タッチアは、アキッレ・カスティリオーニとピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟がFlosのために手がけたテーブルランプである。1958年頃に構想され、量産化のための研究を経て1962年に製品化された。一見すると天井から吊り下げたランプを逆さまにしたかのような外観をもち、光源の位置に対する見方を意図的に操作する構造で知られている。
溝の刻まれた円柱状の本体、透明な吹きガラスのディフューザー、凹型のアルミニウムリフレクターという三つの独立した要素から構成され、古典建築の円柱を思わせる佇まいと工業製品としての機能性を併せもつ。発表から60年以上にわたりFlosで生産が続く照明である。
特徴とコンセプト
視覚的錯覚と構造
タッチアの特徴は、光源の位置に対する認識を操作する構造にある。外観は吊り下げランプを逆さにしたように見えるが、実際の光源は本体内部に収められ、光は上方へ放射される。透明なガラスのディフューザーは本体上に自由に載せられており、手で触れて角度を変えることで光の方向を調整できる。
機能から導かれた形態
本体の特徴的な溝は、装飾ではなく、光源の熱を放散させるための機能的要素である。これはオートバイのエンジンフィンに通じる放熱構造で、表面積を増やすことで冷却効果を高めている。当初ディフューザーは透明プラスチックで製作される予定だったが、熱による変形という課題に直面したため、Flosはムラーノの職人が吹き上げたガラスを採用して耐熱性を確保した。後にLED光源の導入で熱の問題が解消され、当初構想に近いPMMA(アクリル)製ディフューザーの版も展開されている。
三要素による構成
複雑な機械的装置に頼らず、重力と摩擦によってディフューザーとリフレクターを安定させる構造である。本体、ディフューザー、リフレクターという三つの部品が組み合わさって一つの照明として機能し、各要素の役割が明確に分かれている。本体内部の光源から放たれた光は、凹型の白色塗装アルミニウムリフレクターで反射され、眩しさを抑えた間接光として空間を照らす。
デザインの背景
タッチアは1958年頃に構想され、1959年にはプロトタイプが制作された。しかし量産化には技術的な課題が残り、Flosは熱による素材の変形、光源の配置、各部品の製造方法などについて入念な検討を重ねたうえで、1962年に製品化した。
カスティリオーニ自身が後年語ったところによれば、当初プラスチックで考えていたディフューザーが光源の熱で変形してしまい、設計を見直してガラスに変更したという。円柱状の本体に刻まれた溝も、見た目の威厳のためではなく、放熱という機能から導かれたものである。タッチアはしばしばポストモダンデザインと受け取られることがあるが、1962年の作品であり、ポストモダン運動が本格化する以前に生まれている。
評価
タッチアは発表以来、技術的完成度と造形性の両立が評価されてきた。60年以上にわたり生産が続けられ、LED光源への更新や、小型版のタッチア・スモール、PMMA製ディフューザーの版など、現代の住空間に合わせた展開も行われている。本体(円柱部)はブラック、マットホワイト、シルバー、ブロンズといった仕上げから選べる。
タッチアは、ニューヨークのメトロポリタン美術館のコレクションに収められており、20世紀のイタリアンデザインを代表する照明の一つとして広く認識されている。
基本情報
| デザイナー | アキッレ・カスティリオーニ、ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ |
|---|---|
| ブランド | Flos(フロス) |
| デザイン年 | 1962年(構想1958年頃、プロトタイプ1959年) |
| 製造国 | イタリア |
| 分類 | テーブルランプ |
| サイズ | 標準:高さ約64.5cm、直径約49.5cm スモール:高さ約48.5cm、直径約37.3cm |
| 重量 | 約10.74kg(標準サイズ) |
| 素材 | 本体(円柱):押出アルミニウム(アルマイト仕上げ) ベース:ニッケルメッキ金属 ディフューザー:透明吹きガラス(ムラーノ)またはPMMA リフレクター:塗装アルミニウム(外側グロスホワイト/内側マットホワイト) |
| カラー(本体) | ブラック、マットホワイト、シルバー、ブロンズ |
| 光源 | LED(2700K、調光10〜100%対応) |
| 所蔵 | メトロポリタン美術館(The Met) |