概要
アキッレ・カスティリオーニ(1918-2002)は、イタリアの建築家・工業デザイナーである。日常の道具や工業部品を観察し、それを別の用途に置き換えることで新しい製品を成立させる方法を用いた。トラクターの座席を使ったメッツァドロ、自動車のヘッドライトを転用したトイオがその代表にあたる。1952年から1968年まで兄ピエル・ジャコモと組んで仕事をし、その後は単独で制作を続けた。照明を中心に150点を超える製品を残し、多くがフロス、ザノッタ、アレッシィで生産されている。
バイオグラフィー
1918年2月16日、ミラノに生まれた。父ジャンニーノは彫刻家・メダル彫刻家で、兄のリヴィオとピエル・ジャコモもともに建築へ進んでいる。ブレラ美術学校を経て1937年にミラノ工科大学の建築学部に入学し、第二次世界大戦中の従軍を挟んで1944年に建築の学位を得た。
卒業後、兄二人がルイージ・カッチャ・ドミニオーニと1938年に設立した事務所に加わる。戦後は建築の依頼が少なく、事務所は展示会の設計、家具、家庭用品、照明へ軸足を移した。1952年にリヴィオが独立したのち、1968年にピエル・ジャコモが没するまでの16年間、アキッレとピエル・ジャコモは共同名義で制作しており、この期間の作品は両者の分担を切り分けられない。
1956年、兄ピエル・ジャコモとともにイタリア工業デザイン協会(ADI)の設立に加わった。教育者としては1969年からトリノ工科大学、1980年からミラノ工科大学で工業デザインを教え、1993年まで務めている。1997年にはニューヨーク近代美術館で回顧展「Achille Castiglioni: Design!」が開かれた。2002年12月2日、ミラノのスタジオで84歳で没した。
デザインの思想と方法
カスティリオーニの設計は、形の着想からではなく、既にある物と人の行為の観察から始まる。すでに世の中にある部品や道具が、別の文脈に置かれたときにどう働くかを確かめ、そこから製品の構成を決めていく。造形の新しさではなく、組み合わせの新しさが仕事の中心にある。
既製品を別の文脈に置く
最も明確な例が、既製の工業部品をほぼそのまま使う一連の作品である。1957年のメッツァドロはトラクターの座席を座面に、セラは自転車のサドルを座面に用いた。1962年のトイオは自動車のヘッドライトを光源とし、変圧器を台座の重しとして兼用させている。既製部品は形が決まっているため、設計者が決めるのは支持の構成と、それを成立させる最小限の追加部品だけになる。
既存の型を作り直す
彼はこれと区別して、既にある道具を現在の技術と必要に合わせて作り直す方法も用いた。1977年の折りたたみテーブル「クマーノ」や、灰皿・カトラリーの一連の製品がこれにあたる。用途と型は変えず、寸法・材料・加工工程だけを現代の条件に合わせるという操作である。
行為の観察から用途を決める
セラは、電話で話すあいだの姿勢——動き回りたいが座りたくもあり、しかし完全には座りたくない——という観察から出発している。座面を球状の台に載せて不安定にすることで、腰を半ば預ける姿勢が成立する。既存の家具の分類ではなく、人が実際にとる行為から製品の種類を決めた例にあたる。
照明での素材の実験
1960年前後には、金属の枠に樹脂を吹き付けて半透明の膜をつくる工法を照明に用いた。タラクサカム、ヴィスコンテア、ガットはいずれもこの工法によるもので、型を使わずに柔らかい輪郭の拡散面が得られる。1970年のパレンテシは、天井と床の間に張った線材に曲げたパイプを通し、摩擦だけで高さを保持する構成をとる。留め具を持たないため部品数が少なく、設置の自由度が高い。
フロスの歴史や他の製品について詳しくはフロス ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
ルミナトール(1955年)
ピエル・ジャコモとの共作で、細い管の三脚に電球を上向きに載せただけの床置き照明である。天井に光を当てて反射光で室内を照らすため、シェードを必要としない。部品を減らすという方針が最も早い時期に現れた作品で、1955年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。→ルミナトール
メッツァドロ(1957年)
トラクターの金属座席を座面とし、しなる鉄の棒を脚、木の横木を足掛けとして、一本の蝶ねじで留めた腰掛けである。座席の形は農機具として決まったものをそのまま使い、設計として決めたのは脚の断面と取り付けの角度だけになる。既製部品を別の用途に置くという方法が、最も少ない追加で成立した例にあたる。1970年からザノッタが生産している。→メッツァドロ
