バイオグラフィー

1899年、オランダのプルメレント生まれ。建築家・デザイナーとして活動し、合理的に設計することを自らの務めとした。簡潔さそのものを目的とはせず、構造と用途から形を導く姿勢を保っている。発表した先鋭的な建築の構想によって国際的に知られるようになった。

1925年頃から、配管用のガス管と継手を組み合わせる実験に取り組み、後脚を持たない椅子の構造原理に到達した。1926年、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの招きにより、シュトゥットガルトで開かれるドイツ工作連盟展「住居」への参加が決まる。1927年の同展では三戸から成る連続住宅を設計し、うち二戸の内装を自ら手がけた。残る一戸はマルセル・ブロイヤーが担当している。

第二次世界大戦後はドレスデンおよびベルリンで工芸系の教育機関に関わった。1986年、スイスのゴルダッハで没している。

デザインの思想とアプローチ

スタムの関心は、座り心地や表情ではなく、構造が成立する条件そのものにあった。カンチレバーチェアの試作において、初期のガス管による構造は硬く、後年このジャンルの特徴とされる弾力性は意図されていない。求められていたのは、近代建築と釣り合う明快な形と、部材を減らすことによる経済性である。

この姿勢は、装飾を加えないという消極的な選択ではなく、必要な要素だけで構成を成り立たせるという積極的な方法として現れている。四本の脚を二本に減らしても椅子が成立するという発見は、その延長線上にある。

カンチレバーチェアと造形上の著作権

1920年代末から、後脚を持たない椅子の権利をめぐってベルリンの法廷で争いが生じた。争点は、この構造が技術上の考案なのか、造形上の作品なのかという点にある。技術上の考案とみなされれば著作権の保護は及ばない。

1930年4月にベルリンの裁判所が権利者側の主張を認め、1931年4月には控訴が退けられた。1932年6月1日、ライプツィヒのライヒ最高裁判所が最終的な判断を示し、装飾を削ぎ落とした形そのものが造形上の作品であると認められた。これによりスタムが立方体的なカンチレバーチェアの著作権者と位置づけられ、権利は現在トーネット社が保有している。

この経緯が広く知られたため、マルセル・ブロイヤーによる設計がスタムのものとして紹介される例も生じている。両者の仕事は同じ構造原理を共有しつつ、別個の設計として区別する必要がある。

主な作品

区分 作品名 ブランド
1926年 椅子 [interior slug="s33-chair-mart-stam"] Thonet
1926年 椅子 S 34(S 33 の肘掛け付きモデル) Thonet
1927年 建築 ヴァイセンホーフ・ジードルングの連続住宅(シュトゥットガルト)

評価と後世への影響

後脚を省くという構造原理は、1920年代後半以降のスチールパイプ家具の前提となった。ミース・ファン・デル・ローエの MR シリーズ、マルセル・ブロイヤーの S 32・S 64 をはじめ、以後に現れたカンチレバーチェアはいずれもこの原理の上に立つ。

スタム自身の家具の点数は多くないが、一つの構造上の発見が家具の一分野を成立させた例として、デザイン史において参照され続けている。

Reference

Mart Stam - Thonet
https://www.thonet.de/en/magazine/designers/detail/mart-stam
Design Calendar: June 1st 1932 - Mart Stam Awarded Artistic Copyright for the Cubic Cantilever Chair - smow Blog
https://www.smow.com/blog/2016/06/smow-blog-design-calendar-june-1st-1932-mart-stam-awarded-artistic-copyright-cubic-cantilever-chair/