ヴィスコンテア(Viscontea)は、アキッレ・カスティリオーニとピエール・ジャコモ・カスティリオーニの兄弟が1960年に設計したペンダントランプである。スチールのフレームに樹脂を吹き付けて膜をつくる「コクーン」技法によるシェードを持ち、点灯すると繊維の網目を通して光が滲み出す。
製造はFlos(フロス)。ニューヨーク近代美術館(MoMA)が本作を収蔵している。
特徴・コンセプト
コクーン樹脂
シェードに用いられる「コクーン」は、第二次世界大戦後のアメリカで、艦船や車両を風雨や塩害から守るために開発されたスプレー式の自己硬化型ポリマーである。用途を終えた軍用機材を覆うための、いわば使い捨ての皮膜だった。1950年代、イタリア・メラーノのアルトゥーロ・アイゼンカイルがこの素材を扱い、家具や照明への応用を探っていた。
スチールワイヤーで骨格を組み、その上から樹脂を噴霧する。繊維が絡み合いながら固まって半透明の膜になり、蚕の繭のような表面ができる。固化した膜には保護コーティングが施される。噴霧の工程は手作業に依存するため、一点ごとに膜の表情がわずかに異なる。同じ樹脂被覆の技法は、1952年に発表されたジョージ・ネルソンのバブルランプでも使われている。
光の拡散
噴霧された樹脂の繊維が不規則に重なるため、シェードの厚みは一様ではない。光は膜のどこを通るかによって濃淡を持ち、器具の輪郭そのものが淡く発光しているように見える。ガラスや布のシェードでは得られない、輪郭のぼやけた光がこの照明の性質である。
消灯時には、白い膜に包まれた楕円の塊として静かにそこにある。名前は、その佇まいをミラノの貴族女性(ヴィスコンテッサ)になぞらえたものとされる。
エピソード
Flos以前のコクーンランプ
1960年前後、ディノ・ガヴィーナはメラーノの小規模生産者アイゼンカイルと組み、コクーン被覆を用いた照明の可能性を探っていた。ここから、ヴィスコンテア、タラクサカム(Taraxacum)、ガット(Gatto)という三つのコクーンランプが生まれる。
Flosが正式に設立されるのは1962年、メラーノにおいてであり、ガヴィーナとチェザーレ・カッシーナが立ち上げた。つまりこれらのランプは、会社より先に存在していたことになる。Flos自身はこの時期を「前史」と呼んでいる。1963年にセルジオ・ガンディーニが経営を引き継ぎ、拠点はブレシアへ移った。
MoMAでの記録
MoMAは1963年、グレタ・ダニエル・デザイン基金によってヴィスコンテアを取得した。同基金では、同じくコクーンランプのタラクサカム(Object no. 374.1963)も同時に収蔵されている。館の目録には素材が「紡糸ガラス繊維と金属」と記載され、寸法は48.5×69.8cmとある。
評価
ヴィスコンテアが示したのは、素材が先にあって形が後から決まる、という設計のあり方である。軍用の被覆材という与件から出発し、それが最もよく機能する形——吹き付けやすく、光をよく通し、骨組みが透けて見えない形——を探した結果として、あの楕円が残った。
1960年の発表以来、Flosのカタログに残り続けている。E27の口金を持ち、現行品はLED電球にも対応する。
基本情報
| 製品名 | ヴィスコンテア(Viscontea) |
|---|---|
| デザイナー | アキッレ・カスティリオーニ & ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ(Achille & Pier Giacomo Castiglioni) |
| デザイン年 | 1960年 |
| ブランド | Flos(フロス) |
| 製品タイプ | ペンダントランプ |
| 素材 | スチールフレーム、コクーン樹脂(スプレー塗布) |
| サイズ | 直径68cm × 高さ49cm |
| 光源 | E27口金(LED電球対応) |
| 製造国 | イタリア |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA/Viscontea Hanging Lamp, Object no. 373.1963、Greta Daniel Design Fund) |