概要
ポッジ(Poggi)は、イタリア北部ロンバルディア州パヴィアにあった木製家具の製造工房である。20世紀初頭にルイージ・ポッジが開いた指物工房を、息子カルロが1940年代に企業へと改め、カルロの死後はその息子ロベルトとエツィオの兄弟が引き継いだ。1950年代から建築家フランコ・アルビーニの木製家具を自社工場で少量生産し、1955年には椅子ルイーザでコンパッソ・ドーロを受けている。
製品には「Poggi Pavia」の表記が用いられ、ヴィンテージ市場では現在もこの名で流通する。2000年代半ばに生産を止め、2010年に閉業した。旧工場は2022年からデザインと美術のための施設「fabbricapoggi」として公開されている。
事業と製造の実体
ポッジは設計を外部の建築家に委ね、製造を自社工場で行う家具工房であった。ライセンス生産や外注による量産は行っておらず、扱う素材はほぼ木材に限られる。2019年にエレクタ社から刊行されたモノグラフの製品目録によれば、各製品の生産数は二桁にとどまり、100脚に達したものは稀だったという。工業生産というより、図面をもとに反復生産する高級指物の工房として理解するのが実態に近い。
工場と体制
工房は当初パヴィア旧市街の市庁舎広場に、のちにアルボイーノ通りにあった。1953年、ロベルトとエツィオの兄弟は市の郊外に専用の工場を新築して移転し、以後の生産はすべてこの建物で行われた。現在のfabbricapoggiはこの工場を改修したものである。ロベルト・ポッジは2016年のインタビューで、最盛期には40人の従業員を抱えていたと述べている。
加工の方針
ロベルト・ポッジが繰り返し語っているのは、ひとつの家具を構成する部材をできる限り同じ一枚の板から木取りし、木目の向きを揃え、必要な箇所は金物ではなく継手で接ぐという方針である。扉の桟を同じ板から取るのは、扉が反らないようにするためであった。アルビーニ設計のルイーザに見られる、接合部に向かって断面が太くなる部材や正面に露出した組手は、この工房の木工技術を前提に成立している。
素材はウォールナット、ローズウッド、チーク、マホガニーといった広葉樹の無垢材が中心で、収納家具の面材には突板も用いた。1950年代後半には兄弟自身の設計で鋼材フレームの机P4を製作しており、金属を脚部に使う例もあるが、主体は木工である。1960年代末には、ウーゴ・ラ・ピエトラの照明でメタクリル樹脂を扱った。
曲げ木への考え方
ヴィコ・マジストレッティとの協働では曲木が課題になった。ロベルト・ポッジは無垢材に無理な曲率を与えることを避け、薄板を積層して曲げる方式を採る考えを示しており、1968年の椅子ゴレム(SD51)と1981年のバルベッティス(SD71)はこの方針を設計者と共有したうえで製作された。
試作を軸にした開発
設計者から受け取るのは詳細図面ではなくスケッチであることが多く、実寸の試作を繰り返して形を確定する方法が採られた。ロベルト・ポッジは、構造や形に不安のある部分だけを部分試作し、案と試作のあいだを往復して問題点を潰していく手順を語っている。同氏によれば、こうして生産に移した製品は後から仕様を変更する必要がなく、書架LB7は部品もねじも当初のままで、交換部品が初期の個体と同一だという。
分解して届ける
ポッジの家具の多くは完全に分解できるノックダウン式で、小さな梱包で客先に届け、同梱の説明書に従って組み立てる方式をとっていた。分解した部材を台上に並べて撮影し、英数字の記号で対応を示す組立説明書が用意され、製品によってはねじやボルトとともに工具も同梱された。分解式の机P4を部材ごとに並べた記録写真がその例として残っている。
沿革
指物工房から企業へ(1900年代〜1940年代)
ポッジ家の木工はルイージ・ポッジがパヴィアで営んでいた指物工房に始まる。20世紀初頭にはすでに活動しており、注文に応じて家具を製作する工房であった。1930年代にルイージの息子カルロ(1896–1949)が、一点物のまま近代的な様式の家具へ舵を切り、1940年代には工房を旧市街に置く企業へと改組した。この段階では依然として受注生産が中心だった。
兄弟の継承とアルビーニとの出会い(1949〜1953年)
1949年にカルロが没し、ミラノ工科大学で建築を学んでいたロベルト(1924–2020)は学業を中断して弟エツィオ(1928–1962)とともに工房を継いだ。転機は、ロベルトの登山仲間だったジュゼッペ・ピロヴァーノがチェルヴィニアに建てた山小屋ホテル「リフージオ・ピロヴァーノ」の工事である。設計者フランコ・アルビーニがこの現場で兄弟に木工を任せたことが協働の起点となり、アルビーニは以後、自身の木製家具の製造をポッジに委ねる関係を築いた。
1953年、兄弟はパヴィア郊外に専用工場を新築し、それまでの一点物から反復生産へ体制を切り替えた。アルビーニとの仕事は、建築家が以前から温めていた案を量産向けに詰め直すところから始まり、その成果は1954年の第10回ミラノ・トリエンナーレ「単体家具展」で初めて公開された。
コンパッソ・ドーロと1950年代の展開
