Parentesi(パレンテージ)は、イタリアデザイン界の巨匠アキッレ・カスティリオーニと、若くして才能を開花させたピオ・マンヅーによって生み出された革新的な照明システムである。1971年にFlos社から発表されたこの作品は、天井から床まで張られたスチールケーブルに照明ヘッドが自由に上下移動できるという、当時としては画期的な機構を備えている。その名は、イタリア語で「括弧」を意味する「parentesi」に由来し、湾曲したチューブ形状が括弧記号を想起させることから名付けられた。
この照明が持つ最大の特徴は、その調整可能性と設置の簡便性にある。天井にねじ式フックを取り付け、床面に置かれた鋳鉄製のカウンターウェイトでケーブルに張力を与えるだけで設置が完了し、電源は通常の壁コンセントから供給される。専門的な電気工事を必要としないこの設計思想は、優れたデザインを誰もが享受できるようにすべきだというカスティリオーニの理念を体現している。発表から半世紀以上を経た現在も、モダンデザインの傑作として世界中で愛され続けている。
特徴・コンセプト
Parentesiの最も顕著な特徴は、その徹底したミニマリズムと高度な機能性の融合にある。天井から床まで最大約4メートルに及ぶスチールケーブル、湾曲したニッケルメッキまたは塗装仕上げのスチールチューブ、そして射出成形によるブラックエラストマー製の照明ヘッドという、最小限の構成要素で構成される。照明ヘッドは、湾曲したチューブとケーブルの間に生じる摩擦力によって任意の高さに固定され、ねじや締結具を一切使用せずに位置を保持する。この巧みな機構により、使用者は軽い力で照明の高さを自在に調整できる。
デザインコンセプトの核心には、「co-design tool(共創のツール)」という思想がある。購入者が自ら組み立て、使用環境に応じて自由に配置できるという考え方は、当時の照明器具としては革新的であった。スポットライト、アンビエントライト、ダウンライトなど、用途に応じた多様な使い方が可能であり、複数本を並べて空間を分割するパーティションのような演出も可能である。また、透明なプラスチック製パッケージには持ち手が付けられ、輸送コストの削減と環境負荷の低減を実現している。この梱包デザインもカスティリオーニによるもので、マンヅーが得意とした分解図の展示手法に着想を得ている。
エピソード
Parentesiの誕生には、二人のデザイナーの魂が交差する感動的な物語がある。ピオ・マンヅーは、著名な彫刻家ジャコモ・マンヅーの息子として生まれ、フィアット127をはじめとする自動車デザインで才能を発揮した若き天才であった。しかし1969年、わずか30歳という若さでこの世を去る。彼が遺したスケッチには、固定式の垂直支柱と、上下に移動する光源を備えた円筒形ボックスというアイデアが描かれていた。ねじで位置を固定するという構想であった。
このスケッチは、マンヅーの未亡人を通じてカスティリオーニの手に渡る。カスティリオーニはそこに秘められた可能性を直感的に理解し、Flos社の技術者たちと緊密に協働しながら、マンヅーの構想を発展させた。彼は固定式支柱をスチールケーブルに置き換え、湾曲したチューブとケーブルの間に生じる摩擦を利用することで、ねじを使わずに照明を任意の位置に固定できる機構を開発した。張力を保つための5キログラムの重りと、船舶用テンショナーという既製品を巧みに組み合わせた解決策は、カスティリオーニの「レディメイド」へのこだわりを示している。
完成した作品に対し、カスティリオーニはマンヅーとの共同デザインとしてクレジットすることを選んだ。二人は生前、一度も顔を合わせることはなかった。しかしこの照明には、マンヅーの日常的な物への情熱とコスト削減への執着、そしてカスティリオーニの柔軟性への追求と遊び心が見事に融合している。Parentesiは、互いに会うことのなかった二人の巨匠による、時空を超えた対話の結晶なのである。マンヅーの息子ジャコモは、カスティリオーニによるこの決断を「アイデアに対する敬意を示す高潔な行為」と評している。
評価
Parentesiは発表以来、デザイン界から極めて高い評価を受けてきた。その機能美と普遍的なデザインは、モダニズムの理念を完璧に体現するものとして認識されている。形態は機能から必然的に導かれ、装飾を排除し、シンプルさから美を引き出すというモダニズムの宣言を、まさに具現化した作品である。しかし同時に、そのシンプルさの背後には卓越した独創性が隠されており、決して単純な作品ではない。
批評家たちは、Parentesiが照明器具の概念を拡張した点を高く評価している。従来の固定式照明とは異なり、使用者が能動的に関与し、空間と照明の関係を自ら創造できるという点で、インタラクティブデザインの先駆的存在とも言える。また、経済性と環境配慮を早くから実現していた点も注目される。軽量なパッケージングによる輸送コスト削減は、結果として燃料消費を抑え、環境負荷を低減している。50周年記念版では、完全にリサイクルされたPET素材を使用するなど、持続可能性への配慮がさらに強化されている。
建築家やインテリアデザイナーからも絶大な支持を受けており、住宅空間から商業施設、美術館まで、あらゆる空間で採用されている。その汎用性の高さと、時代を超越したデザインの普遍性が、半世紀以上にわたる人気の理由である。
受賞歴
Parentesiは1979年、イタリア最高峰のデザイン賞であり、世界で最も古く権威ある工業デザイン賞の一つであるコンパッソ・ドーロ(Compasso d'Oro)を受賞した。この年の授賞式は9年間の中断を経て再開されたもので、180点の応募作品から42点が選ばれるという厳しい選考であった。Parentesiは、包括的かつ普遍的なデザインを実現した照明として評価された。カスティリオーニは「スイッチを持つすべての人に、一流のデザイン対象物を」という言葉を残しており、この理念がParentesiにおいて見事に実現されていると評価された。
また、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されており、同館にはカスティリオーニの作品が14点収蔵されている中の一つとして、重要な位置を占めている。ミラノのトリエンナーレ・デザイン美術館の永久コレクションにも収蔵されており、イタリアデザイン史における重要作品として認識されている。
2021年には発表から50周年を記念して、カスティリオーニが自宅のインテリアに使用していたターコイズと、マンヅーがプロトタイプに使用していたシグナル・オレンジという特別カラーの限定版が発売された。この記念版は、両デザイナーの精神性を尊重する形で、FlosのデザインキュレーターであるCalvi Brambilla建築事務所によって企画された。
基本情報
| デザイナー | アキッレ・カスティリオーニ(Achille Castiglioni)、ピオ・マンヅー(Pio Manzù) |
|---|---|
| ブランド | Flos(フロス) |
| 発表年 | 1971年 |
| 分類 | ペンダント照明/フロア照明/間接照明システム |
| 主要素材 | スチールケーブル、ニッケルメッキまたは塗装仕上げスチールチューブ、射出成形ブラックエラストマー、鋳鉄(カウンターウェイト) |
| サイズ | 最大高さ:約400cm(ケーブル長)、照明ヘッド:高さ約58cm、直径約13cm、ベース直径:約11cm |
| 重量 | 約3.5kg |
| カラーバリエーション | ブラック、ニッケル、レッド、ホワイト(50周年記念版:ターコイズ、シグナル・オレンジ) |
| 光源 | E26 LED電球(調光機能付き) |
| 主な受賞 | コンパッソ・ドーロ賞(1979年) |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション、ミラノ・トリエンナーレ・デザイン美術館永久コレクション |
| 生産状況 | 現在も継続生産中 |