アルコ(1962年)
ピエル・ジャコモとの共作で、床に置いた台座から弧を描く腕を伸ばし、離れた位置を上から照らす床置き照明である。天井に配線せずにテーブルの真上を照らすという要求から出た構成で、台座には運搬用に棒を通す穴が設けられている。腕の長さと台座の重量は釣り合いから決まっており、形が構造の計算結果として現れている。→Arcoフロアランプ
トイオ(1962年)
自動車のヘッドライトを光源とし、変圧器を台座に据えた床置き照明である。変圧器は電気部品であると同時に、背の高い灯具を安定させる重しとして働く。支柱には釣り竿の導環を使って配線を通しており、既製部品がそれぞれ二つの役割を負っている。追加した部品は支柱と一本のねじだけになる。→トイオ
パレンテシ(1970年)
カーデザイナーのピオ・マンズーの構想を引き継いで完成させた照明である。天井から床へ張った線材に、への字に曲げた管を通し、管と線材のあいだの摩擦で任意の高さに止める。ねじも留め具も使わず、部材の角度だけで保持が成立している。1979年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。→パレンテシ
評価と影響
カスティリオーニは一般に、戦後イタリアのデザインを代表する設計者の一人と評価されている。ジオ・ポンティやヴィコ・マジストレッティらと同じ時期に、製造者と直接に組んで製品を開発する体制のもとで仕事をした。
既製品を別の文脈で使うという方法は、その後の工業デザインで繰り返し参照されている。既にある物の用途を読み替えるという考え方は、新しく作る量を減らすという観点からも取り上げられることが増えた。
1956年のADI設立への関与と、1969年から1993年までの教育活動を通じて、イタリアにおける工業デザインの制度と教育にも関わった。2005年には、彼が長く使ったミラノのスタジオが「スタジオ・ムゼオ・アキッレ・カスティリオーニ」として公開され、図面・模型・写真の資料が保存されている。
受賞・収蔵
受賞
コンパッソ・ドーロ賞を9回受けている。主なものは以下のとおり。
- 1955年 ルミナトール(ピエル・ジャコモと共同)
- 1960年 T12 パリーニ チェア(ピエル・ジャコモ、ルイージ・カッチャ・ドミニオーニと共同)
- 1962年 ピタゴラ コーヒーマシン(ピエル・ジャコモと共同)
- 1964年 スピナマティック ビールディスペンサー(ピエル・ジャコモと共同)
- 1967年 フェブス 同時通訳ヘッドセット(ピエル・ジャコモと共同)
- 1979年 パレンテシ
- 1984年 ドライ カトラリー
- 1989年 コンパッソ・ドーロ キャリア賞
このほか、ミラノ・トリエンナーレで複数の賞を受け、1986年に名誉ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)、2001年にミラノ工科大学の名誉博士号を受けている。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA トゥビーノ ランプ(1951年) 収蔵番号 1423.2000
- MoMA ルミナトール フロアランプ(1955年) 収蔵番号 232.1994
- MoMA スパルテール 電気掃除機(1956年) 収蔵番号 1603.2000
- MoMA メッツァドロ(1957年) 収蔵番号 468.1972
- MoMA ヴィスコンテア ペンダントランプ(1960年) 収蔵番号 373.1963
- MoMA タラクサカム ペンダントランプ(1960年) 収蔵番号 374.1963
- MoMA アルコ フロアランプ(1962年) 収蔵番号 65.1990
- MoMA トイオ フロアランプ(1962年) 収蔵番号 459.1970
- MoMA スヌーピー ランプ(1967年) 収蔵番号 20.2008
- MoMA パレンテシ ランプ(1970年) 収蔵番号 449.1987
- MoMA プリマーテ(1970年頃) 収蔵番号 469.1972
- MoMA スピラーレ 灰皿(1970年) 収蔵番号 16.1997.1-2
- MoMA フリスビー ペンダントランプ(1978年) 収蔵番号 356.1985