1955年、アルビーニが1950年から改良を重ねた椅子ルイーザ(PT1)がコンパッソ・ドーロを受け、授賞式にはエツィオ・ポッジが出席した。1950年代の社名は「スッチェッソーリ・カルロ・ポッジ」(カルロ・ポッジ後継社)で、1957年の第11回トリエンナーレでは兄弟自身が設計した組み合わせ式の衣装棚が銀メダル賞状を受けている。同じ年、アルビーニとフランカ・ヘルグの書架LB7がコモのヴィラ・オルモで開かれた展覧会で金メダル賞状を受けた。この時期、兄弟はアルビーニの製品と系統の近い机や卓を自ら設計し、カタログに加えている。
エツィオの死と独占関係の終わり(1962〜1960年代末)
1962年、エツィオが34歳で自動車事故により没し、以後はロベルトが単独で経営にあたった。アルビーニとヘルグの新作は1960年代も続いたが、アルビーニとの独占的な関係は1960年代末に解消される。1968年から1971年にかけては、アルビーニとマルコ・ザヌーゾを介して若いレンツォ・ピアノが工場に出入りし、モジュール式の家具システムを提案したが、製品化には至らなかった。
設計者の多様化(1970〜1980年代)
独占関係の解消後、ロベルト・ポッジはウーゴ・ラ・ピエトラ、ヴィコ・マジストレッティ、アフラとトビア・スカルパ、マルコ・ザヌーゾら、世代も方法も異なる設計者に工場を開いた。1970年にはグラフィックデザイナーのアントニオ・ボッジェリが最後の社章を設計している。1973年にはロベルト・ポッジが第15回ミラノ・トリエンナーレのイタリア部門の会場構成を担当し、この回で銀メダル賞状を受けた。1980年代にはザヌーゾやスカルパとの製品が続き、トリエンナーレへの参加も続いた。
縮小と閉業(1990〜2010年)
1990年代に入ると既存製品の生産は続いたものの新しい設計者との開発は減り、マホガニーやローズウッドなど高価な樹種による製品が増えた。この時期にはラ・ピエトラとの協働が再開され、マルコ・コモッリが加わっている。型番による製品目録に記載された最後の製品は2001年で、ロベルト・ポッジが自身の1988年のテーブルTL80を改めた卓であった。2005年頃、80歳を超えていたロベルトは熟練工の確保が難しくなったこともあり生産を止め、設備の処分を進めた。会社は2010年に閉じられた。
閉業後(2008年〜)
閉業に先立つ2008年、カッシーナがアルビーニの家具を「イ・マエストリ」コレクションとして復刻し、かつてポッジが製造したルイーザ、チコニーノ、カヴァレット、インフィニートなどは同社の製品として生産が続いている。2016年にはミラノ工科大学歴史アーカイブで回顧展「ポッジの世界」が開かれ、2019年に同名のモノグラフが全製品目録とともにエレクタ社から刊行された。ロベルト・ポッジは2020年に没した。2022年、パヴィア市立博物館で回顧展が開かれ、同年に旧工場が「fabbricapoggi」として公開された。
デザイナーとの協働
ポッジには社内デザイン部門がなく、製品は外部の建築家の設計によるものと、ポッジ兄弟自身の設計によるものの二系統からなる。契約の形式は公表されていない。
1950年前後から1960年代末までは、フランコ・アルビーニがほぼ専属の設計者であった。1950年代からはアルビーニの共同者フランカ・ヘルグが加わり、書架や事務家具はアルビーニとヘルグの連名で設計されている。この関係は、設計者が図面を渡し工房が作るという一方向のものではなかった。1991年以来ロベルト・ポッジを研究してきたヴィットリオ・プリーナは、ロベルト・ポッジが素材と加工の知識をもとに修正や改良を提案し、設計の過程に影響を与える対話者だったと評している。
1960年代末以降は特定の設計者に限らない方針に転じ、ウーゴ・ラ・ピエトラ、ヴィコ・マジストレッティ、マルコ・ザヌーゾ、アフラとトビア・スカルパ、アキッレとピエル・ジャコモのカスティリオーニ兄弟らが製品を設計した。ラ・ピエトラの場合は彫刻的な造形と樹脂素材、マジストレッティの場合は曲げ木の工法が協働の焦点となり、いずれも工房の技術との擦り合わせが製品の形を決めている。レンツォ・ピアノは1968年から1971年にかけて工場に通ったが、提案は製品化されなかった。
フランコ・アルビーニの設計思想や経歴について詳しくはフランコ・アルビーニプロフィールページをご覧ください。
フランカ・ヘルグの設計思想や経歴について詳しくはフランカ・ヘルグプロフィールページをご覧ください。
ヴィコ・マジストレッティの設計思想や経歴について詳しくはヴィコ・マジストレッティプロフィールページをご覧ください。
主な製品群
製品はPT1やLB7のような型番で管理された。カタログの中心は椅子、テーブル、書架、机で、寝台や照明も少数含まれる。
アルビーニとヘルグの製品(1950〜1960年代)
最初に反復生産に乗せたのは椅子 ルイーザ で、1950年に始まる改良を経て1955年に最終形となった。同時期のテーブルにはカヴァレット(TL2)とチコニーノ(TN6、1953年)があり、いずれも脚の構造をそのまま見せる設計である。収納家具では、床と天井のあいだに突っ張って自立する インフィニート(1956–57年)と、3本の支柱に扉付きの箱と棚を組み込む書架LB7(1956年)が続いた。1958年には事務用のテーブルTL22、机SC23、収納CM24が一組として設計され、1959年の安楽椅子トレ・ペッツィ(PL18・PL19)、1961年の机スタデーラ(SC27)とテーブルTL30、1966年の安楽椅子PL34、1967年のPL44へと広がった。
