MAGIS(マジス)
1976年、イタリア・ヴェネト州で誕生したMAGIS(マジス)は、「日常の製品にこそ、優れたデザインを」という考えのもと、家具・家庭用品を手がけるブランドです。ブランド名のMAGISはラテン語で「もっと(more)」を意味する言葉で、既存の枠を超えて「何かを加える」というものづくりの姿勢があらわれています。
創業者ユージニオ・ペラッツァのもとで、MAGISはデザインの実験を重ねる企業へと成長してきました。ジャスパー・モリソン、コンスタンチン・グルチッチ、ロナン&エルワン・ブルレック、マーク・ニューソン、フィリップ・スタルク、ロン・アラッドといったデザイナーとの協働と、プラスチック成形を中心とした技術力を組み合わせることで、数々の製品を生み出してきました。
その製品群は世界各国へ展開され、数々の国際的なデザイン賞を受賞しています。なかでも、ジャスパー・モリソンによるボトルラック「Bottle(ボトル、1994年)」は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)の収蔵品となっています。プラスチック成形技術、とりわけエアモールド成形を家具製造に取り入れた取り組みは、MAGISのものづくりを特徴づけています。
ブランドヒストリー
創業の経緯と「魔法の瞬間」
創業者ユージニオ・ペラッツァは、35歳まで家庭用品メーカーの商務部門で働いていました。しかし、生産には投資する一方でマーケティングや開発には力を注がない経営方針に疑問を抱いていました。既存製品を模倣するだけの仕事に、創造性が欠けていると感じたのです。
ある日、彼は社長に商品開発部門の立ち上げを提案します。すると、彼自身がそのプロジェクトを任されることになりました。しかし、なかなか成果は生まれません。そんなある日、彼は路地の本屋のショーウィンドーで、スチールロッドで構成された椅子の写真を目にします。
スチールロッドの加工は、彼の会社が得意とする分野でした。その本を購入し、翌日には実物の椅子も2脚購入して製造コストを見積もると、安価に製造できることが分かりました。新しい市場の可能性を見出した彼は、デザイナーとの協働による製品開発を提案しますが、会社の反応は冷たいものでした。
ユージニオは会社を辞め、自らの考えを実現するため、1976年にヴェネト州のモッタ・ディ・リヴェンツァでMAGISを設立します。彼は後にこう語っています。「誰の人生にも『魔法の瞬間』があると信じている。チャンスが与えられる短い瞬間に、どう反応したかで、人生の方向が変わる。私の魔法の瞬間は、一冊の本と出会ったあの路地を歩いていたときに訪れた」。
デザインの実験を重ねる企業として
創業以来、MAGISは技術の蓄積と新しいプロジェクトの両方を進めながら発展してきました。難易度の高いプロジェクトに取り組み、技術の蓄積によって製品化を実現してきたのです。
MAGISの特徴は、デザイナー、デザインチーム、サプライチェーン、コミュニケーション、プロジェクトへの探求心、そして倫理観といった要素を組み合わせている点にあります。「アイディアは常にMAGISから生まれる」という原則のもと、一つのプロジェクトに対してMAGISがアイディアを提供し、デザイナーと共に取り組み、平均3年ほどの歳月をかけて商品化を目指しています。
2020年には、創業者ユージニオ・ペラッツァが、イタリアのデザイン賞であるコンパッソ・ドーロの特別功労賞(alla Carriera)を受賞しました。デザイン文化の可能性を活用し、新しい手法と技術を取り入れたデザインの普及に貢献した点が評価されたものです。
ブランドの特徴とデザイン哲学
プラスチック成形技術への取り組み
創業から長年にわたり、MAGISはプラスチック素材を活用してきた企業のひとつです。現在では同様の取り組みを行う企業も増えていますが、MAGISは進歩的なプラスチック成形技術を保有しています。とりわけ、エアモールド成形を家具製造に取り入れた点が特徴です。
エアモールド成形とは、射出成形時にガスを注入してコアを中空にし、複雑な形状や微妙なボリュームの表現を可能にする技術です。この技術を用いて2000年に生まれたジャスパー・モリソンによる「エアチェア」は、シンプルなデザインに高度な成形プロセスを組み合わせた製品として知られています。
近年では、コンスタンチン・グルチッチの「チェアワン」に見られるダイキャストアルミニウムや木材、さらには環境に配慮した素材など、新しい製造方針へと幅を広げています。2020年に発表されたグルチッチの「ベル」チェアは、産業廃棄物を再生したポリプロピレンで製造され、軽量性を実現した、サステナビリティへの取り組みを示す製品です。プラスチックは、今後もMAGISを代表する素材であり続けると考えられます。
デザイナーとの協働
MAGISは著名なデザイナーと協働する一方で、新鋭デザイナーの発掘にも取り組んでいます。ジャン=マリー・マソーやイェジ・セイモアは、MAGISのもとでデザイン業界にデビューしました。また、ロビン・デイ、エーロ・アールニオ、ピエール・ポーランといったデザイナーとの取り組みも行ってきました。
ジャスパー・モリソン、コンスタンチン・グルチッチ、フィリップ・スタルク、ロナン&エルワン・ブルレック、イェジ・セイモアといったデザイナーたちは、長期にわたりMAGISとともに歩んできました。創業者ペラッツァは「MAGISのデザイン部門に上下関係はありません。私たちは一つのチームであり、協働を信じています」と述べています。
生産体制
MAGISは、ヨーロッパ有数の家具生産地であるイタリア・ヴェネト州の生産力と技術力を活用しながら、デザイナーの構想を製品化しています。地域に蓄積された職人技と工業技術を組み合わせることで、ものづくりを進めてきました。
2004年にはISO9001認証を、2008年にはISO14001認証を取得し、品質と環境の両面で国際基準に対応する体制を整えています。
代表的なプロダクト
エアチェア(Air-Chair)
