概要
HAL ウッド(HAL Wood)は、ジャスパー・モリソンがヴィトラのために設計したシェルチェア「HAL」のうち、無垢材の4本脚を選んだ構成である。HALの発表は2010年で、ヴィトラの木脚仕様の製品ページには2010年と2014年が併記されている。
一体成形のポリプロピレン製シェルに、オークの丸脚を組み合わせる。異なる性質を持つ二つの素材は直接は接合されず、ダイキャストアルミニウムの接続部材を介して結ばれる。この部材が、同じシェルに多様なベースを載せ替えるというHALの成り立ちを支えている。
ジャスパー・モリソンの設計思想や経歴について詳しくはジャスパー・モリソン プロフィールページをご覧ください。
特徴・コンセプト
シェルと脚をつなぐ接続部材
成形樹脂のシェルに木の丸脚を留めるには、両者の間に一枚の部材が要る。樹脂は木ねじの保持力に乏しく、木は成形品の曲面に沿わないためである。HALはこの部分をダイキャストアルミニウムの接続部材で処理し、シェル側は面で受け、脚側は差し込みで受ける構造をとる。
この処理が結果として、シリーズ全体の仕組みになった。接続部材の側でベースを取り替えられるため、同一のシェルを木脚、スチールパイプ脚、キャスター付きの支柱、バースツール用の高脚へと載せ替えられる。木脚仕様に固有の造形をシェル側に持たせていないことが、選択肢の幅を生んでいる。
接続部材はパウダーコートで仕上げられる。木脚仕様ではグレー系の塗装が用いられ、木部と樹脂のどちらとも競合しない色に収められている。
姿勢を固定しないシェル
シェルは背と座を継ぎ目なくつなぐ一体成形で、荷重に応じてわずかにしなる。ヴィトラはこの柔軟性について、正面を向いて座るだけでなく、横向きや背もたれをまたぐ姿勢にも対応すると説明している。会議中に体の向きを変える、食卓で隣を向いて話すといった動作を、座り直しとして許容する設定である。
樹脂は原液着色で、表面塗装ではない。傷がついても地の色が現れないため、飲食店や公共空間のように使用頻度の高い環境でも外観が保たれる。
木脚を選ぶ理由
HALのベースのうち、木脚は住宅の食卓や在宅の作業机を主な想定先とする。金属脚が事務空間や商業空間の設えに馴染むのに対し、木脚は室内の他の木部と調和し、椅子の存在を目立たせずに置ける。
脚は垂直ではなく、外側へわずかに傾けて取り付けられる。接地点を座面の外周より広くとることで、体重が片側へ寄ったときの安定を確保する狙いによる。
木脚仕様は積み重ねができない。丸脚は入れ子にならず、脚の間隔を狭めればシェル下の見え方が変わるためである。多数を収納する必要がある用途では、スタッキングに対応するパイプ脚のモデルが選択肢になる。
木材と付属部品
脚に用いるオークは、西ヨーロッパおよびポーランド産のヨーロッパナラ(Quercus robur)である。仕上げはナチュラルとダークの2種で、いずれもラッカー塗装が施される。
グライド(脚先の滑り材)は、シェル側の小部品と色を合わせる方式をとる。ただし木脚仕様では白の選択ができず、ベーシックダークのみとなる。標準はカーペット用で、硬質床にはフェルトグライドをオプションで選ぶ。
座面には、シェルにねじ留めするクッションを追加できる。シェルの形はそのままに、着座時の当たりだけを和らげる構成である。
エピソード
HALの出発点は、既存の類型を引き直すという課題設定にある。ヴィトラはこの椅子を、チャールズ&レイ・イームズによるプラスチックチェアの系譜に連なるモリソンの解釈として位置づけている。共通のシェルに複数のベースを組み合わせるという考え方そのものが、1950年代のイームズのシェルチェアに由来する。
モリソンは、目新しさを目指すのではなく、すでに機能している解決を作り直すという姿勢をとってきた。2006年に深澤直人と開催した展覧会「Super Normal」で示されたこの立場が、HALでは新しい形の提案ではなく、寸法・厚み・接合部の設計を実用の要求に沿って引き直す作業として現れている。
発表後、シリーズはベースとシェルの双方に展開を重ねた。ベースにはそり脚、キャスター付きの支柱、講堂向けの床固定バーが加わり、シェルには成形合板の仕様、布張りの仕様、そして再生ポリプロピレンを用いた仕様が加わっている。木脚は、この展開のなかで住宅用途を受け持つ位置を保ち続けている。
再生樹脂の仕様「HAL RE」は、ドイツの分別回収制度「イエローバッグ」で集められた家庭由来のプラスチック廃棄物を原料とする。木脚との組み合わせはHAL RE ウッドとして供給され、ヴィトラの現行のファミリー構成では木脚仕様の中心に置かれている。再生素材は組成上、色の中に細かな斑が現れるため、均質な発色を求める場合やホワイトを要する場合は、バージン樹脂のシェルを用いる本モデルが対応する。
評価と影響
実務では、同一のシェルで脚だけを替えられる点が選定の理由になる。食卓には木脚、事務室にはキャスター付き、屋外にはパウダーコート仕様と選び分けながら、建物全体で椅子の見え方を揃えられる。
木脚仕様に限ると、積み重ねができない点が制約になる。来客時だけ使う椅子として収納する運用には向かない。一方で、座面下に金属が見えないため、木の家具でまとめた室内では他の要素と衝突しにくい。
同じシリーズ内では、屋外にも対応するHAL チューブ アウトドアがパウダーコートのパイプ脚を用いる。木脚のまま再生樹脂のシェルを選ぶ場合はHAL RE ウッドが対応する。シリーズ全体の構成についてはHAL ファミリーを参照。
ヴィトラの歴史や他の製品について詳しくはヴィトラ ブランドページをご覧ください。
基本情報
| 商品名(日本語) | HAL ウッド |
|---|---|
| 商品名(英語) | HAL Wood |
| デザイナー | ジャスパー・モリソン / Jasper Morrison |
| 発表年 | 2010年 |
| ブランド | ヴィトラ / Vitra |
| カテゴリー | チェア / ダイニングチェア |
| シートシェル | 原液着色ポリプロピレン(再生樹脂仕様はHAL REウッド) |
| ベース | 無垢オーク4本脚(ナチュラル / ダーク、ラッカー塗装) |
| 接続部 | ダイキャストアルミニウム(パウダーコート) |
| 木材の産地 | ヨーロッパナラ(Quercus robur)/西ヨーロッパおよびポーランド |
| サイズ | 幅 約475mm × 奥行 約510mm × 高さ 約795mm |
| 座面高 | 約430mm |
| スタッキング | 不可 |
| グライド | ベーシックダーク(木脚仕様では白の選択不可)。標準はカーペット用、硬質床用フェルトはオプション |
| オプション | シートクッション(シェルにねじ留め) |
| シリーズ | HAL ファミリー |
Reference
- Vitra | HAL
- https://www.vitra.com/en-us/product/hal
- Vitra | HAL RE Wood
- https://www.vitra.com/en-us/product/details/hal-re-wood
- Vitra | HAL Soft Wood
- https://www.vitra.com/en-us/product/details/hal-soft-wood
- Vitra | Jasper Morrison
- https://www.vitra.com/en-us/product/designer/jasper-morrison