- MoMA ドライ モカスプーン(1981年) 収蔵番号 17.1997.1-3
- V&A レオナルド(1979年) 収蔵番号 W.58:1 to 9-1979
- V&A イルマ(1980年) 収蔵番号 W.1-1981
- V&A ドライ カトラリー(1982年) 収蔵番号 M.16 to I-1990
- Met セラ スツール(モデル20、1957年) 収蔵番号 2016.645.1
- Met タッチア ランプ(1962年) 収蔵番号 1987.18a–c
- Met トイオ フロアランプ(1962年設計) 収蔵番号 2002.582.5a, b
- AIC メッツァドロ(1957年) 収蔵番号 2015.600
- AIC ヴィスコンテア ペンダントランプ(1960年) 収蔵番号 2015.599
- AIC スヌーピー テーブルランプ(1967年) 収蔵番号 2016.408
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1951年 | 照明 | トゥビーノ | Arteluce / Flos |
| 1955年 | 照明 | ルミナトール | Flos |
| 1957年 | スツール | メッツァドロ | Zanotta |
| 1957年 | スツール | セラ | Zanotta |
| 1960年 | 照明 | タラクサカム88 | Flos |
| 1960年 | 照明 | ヴィスコンテア | Flos |
| 1962年 | 照明 | ガット テーブルランプ | Flos |
| 1962年 | 照明 | Arcoフロアランプ | Flos |
| 1962年 | 照明 | トイオ | Flos |
| 1962年 | 照明 | タッチア | Flos |
| 1964年 | 家電 | RR126 ラジオグラム | Brionvega |
| 1965年 | 時計 | フィレンツェ クロック | Lorenz / Alessi |
| 1966年 | 椅子 | アッルナッジョ | Zanotta |
| 1967年 | 照明 | スヌーピー テーブルランプ | Flos |
| 1970年 | 椅子 | プリマーテ | Zanotta |
| 1970年 | 照明 | パレンテシ | Flos |
| 1971年 | 什器 | スピラーレ 灰皿 | Alessi |
| 1977年 | テーブル | クマーノ | Zanotta |
| 1978年 | 照明 | フリスビー | Flos |
| 1980年 | 照明 | ジビジャーナ | Flos |
| 1982年 | カトラリー | ドライ | Alessi |
| 1988年 | 照明 | タラクサカム88 | Flos |
| 1990年 | 収納 | ジョイ 712 回転ブックケース | Zanotta |
| 1996年 | デスク | スクリッタレッロ | De Padova |
| 1996年 | 照明 | フクシア | Flos |
プロフィール
| 生没年 | 1918年2月16日〜2002年12月2日 |
|---|---|
| 出身地 | イタリア・ミラノ |
| 国籍 | イタリア |
| 活動拠点 | ミラノ |
| 分野 | 照明、家具、家庭用品、展示設計 |
| 主な協働ブランド | Flos、Zanotta、Alessi、Cassina、Brionvega、De Padova |
Reference
- Fondazione Achille Castiglioni
- https://www.achillecastiglioni.it/en/
- Achille Castiglioni | Flos
- https://flos.com/designers/achille-castiglioni/
- Achille Castiglioni | Zanotta
- https://www.zanotta.com/en-us/designers/achille-castiglioni
- Achille Castiglioni: Design! | The Museum of Modern Art
- https://www.moma.org/calendar/exhibitions/324
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325