄リビオと建築事務所を設立し、1940年以降は毎回ミラノ・トリエンナーレに出展、コンパッソ・ドーロ賞で数多くの賞を受賞しています。兄弟は共に、イタリアにおける革新的工業デザインの先駆者として、近代デザイン界に多大な影響を与えました。
マイケル・アナスタシアデス
1967年キプロス生まれのマイケル・アナスタシアデスは、FLOSの現代を代表するデザイナーの一人です。「IC Lights」シリーズをはじめ、詩的な優美さと先見の明を持ち合わせた作品を数多く手がけています。彼のデザインは、哲学的な深みと視覚的な美しさを兼ね備え、現代照明デザインの新たな地平を切り拓いています。
ジャスパー・モリソン
1959年ロンドン生まれのジャスパー・モリソンは、イギリスを代表するプロダクトデザイナーです。ロンドン王立芸術学院やベルリン芸術大学でデザインを学び、1986年に自身のスタジオ「オフィス・フォー・デザイン」を設立しました。「スーパーノーマル」というデザイン哲学のもと、シンプルで実用的、かつ誠実なデザインを追求し、「GLO-BALL」シリーズなどFLOSの重要な作品を手がけています。彼の作品は多くの賞を受賞し、MoMAなどのパーマネントコレクションとなっています。
フィリップ・スタルク
フランス出身の世界的デザイナー、フィリップ・スタルクもFLOSの重要なコラボレーターです。「Miss K」「K Tribe」など、独創的でドラマティックな照明作品を発表し、FLOSのコレクションに独特の個性をもたらしています。
その他の協働デザイナー
パトリシア・ウルキオラ、コンスタンチン・グルチッチ、ロナン&エルワン・ブルレック、マルセル・ワンダースなど、各時代の最前線で活躍するデザイナーたちがFLOSと協働し、挑戦的で遊び心に満ちた光のオブジェを作り続けています。この多様な才能との協働こそが、FLOSが常に革新的であり続ける源泉となっています。
FLOSの特徴と魅力
革新的な技術と素材
FLOSは常に最新技術の導入に積極的です。創業時のコクーン技術から始まり、現代では高性能LEDの採用、バッテリー式照明の開発など、照明技術の進化を常にリードしています。同時に、過去の名作をLED化するプロジェクトも進めており、タイムレスなデザインを現代の技術で蘇らせています。
空間を彩る芸術性
FLOSの照明は、単なる光源ではなく、空間全体を演出する彫刻的なオブジェです。華やかなデザインからミニマルなデザインまで多様なラインナップを揃え、建築との一体感を重視した照明器具も豊富に取り揃えています。住宅空間から商業施設、公共建築まで、あらゆるシーンで活躍する存在です。
イタリアンクラフツマンシップ
イタリア製の高品質な素材と卓越した職人技術が、FLOSのプロダクトの品質を支えています。吹きガラス、金属加工、表面処理など、各工程において最高水準の技術が投入され、美しさと耐久性を兼ね備えた照明が生み出されています。
包括的なソリューション
住宅向けのデコラティブ照明から、商業施設や公共建築向けのアーキテクチュラル照明、さらには近年注目を集めるアウトドア照明まで、FLOSは照明における統合的なソリューションを提供しています。室内だけでなく、庭やバルコニーにも上質な光を届け、暮らし全体を豊かにします。
世界的な評価と影響
FLOSの作品は、世界中の美術館やデザインミュージアムに永久コレクションとして所蔵されています。特に1972年のニューヨーク近代美術館(MoMA)での「イタリア、ザ・ニュードメスティックランドスケープ展」以降、多くの作品がMoMAの永久コレクションに選ばれ、デザイン史における重要な位置を占めています。
また、コンパッソ・ドーロ賞をはじめとする数々の国際的なデザイン賞を受賞し、照明デザインの最高峰として世界中から認められています。FLOSの照明は、一流のインテリア空間には欠かせない存在となり、世界中のデザイナー、建築家、そして住まい手から支持を集め続けています。
60年以上の歴史を通じて、FLOSはモダン照明デザインの古典を数多く生み出すとともに、常に革新を続けることで、照明デザインの未来を指し示し続けています。過去の伝統を尊重しながらも未来を見据えるその姿勢は、歴史あるブランドが進むべき道を示す模範となっています。
基本情報
| ブランド名 | FLOS(フロス) |
|---|---|
| 設立 | 1962年 |
| 創業地 | イタリア・メラノ(Merano) |
| 創業者 | ディーノ・ガヴィーナ(Dino Gavina)、アキッレ・カスティリオーニ & ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟 |
| 国 | イタリア |
| カテゴリー | 照明器具(デコラティブ照明、アーキテクチュラル照明、アウトドア照明) |
| 輸出国数 | 90カ国以上 |
| 公式サイト | https://japan.flos.com/ |