IC Lightsは、キプロス出身の著名デザイナー、マイケル・アナスタシアデスが2014年にイタリアの照明ブランドFlosのために創作した照明コレクションである。乳白色のガラス球体が細い金属製の棒の先端で絶妙なバランスを保つという、一見不安定ながら詩的な美しさを湛えたデザインは、発表以来世界中のデザイン愛好家から高い評価を受け、現代照明デザインを代表する名作として確固たる地位を築いている。
このコレクションは、テーブルランプ、フロアランプ、ペンダントライト、ウォール/シーリングライト、さらにアウトドア仕様まで、多様なバリエーションを展開し、住宅から商業空間まで幅広い環境に対応する。真鍮、クロム、ブラックという三つの仕上げと、直径200mmおよび300mmの二つのサイズが用意され、空間の規模や雰囲気に応じた選択が可能である。
特徴・コンセプト
バランスの探求
IC Lightsの核心には「バランス」という概念が存在する。球体と棒という極めてシンプルな要素の組み合わせでありながら、その構成が生み出す視覚的緊張感は見る者を魅了する。傾斜した棒の先端に位置する球体は、まさに重力に逆らうかのような姿勢を保ち、静止と動きの境界に存在しているかのような印象を与える。この緊張と静謐の共存こそが、IC Lightsが単なる照明器具を超えて彫刻的オブジェとしての存在感を獲得している理由である。
光と素材の調和
吹きガラスによって成形された乳白色の球体は、光源を柔らかく拡散し、空間全体を温かみのある穏やかな光で包み込む。点灯時には優しく光を放ち、消灯時にはその造形美が際立つ。金属製の支柱は真鍮、クロム、ブラックの各仕上げによって異なる表情を見せ、モダンな空間からクラシカルなインテリアまで、多様な美意識に応答する柔軟性を備えている。
ミニマリズムと詩情の融合
アナスタシアデスの作品に一貫して見られる特徴は、工業的シンプリシティと詩的な魅力の共存である。IC Lightsもまた、最小限の要素で構成されながら、観る者の想像力を刺激する豊かな表現力を持つ。その形態は、柳の綿毛、小枝に止まる鳥、スプーンから滑り落ちるアイスクリーム、あるいは夕陽や月など、見る者それぞれに異なる連想を喚起する。この解釈の多様性こそが、IC Lightsが時代を超えて愛され続ける理由の一つである。
デザインの背景とエピソード
ジャグラーからのインスピレーション
IC Lightsのデザインは、アナスタシアデスがオンラインで偶然目にしたコンタクトジャグラーのパフォーマンス映像に端を発している。ジャグラーが複数の球体を腕や指先で自在に操る様子を見つめるうち、動いているはずの球体が完全に静止しているかのような瞬間があることに気づいた。その魔法のような一瞬、球体が空中で完璧なバランスを保っている姿を捉えたいという思いが、このデザインの出発点となった。
名称に込められた意味
ICという名称には、興味深い背景が存在する。これは英国入国管理局が使用する民族性識別コード(Identification Code)に由来しており、IC1は北欧系白人、IC2は地中海系・ヒスパニック、IC3はアフリカ系カリブ人を指す。キプロス出身でロンドンを拠点とするデザイナーとして、アナスタシアデスは自らの外国人としてのアイデンティティと、それに伴う不安定な平衡感覚を、棒の上でバランスを保つ球体に重ねている。この作品には、形式美の追求とともに、文化的アイデンティティをめぐる深い洞察が織り込まれている。
Flosとの協働
アナスタシアデスとFlosの協働関係は、2011年にFlosの当時のCEOピエロ・ガンディーニがニューヨークで偶然目にした、従来の照明らしからぬ奇妙なオブジェから始まった。そのデザイナーがアナスタシアデスであることを知ったガンディーニは、わずか20分間のタクシーでの会話を経て、協働を決定した。この出会いから生まれたIC Lightsは、比較的手頃な価格設定でありながら、芸術性と実用性を高い次元で両立させ、Flosのカタログにおいて最も成功したコレクションの一つとなった。
評価と影響
2014年の商業発表以来、IC Lightsは即座に市場で受け入れられ、現代照明デザインに多大な影響を与えた。その成功は、雑誌の写真撮影、テレビ番組、映画、Zeit Magazinの表紙イラストなど、様々なメディアで取り上げられることからも明らかである。2024年には発表10周年を記念して、10人のアーティストによる特別プロジェクトが展開され、限定版の24金仕上げモデルも発表された。
IC Lightsの普遍的な魅力は、数多くの模倣品が市場に出回ったことからも窺える。しかし、それらの試みは逆にオリジナルデザインの独自性を際立たせる結果となった。比較的手頃な価格でありながら、再構成された芸術を日常空間にもたらすという価値は、多くの人々に現代デザインの魔法を体験する機会を提供している。
作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、ウィーンのMAK、シカゴ美術館、フランスのFRACセンターなど、世界の主要美術館のパーマネントコレクションに収蔵されており、照明デザインの歴史において重要な位置を占めている。
受賞歴
IC Lights自体の個別受賞歴は特定されていないが、デザイナーであるマイケル・アナスタシアデスは、このシリーズを含む一連の作品により数々の栄誉に輝いている。2015年には英国王立芸術協会(RSA)からロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(RDI)賞を受賞し、デザインと社会への卓越した貢献が認められた。2020年にはミラノ工業デザイン協会から名誉あるコンパッソ・ドーロを受賞、2024年にはロンドン・デザイン・メダルを授与され、30年以上にわたる傑出した業績が評価された。また、大英帝国勲章オフィサー(OBE)の称号も授けられている。
基本情報
| デザイナー | マイケル・アナスタシアデス(Michael Anastassiades) |
|---|---|
| ブランド | Flos(フロス) |
| 発表年 | 2014年 |
| タイプ | テーブルランプ、フロアランプ、ペンダントライト、ウォール/シーリングライト、アウトドアバージョン |
| 素材 | 吹きガラス(乳白色拡散板)、真鍮/クロム/ブラック仕上げスチール |
| サイズ | 球体直径200mm(S1/F1/C1/T1)、300mm(S2/F2/C2/T2) |
| 光源 | LED(調光可能) |
| 製造国 | イタリア |
| コレクション | ニューヨーク近代美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、MAKウィーン、シカゴ美術館、FRACセンター |