概要
HAL ファミリーは、ジャスパー・モリソンがヴィトラのために設計したシェルチェアの製品群である。2010年に発表され、以後シェルとベースの双方に仕様を加えながら展開してきた。
ひとつのシリーズとして括られる根拠は、共通のシートシェル形状と、シェルとベースをつなぐ接続部材の規格にある。この二つが共通であるため、同じ座り心地を保ったまま、脚だけを用途に応じて替えられる。ヴィトラはこの構成を、チャールズ&レイ・イームズによるプラスチックチェアの系譜に連なるモリソンの解釈として位置づけている。
現在の構成は、シェルの種別とベースの種別の組み合わせで決まる。ダイニングチェア、アームチェア、スツール、バースツール、講堂向けの連結座席までが同じ枠組みに収まる。
ジャスパー・モリソンの設計思想や経歴について詳しくはジャスパー・モリソン プロフィールページをご覧ください。
共通する設計原理
シリーズを貫くのは、シェルとベースを別々の部品として扱い、その境界に規格化された接続部材を置くという考え方である。接続部材はダイカストしたアルミニウムで、ディムグレーの粉体塗装で仕上げられる。シェル側は面で、ベース側は差し込みで受けるため、シェルの形を変えずにベースだけを設計できる。
シェルの形状は、姿勢を固定しないことを前提に決められている。素材にわずかな柔軟性を残すことで、正面向きのほか、横向きや背もたれをまたぐ姿勢にも対応する。この設定はシェルの素材が樹脂・成形合板・布張りのいずれであっても保たれる。
シェルの種別は用途に応じて選べる。原液着色のポリプロピレン(HAL)、再生ポリプロピレン(HAL RE)、成形合板(HAL Ply)、薄いパッドに布を張った仕様(HAL Soft)がある。ベースの種別は、スチールパイプ、無垢材、そり型、キャスター付きの支柱、バースツール用の高脚、待合空間向けの床固定バーに分かれる。樹脂シェルと粉体塗装のベースを組み合わせた仕様は屋外でも使える。
成立と展開の経緯
起点は2010年のシェルチェアである。共通シェルに複数のベースを組み合わせるという構成そのものが、1950年代のイームズのシェルチェアに由来する。モリソンはこの既存の類型を引き受けたうえで、寸法・厚み・接合部を実用の要求に沿って引き直した。
その後、ベース側の展開が先行した。事務空間向けのキャスター付き支柱、飲食空間向けのバースツール、講堂や多目的室向けの床固定バーが加わり、大量に並べる用途にはスタッキング対応のベース、列連結金具、座席番号表示、収納用の台車が用意された。
シェル側では、成形合板の仕様と布張りの仕様が加わったのち、再生ポリプロピレンを用いるHAL REが展開された。原料はドイツの分別回収制度「イエローバッグ」で集められた家庭由来のプラスチック廃棄物である。ヴィトラによれば、通常の樹脂に替えてこの再生材を用いることで、製造時の排出と消費エネルギーが減る。シェルは使用後に全量を再び再生に回せる。
ヴィトラは現行のファミリー構成において、樹脂シェルの中心をHAL REに置いている。木脚仕様についてもHAL RE ウッドが主たる構成として案内されている。
メンバー間の差異
シェル形状は全モデルで共通で、違いはシェルの原料とベースの素材、そしてそれに伴う設置環境にある。木脚は住宅の食卓や在宅の作業机、粉体塗装のパイプ脚はテラスや屋外席が主な想定先となる。再生材のシェルは、組成上、色の中に細かな斑が現れ、白は現時点で再現されていない。
| 比較項目 | HAL ウッド | HAL RE ウッド | HAL チューブ アウトドア |
|---|---|---|---|
| シェルの原料 | ポリプロピレン | 再生ポリプロピレン | ポリプロピレン |
| ベース | 無垢材の4本脚(オーク/ウォールナット) | 無垢材の4本脚(オーク) | スチールパイプ4本脚(粉体塗装) |
| 外観 | 均質な発色 | 細かな色斑が出る | 均質な発色 |
| ホワイト | 選択可 | 未対応 | 選択可 |
| 屋外使用 | 不可 | 不可 | 可 |
| 想定用途 | 住宅の食卓、在宅の作業机 | 住宅の食卓、少人数の会議室 | テラス、バルコニー、商業施設の屋外席 |
メンバー一覧
| 発表年 | 区分 | 製品名 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 2010年 | ダイニングチェア | HAL ウッド | 無垢材の脚を用いる構成。住宅用途を受け持つ。 |
| 2010年 | ダイニングチェア | HAL RE ウッド | シェルを再生ポリプロピレンに置き換えた木脚仕様。現行の木脚モデルの中心に置かれる。 |
| 2010年 | アウトドアチェア | ハル チューブ アウトドア | 粉体塗装のパイプ脚により屋外に対応させた構成。 |
評価と影響
HAL は、新しい類型をつくるのではなく、既存のシェルチェアを引き受けて細部を引き直した例として位置づけられる。シェルとベースを分けて考える構成は1950年代からあるが、接続部材を規格化して住宅から講堂までを一つの枠組みに収めた点が、このシリーズの扱われ方を決めている。
再生樹脂のシェルを主たる構成に据えた展開も、同じ枠組みの延長にある。シェルの原料だけを差し替えれば、ベースの設計も生産設備もそのまま使えるためである。
ヴィトラの歴史や他の製品について詳しくはヴィトラ ブランドページをご覧ください。
収蔵
4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したが、このシリーズの製品の収蔵は確認できなかった。
基本情報
| デザイナー | ジャスパー・モリソン |
|---|---|
| ブランド | ヴィトラ |
| 共通するシェル | ポリプロピレン(HAL / HAL RE)、成形合板(HAL Ply)、布張り(HAL Soft) |
| 共通する接続部 | ダイカストしたアルミニウム(粉体塗装、ディムグレー) |
| ベースの種別 | スチールパイプ、無垢材、そり型、キャスター付き支柱、バースツール用高脚、床固定バー |
| 屋外対応 | 樹脂シェル+粉体塗装のベースの組み合わせ |
Reference
- Vitra | HAL
- https://www.vitra.com/en-us/product/hal
- Vitra | HAL RE Wood
- https://www.vitra.com/en-us/product/details/hal-re-wood
- Vitra | HAL Ply Wood
- https://www.vitra.com/en-us/product/details/hal-ply-wood
- Vitra | HAL RE Sledge
- https://www.vitra.com/en-un/product/details/hal-re-sledge
このシリーズの製品
HAL ウッド HAL Wood
HALシリーズのうち、木脚を選んだ構成。ポリプロピレンのシェルと無垢オークの脚は素材の性格が異なるため、両者はダイキャストアルミニウムの接続部材を介して結ばれる。この部材が、同じシェルに多様なベースを載せ替えるシリーズの仕組みを支えている。
HAL RE ウッド HAL RE Wood
HALのシェルを再生ポリプロピレンに置き換えた仕様に、無垢オークの脚を組み合わせたモデル。再生材は組成上、色の中に細かな斑が現れる。ヴィトラは現行のファミリー構成において、木脚の樹脂シェルをこのHAL REウッドとして案内している。
ハル チューブ アウトドア HAL Tube Outdoor
ジャスパー・モリソンが「スーパーノーマル」の哲学のもとデザインした、ヴィトラのアウトドア対応シェルチェア。パウダーコート仕上げの脚部と柔軟なポリプロピレンシェルが、テラスやガーデンに静かな存在感をもたらす。