ポッジ兄弟の製品
エツィオとロベルトは1950年代半ばから自ら設計にも携わり、分解式の机P4、テーブルTL14、組み合わせ式の衣装棚などをカタログに加えた。いずれもアルビーニの製品と並べて使うことを想定した、系統の近い設計である。ロベルトは晩年まで自身の設計を続け、1988年のテーブルTL80とそれを改めた2001年の卓が目録の最後を占める。
1968年以降の製品
ウーゴ・ラ・ピエトラの照明グローボ・ティッスラート(1968年)はメタクリル樹脂を用い、書架ウノ・スッラルトロ(LB52、1970年)は白い塗装で仕上げた箱を積み上げる構成をとる。ヴィコ・マジストレッティの椅子ゴレム(SD51、1968年)とバルベッティス(SD71、1981年)は積層曲げ木の製品である。マルコ・ザヌーゾは書架LB65(1978年)をはじめ、使い方の柔軟さを優先した単純な構成の家具を設計した。
受賞・収蔵
受賞
以下の受賞が記録されている。
- 1954年 第10回ミラノ・トリエンナーレ 協力賞状
- 1955年 コンパッソ・ドーロ(椅子ルイーザ、設計フランコ・アルビーニ)
- 1957年 第11回ミラノ・トリエンナーレ 銀メダル賞状(エツィオとロベルト・ポッジ設計の組み合わせ式衣装棚)
- 1957年 展覧会「今日の家の色と形」(コモ、ヴィラ・オルモ)金メダル賞状(書架LB7、設計アルビーニとヘルグ)
- 1973年 第15回ミラノ・トリエンナーレ 銀メダル賞状
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館)。
- MoMA ルイーザ アームチェア(1951年、製造ポッジ) 収蔵番号 195.1998
- MoMA ウノ・スッラルトロ 積み重ね式書架(1970年、設計ウーゴ・ラ・ピエトラ) 収蔵番号 464.1972.1-8
V&A、Met、AIC では該当する収蔵は確認できなかった。MoMAのルイーザは2019年の展覧会「The Value of Good Design」で展示された。
現在の状況
ポッジは2010年に閉業している。アルビーニ設計の製品のうちルイーザ、チコニーノ、カヴァレット、インフィニートなどは2008年以降カッシーナが製造している。
パヴィアの旧工場(カンパニア通り5番地)は改修のうえ2022年から「fabbricapoggi」として公開され、製品の常設展示、ロベルト・ポッジが収集した近代美術のコレクション、ワークショップや展覧会のための空間を備える。試作図面、書簡、カタログ写真、図書を収めた会社の歴史アーカイブも同所に保存され、2019年のモノグラフはこのアーカイブの調査に基づいて編まれた。
基本情報
| 起源 | 20世紀初頭、ルイージ・ポッジの指物工房(パヴィア) |
|---|---|
| 企業化 | 1940年代、カルロ・ポッジによる |
| 経営者 | ロベルト・ポッジ、エツィオ・ポッジ(1949年〜) |
| 所在地 | イタリア・パヴィア |
| 事業内容 | 木製家具の製造 |
| 閉業 | 2010年 |
| 現在の施設 | https://www.fabbricapoggi.com |
Reference
- STORIA | fabbricapoggi
- https://www.fabbricapoggi.com/storia
- premi e mostre | fabbricapoggi
- https://www.fabbricapoggi.com/premi-e-mostre
- Un'officina del design / Il mondo di Poggi | doppiozero
- https://www.doppiozero.com/il-mondo-di-poggi
- Il mondo di Poggi. L'officina del design e delle arti | Electa
- https://www.electa.it/prodotto/il-mondo-di-poggi/
- Il mondo di Poggi a Pavia | PaviaFree.it
- https://www.paviafree.it/eventi/il-mondo-di-poggi-a-pavia.html
- Franco Albini. Luisa Armchair. 1951 | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/2484
- Ugo La Pietra. Uno sull'altro Stacking Shelves. 1970 | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/1523
- 832 Luisa | Cassina
- https://www.cassina.com/it/it/prodotti/luisa.html
- Infinito Bookcase by Franco Albini | Cassina
- https://www.cassina.com/ww/en/products/infinito.html