2000年に発表されたジャスパー・モリソンによる「エアチェア」は、エアモールド成形技術で製作されたポリプロピレン製の一体成形チェアです。軽量で、シンプルで無駄のないデザインが特徴です。
スタッキングが可能で、屋外での使用にも対応しています。座面に設けられた穴は、持ち運びやすさと水はけを考慮した機能的なデザインです。一体成型のため手入れも容易で、住宅、オフィス、店舗などさまざまな場面で使われています。エアチェアはニューヨーク近代美術館(MoMA)でも紹介されたほか、いくつかの国際的なデザイン賞を受賞しています。
チェアワン(Chair_One)
2004年に発表されたコンスタンチン・グルチッチによる「チェアワン」は、三角形などの平面を立体的に組み合わせた、無駄のないデザインが特徴です。この作品はグルチッチの名を広く知らしめると同時に、MAGISを代表する椅子のひとつとなっています。グルチッチとMAGISの最初の協働作品であり、その名(project one)の由来にもなっています。
幾何学的な面が並んだシェルは、サッカーボールのような構造を持ち、金属から複雑な三次元形状を作り出すという技術的な挑戦の結果として生まれました。座面はダイキャストアルミニウム製で、4年にわたる開発を経て製品化されました。屋外でも使用できるスタッキングチェアとして、住宅から商業施設まで幅広く採用されています。
マジス プルースト(Magis Proust)
アレッサンドロ・メンディーニが1978年に発表したアームチェアを、ポリエチレンの回転成型で再解釈した作品です。クッションの膨らみや木材によるバロック調の装飾を樹脂で再現しており、サイズはオリジナルより小さく設計されています。
メンディーニの「プルーストの安楽椅子」は、彼の作品のなかでも広く知られているものです。バロック調の肘掛け椅子に点描風のペイントを施したこの作品は、ネオ・バロック様式の椅子と点描画のディテールを組み合わせた、リ・デザインの作品でした。MAGISによる回転成型バージョンは、この作品を屋外でも使える素材で再構成し、新しいカラーで展開しています。
Me Too Collection(ミー・トゥー・コレクション)
2004年、MAGISは子どもたちのためのコレクション「Me Too Collection」を発表しました。「わたしも、ぼくも」を意味するこのコレクション名には、子どもたちが大人のものではなく、自分たちに合った家具を求めているという考えが込められています。
このコレクションのきっかけは、創業者ユージニオ・ペラッツァが、当時3歳だった孫娘のためにお絵描き用の机を探していたことでした。「それは大人用の椅子の縮小版ではなく、子どもの感性や思考力を伸ばすコレクションになるだろう」という彼の言葉が、このプロジェクトの考え方を表しています。
MAGISは、子どもの世界を理解するデザイナーたちを招き、複数のアイテムからなるコレクションを作り上げました。スペイン人デザイナーのハビエル・マリスカルや、エーロ・アールニオらが参加しています。ユージニオは、サンプルが出来上がると孫たちに見せ、その反応を重視するアプローチを取りました。
主なデザイナー
- ジャスパー・モリソン(Jasper Morrison)
- 1959年イギリス・ロンドン生まれ。ミニマルなデザインで知られるデザイナー。エアチェアをはじめとするAirファミリーや、MoMA・V&Aに収蔵されたボトルなどをデザイン。シンプルで実用的なデザインを追求しています。
- コンスタンチン・グルチッチ(Konstantin Grcic)
- 1965年ドイツ・ミュンヘン生まれ。チェアワン、ベルチェアをはじめとする数々の作品をMAGISで発表。簡潔な造形に機能性を兼ね備えたプロダクトを多く手がけています。
- ロナン&エルワン・ブルレック(Ronan & Erwan Bouroullec)
- フランス出身の兄弟デザイナーデュオ。繊細で簡潔なデザインで知られ、MAGISでもスティールウッドチェアなどを発表しています。
- アレッサンドロ・メンディーニ(Alessandro Mendini)
- イタリアのデザイナー・建築家。プルーストアームチェアの作者として知られ、ポストモダンデザインの代表的存在として活躍しました。
- マーク・ニューソン(Marc Newson)
- オーストラリア出身のデザイナー。有機的で流麗なフォルムを特徴とし、家具から航空機のインテリアまで幅広い分野で活動しています。
- フィリップ・スタルク(Philippe Starck)
- フランスのデザイナー。遊び心のあるデザインで知られ、MAGISでも作品を手がけています。
- ロン・アラッド(Ron Arad)
- イスラエル出身、イギリスを拠点に活動する建築家・デザイナー。実験的で彫刻的なアプローチで知られています。
基本情報
| ブランド名 | MAGIS(マジス) |
|---|---|
| 設立 | 1976年 |
| 創業者 | ユージニオ・ペラッツァ(Eugenio Perazza) |
| 創業地・所在地 | イタリア・ヴェネト州(創業地はモッタ・ディ・リヴェンツァ、現所在地はトッレ・ディ・モスト) |
| 主要製品 | 家具、チェア、テーブル、収納家具、家庭用品、キッズファニチャー |
| 特徴 | プラスチック成形技術(エアモールド成形)の活用、デザイナーとの協働、サステナビリティへの取り組み |
| 認証 | ISO9001(2004年取得)、ISO14001(2008年取得) |
| 美術館コレクション | ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)など(ジャスパー・モリソンによるボトル〈1994年〉ほか) |
| 主な受賞 | コンパッソ・ドーロ(トリオリ〈2008年〉、スティールウッドチェア、スプン〈2014年〉、ペラッツァへの特別功労賞〈2020年〉ほか) |
| 公式サイト | https://www.magisdesign.com/ |