Gatto(ガット)は、1960年にアキッレ&ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟によってデザインされた、イタリア照明史に残る傑作テーブルランプである。イタリア語で「猫」を意味するその名の通り、猫が背筋を伸ばして座る優美な姿を彷彿とさせる有機的なフォルムは、モダンデザインの歴史において独自の地位を確立している。
白く柔らかな光を放つこの照明は、革新的な「コクーン」技術を用いて製作され、1962年設立のFlos社の原点となったCOCOONシリーズを代表する作品として、半世紀以上にわたって世界中で愛され続けている。和紙のような繊細な風合いと、彫刻的な存在感を併せ持つGattoは、機能と美を融合させたイタリアンデザインの精髄を体現している。
特徴・コンセプト
革新的なコクーン技術
Gattoの最大の特徴は、アメリカから輸入されたポリアミド樹脂を使用した「コクーン」技術にある。白い粉体塗装を施したスチール製の内部構造に、蜘蛛の糸のように細かな樹脂を吹き付けることで、繭(コクーン)のような独特の質感を作り出している。この製法により、和紙を通したような柔らかで温かみのある拡散光が実現され、空間に心地よい雰囲気をもたらす。
最終的に透明な樹脂でコーティングすることで、繊細な見た目とは裏腹に高い耐久性と清掃のしやすさを両立させた。この技術は、もともとアメリカで梱包材として開発されたものだが、カスティリオーニ兄弟はこれを照明デザインへと昇華させ、新たな表現の可能性を切り開いた。
彫刻的なフォルムデザイン
シンプルな球体を基調としながらも、わずかに扁平させた独特のプロポーションは、まさに猫が丸まって休む姿を抽象化したもの。木製のベースから立ち上がる白い発光体は、機能的な照明器具でありながら、消灯時にもオブジェとしての存在感を放つ。
2つのサイズバリエーション(Gatto:直径35cm、高さ56cm、Gatto Piccolo:直径19cm、高さ31cm)により、様々な空間やシーンに対応。大きなGattoはリビングやベッドサイドに、小さなGatto Piccoloはデスクや棚の上など、より親密な空間での使用に適している。
エピソード
ジョージ・ネルソンからの影響
カスティリオーニ兄弟は、1940年代後期にアメリカのデザイナー、ジョージ・ネルソンがハワード・ミラー社のために開発した「バブルランプ」シリーズに強い影響を受けた。ネルソンが開拓したスプレー樹脂技術を独自に解釈し、よりエレガントで洗練された形状へと発展させることで、Gattoという独創的な作品を生み出した。
興味深いことに、コクーン技術自体は、ドイツのフリーデル・ワウアーによって開発されたもので、蚕が絹糸を紡ぐ「自己巻き付け」の原理を機械的に再現したものであった。この技術とイタリアンデザインの感性が融合することで、Gattoは国境を越えたデザインの結晶となった。
Flos社創設の契機
1960年にデザインされたGattoは、実はFlos社が正式に設立される1962年より前に生まれた作品である。イタリアの実業家ディーノ・ガヴィーナとチェーザレ・カッシーナは、メラーノの小さな製造業者アルトゥーロ・アイゼンカイルと共に、このコクーン技術の可能性に着目。カスティリオーニ兄弟とトビア・スカルパに依頼して生まれたGatto、Viscontea、Taraxacum、そして翌1961年のFantasmaといった一連のCOCOONシリーズが、Flos社設立の直接的な契機となった。
評価
Gattoは、その革新性と美しさにより、発表から60年以上経った現在でも世界中で高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のデザインストアで取り扱われており、同館のキュレーターによって承認された正統なデザイン作品として認められている。カスティリオーニ兄弟とFlos社の両方がMoMAのコレクションに含まれていることも、その芸術的・歴史的価値の高さを証明している。
特筆すべきは、同じCOCOONシリーズのVisconteaとTaraxacumが1963年にMoMAのパーマネントコレクションに選定されたことである。これらの作品群は、イタリアンデザインが世界的に認知される重要な契機となった1972年のMoMA展覧会「Italy: The New Domestic Landscape」にも出展され、国際的な評価を確立した。
デザイン界では、素材の革新的な使用法と詩的な造形美の融合が特に評価されている。工業的な製造技術を用いながらも、手仕事のような温かみを感じさせる仕上がりは、モダンデザインにおける「工業と工芸の理想的な融合」として、多くのデザイナーや建築家に影響を与え続けている。
受賞歴
Gatto自体の個別の受賞歴は明確に記録されていないが、デザイナーであるアキッレ・カスティリオーニは生涯で9つのコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、イタリアンデザイン界の巨匠としての地位を確立した。また、アキッレの作品は世界中の美術館に収蔵されており、特にニューヨーク近代美術館には14点もの作品が永久収蔵されている。
Flos社は、カスティリオーニ兄弟との協働により生み出された数々の照明器具で、複数のコンパッソ・ドーロ賞を受賞している。1979年のParentesi(アキッレ・カスティリオーニとピオ・マンズーによる)、1955年のLuminator(買収により後にFlosが製造)など、同社の受賞歴はイタリア照明デザインの歴史そのものといえる。
| 製品名 | Gatto / Gatto Piccolo |
|---|---|
| デザイナー | アキッレ・カスティリオーニ&ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ |
| ブランド | Flos(フロス) |
| デザイン年 | 1960年 |
| サイズ | Gatto:φ350mm × H574mm(ベース:φ218mm) Gatto Piccolo:φ190mm × H316mm(ベース:φ152mm) |
| 重量 | Gatto:約2.3kg / Gatto Piccolo:約0.9kg |
| 素材 | スチール構造、コクーン樹脂、木製ベース |
| 光源 | Gatto:E26口金 60W Gatto Piccolo:E14口金 40W |
| 機能 | 調光機能付き(ケーブル上のスイッチ) |
| 生産国 | イタリア |